温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

キュタフヤ県 ウルジャ・ハレルク温泉 ターリヒ・アンスラル・ハマム

2015年02月01日 | トルコ
今回のトルコ湯めぐりの旅で、私のバイブル的存在となったのが、葛西暢人さんのサイト「とるこのととと」と、このサイトの内容を書籍化した『魅惑の温泉めぐり トルコ』です。トルコで個人旅行する際のHOW TOをはじめ、とにかく温泉に関するコンテンツが充実しており、トルコの温泉に関する書籍でこの右に出るものはありません。個人で取材執筆なさっているとは思えないほど、対象エリアが広範囲であり、且つ各温泉に関する記載内容も微に入り細を穿っていて、旅行者目線に立った実に親切な気配りと、トルコ愛に溢れる文章には、旅の立案段階でも、実際の旅の中でも、大変助けられました。この場を借りて、貴重なサイト及び書籍を世に出してくださったことに感謝申し上げます。
(この葛西さんのサイトや書籍に関しては、後日改めてご紹介させていただきます)
この「とるこのととと」において、ブルサの南東に位置するキュタフヤ県は「温泉天国」と表現されており、湯めぐりには最適の土地であるようですから、ブルサでレンタカーを借りた日に、車を飛ばしてこのキュタフヤ方面へと向かったのでした。まず訪れたのがキュタフヤ市の北部に位置しているウルジャ・ハレルキ温泉です。


 
幹線道路"D650"をキュタフヤ方面へ南下してゆくと、やがて左側に細長い湖が見えてくるのですが、この湖を通り過ぎた辺りでウルジャ(Ilıca)と記された標識が現れますから、この案内標識に従って右折し、道なりに北西方向へ3kmほど進みます。


 
やがて道の両側に人家が現れ、視界が明るくなって、気づけば小さな町へと入っていました。目的地であるウルジャ・ハレルク(Ilıca Harlek)に到着です。
町の入口付近には、男女別の両浴室がある立派な温泉共同浴場があり(上画像)、通り沿いには大きな看板も立っていたのですが、まだ運転しながらトルコ語を読むことに慣れていなかった私は、この大きな看板を見逃してしまい、その存在に気づいたのは、当記事で取り上げる浴場から出た後に、クールダウンのため当地を散歩していた時のことでした。
(この浴場のGPS座標はN39.591064, E30.05753)


 
私がこの地で初めて温泉の存在を確認できた看板が上画像のもの。何やら固有名詞と思しき語句の後に、HAMAMIと綴られていますよね。温泉地でハマムとくれば、そこにはきっと温泉浴場があるはず。そう確信して看板の前に路駐し、矢印が示す方へと歩き出しました。


 
看板が括りつけられていたフェンスの向こう側には、青くて大きなプールがあったのですが、ひと気は皆無で、水は半分しか溜まっておらず、底にはたくさんの落ち葉が沈みっぱなしでしたので、夏季限定営業なのでしょう。私が旅をした11月上旬に、好き好んで冷たいプールで泳ごうとする人なんて、いるはずもありません。


 
プールの脇を通り抜けた先に、看板が示していた「ターリヒ・アンスラル・ハマム(Tarihi Aslanli Hamami)」がありました。先述の立派な浴場とは異なり、マニア心を擽るような渋くてこぢんまりとした佇まいであるこの浴場には、浴室が一つしかないため、時間帯によって男湯と女湯を使い分けているらしく、幸運な事に私が訪問した時間帯は男湯となっていました。青い札に記された"ERKEKLERE"は「男性」を意味しています(「女性」は"BAYANLARA")。


 
(タイムテーブルの画像はクリックで拡大)
建物の中に入ると、まずはベンチなどが置かれている埃っぽい中間ゾーンとなるのですが、そこには誰もいませんので、更に次のドアを開けて奥へと進みます。このドアの脇には浴場の男女別の時間割が掲示されていましたので、下にその内容を日本語で書き写しておきます(2014年11月現在のものです)。
 月曜 女性7:00-18:00, 男性18:00-24:00
 火曜 終日男性(7:00-24:00)
 水曜 女性7:00-18:00, 男性18:00-24:00
 木曜 終日男性(7:00-24:00)
 金曜 終日男性(7:00-24:00)
 土曜 女性7:00-18:00, 男性18:00-24:00
 日曜 終日男性(7:00-24:00) 
基本的に男性優位となっているようです。

