曖昧批評

調べないで書く適当な感想など

村上君と山田君

2022-08-04 08:04:00 | スポーツ



7月31日、甲子園球場でのタイガース戦で、スワローズの主砲・村上宗隆が3打席連続本塁打を放ち、チームも逆転勝ちした。8月2日、神宮球場でのドラゴンズ戦の第1打席、第2打席でも本塁打を放ち、連続打席本塁打の日本記録を更新した。

僕は、彼が入団したての18歳の春から、こんな日が来ることを予感していた。

まあ、今のところ予想のかなり上を行ってるんだけども。

でも村上君の話の前に、山田哲人の話をしよう。

2011年、首位を快走していたスワローズはシーズン終盤で大失速。2位でペナントレースを終えた。

怪我人続出で戦力不足なのに、2位だとクライマックスシリーズで勝たなければならない試合が多い。ジャイアンツとのファーストステージは何とか勝ち上がったが、そこで戦力を使い果たし、ドラゴンズとのファイナルステージを迎えた時はボロボロ。

それでも石川を中3日で先発させたり、中1日で館山をリリーフに投入するなど、後に「狂気」「特攻」などと称された小川監督の采配で、なんとか中日に食らいつくことになる。

そんなファイナルステージ第二戦。突如登録されたのが、高卒一年目の山田だった。一軍の出場経験のない選手がポストシーズンに出場するのは史上初。僕はこの時まで山田のことを全く知らなかった。

この非常事態に小川監督が抜擢するんだから、何か持ってるんだろう。レギュラーで体がまともに動く人がいない今、誰でもいい、戦力になってくれれば。

と思いながら試合開始前の守備練習を見て衝撃を受けた。周りのおじさんたちが疲れ切ってるせいもあるが、山田哲人の動きはシャープで、全身これバネの様だった。僕には分かった。

こいつはいずれスワローズの3番に座る。成績は打率3割以上、本塁打15本前後、打点60〜70ってとこか。俊足巧打の中距離バッターだろう。これでスワローズのショートは10年安泰だ。

だが、山田は僕の予想とは違う選手になっていった。期待した2年目はイマイチ。ショートの守備も安定せず、セカンドに転向。そこから快進撃が始まる。日本人右打者のシーズン最多安打記録を更新し、本塁打王と盗塁王を史上初めて同時に獲得。 2回やった人もいないトリプルスリーを3回記録。3割2分、35本塁打、100打点、35盗塁みたいな選手になってしまった。

2016年夏。打撃成績12部門全てでリーグ1位をマークし、「DHC山田」と呼ばれ、毎日が確変だった日々が突然終わる。ジャイアンツの田原、タイガースの岩貞から背中に二連続でぶつけられ、肋骨挫傷。かつての夢のような輝きが失われて今日に至る。

貴重な打てるセカンドとして、数字の上では未だにリーグ最上位ではあるが、引っ張り専門になり、体の軸を前に倒しながらスイングする今のフォームが気になる。絶頂期は日本で一番逆方向に本塁打が飛ぶ男だったのに、ここ数年の彼の本塁打は、ほぼすべてレフトスタンドである。

では村上君の話。先に山田のことを書いたのは、村上君にも山田のときのような予感があったからだ。山田の時の閃きが、村上君を見るときにも発動したというか。

2017年のドラフト会議。その頃は僕もドラフト会議の中継をちゃんと見て、来シーズンの戦力構想を練る楽しみを覚えていた。2017年ドラフトの目玉は、早実の清宮幸太郎で、スワローズも一位指名を明言していた。

どう考えても即戦力の大卒投手に行くべきだろう。なんで一塁専の高卒野手に行く?

だが、清宮は七球団も競合し、スワローズはクジを外した。そして、外れ一位で指名したのが九州学院の村上宗隆だった。

高卒の捕手? ムーチョ(中村悠平)がいるのに?

村上君は、これも清宮を外した巨人、楽天と競合。意外に人気なんだな。ヤクルトが当たりを引いた。

投手が欲しかったけど、くじが当たるのはまあいいことだ。どれ、どんな選手なんだ?

その時番組で流れた村上君の試合中の映像は、解像度が低くてよくわからなかった。一塁線を破るヒットを打ってた。大柄でパワーはあるけどもさっとした選手かな、とその時は思った。スワローズは捕手ではなく内野手として育てるという話だが…。

評価が一変したのが春のキャンプ。練習試合か紅白戦で村上君が打席に入っていた。外角低め、わずかに外れた球を「すっ」と見逃した。微動だにせず平然と見送った訳ではなかった。一瞬で見切って目を切ったわけでもなかった。ただ普通に構えを少し解いて身を引いただけなのに、その自然な所作に、僕は大打者の風格を感じた。

この子はとんでもない打者になる。というか既になってる…。

その時は、こんな日本を代表する打者がウチにいていいのだろうか、とまで思った。当時のスワローズは暗黒期で、こんなすごいの受け入れていいのかな、と思ったのだ。まだなんの実績もない新人なのに。

開幕一軍はなかったが、イースタンでの打棒は聞こえてきていた。調整中とはいえ、現トロント・ブルージェイズの菊池雄星から逆方向に本塁打を打ったときは「当然」と思った。早く一軍で見たい。

そしてその時はきた。2018年9月16日、村上君は一軍登録され、スタメンサードで起用された。早速エラー。やはりまだ守備は不安定だな。2回裏のプロ初打席。いきなり弾丸ライナーをライトスタンド中段に叩き込んだ。右手の人差し指を立て、まるで今期30号ですみたいな表情で悠然とダイヤモンドを一周した。解説の小久保が「ひと振りで球場の空気を変える力を持っている。恐れ入りました」とコメントした。僕は一緒に見ていた妻と子供たちに「村上君は来年ホームランを30本打つよ」と控えめに予言した。

そこから先はご存知の通りだ。レギュラーに定着した2019年は36本塁打。2月生まれということもあり十代の、あるいは高卒2年目のプロ野球記録を多数更新して新人王。昨年は本塁打王に輝き、打点も1点差のリーグ2位でチームを日本一に導いた。東京五輪では決勝で試合を決める本塁打を放ち、金メダリストになった。

予想通り大打者だったわけだが、本当にそうなっちゃったよという驚きはある。もうどこまでも記録を伸ばしていってください。怖いのは怪我とメジャーのスカウトだけだ。



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