前回記事「新安比温泉 静流閣 前編(客室・らくらくの湯)」の続編です。
前回の記事で取り上げました「らくらくの湯」の次は、旅館ご自慢の「大浴場」を見てまいりましょう。
私が宿泊した日は某大学の野球部も団体利用しており、夜9時頃までは若人達の元気が館内の各所で漲っておりましたので、彼らが大人しくなってくれた深夜11時頃に大浴場へと向かいました。従いまして、全体的に画像が暗くて見難いのですが、何卒ご容赦のほどを。
日帰り入浴用の玄関を脇目に見ながら、階段を下ってB1Fへ向かうと、そこにはえらく小洒落た浴場入口が構えていました。「朱塩泉 金の湯」という書が新安比温泉の特徴を端的に表現しています。
モダン和風な造りの脱衣室は、落ち着いた雰囲気で清潔感にあふれており、設備関係が整っていて使い勝手良好です。おそらく最近リノベーションされたのでしょうね。対人関係は第一印象が重要と言いますが、お風呂に関しては言うならば、第一印象に相当する脱衣室が綺麗で使いやすいと、その後必ず足を踏み入れる浴室に対しても、良いイメージを抱きたくなるものです。脱衣室の良し悪しは、その温泉宿の質を計る指標の一つであると私は思っています。
洗面台に揃えられているアメニティ類も充実。一角には水のサービスが用意されているのですが、後述するようにこちらのお湯は大変パワフルであり、一般的な温泉よりも火照りや発汗作用が強いため、この飲用水の存在は大変重要なんですね。入浴後はもちろん、入浴前にも水分を補給しておきましょう。
壁や浴槽の茶色と天井の白色、この二色のコントラストがハッキリしている浴室は、(男湯の場合)右手に浴槽類が、左手に洗い場が配置されており、洗い場にはカランが10基(うち9基はシャワー付き)が並んでいました。
浴槽類は、温泉が張られている二つの槽の他、水風呂と打たせ湯が設けられているのですが、私の訪問日は打たせ湯が使用中止となっていました。
天井と床の色合いを統一させるのはインテリアコーディネートの定石であり、実はこの浴場においても、床タイルに用いられている色は天井と同じ系統のオフホワイト(あるいはベージュ)なのですが、温泉のオーバーフローが流れてゆく一帯は成分付着によって赤銅色に濃く染まっており、特に源泉風呂付近では石灰華の固着により千枚田状態となっていました。右(下)画像は、オーバーフローが流れる床とそうでないところを写したものですが、ここまではっきりと色の違いが現れているんです。それだけ濃い温泉なんですね。
2つの温泉槽には、木製投入口から伸びる樋を伝って、お湯がそれぞれに対して分配されています。樋の長さによって温度が調整されるのか、樋を流れる距離が短い小さな浴槽の方が熱く、樋の終端からお湯が落とされる大きな浴槽は万人受けする湯加減となっていました。他の施設のような配管丸出しですと風情はありませんし、岩の湯口だとありきたりですが、このような木の樋ですと、それを通じて湯守さんの顔が見えてくるような感じがし、ちゃんとした温泉に入れているんだという実感が湧いてきます。
2つある温泉槽のうち、窓側の小さな方は「金の湯」と称されており、説明札によれば「薬効抜群の"源泉風呂"」とのこと。なるほど相当濃いお湯であり、湯船に入る前段階の、ビジュアルとして湯船に対峙した時点からその濃厚さが伝わってきます。具体的には、浴槽は元の色や材質が全くわからないほど赤銅色の成分付着で覆われており、石灰華によって浴槽縁と湯面が接するライン上には庇状の瘤が出来上がり、縁の上にも分厚くこびりついています。そして湯口付近を中心として鱗状のデコボコ模様も形成されていました。こりゃすごい! 湯船はモスグリーンを帯びた赤茶色に強く濁り、とにかく非常に塩辛い! 湯面からはヨウ素や臭素などハロゲンがもたらしていると思しき刺激臭や、石膏や金気がミックスされたような独特な匂いが感じられます。
実際に湯船に入ってみますと、塩分の強さゆえ、入りしなは脛にピリピリとした刺激が走り、肩まで浸かってしばらくすると、一般的な温泉よりも早いペースで体が火照りはじめ、心臓が激しく拍動してきます。湯船がちょっと熱めに設定されていることも要因の一つでしょうけど、何よりもこの塩分の強さが火照りや激しい心拍をもたらしているわけであり、非常に攻撃的であり凶暴なお湯です。地図をご覧になればわかるように、この場所は海から遠く離れた八幡平東部の山間部であるにもかかわらず、海水顔負けの強塩泉であることはただただ驚くしかありません。湯中ではギシギシとした浴感を得、湯上がりはかなりのベタつきとザラつきが残ります。強烈な熱をもたらす湯ですから、水分補給は欠かせません。上述で脱衣室における飲用水のサービスについて触れましたが、こちらの温泉では水がとにかく必須なのであります。
