※既に浴場は解体され、現在はコンビニになってしまいました。
政治に翻弄されて方針が二転三転していた群馬県の八ッ場ダムですが、昨年(2011年)12月23日政府及び民主党の三役会議において建設の再開が正式に決定され、ダム建設に対する是非はともかく、これでようやく地元は落ち着いて将来を考えられる状態に近づいたのではないかと思います。
温泉という視点で八ッ場ダムを捉えますと、否が応でも水没する川原湯温泉、そして地元に対する懐柔策として設けられた4つの共同浴場、すなわち「川原畑(温井)温泉・岩陰の湯」「林温泉・かたくりの湯」「横壁温泉・白岩の湯」「吾妻峡温泉・天狗の湯」の存在を、その象徴として挙げることができるでしょう。このうち、集落の移転が済んでほとんど無人状態になってしまった川原畑地区の「岩陰の湯」は2010年頃から閉鎖されており、また「天狗の湯」は東吾妻町の手により本格的な日帰り入浴施設として2010年にリニューアルオープンしました。一方、林集落の「かたくりの湯」は従来の姿のまま昨年(2011年)5月に開設14周年を迎えましたが、横壁の「白岩の湯」は最近移転されたという話を聞き、現状はどのようになっているのか自分の目で確かめるべく、正月休みの某日、青春18きっぷを片手に吾妻線へ乗り込み、現地へと向かいました。
現状をレポートする前にかつての姿を簡単に振り返ってみます。
これは2007年3月に訪問した時の画像です。当時の「白岩の湯」は、工事の進捗により刻々と変化してゆく仮設道路の先に残る集落の片隅に建てられた、八ッ場ダム関連の4温泉の中では最も分かりにくい場所だったように記憶しています。川原畑や林などの兄弟たちと同じような質素で飾り気のない湯小屋で、3人サイズのポリバスに源泉が直接注がれているのも兄弟たちに共通して見られる特徴でしたが、浴室内のタイルは剥がれ、浴槽は傾き、防水用のシリコンシーリングも捲れちゃって、側壁と浴槽の間の隙間へお湯がどんどん漏れていくような有様でした。
私が訪問したこの時には、ご近所の民家の犬にけたたましく吠えたてられて、尻尾の無い私が湯上りに尻尾を巻いて逃げた想い出があります。この湯小屋は2009年に閉鎖されました。
さて現状です。
付け替えられた国道145号は平成21年に竣工したばかりの丸岩大橋(横壁3号橋)で林集落から吾妻川をまたいで横壁集落へと渡って草津方面へと延びています。画像の手前が林集落(中之条)側、奥が横壁集落(草津)側です。ちょうどこの時は雪の降り始めで、前方の視界が俄然悪くなり、ひとりポツンと橋を歩いて渡る私の頬を風に吹かれた雪が礫のように叩き続けました。
建て替えられた「横壁温泉・白岩の湯」です。建物こそ新しいものの、基本設計や地味な外観は従来と変わっていませんね。でもバリアフリー対策としてスロープが設けられているあたりは、いかにも今時の公共施設らしい点です。
移転後の湯小屋は丸岩大橋付近の新しい国道の道路沿いに位置しており、ゲートボール場が隣接しています。見つけにくかった旧施設とは対照的に、国道から丸見えというこの上なくわかりやすいロケーションなので、八ッ場ダム関連の4温泉の中ではリニューアル後の「天狗の湯」に次いで見つけやすい施設になったのではないかと思います。
湯小屋の西側から川原湯方面を眺めてみました。見難いかもしれませんが、湯小屋の傍から画面奥の丸岩大橋へと延びているのが国道です。
さっそくお邪魔してみます。現在でも地元民のための共同浴場ですから、旧施設同様に無人です。またトイレはありません。脱衣室はよく清掃されており、とっても綺麗です。料金箱は脱衣棚の一番左端にありました。新しい建材ばかりのこの湯小屋の中で、この箱だけベコベコです。旧施設からの転用?
