ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

分断されるアメリカ サミュエル・ハンチントン

2009-08-14 13:18:00 | 
ハンチントンの言いたいことは分る。清教徒が自らの信仰の自由を求めて新大陸に渡り、自分たちの理想を実現する手段として民主主義を掲げ、それに見合ったルールを作り、そのルールを受け入れた入植者たちが作った国こそがアメリカなのだ。

確かに事実に基づく意見であり、それなりに説得力があるのも分る。でも、この本を読んだ時、私が感じたのは「あ~あ、言っちゃったよ。いいのかよ、言っても」であった。そしてアメリカの支配階級たるWASPの連中は、だいぶ追い詰められているのだとも思った。

現実のアメリカは多くの宗教、多くの人種、多くの民族を抱えている。ハンチントン自身が認めるように、最初のきっかけはカトリックの移民を受け入れたことだろう。さらに多数輸入された黒人奴隷たちが状況を複雑にした。やがて、異なる宗教、価値観を持つアジアからの移民が流入してきた。もはや建国当初の理想(清教徒の国)は形骸化してしまった。

それでも移民たちが英語を身に付け、アメリカ社会の流儀に身を任せ、徴兵に応じ、市民権を取得することを目指しているうちは容認できた。内心不快さはあっても、自由と民主主義の旗印を掲げる以上、その旗に恥じぬ国でなければならないからだ。

しかし、それは決して容易な道ではなかった。自由を掲げながら奴隷制を認める矛盾を是正するだけでも、血で血を洗う内戦(南北戦争)が必要だった。いくら奴隷解放を宣しても、心の中の差別意識までは容易になくせなかった。

それでも、互いに努力した。ロックンロールやジャズが生まれ、黒人と白人が新しい価値観を産み出し、同じ価値観を楽しむことさえ当たり前になった。音楽だけではない。スメ[ツや軍隊など、さまざまな分野で異人種との交流は進み、アメリカが掲げた理想が絵空事でないことを世界に立証してみせた。

自由と民主主義の国、アメリカは決して空想でないことを世界の人たちが信じた。だからこそ、世界中から移民が殺到した。されど、アメリカの支配階級(WASP)たちは、建国当初からこの国の政治に強い影響力を持ち続けたことも事実だ。

カトリックや儒教などの異なる宗教を持つ者でさえ、アメリカの価値観を信じ、アメリカの流儀を受け入れるならば、新たなアメリカ市民として受け入れた。だからこそ、アメリカの伝統的な支配階級は、移民の増加を我慢できたはずだった。

しかし、この我慢も限界に近づきつつある。それがアメリカ社会を急速に侵食したラテン化だ。合法、違法を問わずアメリカにやってくる中南米からの移民は英語を話せない。話すのはスペイン語だけだ。そして英語を学ぶ気がない。

なぜなら、アメリカ南部の多くの州では、既に英語とスペイン語の両方が表示され、英語を話せなくとも問題なく暮らせる。そして彼らラテン系移民のほとんどがカトリック信者でもある。出生率も高く、そう遠くない将来には、アメリカにおける最大多数の勢力となることが予測されている。

この従来の移民とは異なる新たな移民たちの増大が、アメリカの支配階級たる白人たちの悩みの種だ。民主主義を掲げる以上、この未来の最大多数勢力たるラテン系アメリカ人は、アメリカの政局に大きな影響力をもつだろう。伝統的なアメリカ社会は、ほぼ間違いなく変質すると予測される。

そのことが、ハンチントンら白人たちを怯えさせ、ついに本音を吐き出した。その意味で、この本が出版された意義は小さくないと思う。

変質したからといって、あるいは分断されたからといって、アメリカが衰弱するとは限らない。それでもこの覇権国の変化は、世界中に影響を及ぼすと思う。いかにアメリカが変っていくか、十分に注意を払う必要があると考えています。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする