ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

人間の証明 森村誠一

2009-08-10 12:41:00 | 
幼少期を米軍基地の隣町で過ごしたわりに、なぜか黒人とは接点がなかった。

我が家の周囲に住む外人は皆白人であり、子供だけでは行ってはいけないとされた立川に行かない限り、黒人を見かけることはなかった。

私は行くなと言われると、なおさら行きたがるひねくれ者だったため、立川の繁華街には時折足を運んでいた。当時はベトナム戦争真っ盛りであり、休暇を過ごしに日本に来たアメリカ兵たちがウヨウヨいた。

「日本人と犬、お断り」の紙が張られた飲食店が軒を連ねる路地が一番騒がしかった。危ないところであることは、子供の私たちでも分った。なにせ昼間っから酔っ払った米兵たちがゴロゴロしていたからだ。

しかし、危ないところにこそチャンスあり。酔っ払っていい気になった米兵から、ガムなどのお菓子をもらえることもあり、稀には小銭に恵まれることもあった。この通りで買えるホットドッグやソフトクリームは美味しかったので、危険を承知で私ら子供たちもたむろしていた。

ただ、たしかに危ないところであった。大柄な白人同士の喧嘩沙汰は日常茶飯事だった。ナイフなどの刃物が振り回されることも珍しくない。それでも、あまりに幼く小さかった私ら子供たちは、比較的安全であることも知っていた。肌の色が違おうと、小さな子供好きの大人は少なくないし、むしろ可愛がられることも珍しくないからだ。

さすがに私らがたむろするのは夕方までだ。それまでが稼ぎ時なのだが、ここにも強力なライバルがいた。同じ年代の子供たちだ。不思議だったが、白人の子供たちはほとんど見かけなかった。親が許さなかったらしい。

いるのは混血の子供たちだった。こいつらが強敵だった。私の家の近所にはいなかったが、アメリカ人との国際結婚やらなんやらで、肌の色合いの違う子供たちがいた。私の知る限りでは、日本の学校ではなく、アメリカンスクールに通っていたようで、日頃の付き合いはまったくなかった。

今でも理由は分らないが、あの頃は彼ら混血の子供たちとは仲が良くなかった。もしかしたら、白人の子供たちよりも、この混血の子供たちとの間のほうが険悪であったかもしれない。

白人の子供たちと異なり、日本語が通じたはずだが、まともに会話を交わした覚えがない。ただ、条件反射的に互いに罵り合っていた。理由はあるんだか、ないのだか私にも分らなかった。

覚えているのは、目が合った途端に罵りあいが始まったことだけだ。じれて、取っ組み合いが始まると、白人たち大人が集まってきて、応援だが賭けだかをしていたようだ。止める大人はいなかった。ただ、見物しているだけで、勝った子供にお菓子がもらえることもあった。

だいたいが、騒ぎを聞きつけたMPがくると、お開きになった。悔しいが身体の大きな混血の子供たちのほうが勝つことが多かった。

あの頃、人種差別なんて言葉は知らなかったが、知らなくても自分たちと肌の色の違う生き物に対しての対抗意識だけは間違いなく存在した。誰に教わったわけでもないのに、お互いが違う人間であるとの認識だけはあった。

ただ、子供心にも妙に思うことはあった。なぜか、繁華街にたむろする混血の子供は黒人と日本人との間の子供ばかりだった。白人と日本人との間の子供は、まず見かけなかった。米軍基地のなかでは、何人も見かけたので、けっこういるはずだが、街をうろつく子供たちのグループにはいなかった。

このあたりの微妙さが、人種差別の問題の難しさかもしれない。表題の作品を読んだのは、角川が映画化した後だったと思う。映画を先に観て、それから原作を読んだ。映画の印象が強すぎて、原作に描かれたミステリーとしての巧妙さが薄れているのが残念だった。先に原作を読んでから、映画を観たほうが良かったはずだと考えるようになったのは、この時からだ。

映画自体の出来は良かったと思う。なにより挿入歌が良かった。混血の黒人シンガー、ジョー山中が歌うあの曲は、未だに忘れがたく脳裏に刻まれている。

Mother、Do you Remenber~♪

音域が広すぎて、私には歌えないけど、いい歌だと思う。そして、更に想う。人種差別は嫌だな、と。

おそらくは、人種差別感情は本能に基づいたものだと思うので、根絶することは不可能だろう。でも、理性により抑制し、新たな価値観、新たな広がりを得ることは可能だと思うし、そう信じたい。

実際、アメリカという国が覇権国として世界中から嫌われながらも、文化として憧れの対象であるのは、異人種が協力してアメリカを作り上げてきた実績が大きく影響していると思う。

高齢化と少子化により、海外からの人材流入が予測される日本だ。そろそろ異人種間との利害調整の問題への対処を考えておくべきだと思います。
コメント (4)
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