こればかりでなく、1kg中の温泉に含まれているメタホウ酸6320mgという数値にもびっくり。これって本当ですか!? 分析表を目にして夢か現かわからなくなり、何度も自分の目を擦ってしまいました。どんなにメタホウ酸が多い温泉でも4桁を超えることなんて滅多に無いというのに、6000オーバーという数値は尋常じゃありません。メタホウ酸を多く含むことで知られてる全国の温泉を具体的に挙げますと、新潟県の松之山温泉は大体300mg前後、兵庫県有馬温泉の金泉は300~500mg、そして和歌山市街の「ふくろうの湯」は1813mgですから、それらと比べても圧倒的に多いことがわかります。新安比温泉は塩気の強さばかりが語られがちですが、私としてはこのメタホウ酸の驚異的な数値に注目したいものです。温泉医学関係の方は、是非この新安比温泉の薬効に関して研究していただきたい。何らかの興味深い結果が出るに違いありません。
「金の湯」(源泉風呂)の右隣りにある大きな方の湯船は、どなたでも入りやすい湯加減に調整されており、お湯の凶暴さもいくらか抑えられていました。右(下)の画像は左右両浴槽の仕切りを写したもので、この暗い画像では判別しにくいのですが、少なくとも肉眼では両者のお湯の濁り方がハッキリ異なっており、大きな浴槽の方が濁りがやや弱く、浴槽縁の成分付着も薄くて、実際に浸かった際のフィーリングも幾分マイルドでした。一般論として、温泉に入るならばなるべく源泉に近い状態の浴槽が好まれるのですが、あまり刺激が強すぎると体に合わない場合もありますから、このような優しい設定の温泉槽が用意されていると、温泉に負けてしまいがちな体質の方でも温泉を楽しめるのではないかと思います。なおこの大きな浴槽ではお湯の投入量が絞られており、お湯の動きも緩慢なのですが、その影響なのか、湯面にはホウ酸(あるいはカルシウム)と思しき白い結晶がたくさん浮かんでいました。
露天風呂ゾーンには、浅い造りのもの、深い造りのもの、足湯など、数種類の浴槽が設けられており、いずれも循環の真湯が用いられています。浴槽には全面的に十和田石が採用されており、とってもここちの良い肌触りです。他の旅館でしたら「せっかくの露天なのにどうして真湯なのか」と不満をもらすところですが、こちらの温泉に限っては、むしろ真湯であることにホッと安堵してしまいました。だって内湯の強烈な温泉だったら、すぐに体が音を上げてしまって、のんびり湯浴みできませんもん…。浴槽の一部は緩い傾斜になっており、森の風を感じながら、そこで寝そべったりうつ伏せになったりと、思い思いの姿勢で湯浴みさせていただきました。真湯のお風呂もなかなか良いものですね。
立地も宿泊のコストパフォーマンスも良く、お湯の強烈さも実に面白い、利用価値の高いお宿でした。
保戸沢の湯
ナトリウム-塩化物強塩泉 32.4℃ pH6.9 溶存物質32.368g/kg 成分総計33.100g/kg
Na+:8530mg(88.59mval%), Mg++:251mg(4.93mval%), Ca++:312mg(3.72mval%), Fe++&Fe+++:2.6mg,
Cl-:11900mg(81.45mval%), SO4--:210mg, HCO3-:4370mg(17.38mval%), Br-:18mg, I-:9.3mg,
H2SiO3:131mg, HBO2:6320mg, CO2:732mg,
衛生管理のため塩素系薬剤を使用。
温度調整のため10%位の加湯をした上で放流。
間欠泉で自噴しており、二酸化炭素を抜くため源泉をタンクに溜めてから浴槽に入れている。
JR花輪線・荒屋新町駅より徒歩25分(1.8km)
岩手県八幡平市叺田43-1 地図
0195-72-2110
ホームページ
日帰り入浴10:00~19:00
700円
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5
