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仏教ライフを考える西原祐治のブログです

共感革命: 社交する人類の進化と未来①

2024年01月27日 | 日記

『共感革命: 社交する人類の進化と未来』(河出新書・2023/10/24・山極壽一著)からの転載です。

 

二足歩行が共感革命を起こした

 類人猿の子ども特有の遊びに、ピルエットと呼ばれるものがある。

 ピルエットとはぐるぐると回転することだ。この遊びはサルには見られず、類人猿にしか見られない。フランスの社会学者ロジエ・カイヨワが分類した四つの遊びの中で最も自由な、浮遊感に満たされ冒険的な緊張感に包まれる遊びで、類人猿が人問に進化するにつれてこの遊びは拡大し、ダンスという音楽的な才能と結びついていった。

 私は人類が直立二足歩行を始めた理由の一つに、この「踊る身休」の獲得があったと考ている。

 かつて人類はジャングルを四足で歩行していたが、やがて二足歩行へと変化する。歩行様式が変わった理由として、二足のほうがエンルギー効率も良く、遠くまで食物を集めにいけたからという説と、安全な場所で待つ中間の元へ栄養価の高い食物を運びやすかったからという、二つの説がこれまで有力だった。

 しかし、私は別の考えを持っている。

 四足で歩行すると手に力がかかり、胸にも圧力がかかって自由な発声ができない。しかし二足で立てば支点が上がり、上半身と下半身が別々に動くので、ぐるぐる回ってダンスを踊れるようになる。

 また二足で立つと胸が圧力から解放されて、喉頭が下がり様々な声を出せるようになる。

言葉を獲得する以前の、意味を持たない音楽的な声と、音楽的な踊れる身体への変化によって、共鳴する身体ができる。この身体の共鳴こそが人間の共感力の始まりで、そこから音楽的な声は子守歌となり、やがて言葉へと変化する。人間はそうやって共感力を高めながら、社会の規模を拡大していったのではないか。

 『サピエンス全史』で知られる歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリは、ホモ・サピエンスが言葉を獲得し、意思伝達能力が向上したことを「認知革命」と呼び、種の飛躍的拡大の最初の一歩と考えた。しかし私は「認知革命」の前に「共感革命」があったという仮説を持っている。

 もし七万年前に言葉が登場したという説が正しければ、人類はチンパンジーとの共通祖先から分かれた七〇〇万年の中でわずか一パーセントの期間しか言葉を喋っていないことになる。その点を踏まえれば、まず身体があり、次に共感という土台があった上で言葉が登場したと考えるほうが自然だろう。

 イギリスの霊長類学者ロビン・ダンバーは「社会脳仮説」を唱え、言葉は脳を大きくすることに役立っていないと指摘している。人類の脳は二〇〇万年前に大きくなり始め、ホモ・サピエンスが登場する前に、すでに現在の大きさになっていた。つまり言葉が脳を大きくしたわけではなく、むしろ先に脳が大きくなり、その結果として、言葉が出てきたと考えられるのだ。(つづく)

 

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