※当記事は2016年9月に訪問した際の様子をレポートしております。西村屋は2017年6月1日付で山口地方裁判所より破産手続の開始決定を受け閉業してしまいました。旅館の建物は現在別会社に譲渡されており、リニューアル工事が行われています。今年(2017年)9月にリニューアルオープンを予定しているとのことです(出典元:帝国データバンク「倒産速報記事」2017年6月9日付)
昨年(2016年)9月に山口市の湯田温泉を訪れた際には、明治39年創業の老舗旅館「西村屋」で一泊お世話になりました。
上画像はロビーの様子です。
ロビーから客室へ向かう途中の廊下からは庭園が眺められました。庭園の池では冷泉が湧いているんだそうです。
湯田温泉は詩人中原中也の出身地としても知られていますが、氏はこの宿で結婚式を挙げたんだそうです。浴場へ向かう途中にある「葵」という部屋で式が行われたんだとか。
●客室など
複雑に入り組んだ廊下を進みながら2階に上がった先が、今回案内された客室です。10畳の和室で、トイレや洗面台が付いている便利なお部屋です。夕食なし朝食付きのプランでお願いしたため、入室時にはすでに布団が敷かれていました。
部屋にはお風呂も付いていました。この日は全く使わなかったのですが、どんなお湯が出たのかな。
朝食は別室にていただきます。いかにも日本旅館らしいオーソドックスな献立でした。
●浴場
お宿には浴場が2つあり、夜9時に男女の暖簾を替えます。しかしながら、私は夜9時を過ぎてからチェックインしたため、片方の浴場しか利用しておりません。私が利用できたのは「錦香泉」と称する浴場です。
脱衣室は古いながらも広々しており、ストレスなくゆったりと使うことができました。室内にはタオルが積まれており、宿泊者は自由に使うことができます。この脱衣室で目を引くのが湯田温泉の源泉集中管理を図説したプレートです。これによれば、1号(71.0℃)、3号(65.0℃)、10号(71.5℃)、12号(71.0℃)、18号(72.0℃)、19号(61.5℃)、近藤1号(49℃)という7つの源泉から、容量223トンを誇る貯湯槽一箇所にお湯を集め、そこから各施設へお湯を分配しているようです。集湯管延長は1149.8m、配湯管延長は4420.4m、送湯量は毎分880リットルとのこと。毎分880リットルという量は一見すると多いように見えますが、これを規模の大きな各旅館で分け合うのですから、一軒当たりの割り当ては決して多くなく、それゆえお風呂のお湯を循環せざるを得ないのでしょう。にもかかわらず、この西村屋では掛け流しの湯使いを実践しているのだから素晴らしい。私がこちらのお宿を選んだ理由は、リーズナブルである点、そして温泉が掛け流しであるという点、この2点です。
古い建物なので天井の低さは目を瞑るとしても、浴場内はとても広く、非日常性を享受するには十分です。室内の中央に丸くて大きな浴槽が設けられ、それを取り囲むように周囲の壁に洗い場が配置されています。洗い場にはシャワー付き混合水栓が7基取り付けられていました。
壁の一部には秋吉洞で採れた大理石が用いられていました。壁一面が大理石だなんて、さすがご当地ならではの贅沢ですね。
浴室の一角には2本の打たせ湯が設けられていました。私が利用した「錦香泉」の特徴は、この打たせ湯の他、臥せ湯、そして露天風呂が備え付けられている点であり、今回私が入れなかったもう一つの浴場である「千代の湯」はジェットバスがあるんだとか。
この打たせ湯の近くにはお湯に関する説明が掲示されており、こちらでは、集中管理されているミックス泉に、自家源泉である「西村屋1号泉」(30℃未満)を加えて温度調整した上で、掛け流しているんだそうです。
大きく丸い浴槽は楕円形。石材で縁取られ、内部はタイル張りです。最も長い部分で奥行3.5m×幅2.5m強といったところでしょうか。その大きな浴槽へ、湯口からお湯がチョロチョロと注がれていました。石樋には熱いミックス泉が流れているのですが、その上の塩ビ管(竹でカバー)から冷たい自家源泉が落とされており、つまりこの湯口で両源泉が混合されているのです。湯口に「飲用可」と書かれていたので実際に西村屋1号泉を飲んでみますと、タマゴ味やゴムテニスボールのような風味がほんのりマイルドに感じられました。
湯船のお湯は無色透明でほぼ無味無臭。浮遊物や気泡などは見られません。少々のトロミがある優しく滑らかなお湯ですが、アルカリ性泉らしいツルスベ浴感は弱く、あっさりとした単調なお湯でした。浴槽の大きさに対してお湯の投入量は少ないため、お湯の鮮度が心配になりますが、少なくとも私が入った時には特にお湯が劣化しているような様子はなく、まずまずのコンディションだったようでした。私は夜と朝の計2回入浴したのですが、両方とも他のお客さんと遭遇しなかったので、この時は宿泊客自体が少なく、それゆえお湯が疲れずに済んだのでしょうね。
