曖昧批評

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永遠に未完の完全試合ふたたび

2020-04-11 21:11:00 | スポーツ

NHK BSでやっている「あの試合をもう一度!」という番組で、2007年の日本シリーズ第5戦を見た。中日が山井大介→岩瀬仁紀の継投で日ハム打線に走者を一人も許さず勝利し、日本一になったあの試合である。

この試合の継投については、当ブログでも「永遠に未完の完全試合」という記事で取り上げた。史上初の日本シリーズ完全試合達成目前で山井を下ろした落合の采配を糞味噌にけなした記事であった。

あの継投については当時から賛否両論あったが、最近はプロ野球関係者を中心に、擁護派が主流のように感じる。

僕は今も変わらず否定派だが、今見たらどう思うのか、あれは本当に神懸かった投球だったのかを確かめるべく、録画してじっくり再観戦したのであった。

まず前提情報。

第4戦まで中日3勝、日ハム1勝で、この第5戦は日本一に王手がかかっていた。中日は日本一になれば53年ぶり2回目となる。場所は本拠地ナゴヤドームで、この試合に負けると、もし日本一になれても胴上げは札幌ドームでということになる。

ちなみに日ハムは前年2006年に日本一になっている。監督はこの年限りで退任が決まっているヒルマン。中日の監督は言うまでもなく落合博満。この年就任4年目で3度目の日本シリーズ出場。落合政権だけで2回敗退しているわけだ。

名古屋ドームなので指名打者は使えない。スタメンは次の通り。

ファイターズ
1中 森本
2二 田中賢
3右 稲葉
4一 セギノール
5左 工藤
6三 稲田
7遊 金子
8捕 鶴岡
9投 ダルビッシュ

ドラゴンズ
1二 荒木
2遊 井端
3左 森野
4一 ウッズ
5三 中村紀
6右 李
7中 平田
8捕 谷繁
9投 山井

番組の司会は、この試合を実況した工藤三郎アナウンサーで、ゲストは谷繁元信。

ではプレイボール。

山井の立ち上がりは不安定。ときどき逆球が行く。先頭打者森本のセカンドゴロは、あわやセーフかというタイミングだったが、荒木がこともなげにアウトにした。

山井の大きく縦に変化するスライダーにファイターズ打線が合わない。あるいは手が出ない。特に初球のスライダーを見逃してストライク先行が多い。

ダルビッシュは第1戦で133球投げて完投している。彼にしてはスピードガンが出てない気もするが、初回は疲れも見せず無難に抑えた。

2回表、工藤のサードゴロのバウンドが高く、内野安打かと思われたが、中村紀の好捕・好送球で間一髪アウト。色々あった中村だが、厳しい表情が印象的。この試合にかける集中力を感じる。

2回裏、早くも試合が動く。レフト前ヒットのウッズを1塁において5番中村。ストレートを全部見送って明らかに変化球狙い。追い込まれて、待っていたスライダーが外角高めに浮いたところを完璧に捉えた。右中間突破の二塁打で無死二三塁。

李が凡退し(彼はこの試合最後までまったく合わなかった)、若き日の平田。内角の速い球二つで追い込まれ、最後は外のスライダーと思いきや、外角高めギリギリのストレート。それがシュート回転して少し中に入ってしまった。右へ上手く打ち上げてライト犠牲フライ。ドラゴンズ1点先制。

この回、鶴岡のリードはおかしかった。あるいは裏を掻こうとして裏目に出た。打ち返した中日打線の集中力も素晴らしかった。

3回以降もファイターズ打線は相変わらず初球のスライダーに手を出さない。カウントを悪くしては、スライダーを引っ掛けて内野ゴロの山を築いた。

特に2番田中賢と3番稲葉の不振が酷い。前の試合まで田中は15打数1安打、稲葉は14打数1安打である。4番セギノールも、シリーズ2本放っているが、魔法のように曲がる山井のスライダーにバットが当たる気配がない。

