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立山・御前沢雪渓、実は氷河!? レーダーで巨大氷体とらえる

2011年02月07日 21時39分55秒 | 山関係のニュース(報道されたもの)
 2011.2.7 20:43

 巨大な氷の塊が、大河のようにゆっくりと谷間を流れる。氷河は日本列島には現存しないと長く考えられてきたが、北アルプス北部の立山連峰にある日本最大級の雪渓が、実は氷河である可能性が濃厚になった。立山カルデラ砂防博物館(富山県立山町)の福井幸太郎学芸員らの観測で、雪渓の本体である巨大な氷体が山麓に向かって流動していることが、初めて確認されたからだ。(伊藤壽一郎)

豪雪地帯

 氷河は、約10万年周期で地球全体が厳しく冷え込む「氷期」に日本アルプスや北海道の日高山脈で広く発達していた。しかし、直近の氷期は約1万年前に終わり、日本の氷河はいったんすべて消滅したとされてきた。現在は、比較的温暖な「間氷期」となっている。

 日本雪氷学会では、氷河を「重力によって長期間にわたり連続して流動する氷体」と定義づけている。山岳地帯に残る万年雪も、氷体化して流れていれば氷河といえるわけだ。

 立山の雄山東麓に広がる御前沢(ごぜんざわ)雪渓は、幅200メートル、長さ700メートルとスキー場がすっぽり入る巨大さで、少なくとも過去100年間、消えた記録がない。

「約10年前から、ひょっとしたら氷河ではないかと考えていた」と、福井さんは話す。

 福井さんによると山岳地に氷河が現存するには一般的に2つの条件がある。夏の気温が低いことと、十分な積雪があることだ。

 御前沢雪渓周辺の夏(6~8月)の平均気温は10度前後で、氷河が存在するには暖かすぎる。しかし、吹き寄せられる分を含めた冬の積雪は20メートルを超える。世界でも指折りの豪雪地帯であることが、暖かすぎる分を補っているのではないか-と福井さんは考えた。

厚さ30メートル

 御前沢雪渓は1931(昭和6)年の調査で、雪が一部氷塊に変化していることや、氷河でよく見られる「ムーラン」と呼ばれる縦穴が確認されている。

 しかし、急峻(きゅうしゅん)な崖に囲まれてアプローチが困難だったため、その後約80年間、調査は行われなかった。

 福井さんらは、最新の観測手法を持ち込んだ。2009(平成21)年9月にまず、電波の反射で雪渓を“透視”する「アイスレーダー」で構造を解析。厚さが最大30メートルの巨大な氷体が、上流側と下流側の2つに分かれていることを突き止めた。

 「やはり単なる万年雪ではなかった。あとは流動しているかどうかだ。流動には一定の厚さが必要だが、30メートルという分厚さなら十分に可能性がある」

GPS観測

 翌10年の8月末に、雪渓上の11点に長さ3メートルのポールを埋め込み、約1カ月にわたって位置変化をGPS(衛星利用測位システム)観測。上部氷体は誤差(5センチ程度)の範囲にとどまる動きしかなかったが、下部氷体は39日後に山麓方向へ6~30センチ移動していた。

 より正確な動きを知るため、10月4~9日に下部氷体の中心部付近で、誤差最大2センチ程度のGPS連続観測を実施。こちらも5日間で山麓方向へ3・2センチ、1カ月当たり約20センチのペースで動いていた。

 「御前沢雪渓が氷河である可能性は非常に高い」と福井さんは結論づけた。ただ、まだ確定はできない。雪氷学会の定義に「長期間にわたり連続して流動」という部分があるからだ。

 「長期間」とは1年以上を指すそうで、確定は早くてもことしの10月になる。確定すれば、地球上でも極めて温暖な場所の氷河となる“御前沢氷河”について、福井さんは規模などから、現在よりもやや寒冷だった古墳時代や江戸時代の小氷期にできたのではないかとみている。「詳しく調査すれば、貴重なデータが数多く得られるはず」と期待を込めて話す。