内湯の出入口から長い通路を抜けた先にあるのが露天風呂。市街地の中にあるため目隠しの塀が目立ち、多少の閉塞感は否めませんが、植栽で日本庭園風の趣きにしており、なかなか良い雰囲気が作り上げられていました。建物の庇に護られている露天の浴槽は、長方形で4〜5人サイズ、縁には白木の板を載せ、浴槽内は鉄平石が採用されています。
内湯と同様に熱いミックス泉と冷たい自家源泉が一緒に注がれており、それぞれ別の配管から投入されていました。しかしながら、こちらも投入量は少なく、もし複数人数が同時に入って大量にオーバーフローしたら、湯嵩の回復に長い時間を要することが必至なほど、心細い量でした。たしかに掛け流しなのかもしれませんが、掛け流すというより掛け注ぐと表現した方が良いかもしれません。湯船のお湯は湯尻から溢れ出て、下にある小さな槽へと落ち、そこから更に溢れて排湯されています。この小さな槽はあまりに小さすぎるため、大人は一人でも入ることはできないでしょう(せいぜい子供一人がいいところ)。なぜこのようなものを設けたのか謎です。
残念ながらこの「西村屋」は経営破綻にともない2017年5月に閉館してしまいました。しばらくはこのお風呂に入ることができませんが、今年(2017年)9月に新たな事業者の手によりリニューアルオープンするそうですから、新たに生まれ変わった後も掛け流しのお風呂を維持していただきたいと願うばかりです。
西村屋1号泉
単純温泉 26.8℃ pH8.0 16L/min(動力揚湯) 溶存物質0.4359g/kg 成分総計0.4385g/kg
Na+:63.6mg(59.78mval%), Ca++:29.4mg(31.70mval%),
F-:1.3mg, Cl-:37.0mg(21.86mval%), Br-:0.1mg, HCO3-:194.6mg(66.82mval%),
H2SiO3:80.6mg,
(平成24年12月11日)
ミックス泉
アルカリ性単純温泉 63.1℃ pH9.2 湧出量測定不能(動力揚湯) 溶存物質0.6426g/kg 成分総計0.6426g/kg
Na+:206.6mg(94.14mval%),
F-:12.5mg, Cl-:271.0mg(78.74mval%), Br-:0.8mg, OH-:0.3mg, CO3--:16.8mg,
H2SiO3:80.8mg,
(平成27年6月5日)
山口県山口市湯田温泉4-1-30
083-922-0250
ホームページ
(2017年5月に閉業してしまいました)
私の好み:★★
昨年(2016年)9月に山口市の湯田温泉を訪れた際には、明治39年創業の老舗旅館「西村屋」で一泊お世話になりました。
上画像はロビーの様子です。
ロビーから客室へ向かう途中の廊下からは庭園が眺められました。庭園の池では冷泉が湧いているんだそうです。
湯田温泉は詩人中原中也の出身地としても知られていますが、氏はこの宿で結婚式を挙げたんだそうです。浴場へ向かう途中にある「葵」という部屋で式が行われたんだとか。
●客室など
複雑に入り組んだ廊下を進みながら2階に上がった先が、今回案内された客室です。10畳の和室で、トイレや洗面台が付いている便利なお部屋です。夕食なし朝食付きのプランでお願いしたため、入室時にはすでに布団が敷かれていました。
部屋にはお風呂も付いていました。この日は全く使わなかったのですが、どんなお湯が出たのかな。
朝食は別室にていただきます。いかにも日本旅館らしいオーソドックスな献立でした。
●浴場
お宿には浴場が2つあり、夜9時に男女の暖簾を替えます。しかしながら、私は夜9時を過ぎてからチェックインしたため、片方の浴場しか利用しておりません。私が利用できたのは「錦香泉」と称する浴場です。
脱衣室は古いながらも広々しており、ストレスなくゆったりと使うことができました。室内にはタオルが積まれており、宿泊者は自由に使うことができます。この脱衣室で目を引くのが湯田温泉の源泉集中管理を図説したプレートです。これによれば、1号(71.0℃)、3号(65.0℃)、10号(71.5℃)、12号(71.0℃)、18号(72.0℃)、19号(61.5℃)、近藤1号(49℃)という7つの源泉から、容量223トンを誇る貯湯槽一箇所にお湯を集め、そこから各施設へお湯を分配しているようです。集湯管延長は1149.8m、配湯管延長は4420.4m、送湯量は毎分880リットルとのこと。毎分880リットルという量は一見すると多いように見えますが、これを規模の大きな各旅館で分け合うのですから、一軒当たりの割り当ては決して多くなく、それゆえお風呂のお湯を循環せざるを得ないのでしょう。にもかかわらず、この西村屋では掛け流しの湯使いを実践しているのだから素晴らしい。私がこちらのお宿を選んだ理由は、リーズナブルである点、そして温泉が掛け流しであるという点、この2点です。