前回の記事で取り上げました「らくらくの湯」の次は、旅館ご自慢の「大浴場」を見てまいりましょう。
私が宿泊した日は某大学の野球部も団体利用しており、夜9時頃までは若人達の元気が館内の各所で漲っておりましたので、彼らが大人しくなってくれた深夜11時頃に大浴場へと向かいました。従いまして、全体的に画像が暗くて見難いのですが、何卒ご容赦のほどを。
日帰り入浴用の玄関を脇目に見ながら、階段を下ってB1Fへ向かうと、そこにはえらく小洒落た浴場入口が構えていました。「朱塩泉 金の湯」という書が新安比温泉の特徴を端的に表現しています。
モダン和風な造りの脱衣室は、落ち着いた雰囲気で清潔感にあふれており、設備関係が整っていて使い勝手良好です。おそらく最近リノベーションされたのでしょうね。対人関係は第一印象が重要と言いますが、お風呂に関しては言うならば、第一印象に相当する脱衣室が綺麗で使いやすいと、その後必ず足を踏み入れる浴室に対しても、良いイメージを抱きたくなるものです。脱衣室の良し悪しは、その温泉宿の質を計る指標の一つであると私は思っています。
洗面台に揃えられているアメニティ類も充実。一角には水のサービスが用意されているのですが、後述するようにこちらのお湯は大変パワフルであり、一般的な温泉よりも火照りや発汗作用が強いため、この飲用水の存在は大変重要なんですね。入浴後はもちろん、入浴前にも水分を補給しておきましょう。
壁や浴槽の茶色と天井の白色、この二色のコントラストがハッキリしている浴室は、(男湯の場合)右手に浴槽類が、左手に洗い場が配置されており、洗い場にはカランが10基(うち9基はシャワー付き)が並んでいました。
浴槽類は、温泉が張られている二つの槽の他、水風呂と打たせ湯が設けられているのですが、私の訪問日は打たせ湯が使用中止となっていました。
天井と床の色合いを統一させるのはインテリアコーディネートの定石であり、実はこの浴場においても、床タイルに用いられている色は天井と同じ系統のオフホワイト(あるいはベージュ)なのですが、温泉のオーバーフローが流れてゆく一帯は成分付着によって赤銅色に濃く染まっており、特に源泉風呂付近では石灰華の固着により千枚田状態となっていました。右(下)画像は、オーバーフローが流れる床とそうでないところを写したものですが、ここまではっきりと色の違いが現れているんです。それだけ濃い温泉なんですね。
2つの温泉槽には、木製投入口から伸びる樋を伝って、お湯がそれぞれに対して分配されています。樋の長さによって温度が調整されるのか、樋を流れる距離が短い小さな浴槽の方が熱く、樋の終端からお湯が落とされる大きな浴槽は万人受けする湯加減となっていました。他の施設のような配管丸出しですと風情はありませんし、岩の湯口だとありきたりですが、このような木の樋ですと、それを通じて湯守さんの顔が見えてくるような感じがし、ちゃんとした温泉に入れているんだという実感が湧いてきます。
2つある温泉槽のうち、窓側の小さな方は「金の湯」と称されており、説明札によれば「薬効抜群の"源泉風呂"」とのこと。なるほど相当濃いお湯であり、湯船に入る前段階の、ビジュアルとして湯船に対峙した時点からその濃厚さが伝わってきます。具体的には、浴槽は元の色や材質が全くわからないほど赤銅色の成分付着で覆われており、石灰華によって浴槽縁と湯面が接するライン上には庇状の瘤が出来上がり、縁の上にも分厚くこびりついています。そして湯口付近を中心として鱗状のデコボコ模様も形成されていました。こりゃすごい! 湯船はモスグリーンを帯びた赤茶色に強く濁り、とにかく非常に塩辛い! 湯面からはヨウ素や臭素などハロゲンがもたらしていると思しき刺激臭や、石膏や金気がミックスされたような独特な匂いが感じられます。
実際に湯船に入ってみますと、塩分の強さゆえ、入りしなは脛にピリピリとした刺激が走り、肩まで浸かってしばらくすると、一般的な温泉よりも早いペースで体が火照りはじめ、心臓が激しく拍動してきます。湯船がちょっと熱めに設定されていることも要因の一つでしょうけど、何よりもこの塩分の強さが火照りや激しい心拍をもたらしているわけであり、非常に攻撃的であり凶暴なお湯です。地図をご覧になればわかるように、この場所は海から遠く離れた八幡平東部の山間部であるにもかかわらず、海水顔負けの強塩泉であることはただただ驚くしかありません。湯中ではギシギシとした浴感を得、湯上がりはかなりのベタつきとザラつきが残ります。強烈な熱をもたらす湯ですから、水分補給は欠かせません。上述で脱衣室における飲用水のサービスについて触れましたが、こちらの温泉では水がとにかく必須なのであります。