 

ドアを開けて右手に番台がありますので、湯銭を支払うと同時に貴重品を預けます。その際に番台のおじさんが小さな引き出しを差し出してくれますから、そこへ自分の貴重品を入れますと、おじさんが引き出しを棚に収め、施錠してその鍵をこちらへ手渡してくれます。この貴重品預かりシステムは、トルコのハマムではどこでもほぼ共通です。

まるで小さなショーウインドーのように、番台のカウンターに埋め込まれたガラスケースには、石鹸がたくさん詰め込まれていました。また、後ろの棚にはシャンプー類などが陳列されていました。もちろんいずれも販売品ですが、番台に販売品のお風呂道具が並べられている風景は、まるで日本の銭湯のようであり、異国の地でありながら、どこか懐かしい風情が感じられます。アジアの西端と東端に位置するトルコと日本は、ともに温泉を愛する文化と伝統を有していますが、遠く離れた両国は、銭湯に関しても相通ずる文化を共有しているですね。


 
番台の前にはちょっとしたホールになっており、中央には小さな泉が設けられ、その脇には煙突付きのストーブが設置されていました。冬になると冷え込む土地なのでしょうか。そしてこの泉やストーブを囲むように、チャイを出すカウンターや更衣用個室・シャワーなどが並んでいました。訪問時は綺麗な羽根のインコが、床を我が物顔で悠然と歩いていました。


 
ストーブの前には黒いマッサージチェアーが一台置かれています。トルコでも温泉とマッサージチェアーは相性が良いのでしょうね。このマッサージチェアーの左奥のベンチに腰掛けていたお爺さんは、お名前をムスタファさんと仰るのですが、私が日本人だとわかると、やおら立ち上がって、まるで私を我が子のように、館内の設備や使い方について、一つ一つ細かく付きっきりで教えてくれました。
中央ホールから数段ステップを上がったテラス状のスペースには、長いベンチが置かれ、壁には服をかけるフックが並んでおり、着替えた後の衣類等はここへ置いておきます。もちろん湯上がり後などにベンチで休憩することも可。ドライヤーもこの一角に備え付けられています。



日本の温泉ではお湯をPETボトルに詰めて持ち帰る方をよく見かけますが、当地でも温泉のお湯をボトルに汲むお客さんがいらっしゃいました。番台だけでなく、こうしたお客さんの行動まで日本とそっくり。俄然親近感が湧いてきます。ちなみに、このボトルの持ち主曰く、お湯を飲むと体に良いんだとか(あくまでジェスチャーでのコミュニケーションすので、お話の内容は推測の域を出ませんが)。



ムスタファさんに教えられるままに、更衣用個室に入って水着に着替え、ステップ上のベンチに荷物を置いて、"HAMAM"と書かれた白い扉を開けますと、そこには大きな浴槽が澄み切ったコバルトブルーのお湯を湛えていました。画像はありませんが、ドーム型の天井のてっぺんには湯気抜きの穴があいており、そこから差し込む陽光が湯気を透過する過程で柔らかな明かりとなり、穏やかに浴室内を照らしていました。


 
ブルーとホワイトのコントラストが実に鮮やかで美しい浴室。左右それぞれの角度から撮ってみました。浴槽の大きさは目測で約5.5m四方の正方形。キュタフヤは陶器の街として知られており、食器や置物の他、タイルの生産も盛んなんだそうですから、この浴室に用いられている美しいタイルは、きっとご当地産のものに違いありません。


 
四角い浴槽を囲むように、壁際には洗い場が計10箇所設けられており、温泉が吐出される水栓の下には、大理石の丸い鉢が置かれていました。かけ湯用の手桶も備え付けられています。トルコの温泉浴場では、湯船へ入る前にしっかりと体を洗うことがマナーとして厳守されているのですが、ムスタファさんもご自分の石鹸やボディーソープを私に貸し、これできちんと洗いなさいと教えてくださいました。単にお湯で体を温めて寛ぐだけでなく、体を清めるという目的が強調されているのでしょう。
洗い場のタイルをアップで撮ってみました。繊細で且つ秀麗な模様に思わず感心。こんな上質なタイルが銭湯に使われているだなんて、日本では考えられませんね。