古い建物なので天井の低さは目を瞑るとしても、浴場内はとても広く、非日常性を享受するには十分です。室内の中央に丸くて大きな浴槽が設けられ、それを取り囲むように周囲の壁に洗い場が配置されています。洗い場にはシャワー付き混合水栓が7基取り付けられていました。
壁の一部には秋吉洞で採れた大理石が用いられていました。壁一面が大理石だなんて、さすがご当地ならではの贅沢ですね。
浴室の一角には2本の打たせ湯が設けられていました。私が利用した「錦香泉」の特徴は、この打たせ湯の他、臥せ湯、そして露天風呂が備え付けられている点であり、今回私が入れなかったもう一つの浴場である「千代の湯」はジェットバスがあるんだとか。
この打たせ湯の近くにはお湯に関する説明が掲示されており、こちらでは、集中管理されているミックス泉に、自家源泉である「西村屋1号泉」(30℃未満)を加えて温度調整した上で、掛け流しているんだそうです。
大きく丸い浴槽は楕円形。石材で縁取られ、内部はタイル張りです。最も長い部分で奥行3.5m×幅2.5m強といったところでしょうか。その大きな浴槽へ、湯口からお湯がチョロチョロと注がれていました。石樋には熱いミックス泉が流れているのですが、その上の塩ビ管(竹でカバー)から冷たい自家源泉が落とされており、つまりこの湯口で両源泉が混合されているのです。湯口に「飲用可」と書かれていたので実際に西村屋1号泉を飲んでみますと、タマゴ味やゴムテニスボールのような風味がほんのりマイルドに感じられました。
湯船のお湯は無色透明でほぼ無味無臭。浮遊物や気泡などは見られません。少々のトロミがある優しく滑らかなお湯ですが、アルカリ性泉らしいツルスベ浴感は弱く、あっさりとした単調なお湯でした。浴槽の大きさに対してお湯の投入量は少ないため、お湯の鮮度が心配になりますが、少なくとも私が入った時には特にお湯が劣化しているような様子はなく、まずまずのコンディションだったようでした。私は夜と朝の計2回入浴したのですが、両方とも他のお客さんと遭遇しなかったので、この時は宿泊客自体が少なく、それゆえお湯が疲れずに済んだのでしょうね。
内湯の出入口から長い通路を抜けた先にあるのが露天風呂。市街地の中にあるため目隠しの塀が目立ち、多少の閉塞感は否めませんが、植栽で日本庭園風の趣きにしており、なかなか良い雰囲気が作り上げられていました。建物の庇に護られている露天の浴槽は、長方形で4〜5人サイズ、縁には白木の板を載せ、浴槽内は鉄平石が採用されています。
内湯と同様に熱いミックス泉と冷たい自家源泉が一緒に注がれており、それぞれ別の配管から投入されていました。しかしながら、こちらも投入量は少なく、もし複数人数が同時に入って大量にオーバーフローしたら、湯嵩の回復に長い時間を要することが必至なほど、心細い量でした。たしかに掛け流しなのかもしれませんが、掛け流すというより掛け注ぐと表現した方が良いかもしれません。湯船のお湯は湯尻から溢れ出て、下にある小さな槽へと落ち、そこから更に溢れて排湯されています。この小さな槽はあまりに小さすぎるため、大人は一人でも入ることはできないでしょう(せいぜい子供一人がいいところ)。なぜこのようなものを設けたのか謎です。
残念ながらこの「西村屋」は経営破綻にともない2017年5月に閉館してしまいました。しばらくはこのお風呂に入ることができませんが、今年(2017年)9月に新たな事業者の手によりリニューアルオープンするそうですから、新たに生まれ変わった後も掛け流しのお風呂を維持していただきたいと願うばかりです。
西村屋1号泉
単純温泉 26.8℃ pH8.0 16L/min(動力揚湯) 溶存物質0.4359g/kg 成分総計0.4385g/kg
Na+:63.6mg(59.78mval%), Ca++:29.4mg(31.70mval%),
F-:1.3mg, Cl-:37.0mg(21.86mval%), Br-:0.1mg, HCO3-:194.6mg(66.82mval%),
H2SiO3:80.6mg,
(平成24年12月11日)
ミックス泉
アルカリ性単純温泉 63.1℃ pH9.2 湧出量測定不能(動力揚湯) 溶存物質0.6426g/kg 成分総計0.6426g/kg
Na+:206.6mg(94.14mval%),
F-:12.5mg, Cl-:271.0mg(78.74mval%), Br-:0.8mg, OH-:0.3mg, CO3--:16.8mg,
H2SiO3:80.8mg,
(平成27年6月5日)
山口県山口市湯田温泉4-1-30
083-922-0250
ホームページ
(2017年5月に閉業してしまいました)
私の好み:★★
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