日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

どうでもいいことですが…。「賞」の威厳マーケティングとは?

2009-12-17 | マーケティング
今年、最も輝いた男性に贈られる「GQ Men of the Year 2009」に楽天イーグルスの岩隈久志投手、日本マクドナルドの原田泳幸社長、落語家の笑福亭鶴瓶さん、脚本家の三谷幸喜さん、歌手・俳優の櫻井翔さんが選ばれたそうです。この手の選出、お遊びですから目くじらを立てるほどの問題ではないのだとは思いつつも、明らかに同じジャンルで「もっと輝いた人がいるのに…」という受賞者選出はいかがなものかと思わされてしまいます。具体的に申し上げるまでもなくお察しかとは思いますが、一応指摘しておきます。

春のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での活躍が評価され、野球界を代表して選ばれたと思しき岩隈投手。しかし、あの時の過熱報道の主役は“日本中の熱い期待に応えた”イチロー選手だった訳で、日本の誰もが最後の最後で魅せたイチローの“プロ魂”にクギ付けだったハズです。あの場面で打順が回ってくる“引きの強さ”からして、“輝いていた”以外の何モノでもありません。もちろんWBCのMVP選びであるなら、岩隈という選択肢はあってしかるべきですが、あの時“最も輝いた男性”ってやっぱりイチローじゃないのかな、と思いますがいかがでしょう。仮に「イチローには辞退されたんだよ」ということなら、イチローに対して明らかに“輝き”で見劣りする岩隈くんを選ぶのは、むしろ失礼にあたると思います。ならば、選手と言う同じ土俵で選ばずに指導者と言う立場で原監督(WBC優勝+レギュラー・シーズン日本一)を選ぶとか、いっそのこと野球はやめてゴルフ界に目を向け最年少三大クラシック挑戦や最年少賞金王獲得で世間を沸かせに沸かせた石川遼くんを選ぶとか、いろいろ選択肢はあったと思います。

実はこの話、マーケティング的な観点での重要なことなので申し上げているのですが、このような世間から賛同が得られにくい受賞者選出は、賞の威厳を保つ意味から大きなマイナス要素であるのです。いわゆる“威厳イメージ”の問題です。レベル感は全く異なりますが、ノーベル平和賞のオバマ大統領受賞とも共通する部分です。組織においても、例えば「社長賞」に確固たる威厳を持たせようとするなら、ふさわしい者が見当たらない時や万人の納得性が得られにくい候補者の時には、選出を見送る等も励みとしての「賞」の効果を持続させる意味では重要なポイントなのです。

話を戻して「GQ Men of the Year 2009」。芸能界のお話はよく分からないので触れずに置いておきますが、実業界からの選出の日本マクドナルドの原田泳幸社長も「うーん?」ですね。もちろん、「プレミアム・ロースト・コーヒー」の大ヒットによる業績急回復の手腕は認めるところではありますが、今年の誰もが認める“最も輝いていた経営者”は、やっぱり「ファースト・リテイリング=ユニクロ」の柳井正社長をおいて他にないと思いますが、いかがでしょう。昨年来の大不況下において“一人勝ち”と言われ続けたリーダーです。もちろん景気状況の後押しもありましたが、「990円ジーンズ」の開発など追い風状況に甘んじない攻めの経営姿勢は、まさしく“最も輝いていた男”として異論のないところではないのでしょうか。少なくとも、「プレミアム・ロースト」よりも「990円ジーンズ」の方が、消費経済に与えたインパクトの大きさから考えても数段上回っていたと思いますが…。

他にも、ジャンルは正確には違いますが“モノ書き”というくくりで考えれば、三谷幸喜なら明らかに「IQ84」の村上春樹だろうとか、いろいろ異論はあるところです。要は、基本的に「今年の№1」という基準で選出する年末の賞であるなら、今年各ジャンルで誰もが認める最も大きなインパクト与えた人物を置いて、他を選ぶのはマズイということなのです。ノーベル賞の場合は、「オバマじゃなくて本当にふさわしいのは○○だろう」という万人が認める○○が見当たらないので「仕方ない」という終息方向もありえますが、「岩隈よりはイチローだろう」「マックよりはユニクロだろう」という明らに№1が別に存在する選出は、問題が大きいと思うのです。本賞の主催者ならびに同様の年間賞を主催している企業・団体は、「賞の威厳向上→主催企業・商品等のイメージアップ」というマーケティング戦略の観点から、慎重な選出対応が肝要であると思います。たかだか“お遊”びの年間賞選びと言えども舐めてはいかんのです。

三谷幸喜氏は受賞の感想を求められ、「この賞とノーベル賞は昔からの夢だったのでノーベル賞以上にうれしい。目標はオバマ大統領。今後も手を取り合って世界を引っ張っていきたい」と言ったとか。マーケティングを知りつくした彼一流の“皮肉”?だとしたら最高に冴えてます。