脱衣棚の上には清掃当番割り当て表が掲示されていました。地元の方々のおかげで気持ち良く利用できることわけですね。感謝です。
(画像左(上))
館内の掲示によると、加水・加温・循環・消毒・入浴剤添加、すべて無しという素晴らしい湯使いです。この掲示の表示者として記されている名前が「八ッ場ダム工事事務所」となっている点は、当温泉の性格を示す興味深いところです。
(画像右(下))
旧施設に掲示されていた温泉分析表のプレートが室内に立てかけられていました。ほとんど新しく変わってしまった「白岩の湯」にあって、これは旧施設の面影を残す数少ない物品でしょうね。
浴室に3人サイズのポリバスが据えられているだけのシンプルな浴室は、一見すると旧施設と大して変わりありませんが、当然ながらかつてと比べてはるかに綺麗で清潔、明るくて気持ち良い空間です。なお、浴槽用の水の蛇口以外にカランはありません。
湯小屋のすぐ真裏にはSUS製の貯湯タンクが据え付けられており、そこからダイレクトでつながっている配管及び蛇口から源泉が絶えず浴槽へ注がれ、洗い場の床へとオーバーフローしていきます。
湯口のお湯は結構熱く、湯船も加水されていない状態ですと、十分に掛け湯しなければ熱くて入りにくいかもしれませんが(私の実感ですと44℃くらいでしょうか)、私は加水しないで問題なく全身入浴できました。
お湯は無色透明で細かな白い湯の華が沢山浮遊しています。弱い塩味に石膏甘味と弱い樹脂のような味が混じり、また石膏臭と弱い樹脂臭が感じられました。手元にある旧施設のお湯のインプレッションを見ますと、塩味や甘味は現在と同じですが、樹脂的な知覚ではなく、タマゴ臭&味と細かな泡付きがある、とメモされており、このタマゴ感や泡付きは現状では確認できませんでした。また見た目も現在は無色透明ですが、以前は微かに黄色を帯びていたようです。移設に伴いお湯の質が変わったのでしょうか。
いずれにせよお湯の鮮度は抜群。訪問時は先客も後客もおらず、終始ひとりでお湯を独占できました。目の前の国道を通過する車のうち、どれだけの人がこの温泉浴場の存在に気付いているんでしょうか。わかりやすい立地ですが、ぜひこれからも知る人ぞ知る無名の温泉としてありつづけて欲しいものです。
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 温度・pHなど数値不明
JR吾妻線・長野原草津口駅より徒歩25分
群馬県吾妻郡長野原町横壁
(地図による特定は遠慮させていただきます)
7:00~19:00 毎月5・10・15・20・25・30日(いわゆる五・十日)の午前は清掃につき利用不可
300円
備品類なし
私の好み:★★★
政治に翻弄されて方針が二転三転していた群馬県の八ッ場ダムですが、昨年(2011年)12月23日政府及び民主党の三役会議において建設の再開が正式に決定され、ダム建設に対する是非はともかく、これでようやく地元は落ち着いて将来を考えられる状態に近づいたのではないかと思います。
温泉という視点で八ッ場ダムを捉えますと、否が応でも水没する川原湯温泉、そして地元に対する懐柔策として設けられた4つの共同浴場、すなわち「川原畑(温井)温泉・岩陰の湯」「林温泉・かたくりの湯」「横壁温泉・白岩の湯」「吾妻峡温泉・天狗の湯」の存在を、その象徴として挙げることができるでしょう。このうち、集落の移転が済んでほとんど無人状態になってしまった川原畑地区の「岩陰の湯」は2010年頃から閉鎖されており、また「天狗の湯」は東吾妻町の手により本格的な日帰り入浴施設として2010年にリニューアルオープンしました。一方、林集落の「かたくりの湯」は従来の姿のまま昨年(2011年)5月に開設14周年を迎えましたが、横壁の「白岩の湯」は最近移転されたという話を聞き、現状はどのようになっているのか自分の目で確かめるべく、正月休みの某日、青春18きっぷを片手に吾妻線へ乗り込み、現地へと向かいました。
現状をレポートする前にかつての姿を簡単に振り返ってみます。
これは2007年3月に訪問した時の画像です。当時の「白岩の湯」は、工事の進捗により刻々と変化してゆく仮設道路の先に残る集落の片隅に建てられた、八ッ場ダム関連の4温泉の中では最も分かりにくい場所だったように記憶しています。川原畑や林などの兄弟たちと同じような質素で飾り気のない湯小屋で、3人サイズのポリバスに源泉が直接注がれているのも兄弟たちに共通して見られる特徴でしたが、浴室内のタイルは剥がれ、浴槽は傾き、防水用のシリコンシーリングも捲れちゃって、側壁と浴槽の間の隙間へお湯がどんどん漏れていくような有様でした。
