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仏教ライフを考える西原祐治のブログです

生きづらさの民俗学②

2024年08月27日 | 現代の病理
『生きづらさの民俗学――日常の中の差別・排除を捉える』(2023/11/4・及川祥平編集, 著,川松あかり編集, 著,辻元侑生編集, 著)からの転載です。

「現代の病理のデパート」という雨宮とその周囲の若者たちの人生史からも見えてくるように、2000年代後の「生きづらさ」をめぐる著名人の議論は、戦後日本の経済成長とその後の不況を背景として、生きることへの精神的・社会的困難を抱える人びとを次々に発見し、それらに様々な名づけてきた。いじめ、受験競争からの敗北、アダルトチルドレン、毒親、不登校、ひきこもり、自殺、非正規雇用やフリーター・ニード、そしてパラサイトシングルや高齢者の孤独死まで……。今日では、子どもがけ親の胎内に宿った瞬問から高齢者が亡くなるまで、人生の過程をどこで切り取っても「生きづらさ」を指摘することができる。「生きづらさ」とは、ポスト産柴社会、新自由主義的な社会の中で起きている人びとの経済的・政治的であると同時に極めて精神的な問題を照射するのだ。

「生きづらさ」と「差別」

 以上のような性質を持つ現代社会の「生きづらさ」について言及する際、社会学者の草柳千草が『「曖味な生きづらさ」と社会』という書籍で論じたように、それは実のところ「生きづらさ」を感じる個人の問題なのか、それとも「生きづらさ」を感じさせる社会の問題なのか、ということが問われることになる。それはいわば、「生きづらさ」が病理化される過程と、社会問題化される過程と言えるだろう。
 草柳は、「生きづらさ」をうまく「社会問題」として語ることができるようになると、それをこれまで「差別」や「暴力」という言葉で議論されてきた問題に接続することができるようになるという。たとえば、「生きづらさ」に関する議論でよく登場するのは、非正規労働者である。高皮経済成長期以降、日本やの企業社会が築かれていくなかで、家庭を任された女性たちが非正規労働部門を袒うようになった。内閣府の男女共同参画局の統計では、2020年において屶性の非正規雇用労働者が22・2%なのに対し、女性は54・4%だ。これが今日でも女性の社会進出が遅れているとされる日本の男女の処遇上の差別という社会問題だということに、多くの人が賛成するだろう。だから、今日のように「女性管理職を増やせ」とか「男性の産休・育休制度の収得を促進せよ」などといった議論が、政府や経営者、マスコミ等も巻き込んで進展することになる。「生きづらさ」は、その背景をしっかりと見つめることで、不当な社会的差別として告発することが叮能になるのである。
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