ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

プロレスってさ アブドーラ・ザ・ブッチャー

2006-03-23 09:38:28 | スポーツ
役者さんの世界での話ですが、善玉役の人より悪役の人の方が私生活では良い人が多いと聞かされたことがあります。これはプロレスの世界にも言えることで、善玉役のプロレスラーには、あまり性格の良い人の話は聞くことは稀な気がします。一方悪役のプロレスラーには、案外良い人が多かった気がします。

もちろん例外は多数あり、なかには才能がありながら事件を起こし追放されたプロレスラーも少なくありません。酒乱の南海竜とか、暴行常習のオートンJRとか問題児は多々いました。基本的に腕っ節の強い乱暴者がやり易い仕事ですから、ある意味当然かもしれません。

そんな中で興味深かったのが、アメリカの黒人レスラーであるアブドーラ・ザ・ブッチャーでした。悪役レスラーとして名高い人でしたが、この人の悪役ぶりは真に迫っていました。悪役を演じているのは間違いありませんが、なかでも白人レスラーをいたぶる時の迫力は右に出るものがいないほどでした。黒人差別の怨念を孕んだかのような、冷酷な悪役ぶりがとても印象的でした。ただ、稀に黒人嫌いの相手と本当に喧嘩になってしまうことがあり、NWFチャンピオンであったハリー・レイスとの場外乱闘は有名です。会場を離れて控え室でまで乱闘を続け、結果的にレイスを負傷欠場させるほどの札付きの悪役レスラーでもありました。

筋肉隆々たる黒人レスラーが多いなかで、肥満体の彼は珍しい存在でしたが、その喧嘩の強さは驚異的。なにより打たれ強いタフネスぶりが有名でした。なぜか日本では、そのクリっとした愛敬のある表情から人気が出て、清涼飲料水のCMにも出たことがあります。でも彼の真価はその悪役ぶりにありました。

毎年恒例の全日本の最強タッグシリーズで、相棒のシークと組んで人気レスラーのファンクス兄弟をいたぶり、テリーの腕にフォークを刺したのは有名な話。私はその試合をあるパチンコ屋さんの街頭テレビで見てましたが、飛び散る血が目の前にあるかのような興奮を覚えたものです。余談ですが、そのパチンコ屋さんは、タレントの小池栄子の実家だそうです。まだ彼女が生まれてない頃の話ですがね。

そのブッチャーが新日本プロレスへ移籍して間もない頃、あってはならない事件が起こってしまいました。タッグ戦のトーナメントで、別のチームが負傷辞退したため、マードック組とブッチャー組が試合をすることになってしまったのです。突然の辞退でしたから、仕組まれた可能性は低いと思います。でもこのマッチメイクは危険すぎる。アメリカでは絶対あり得ないし、日本でも馬場の全日本プロレスでは決してやらせる訳がない組み合わせでした。

強烈な黒人嫌いで知られるマードックと、白人をいたぶる事に執着するブッチャーではプロレスの試合が成立する訳がない。本気の殺し合いに発展しかねない危険性が濃厚だったのです。どちらかが弱ければ、なんとか試合になったでしょう。ところがどちらもプロレス界有数の喧嘩屋。実力者同士であるだけでなく、お互いに嫌っていましたから、試合になるわけない。

その組合せが発表された時、観客はもの凄く興奮して会場は盛り上がってしまいました。しかし、レフリーも他のプロレスラーも緊張していたようでした。いざとなったら乱入して試合を中断する覚悟で、他の外人レスラーが通路に待機しているようでした。

この危機を救ったのは、ブッチャーの相棒であった黒人レスラーでした。柔道の銀メダリストであったアレンは、この試合で絶対にブッチャーとマードックに試合をさせませんでした。互いににらみ合って動かない二人を尻目に、相手の白人レスラーと淡々と試合をこなし、何事もなく試合を終わせてしまいました。

観客は拍子抜けで、がっかりしてましたが、嫌な場面を見ずに済み良かったと思います。しかし、このことは、ブッチャーの心を深く傷つけたようで、その後すぐに馬場の全日本へ戻ってしまいました。アメリカにおける黒人のプロレスラーの微妙な立場を象徴する存在として、ブッチャーは深く私の記憶に残っています。
コメント (4)
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