こればかりでなく、1kg中の温泉に含まれているメタホウ酸6320mgという数値にもびっくり。これって本当ですか!? 分析表を目にして夢か現かわからなくなり、何度も自分の目を擦ってしまいました。どんなにメタホウ酸が多い温泉でも4桁を超えることなんて滅多に無いというのに、6000オーバーという数値は尋常じゃありません。メタホウ酸を多く含むことで知られてる全国の温泉を具体的に挙げますと、新潟県の松之山温泉は大体300mg前後、兵庫県有馬温泉の金泉は300~500mg、そして和歌山市街の「ふくろうの湯」は1813mgですから、それらと比べても圧倒的に多いことがわかります。新安比温泉は塩気の強さばかりが語られがちですが、私としてはこのメタホウ酸の驚異的な数値に注目したいものです。温泉医学関係の方は、是非この新安比温泉の薬効に関して研究していただきたい。何らかの興味深い結果が出るに違いありません。
「金の湯」(源泉風呂)の右隣りにある大きな方の湯船は、どなたでも入りやすい湯加減に調整されており、お湯の凶暴さもいくらか抑えられていました。右(下)の画像は左右両浴槽の仕切りを写したもので、この暗い画像では判別しにくいのですが、少なくとも肉眼では両者のお湯の濁り方がハッキリ異なっており、大きな浴槽の方が濁りがやや弱く、浴槽縁の成分付着も薄くて、実際に浸かった際のフィーリングも幾分マイルドでした。一般論として、温泉に入るならばなるべく源泉に近い状態の浴槽が好まれるのですが、あまり刺激が強すぎると体に合わない場合もありますから、このような優しい設定の温泉槽が用意されていると、温泉に負けてしまいがちな体質の方でも温泉を楽しめるのではないかと思います。なおこの大きな浴槽ではお湯の投入量が絞られており、お湯の動きも緩慢なのですが、その影響なのか、湯面にはホウ酸(あるいはカルシウム)と思しき白い結晶がたくさん浮かんでいました。
露天風呂ゾーンには、浅い造りのもの、深い造りのもの、足湯など、数種類の浴槽が設けられており、いずれも循環の真湯が用いられています。浴槽には全面的に十和田石が採用されており、とってもここちの良い肌触りです。他の旅館でしたら「せっかくの露天なのにどうして真湯なのか」と不満をもらすところですが、こちらの温泉に限っては、むしろ真湯であることにホッと安堵してしまいました。だって内湯の強烈な温泉だったら、すぐに体が音を上げてしまって、のんびり湯浴みできませんもん…。浴槽の一部は緩い傾斜になっており、森の風を感じながら、そこで寝そべったりうつ伏せになったりと、思い思いの姿勢で湯浴みさせていただきました。真湯のお風呂もなかなか良いものですね。
立地も宿泊のコストパフォーマンスも良く、お湯の強烈さも実に面白い、利用価値の高いお宿でした。
保戸沢の湯
ナトリウム-塩化物強塩泉 32.4℃ pH6.9 溶存物質32.368g/kg 成分総計33.100g/kg
Na+:8530mg(88.59mval%), Mg++:251mg(4.93mval%), Ca++:312mg(3.72mval%), Fe++&Fe+++:2.6mg,
Cl-:11900mg(81.45mval%), SO4--:210mg, HCO3-:4370mg(17.38mval%), Br-:18mg, I-:9.3mg,
H2SiO3:131mg, HBO2:6320mg, CO2:732mg,
衛生管理のため塩素系薬剤を使用。
温度調整のため10%位の加湯をした上で放流。
間欠泉で自噴しており、二酸化炭素を抜くため源泉をタンクに溜めてから浴槽に入れている。
JR花輪線・荒屋新町駅より徒歩25分(1.8km)
岩手県八幡平市叺田43-1 地図
0195-72-2110
ホームページ
日帰り入浴10:00~19:00
700円
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5