前回までは台湾南投県の温泉を取り上げてまいりましたが、今回からは同じ台湾でも台北近郊の温泉を巡ってまいります。台北は台湾最大の都市でありながら、近隣に多くの温泉資源を擁しており、私のような温泉ファンには垂涎の土地でもあります。まずはじめは、陽明山国家公園内にある庚子坪温泉の野湯です。正しくは火偏に「庚」で焿子坪と表記し、またの名を磺山(磺は石偏に「黄」の旧字体)と称するのですが、日本のパソコンですと文字化けしてしまいますので、ここでは庚子坪と表記させていただきます。
まずは台北市街からレンタカーで庚子坪がある新北市の金山エリアへと向かいます。台北の中心部から金山へ向かうルートとしては、省道の台2甲線で陽明山の山域を突き抜けてゆく方法と、高速道路で基隆の西部をかすめながら北海岸に沿ってゆく方法の2つがありますが、いずれも所要時間は大して変わりませんので、今回は海岸の美しい景色を眺めながらドライブできる後者を走ることにしました。
北海岸に沿って片側2車線の台2線走ると、やがて金山の街へ入ってゆきますが、その手前、大鵬国小を通りすぎて橋を渡った直後の信号で左折し、今度は山の麓の長閑な田舎道を進んでゆきます。途中何度か角を曲がりますが、随所に「庚子坪温泉会館」の看板が立っていますので、これを目印に進めば問題ありません。全区間舗装されており、殆どで片側一車線が確保されていますから、どなたでも心配なく運転できるはずです。
川に沿って延々と続く坂道を登ってゆきますと、やがてフロントガラスの正面に磺嘴山が聳え、その麓に広がる白いガレ地から湯気が立ち上っている光景が目に入ってきます。このガレ地こそ今回の目的地であります。
道路はガレ場の手前で鋭角に左へカーブし、そのまま進めば当地唯一の温泉宿である「庚子坪温泉会館」へ突き当たるのですが、今回はそこまで行かず、カーブの箇所でガレ場へ向かって分岐する細い道へと進んでゆきます。と言ってもこの先車で進むことはできませんので、分岐点の広い路側帯に車を止め、そこから徒歩で先へ向かいます。カーブには温泉マークと共に「焿子坪」と彫られた石碑が立っていました。
ガレ場へと伸びる細い道は、事前情報によればバリケードがあったり、道自体も部分的に崩壊しているとのことでしたが、実際に行ってみますと真新しいコンクリで舗装されており、何ら支障なく通行できました。最近道路の補修工事が行われたのかもしれません。道の左側には硫黄の温泉を含んで白く濁った川が流れ、右側にはフツフツと音を立てながら熱湯と火山ガスを噴き上げる噴気帯が広がっています。一帯は火山活動が活発なエリアなんですね。
道をどんどん進んでゆけば、やがて台2甲線に達し、以前拙ブログでも取り上げた八煙温泉の入口付近へと至るのですが、今回は当地で野湯を楽しむことが目的ですから、そこまで行かずこの辺りを散策します。この一帯はかつて硫黄鉱山があったようですが、とっくの前に廃山となり、今では荒涼とした景色ばかりが残っています。たしかに辺りを見回してみますと、人為的に造成された跡が随所で確認できます。温泉の湧出地帯と思しき箇所を目指すべく、丸太が上に渡されている上画像の川を遡ってみることにしました。
川の水はかなり温かかったので、温度を測ってみたら35.8℃でした。れっきとした天然温泉の川です。真夏の台湾ではむしろこの位にぬるい方が気持ちよく入浴できますので、すぐにでもその場で服を脱いで川に入りたくなったのですが、ここはちょっと我慢して、湯の川の上流を目指します。川の遡上と言っても沢登りをするほどヘビーなものではなく、川岸の岩をピョンピョン飛んで行けちゃう程度なのですが、誤って川に足を滑らせても良いよう、この時の私は踵が固定できるタイプのサンダルを履いています。また炎天下における行動ですから、ペットボトルの水もしっかり用意しておきました。
