読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「動機」

2006年06月19日 | 作家ヤ行
横山秀夫『動機』(文芸春秋、2000年)

『半落ち』などで有名な横山秀夫が第53回日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞した作品を収録した短編集。さすがに、短編だけあって、文章の密度が濃い。

『動機』では、自分の父親が退職とともに精神に異常をきたしたという話から始めることで、雲を掴むような状況の中から、少しずつ犯人像を絞り込んでいった挙句が、警察手帳を盗んだのが定年まじかの堅物の老巡査部長の大和田だと思わせるための伏線のようにみせかけつつ、最後には自分の大失態を隠すためのものかと推理させておいて、それもひっくり返して若い巡査の将来をおもんぱかっての偽装であったことを明らかにするというところに落としどころをもっていったのが、なんとも心憎いね。

『逆転の夏』も先の読めない短編だった。女子高校生を殺してしまって10年の刑務所暮らしを終えて、出てきた山本は、服役中から面会に来てくれていた保護司の及川の世話で、葬儀社に入社し、堅実な生活を始め、服役中に生まれた子どものための養育費も毎月送っている。ある日突然カサイという男から、自分を陥れて金を揺すっている男を殺してほしいという電話がかかるようになり、自分のことを社員たちにばらした葬儀社の社長にも、自分の世話をしてきてくれた及川も信じられなくなり、ついに彼は引き受けてしまう。ところが逆に殺されそうになる。「カサイ」と及川がそれぞれ自分たちの愛するものを殺した二人を騙して殺させようとしたのだった。

どれもこれも読み応えがある短編ばかりだった。だが、やはり短編の辛い所は、描かれている世界があまりのも狭いこと、人間関係があまりにもうまくできすぎていることにある。最後の「密室の人」なんかは、そんな偶然ばかりが連続するものかと思ってしまう。

だが文章力はさすがにすごい!

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