『宗教・エスニシティ』(岩波講座 社会学・2023/10/18・北田暁大,岸政彦,筒井淳也,丸山里美,山根純佳編集)からの転載です。
4 宗教の社会貢献
宗教には社会の苦難に寄り添い、善き方向に変えていくという働きもある。その内容は、災害時救援活動、発展途上国支援活動、平和運動、環境への取り組み、地域での奉仕活動、医療・福祉活動、教育・文化振興など非常に多岐にわたる。そのような宗教の社会貢献に関する研究がニー世紀に入ってから盛んになった。筆者は、宗教の社会貢献を「宗教者、宗教団体、あるいは宗教と関連する文化や思想などが、社会の様々な領域における問題の解決に寄与したり、人々の生活の質の維持・向上に寄与したりすること」と定義した(稲場・桜井二〇〇九)。
地域で人々を支える地道な活動や人材育成も社会貢献である。大学や企業も人材育成をひとつの社会貢献ととらえているのに宗教の場合には別、というのはおかしな話である。人材育成や地道な宗教活動による救済や地域社会づくりが社会貢献と見なされないような日本の状況こそが問題ではなかろうか。宗教者は、陰徳として善行を行い、それを社会に伝えることをよしとしてこなかった。しかしいまは、個人にも組織にも説明責任が求められる。教団といえども、信者に加えて社会に対して、何を目指すのかを社会のニーズも把握しながら伝えていく責任がある。
『世論調査 日本人の宗教団体への関与・認知・評価の二〇年』(庭野平和財団2009年)によると、宗教団体の社会的役割の評価についての複数回答の第一位が「地域社会の交流や安定に貢献している」三三・六%であり、「災害時の救援やボランティア活動など社会的に貢献している」も約二割と高い。また、公益財団法人全日本仏教会と大和証券が二〇二一年に行った調査では、「お寺が取り組むべきと考えられる社会貢献活動」として、「災害時の避難場所」との回答が約六割にのばった(全日本仏教会二〇二一)。
宗教者は、貧病争などの生きていく上での困難や悩みに向き合ってきた。宗教者も社会的な力となって存在している。
(中略)
地方では寺社がソーシャルーキャピタルの源泉として機能しているところもあり、災害時の避難所として関心が持たれている。都市部でも帰宅困難者対策として、宗教施設が一時避難所として行政から指定されるケースが増えている。筆者らが実施した二〇二〇年調査(稲場・川端二〇二〇)では、災害時における自治体と宗教施設の連携は自治体数で二二九、宗教施設数で二〇六五にのぼることがわかった。「近年の災害時に宗教施設・団休と連携した経験がある」と回答した自治体は109であった。連携の内容としては、「三日以内の一時的な避難所」を回答した自治体が八三(76.1%)、「中長期の収容避難所」を回答した自治体が二七(二四.八%)、「救援・支援活動の受け入れ」を回答した自治体が11(10.1%)であった(複数回答有)。宗教施設・団体との今後の連携については、約三割の自治体が「より積極的に連携したい」と回答した。(以上)