川を遡ってから3~4分で、上画像のような歩きやすいフラットな場所に出ました。辺り一面に噴気帯が広がっていまして、草木の生育を許さない崖の岩肌を、イオウを含む白い温泉が滝をなして幾筋も流れ落ちており、その後背で湯気が朦々と立ち上っています。また辺りには硫化水素臭も薄っすらと漂っています。そんな荒々しい景色の中、湯の川は砂地を流れているのですが、この砂地でも所々にボッケが隠れていますので、踏み抜かないよう足元を注意しながら奥の方へと進みます(状況によっては硫化水素中毒にも注意を要します)。
湯の川を辿ってゆくと、岩が大きくオーバーハングしている崖の上から温泉が滝となって垂直に落ち、その滝壺に白濁の温泉が湛えられて、天然の露天風呂が出来上がっている場所へと行き着きました。 おおっ!これは凄い! 思わずその光景に興奮して声を上げてしまいました。岩肌のあちこちに硫黄の黄色い結晶が見られますので、滝のみならずあちこちで温泉が湧いており、それらのお湯がここへ集まっているのでしょう。
湯溜まりのお湯を計測してみたところ、36.8℃、pH3.6でした。近年の台湾ではアウトドアレジャーの一つとして野湯(台湾では野渓温泉と呼ばれています)が人気を博しているのですが、この庚子坪温泉も手軽に行ける野湯として認識されているのでしょうか、湯溜まりには塩ビパイプによって近くの沢から水が人為的に引かれており、これによってかなり加水されているため、湯温が低く、かつ酸性度も和らいでいるようでした。でも先程も述べましたように灼熱の台湾では40℃未満のぬるいお湯の方が入りやすくて気持ち良いので、私にとってこの加水は寧ろ歓迎です(源泉のままの激熱でしたら入れませんからね)。
温度的に問題なかったので、その場で服を脱いで入ってみました。一見すると綺麗な湯溜まりに見えますが、底には踝まで潜ってしまうほどの湯泥がたっぷり溜まっており、歩みを進める度にニュルっと沈むので結構不気味です。またお湯の流れが淀んでいる箇所ではアカムシがウヨウヨしていて気味悪く、そしてブヨの類も飛んでいるので、奴らの襲撃を受けやすい点もやや不快でした。でも一旦肩まで浸かってしまうと虫はなぜか襲ってきませんし、アカムシに関しては淀みを避ければ大丈夫。ぬるめの湯加減も良い塩梅ですので、野趣あふれる環境の下で硫黄の香りに包まれながら、とても豪快な湯浴みが楽しめました。
上述のように底に大量の湯泥が溜まっているため、湯溜まりに足を踏み入れた瞬間に泥が撹拌され、お湯の濁り方が変わってしまいます。左画像は入浴前、右画像は入浴後を撮したものでして、ビフォー・アフターを比較すれば一目瞭然ですが、ビフォーは上澄みによってある程度の透明度を保ちつつ美しい青白色を呈していますが、ひと度湯泥が舞い上がると透明度が全くないネズミ色に濃く濁りました。
荒々しい断崖のあちこちで温泉が湧いており、それらのお湯が集まって湯溜まりができあがっています。お湯が流れ落ちている湯筋のひとつでデータを計測したところ、49.0℃・pH3.2でした。湯溜まりよりも温度が高くて、pHも酸性に傾いていますが、湧出点はもっと上に位置しており、おそらくここでも天水が混じっているものと思われ、湧出点で計測したらもっと熱くて酸性の度合いも強いはずです。ちなみにこのお湯を口にしてみたところ、イオウ臭とともに口腔が収斂する酸味が感じられましたが、それほど強いわけではなく、またイオウ感に関しても見た目の白さから想像するような濃厚さは得られず、意外にもマイルドでした。加水が与える影響って大きいんですね。
露天風呂で湯浴みを楽しんだ後、来たルート(つまり湯の川)を戻って帰る際に、湯の川が小さな滝となっている箇所で打たせ湯にチャレンジしてみました。川は岩によって二筋に分かれているのですが、このうちの一方が絶妙な高低差となっていて、直下に座るとちょうど良い位置にお湯(というか川の流れ)が当たり、程よい力で肩や背筋をマッサージしてくれました。
台北という大都市の近郊にありながら、こんなワイルドで豪快な野湯が楽しめちゃうんですから、台湾の自然って本当に魅力的です。レンタカーさえ用意できれば、陽明山エリアで最も人気のある八煙野渓温泉より遥かに楽にたどり着ける点も嬉しいところです(公共交通機関では難しい)。