 
獅子の湯口から吐出される温泉の温度は42.5℃で、お湯に含まれる石膏の影響なのか、獅子の下顎や胸にかけての部分は、析出によってデコボコになっていました。画像では伝わりにくいのですが、かなりの量が投入されており、縁から惜しげも無く溢れ出ていますので、そのおかげで浴槽のお湯は実にクリアな状態が保たれています。



浴槽内は大理石とタイルを部位によって使い分けています。無色透明で澄み切ったお湯は、ほぼ無味無臭と表現しても差し支えないほど、マイルドで優しく癖のないタイプなのですが、湯口のお湯を口に含んで転がしてみますと、石膏の味とそれに伴う甘味がふんわりと感じられ、石膏の香りが鼻へと抜けてゆきました。湯中ではちょっと引っかかるような浴感がありますが、総じて柔らかく穏やかなフィーリングで、湯船に入ると全身を優しく包んでくれるような感触が伝わってきました。

湯船の温度は41.6℃と日本人も十分に満足できる湯加減なのですが、浴室内には湯気が満ちてちょっとしたミストサウナ状態になっており、しかも一見穏やかそうなお湯が秘めているパワーも影響しているのか、思いの外、長湯することができず、早い段階で体が熱くなって逆上せかかってしまいました。私が入館した時に、ムスタファさんは番台前のベンチで休憩していたのですが、実は湯船から上がってクールダウンをしている最中だったのであり、お風呂に入ったり出たりを繰り返して、日がなこの浴室でゆっくり湯浴みを楽しんでいるんだそうです。



獅子の湯口からはドバドバと大量のお湯が落とされているので、常連さんはここで打たせ湯を楽しむのが常のようです。ご覧のようにムスタファさんもお湯を肩に当てて楽しんでおり、カメラを向けると笑顔で手を振ってくださいました。

ムスタファさんは湯上がりに、私に紅茶をご馳走してくださいながら、この温泉の良さを語ってくださいました。とはいえ、ジェスチャーでの意思疎通なので、その内容は残念ながら不確かなのですが、ボディーランゲージから想像するに、風呂で大量に汗をかいてから、一旦ベンチでクールダウンし、水分補給をしてから再び風呂に入るというサイクルを何度も繰り返すことで体が丈夫になったんだと、ご自分の胃腸を指さしながら語っていらっしゃいました。湯治としての側面も大きいのでしょうね。

湯量豊富な地の利を活かし、クリアで優しいお湯がどんどん注がれる、地元の庶民に愛される素敵な浴場でした。温泉めぐりをして、このように地元の方に密着している浴場と出会えると、本当に嬉しく心が温まります。とても印象的な浴場でした。


 
湯上がりにこの小さな街を散歩。メインストリート沿いには小学校があり、ちょうど休憩の時間だったのか、明らかに外国人である私の姿を見つけるや、生徒たちはこちらへ声を掛けて手を振ってくれまました。
この小学校から数十メートル先には、飲食店や雑貨屋が並ぶ一角があり、その付近のミニバス乗り場では、バンタイプのバスが待機していました。おそらくキュタフヤの中心部へと向かうのでしょう。


 
このミニバス乗り場の隣でも、夏季営業のプールを発見。水はドバドバ供給されているのですが、肝心のプール内は大量の藻が発生しており、水の流れによってユラユラと揺れていました。このウルジャ・ハレルクにはプールが2つもあるんですね。ということは、夏になるとリゾート地として賑わうのでしょうね。私が訪れた晩秋は、観光客の姿なんて全く見られず、実に静かな田舎町でした。


温泉分析表見当たらず(おそらく石膏泉に近い単純泉かと思われます)

GPS座標:N39.594481, E30.057091,


曜日により男女入れ替え制。時間割は以下のとおり。
 月曜 女性7:00-18:00, 男性18:00-24:00
 火曜 終日男性(7:00-24:00)
 水曜 女性7:00-18:00, 男性18:00-24:00
 木曜 終日男性(7:00-24:00)
 金曜 終日男性(7:00-24:00)
 土曜 女性7:00-18:00, 男性18:00-24:00
 日曜 終日男性(7:00-24:00) 
入浴料5リラ(石鹸など販売あり。なおタオルは3リラで、腰巻き不要なら2リラ)
貴重品は番台預かり。ドライヤーあり

私の好み:★★★

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