一方、ダルビッシュは球威が微妙に落ちてきた。しきりに肩を回して気にしている。シュート回転ぎみだからか直球はほとんど投げなくなり、フォーク多投で何とか誤魔化す感じ。それでも狙って三振を取れるんだから流石だ。高卒3年目とは思えない風格もすでに身につけている。

山井の投球は確かに素晴らしいのだが、それ以上にファイターズ打線の無策さが気になる。ブレーキが効いたいいスライダーだが、狙って打てない球でもないように見える。チーム全体で初球は見逃しとかスライダーは捨ててストレートに絞る作戦だったのかもしれない。

6回表、金子に対してストレート系の球が続けて右に外れた。シュートかもしれない。それ以降、この球は投げなくなった。4〜6回について谷繁は「前半はスライダー主体で。中盤は相手がスライダーを意識し始めたのでストレート、シュート主体に意識を持っていってその後また戻した」と語っている。言うほど中盤のストレート率は高くなかったが、それでもあのスライダーの後ズバッとこられて、ファイターズ打線は対応できなかった。

6回裏、森野が四球で出塁。極端な投手戦、打席にはここまで2安打のウッズなので一死一塁でもチャンスに感じる。ダルビッシュは苦しいところだったが、縦のスライダーで三振。中村はピッチャー強襲打。ダルビッシュの脇か腕に当たったが、素早く送球してチェンジ。

7回表、工藤アナの実況が「1番森本からの…好打順」と一瞬間が開いた。この回先頭が1番なのは、ここまでパーフェクトに抑えられてるからで、全然良いことじゃないじゃんと気付いたのだろう。

ここまでシリーズ17打数1安打と不振の2番田中賢。この試合初めてちゃんと捉えた打球だったが平凡なレフトフライ。打ったのは外角高めのストレートだった。

3番稲葉も2-2から外のストレートをレフトフライ。チョコンと当てただけの力のない打球だったが、意外と伸びて左中間の深いところまで飛んだ。ナゴヤドーム大歓声。そろそろ、もしかしての雰囲気になってきた。

7回裏、2死から谷繁がレフト前ヒットで出塁。ダルビッシュは踏ん張りどころ。「味方の援護は…全くありません!」とハッキリ言う工藤アナ。続く山井、ライトフライ。結構いい当たりだった。山井もまた味方の援護が3回以降ないわけで、自分で何とか、という気迫の打席だった。

8回表、4番セギノール、初球のスライダーを平凡なセカンドゴロ。と思いきや、捕ったのはショートの井端だ。いったいどこで守っていたのか。極端なセギノールシフトを敷いていた模様。

5番工藤への3球目のストレートは外角低めいっぱいの凄い球だった。ボールになったが、ストライクと言われても文句が言えない球。まだ球威は十分ある。工藤は5球目の鋭く内角に落ちるスライダーに空振り三振。山井ガッツポーズ。大歓声。

6番稲田に代えて坪井。スライダー、スライダーで追い込まれて、またスライダー。解説の大野豊「勝負を急がないことですよね」、一球外に外れて工藤アナ「ああいうのにチョコンと合わされても悔いが残りますよね」 またそういうバッティングが上手いバッターだしなあ。最後はストレートにバットを投げ出すように当ててセンターフライ。

「8回まで、山井!パーフェクトなピッチング!そしてパーフェクトな守り!」

観客総立ちで拍手。中日ベンチも皆外に出てきて山井をお出迎え。

8回裏、ファイターズは武田久にスイッチ。ダルビッシュは不調ながらも日本シリーズ記録の13奪三振を記録した。流石だ。

武田久は1番から始まった中日打線を何事もなく三者凡退に抑えた。

落合監督が森投手コーチとベンチを出た。交代があるのか?!と工藤アナ。スタンドからは続投を求める山井コール。

「ドラゴンズ、ピッチャー山井に代わりまして、岩瀬。ピッチャー、岩瀬。背番号13」

工藤アナ「でもパーフェクトの山井に代わってマウンドに上がって、なおかつ拍手をもらえるのは岩瀬しか絶対あり得ませんからね」

大野「今日の場合は山井の内容が良過ぎますのでどうかと思いますけど、そこはもう落合監督の決断ですからね」

9回表、岩瀬の金子への初球、ストレートが引っかかってショートバウンドしそうなボール。2球目からは落ち着いた。8番鶴岡に代打高橋信二。平凡なレフトフライ。

最後の打者は途中からサードに入っている小谷野。工藤アナが「投手が交代しているので完全試合ではありませんが」という。今でこそこの試合は継投による完全試合みたいに言われているが、パーフェクトで継投が今までになかったことなので、当時は単に完全未遂だと思ったんだよね。