新北市萬里区磺潭里坪頂 地図
野湯につき無料
硫化水素中毒注意
私の好み:★★★
まずは台北市街からレンタカーで庚子坪がある新北市の金山エリアへと向かいます。台北の中心部から金山へ向かうルートとしては、省道の台2甲線で陽明山の山域を突き抜けてゆく方法と、高速道路で基隆の西部をかすめながら北海岸に沿ってゆく方法の2つがありますが、いずれも所要時間は大して変わりませんので、今回は海岸の美しい景色を眺めながらドライブできる後者を走ることにしました。
北海岸に沿って片側2車線の台2線走ると、やがて金山の街へ入ってゆきますが、その手前、大鵬国小を通りすぎて橋を渡った直後の信号で左折し、今度は山の麓の長閑な田舎道を進んでゆきます。途中何度か角を曲がりますが、随所に「庚子坪温泉会館」の看板が立っていますので、これを目印に進めば問題ありません。全区間舗装されており、殆どで片側一車線が確保されていますから、どなたでも心配なく運転できるはずです。
川に沿って延々と続く坂道を登ってゆきますと、やがてフロントガラスの正面に磺嘴山が聳え、その麓に広がる白いガレ地から湯気が立ち上っている光景が目に入ってきます。このガレ地こそ今回の目的地であります。
道路はガレ場の手前で鋭角に左へカーブし、そのまま進めば当地唯一の温泉宿である「庚子坪温泉会館」へ突き当たるのですが、今回はそこまで行かず、カーブの箇所でガレ場へ向かって分岐する細い道へと進んでゆきます。と言ってもこの先車で進むことはできませんので、分岐点の広い路側帯に車を止め、そこから徒歩で先へ向かいます。カーブには温泉マークと共に「焿子坪」と彫られた石碑が立っていました。
ガレ場へと伸びる細い道は、事前情報によればバリケードがあったり、道自体も部分的に崩壊しているとのことでしたが、実際に行ってみますと真新しいコンクリで舗装されており、何ら支障なく通行できました。最近道路の補修工事が行われたのかもしれません。道の左側には硫黄の温泉を含んで白く濁った川が流れ、右側にはフツフツと音を立てながら熱湯と火山ガスを噴き上げる噴気帯が広がっています。一帯は火山活動が活発なエリアなんですね。
道をどんどん進んでゆけば、やがて台2甲線に達し、以前拙ブログでも取り上げた八煙温泉の入口付近へと至るのですが、今回は当地で野湯を楽しむことが目的ですから、そこまで行かずこの辺りを散策します。この一帯はかつて硫黄鉱山があったようですが、とっくの前に廃山となり、今では荒涼とした景色ばかりが残っています。たしかに辺りを見回してみますと、人為的に造成された跡が随所で確認できます。温泉の湧出地帯と思しき箇所を目指すべく、丸太が上に渡されている上画像の川を遡ってみることにしました。
川の水はかなり温かかったので、温度を測ってみたら35.8℃でした。れっきとした天然温泉の川です。真夏の台湾ではむしろこの位にぬるい方が気持ちよく入浴できますので、すぐにでもその場で服を脱いで川に入りたくなったのですが、ここはちょっと我慢して、湯の川の上流を目指します。川の遡上と言っても沢登りをするほどヘビーなものではなく、川岸の岩をピョンピョン飛んで行けちゃう程度なのですが、誤って川に足を滑らせても良いよう、この時の私は踵が固定できるタイプのサンダルを履いています。また炎天下における行動ですから、ペットボトルの水もしっかり用意しておきました。
川を遡ってから3~4分で、上画像のような歩きやすいフラットな場所に出ました。辺り一面に噴気帯が広がっていまして、草木の生育を許さない崖の岩肌を、イオウを含む白い温泉が滝をなして幾筋も流れ落ちており、その後背で湯気が朦々と立ち上っています。また辺りには硫化水素臭も薄っすらと漂っています。そんな荒々しい景色の中、湯の川は砂地を流れているのですが、この砂地でも所々にボッケが隠れていますので、踏み抜かないよう足元を注意しながら奥の方へと進みます(状況によっては硫化水素中毒にも注意を要します)。
