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仏教ライフを考える西原祐治のブログです

安楽死が合法の国で起こっていること

2024年01月07日 | 現代の病理

『安楽死が合法の国で起こっていること』(ちくま新書・2023/11/9・児玉真美著)、興味深い本でした。

 

機動安楽死チームと「75歳以上なら可」という法案

 オランダでは2012年に安楽死に特化したクリニックが誕生し、医師と看護師が車で患者の自宅に派遣される機動安楽死チーム制度が稼働した。市内どこへでも派遣するという。安楽死を希望しても引き受けてくれる医師が見つからないという声が以前から続いていたが、この制度ができてその需要に応えられるようになり、安楽死者が増えたと言われ、オランダ、ベルギーとも近年スイスと同じく高齢者の「理性的自殺」が増えているが、オランダでは2016

年末に、現在の「耐え難い苦痛がある」とい必要件を満たさなくとも75歳以上の高齢者が冷静に熟慮したうえで死にたいと望む場合には安楽死を認める法案が議会に提出された。法案は翌年に潰えたが、その後に安楽死のルールが改訂され、「ああ苦痛を耐えがたいと感じるかどうかは主観的なものであり、老化に伴う小さな問題が重なっている状態であっても改善の見込みなく耐えがたい苦痛と感じる人もいるので、医師は患者の身になって検討すべき」というくだりは、高齢者の「理性的自殺」の容認ではないかと取りざたされた。2020年にも同様の法案が議会に出されており、今なお法改正は実現されていないものの、高齢者に安楽死を広げようとする動きは今後も続くものと思われる。

 2022年に日本の映画『PLAN75』が話題になった際、75歳以上の高齢者に国が安楽死をサービスとして提供する制度について、多くの人がリアリティの薄いSFまがいの設定と受け止めたようだが、オランダではすでにそれが現実の法案となっている事実をどれだけの人が知っているだろうか。

 

 

子どもへと拡大する安楽死

 

 ちなみに、ベルギーは2014年にそれまでの年齢制限を撤廃し、意思決定能力かおること、終末期で耐えがたい身体的な苦痛かおることを条件に子どもにも安楽死を認めた。

 オランダは合法化の当初より12歳以上には安楽死が可能だった(ただし旧隴までは親の同意が必要)が、今後すべての年齢で認める方向。なお、オランダでは2004年から1歳未満の重病又は重度障害のある子どもにはすでに親の意思決定により「安楽死」が認められている。フローニングンの大学の医師らが作ったプロトコル(手順書)をオランダ小児科学会が追認し、「フローニングン・プロトコル」と称されて医療現場の基準となってきたためだ。

 

 

米国では、合法化した各州が取りまとめる年次報告のデータから、致死薬を要請する人たちが医師幇助自殺を望む主たる理由が実は耐え難い苦痛ではないことが輔認されている。

例えば、オレゴン州の2021年のデータでは、医師幇助自殺で死んだ終末期の人たちの93%が「自律の喪失」、92%が「人生を楽しいものとする活動ができなくなった」、68%が「尊厳の喪失」、54%が「家族、友人などのケアラーへの負担」を選択し。「不適切な疼痛コントロールまたはその心配」を選択した人は27%のみだった。

 気になるのは、安楽死の対象者が終末期の人から障害のある人へと拡大していくにつれ、安楽死が容認されるための指標が「救命できるかどうか」から「QOLの低さ」へと変質していると思えることだ。当初は「もうどう手を尽くしても救命することができない」ことと「耐えがたい苦痛がある」こととが指標たったはずなのに、いつのまにか「QOLが低い」ことが指標となってきている。このように、安楽死の対象者が実態として拡大すると同時に指標が変質していき、安楽死をめぐる議論がそれに影響を受けると、「一定の障害があってQOLが低い生には尊厳がない」「他者のケアに依存して生きることには尊厳Jはないという価値観、さらに「そういう状態は生きるに値しない」といった価値観が社会の人々の間にも医療現場にも浸透し広く共有されていく。

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