読書な日々

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『無理』

2010年06月03日 | 作家ア行
奥田英朗『無理』(文芸春秋、2009年)

『邪魔』とか『最悪』などの奥田英朗の小説世界の第三弾といったところか。なんか知らないけども自業自得のようにして破滅していく人間たちの姿を描いている。

県庁職員だったが出向のような形でゆめの市役所に出され、生活保護課で生活保護の担当をしている相原友則は妻の不倫で家を出て行かれてから生活も荒れている。県庁からの圧力でこれまで野放図だった審査がきびしくなり、生活保護を申請してくる市民たちともめる。ひょんなことから売春に手を出すようになり、その帰り道に生活保護を拒否されたことを逆恨みした市民からダンプでひき殺されれそうになる。

向田高校にかよう史恵は東京の大学に入ってこの田舎から出て行くことを願っている。そのために予備校にも通っているが、その帰り道に拉致され、ネットゲームおたくで引きこもりの家に監禁されるが、怖くて逃げ出せない。

元暴走族の加藤裕也はいまは足を洗ってこれまた恐喝と傷害の前科もちの亀山がやっている漏電遮断器保安センターという、インチキで器械を高く売りつける会社で働いている。徐々に仕事も覚えて収入も上がってきたところで、生活保護を受けている元妻からまだ1才の息子を引き取るように言われ、面倒を見るようになる。父親としての愛情にも目覚めたころ、先輩の柴田が社長の亀山を殺してしまい、自首させるために説得する。

先代の父親のときからの市会議員である山本順一は土建業の会社も順調で、春の市議会選挙では三期目を狙っている。もともと自分の土地であったところにごみ焼却場の話をもってくるために、他の土建やにこの土地を売ったこともあり、それをかぎつけた市民団体から反対運動が起きた。その対策をしているうちに、手下の土建屋が市民運動家を殺してしまう。自首するように勧めるが、当の本人は前科があり、二度と刑務所に入りたくないとごねまわし、焼却炉をもってきて焼いて証拠隠滅を図ろうということになる。妻は夫に愛人がいることに気づき、キッチンドランカーになり、大量の高価なものを買い込んだり、家の新築に夢中になっている。

堀部妙子はショッピングセンターで警備会社の私服保安員をしている食品売り場での万引きを摘発する仕事をしている。子どもの独立を契機に三年前に離婚した。足腰が弱って一人で歩けない母親は兄夫婦が見ているが、病院に入れると言っている。知り合いから誘われて新興宗教の団体に入った。万引きをした若い子持ちの女が別の宗教団体だったので、強引に自分のほうへ誘ったら、相手の団体から目の仇にされてトラブルを起こし、派遣の仕事は首になり、新興宗教団体の奉仕活動に入り込んで生き延びてやろうと思うが、態のいい使い走りをさせられている。

最初はばらばらだったこれらの登場人物たちが最後に町のすり鉢上になっている交差点で鉢合わせて事故に巻き込まれるという形で終わるというのは、まさに奥田ワールドの特徴である。『邪魔』とか『最悪』は、たしかに似たような社会の底辺にいてにっちもさっちもいかなくなる人間たちを描いているという点で同じで、そのときは面白いけど、自分とは違う世界みたいに見ていたのに、今回はなぜだろう。まるで自分の世界ではないか。とくに堀部妙子は男と女という違いはあるけれども、なんだか自分の将来を見せ付けられているようで、読んでいて、やたらとむなしさを覚えていた。

真面目に働けば生活保護なんか受けなくてもいいのに、真面目に働いても生活保護費にもならない現実に、真面目に働く気になれない人々。真面目に40年国民年金保険料を払っても、月の給付は6万円程度なのに、老人の生活保護費には8万円出る。要するに、真面目に働いて国民の義務を果たしているものが馬鹿を見るという社会の仕組みを変えない限り、日本は破滅していく。国の借金が何百兆円あっても、自国民が国債をもっているし、あれやこれやから、GDP比の借金の比率が高くても大丈夫だなんて言っている話ではない。国民の勤労意欲がなくなっていくことが一番怖ろしいことではないのか。ギリシャが破綻したのは、公務員天国、みんなが税金をごまかしているなどの状況があるからだが、それは今の日本が突き進みつつあるところだ。

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