ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

消されかけた男 (B・フリーマントル)

2006-03-17 17:08:39 | 
なぜか忙しくなると、ホラーものやミステリー、サイコ、SFが読みたくなります。法廷ものや、スパイ小説も面白い。まあ、現実逃避の匂いが濃厚ですがお許しあれ。

ハイテク花盛りのスパイ業界で、時代遅れの役立たず扱いを受けているイギリス情報部のベテラン・スパイの主人公チャーリー・マフィン。ツギハギだらけの古びたツイードの上着と、履き潰したハッシュ・ハッピーの靴が妙に似合う地味で、さえない窓際の中年男。されど内に秘めたる想いは熱く、しかも冷静沈着。まさにベテランならではの味がある中年スパイ。

ジェームズ・ボンドを筆頭に艶やかなスパイと比べると地味で色気のない、このベテランスパイですが、英国やアメリカ、ロシアらの情報部を敵に回しての大活躍。近年のスパイ小説では、もっとも控えめで、しかもしたたかなチャーリーは、フリーマントルの代表的主人公となり、いつの間にやらシリーズものとなる人気ぶりです。

このフリーマントルやグレアム・グリーン、ジョン・ル・カレのような欧米のスパイ小説を読むと、背景にある白人の欧米文化の重層的な精神気質を深く感じざる得ません。誠心誠意の笑顔で、暖かい握手を交わしながら、心の奥底でどす黒い悪意を育む。それでいて、友情とか愛とかに敬意を払う。でも、自分が生き残るためには平然とそれらを踏みにじる。とてもじゃないが、あのように嘘と真実と、その上を塗りたくる虚像と虚構を描くことは、日本人の作家には到底無理(私小説なら可能)。これらの作家を読んだ後で、馳星周ら日本人作家の犯罪ものを読むと、その薄っぺらさにうんざりします。

もっとも、この日本的な気質は、ある意味ホッとさせられる部分もあり、日本人の良い点でもあるので、別に欧米に習う必要はないでしょう。でも、スパイ小説のような作品では、どうしてもその重厚さに押され勝ちなのも事実です。
コメント (2)
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