私が訪問したこの時には、ご近所の民家の犬にけたたましく吠えたてられて、尻尾の無い私が湯上りに尻尾を巻いて逃げた想い出があります。この湯小屋は2009年に閉鎖されました。
さて現状です。
付け替えられた国道145号は平成21年に竣工したばかりの丸岩大橋(横壁3号橋)で林集落から吾妻川をまたいで横壁集落へと渡って草津方面へと延びています。画像の手前が林集落(中之条)側、奥が横壁集落(草津)側です。ちょうどこの時は雪の降り始めで、前方の視界が俄然悪くなり、ひとりポツンと橋を歩いて渡る私の頬を風に吹かれた雪が礫のように叩き続けました。
建て替えられた「横壁温泉・白岩の湯」です。建物こそ新しいものの、基本設計や地味な外観は従来と変わっていませんね。でもバリアフリー対策としてスロープが設けられているあたりは、いかにも今時の公共施設らしい点です。
移転後の湯小屋は丸岩大橋付近の新しい国道の道路沿いに位置しており、ゲートボール場が隣接しています。見つけにくかった旧施設とは対照的に、国道から丸見えというこの上なくわかりやすいロケーションなので、八ッ場ダム関連の4温泉の中ではリニューアル後の「天狗の湯」に次いで見つけやすい施設になったのではないかと思います。
湯小屋の西側から川原湯方面を眺めてみました。見難いかもしれませんが、湯小屋の傍から画面奥の丸岩大橋へと延びているのが国道です。
さっそくお邪魔してみます。現在でも地元民のための共同浴場ですから、旧施設同様に無人です。またトイレはありません。脱衣室はよく清掃されており、とっても綺麗です。料金箱は脱衣棚の一番左端にありました。新しい建材ばかりのこの湯小屋の中で、この箱だけベコベコです。旧施設からの転用?
脱衣棚の上には清掃当番割り当て表が掲示されていました。地元の方々のおかげで気持ち良く利用できることわけですね。感謝です。
(画像左(上))
館内の掲示によると、加水・加温・循環・消毒・入浴剤添加、すべて無しという素晴らしい湯使いです。この掲示の表示者として記されている名前が「八ッ場ダム工事事務所」となっている点は、当温泉の性格を示す興味深いところです。
(画像右(下))
旧施設に掲示されていた温泉分析表のプレートが室内に立てかけられていました。ほとんど新しく変わってしまった「白岩の湯」にあって、これは旧施設の面影を残す数少ない物品でしょうね。
浴室に3人サイズのポリバスが据えられているだけのシンプルな浴室は、一見すると旧施設と大して変わりありませんが、当然ながらかつてと比べてはるかに綺麗で清潔、明るくて気持ち良い空間です。なお、浴槽用の水の蛇口以外にカランはありません。
湯小屋のすぐ真裏にはSUS製の貯湯タンクが据え付けられており、そこからダイレクトでつながっている配管及び蛇口から源泉が絶えず浴槽へ注がれ、洗い場の床へとオーバーフローしていきます。
湯口のお湯は結構熱く、湯船も加水されていない状態ですと、十分に掛け湯しなければ熱くて入りにくいかもしれませんが(私の実感ですと44℃くらいでしょうか)、私は加水しないで問題なく全身入浴できました。
お湯は無色透明で細かな白い湯の華が沢山浮遊しています。弱い塩味に石膏甘味と弱い樹脂のような味が混じり、また石膏臭と弱い樹脂臭が感じられました。手元にある旧施設のお湯のインプレッションを見ますと、塩味や甘味は現在と同じですが、樹脂的な知覚ではなく、タマゴ臭&味と細かな泡付きがある、とメモされており、このタマゴ感や泡付きは現状では確認できませんでした。また見た目も現在は無色透明ですが、以前は微かに黄色を帯びていたようです。移設に伴いお湯の質が変わったのでしょうか。
いずれにせよお湯の鮮度は抜群。訪問時は先客も後客もおらず、終始ひとりでお湯を独占できました。目の前の国道を通過する車のうち、どれだけの人がこの温泉浴場の存在に気付いているんでしょうか。わかりやすい立地ですが、ぜひこれからも知る人ぞ知る無名の温泉としてありつづけて欲しいものです。
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 温度・pHなど数値不明
JR吾妻線・長野原草津口駅より徒歩25分
群馬県吾妻郡長野原町横壁
(地図による特定は遠慮させていただきます)
7:00~19:00 毎月5・10・15・20・25・30日(いわゆる五・十日)の午前は清掃につき利用不可
300円
備品類なし
私の好み:★★★