あと1人コールの中、小谷野はセカンドゴロでゲームセット。ドラゴンズ53年ぶり2度目の日本一。

優勝監督インタビュー。「感無量です」「(試合の)記憶がありません。山井と岩瀬でパーフェクトをやったっていうだけでね。山井は完璧だったんじゃないですか」

画面変わって現在のスタジオにて。

谷繁「(森コーチにどうだと訊かれて)まず山井本人に訊いてくださいと。僕自身は、代えたほうがいいと思います、と言いました」「(山井の)キレが甘くなってきていた」「やっぱり勝ちたかったんですよ」

工藤アナ「もしもう一度あの場面で実況することになったら、山井続投の実況をしてみたいですね」

谷繁「(自分が監督だったら)代えなかったかもしれないですね」「でもいろんな状況がありますからね。落合監督のあの決断はすごいと思います」



結果を知っている今見直すと、山井のピッチングは記憶ほど神懸かってはいない。やはり緊張感、空気感はリアルタイムのもので、その中で見たものと、落ち着いてみたものは違う。どちらが正しいかはわからないが、実際に対戦した両チームがリアルタイムでやった結果なんだから、かつての記憶の方が、より事実に近い気はする。

山井は本来適度に荒れる投手だ、と実況でも再三言われている、それがスリーボールになったのがこの試合一度だけ(6回表の金子)なんだから、一世一代の投球だったことは間違い無いだろう。

ベンチに下がった山井は穏やかな表情をしていた。胴上げでも普通に嬉しそうで、そこには一生に一度あるかないかのチャンスで交代させられた投手の悔しさはなかった。

言われているように、自分で交代を希望したのだろう。落合はそれを聞くまでは続投のつもりで、山井の完全試合を見たかったのだろう。

だが!

前回も書いたが、無理して続投して負けても、まだ王手をかけたまま二試合あるのだ。第6戦はエース川上憲伸が先発だっただろう。そこで決めればいいい。

相手の本拠地で多少流れが変わったとしても、5番に工藤を置くファイターズ打線が川上憲伸、中田賢を打ち崩せるとは思えない。失礼だが、リアルタイムで見たのに工藤隆人って誰だっけ?と思った。読者の皆さんもそうだと思う。俊足好守タイプで、失礼だが長打力はほぼ皆無。600試合以上出ているが、生涯本塁打、なんと1本である。2007年時点では0本だ。

野球好きなら前述のオーダーを見るだけで察せるだろう。これは点を取れないと。強打者と言えるのは稲葉とセギノールのみ。ダルビッシュを中心に、投手で勝つチームなのだ。負けはしたが、川上憲伸は第1戦の被安打僅か2である。これはどう転んでもドラゴンズの日本一は揺るがない。

山井自身の大記録というより、日本プロ野球の歴史に残る奇跡の大記録と、せいぜい本拠地での胴上げを天秤にかけたら、普通は前者だろう。続投しても走者を出さずに抑えただろうし、もう本当に交代する理由がない。指の皮がむけていたらしいので何度も見直してチェックしたが、そんなそぶりはなく、ボールに血がついてたとかもない。剥けてたとしても、感じさせないで投げられる程度だったのではないか。

7回から外野に飛ぶようになったので、谷繁が言うように多少キレが落ちてたのだろう。だが、金子、高橋、小谷野だぞ? 岩瀬相手だが、何にもできずに凡退したぞ? どこに負ける要素があるのだ?

僕のこの13年も続くもやもやを晴らすには、もうスワローズが日本シリーズに出て、完投の完全試合をやってもらうしかない。頼むぞ奥川くん。


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