『宗教・エスニシティ』(岩波講座 社会学・2023/10/18・北田暁大,岸政彦,筒井淳也,丸山里美,山根純佳編集)、
存続か消滅か―人口減少における宗教の戦略(高瀬顕功)からの限界集落の現況を転載します。
(2)人口移動による宗教浮動人口の現出
過疎地域は、たんに人口の自然減によって生じたのではなく、地方から都市への人口移動、すなわち社会減によって引き起こされた。戦後、三大都市圈ではほとんどの期間において人口が転入超過となっている。一九五〇年、三大都市圈の人口割合は三四・七%、その他の地方は六五.二%であったが、一九七〇年には、四六.一%(大都市圈)五三・九%(その他)、一九九〇年には四八・九%(三大都市圈)五五∵一%(その他)となり、二〇〇五年についに、五一.八%(三大都市圏)四八.一%(その他)と逆転するに至った。
宗教学者の藤井正雄は、こうした都市への人口移動に着目し、農村から都市への人口流出は、「宗教浮動人目」を現出させたという。宗教浮動人口とは、慣習的に伝えられてきた固定的な旧寺檀関係・氏子関係が、移動によって切り離され、一定の寺院、神社とは無関係な状態におかれた人口のことを意味する。つまり、宗教的所属が不確かな都市住民が、大量に生まれたというわけである。宗教浮動人口の流入は、都市において墓地不足の問題を生じさせた一方、地方においては寺院、神社の存続の問題を引き起こすことになる。
しかし、日本全体で見れば二〇〇八年の一億二八〇八万人をピークに、総人口は減少局面に入っている。
二〇一五年の国勢調査では総人口は一億二七〇九万五〇〇〇人であったが、二〇二〇年の同調査では、一億二六二二万七〇〇〇人とわずか五年で八六万八〇〇〇人も減少している。この大きな理由は、出生者数の減少と死亡者数の増加である。年間出生者数が減少傾向にある一方、年間死亡者数は増加傾向にあり、このトレントが続く限り、人口減少には歯止めがかからない。
海外からの移民を増やすとしても、早々に埋め合わせられる数ではない。人口総数が減少傾向にある以上、現在、過疎地に認定されていない地方都市においても他人事ではなく、さらには、一人勝ち状態にある東京圈に至っても、いずれは人口減少局面に突入することは免れない。したがって、過疎地において宗教をめぐって起きている現象は、早晩、過疎地でない地方都市、やがては大都市でも確認される事態となるだろう。(以上)