湯の川を辿ってゆくと、岩が大きくオーバーハングしている崖の上から温泉が滝となって垂直に落ち、その滝壺に白濁の温泉が湛えられて、天然の露天風呂が出来上がっている場所へと行き着きました。 おおっ!これは凄い! 思わずその光景に興奮して声を上げてしまいました。岩肌のあちこちに硫黄の黄色い結晶が見られますので、滝のみならずあちこちで温泉が湧いており、それらのお湯がここへ集まっているのでしょう。
湯溜まりのお湯を計測してみたところ、36.8℃、pH3.6でした。近年の台湾ではアウトドアレジャーの一つとして野湯(台湾では野渓温泉と呼ばれています)が人気を博しているのですが、この庚子坪温泉も手軽に行ける野湯として認識されているのでしょうか、湯溜まりには塩ビパイプによって近くの沢から水が人為的に引かれており、これによってかなり加水されているため、湯温が低く、かつ酸性度も和らいでいるようでした。でも先程も述べましたように灼熱の台湾では40℃未満のぬるいお湯の方が入りやすくて気持ち良いので、私にとってこの加水は寧ろ歓迎です(源泉のままの激熱でしたら入れませんからね)。
温度的に問題なかったので、その場で服を脱いで入ってみました。一見すると綺麗な湯溜まりに見えますが、底には踝まで潜ってしまうほどの湯泥がたっぷり溜まっており、歩みを進める度にニュルっと沈むので結構不気味です。またお湯の流れが淀んでいる箇所ではアカムシがウヨウヨしていて気味悪く、そしてブヨの類も飛んでいるので、奴らの襲撃を受けやすい点もやや不快でした。でも一旦肩まで浸かってしまうと虫はなぜか襲ってきませんし、アカムシに関しては淀みを避ければ大丈夫。ぬるめの湯加減も良い塩梅ですので、野趣あふれる環境の下で硫黄の香りに包まれながら、とても豪快な湯浴みが楽しめました。
上述のように底に大量の湯泥が溜まっているため、湯溜まりに足を踏み入れた瞬間に泥が撹拌され、お湯の濁り方が変わってしまいます。左画像は入浴前、右画像は入浴後を撮したものでして、ビフォー・アフターを比較すれば一目瞭然ですが、ビフォーは上澄みによってある程度の透明度を保ちつつ美しい青白色を呈していますが、ひと度湯泥が舞い上がると透明度が全くないネズミ色に濃く濁りました。
荒々しい断崖のあちこちで温泉が湧いており、それらのお湯が集まって湯溜まりができあがっています。お湯が流れ落ちている湯筋のひとつでデータを計測したところ、49.0℃・pH3.2でした。湯溜まりよりも温度が高くて、pHも酸性に傾いていますが、湧出点はもっと上に位置しており、おそらくここでも天水が混じっているものと思われ、湧出点で計測したらもっと熱くて酸性の度合いも強いはずです。ちなみにこのお湯を口にしてみたところ、イオウ臭とともに口腔が収斂する酸味が感じられましたが、それほど強いわけではなく、またイオウ感に関しても見た目の白さから想像するような濃厚さは得られず、意外にもマイルドでした。加水が与える影響って大きいんですね。
露天風呂で湯浴みを楽しんだ後、来たルート(つまり湯の川)を戻って帰る際に、湯の川が小さな滝となっている箇所で打たせ湯にチャレンジしてみました。川は岩によって二筋に分かれているのですが、このうちの一方が絶妙な高低差となっていて、直下に座るとちょうど良い位置にお湯(というか川の流れ)が当たり、程よい力で肩や背筋をマッサージしてくれました。
台北という大都市の近郊にありながら、こんなワイルドで豪快な野湯が楽しめちゃうんですから、台湾の自然って本当に魅力的です。レンタカーさえ用意できれば、陽明山エリアで最も人気のある八煙野渓温泉より遥かに楽にたどり着ける点も嬉しいところです(公共交通機関では難しい)。
新北市萬里区磺潭里坪頂 地図
野湯につき無料
硫化水素中毒注意
私の好み:★★★
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