読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「江戸の旅日記」

2006年06月15日 | 人文科学系
ヘルベルト・プルチョウ『江戸の旅日記―「徳川啓蒙期」の博物学者たち』(集英社新書、2005年)

 江戸時代の旅日記をとおして江戸時代の物の見方の変化を見ようという主旨の本である。貝原益軒、本居宣長、高山彦九郎、菅江真澄、古川古松軒、司馬江漢、旅芸人、渡辺崋山などの旅日記が紹介されている。

 彼らの旅日記の特徴は、それまでのものが古典(古事記、古今和歌集など)で詠まれた土地をそうした古典に詠まれた歌をとおして見ているのにたいして、リアリズムの視点から、できるだけイデオロギーぬきで客観的に見て、記録しよとしているという点にある。その好例が柳田国男から日本民族学の父といわれたという菅江真澄で、彼は北海道に滞在してアイヌたちの言葉、住居、食べ物、文化、労働などをつぶさに記録しているのだが、その視点は、明治時代の同業者のようにイデオロギーの色眼鏡をとおさず、アイヌを一つの独立した民族としてみるという視点であったので、じつにレベルの高い記録になっていることが紹介されている。

 したがって、菅江真澄や高山彦九郎や古川古松軒たちは東北地方の飢饉の惨状をつぶさに描いて、ついには権力批判にまでいたるところに、彼らの旅日記のリアリズムのすごさがあるとのことである。たくさんの引用があるのだが、食べるものがなくなって人肉さえも食べていたという記述がたくさん紹介されているが、ほんとなんだろうかと思ってしまう。やはりこれは江戸時代の東北地方の特殊な事例なのかもしれない、などとコメントを入れているところが、私などはリアリズム立場にたち得ない凡人の証拠なのだろう。

 やはり面白いのは旅芸人の書いた日記で、この人以外はみんな真面目な日記なのだが、彼のは好いた惚れたや性関係のことやらの、下半身の話題が中心らしく、江戸時代の男女の営みが手にとるようにわかって面白い。

それにしても、パリ大学東洋語学校で日本語を勉強したという人らしいけど、日本語でこれだけの文章を書けるというけど、すごい人だね。

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