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仏教ライフを考える西原祐治のブログです

超高層のバベル①

2022年12月29日 | 現代の病理

『超高層のバベル 見田宗介対話集』(講談社選書メチエ・2019/12/12・見田宗介著)からの転載です。

 

 

 「あの世」、「奇跡」を信じる若者の背景にあるもの

 三浦 二〇〇七年に、一九八五年から九二年生まれまでの世代の若者を「ジェネレーションZ」と名づけ、調査を行いましたが、大変興味深い現代の若者像が浮かび上がりました。それは見田先生が近年ご指摘されていることと共通のものでした。

 つまり、一九五八年生まれの私の世代には生まれた時から刷り込まれている「近代合理主義」、「進歩」、「夢」、「未来」といった価値意識が、ジェネレーションZにおいては溶解している。そのことを『日本溶解論』(プレジデント社、二〇〇八年。のち、『ニッポン若者論』ちくま文庫、二〇一〇年)という本にまとめました。

 見田先生が一九七三年の調査開始以来、協力され、「日本人のものの考え方、感じ方の変動を統計学的に信頼しうる規模と方法論を用いて跡づけてきた、ほとんど唯一と言ってよい資料」とおっしゃっているNHK放送文化研究所の「日本人の意識」調査を見ても、これまで一貫して戦後的「進歩」を続けていた「家族」、「人間関係」、「宗教」などに関する意識の変化が停止もしくは反転していることに気づきます。

 特に二〇代の若者に顕著で、例えば「あの世」、「奇跡」などを信じる二〇代は、一九七〇年代以降漸増していましたが、二〇〇三年から○八年にかけて急増しています(表)。それはジェネレーションZにも見られた傾向です。

 

 見田 今から約一〇〇年前、マックスーウェーバーは『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』において、近代の特色は合理化、すなわち「脱呪術化(雪に回F日品)」にある、と論じました。人々があの世や奇跡といった呪術的なものを信じなくなることこそが近代化だ、というわけです。

 しかし、近年の「日本人の意識」調査によると、特に若い層で近代化の減速、逆行が示唆されています。その最たる例が、ご指摘のデータです。

 

 三浦 若者が「脱呪術化」ならぬ「再呪術化」されているということですね。

 

 見田 このデータを素直に受け取れば、若者の宗教意識が高まった、という結論になるでしょう。しかし、僕はこのことをもって特定の京教に信仰が集まったとは思わないし、ある種の宗教意識が高まったと言えるかどうかも怪しいと見ています。

 確実に言えるのは、若い人たちにおいて、ウェーバーが指摘したような近代合理主義的な世界観が揺らいでいるということです。その結果として、影響力のあるテレビタレントの発言などに流されて、「あの世」や「奇跡」を信じるという形式をとっているのでしょう。事態の表層よりも、背景にある揺らぎに注目すべきだと思います。

 

 三浦 オウム事件によって特定宗教を信じにくくなったために、抽象的に「あの世」や「奇跡」を信じているのではないかとも私には思えます。(つづく)

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