警察署長が自らハンマーを振るってビンゴ機を破壊しているシーン。パイプタバコを咥えているところがいかにもヤラセくさい。
この画像は、米国オハイオ州トレドの警察署長アンソニー・ボッシュ(Anthony A. Bosch = 署長だった期間は1956年6月1日~1971年1月1日)が、没収したビンゴ・ピンボール機をハンマーで破壊しているところです。撮影時期は1960年と説明されています。ここで今まさに破壊されている機械と、トラック上で次の破壊を待っている機械は、Ballyが1954年に発売した「Variety」です。余談ですが、「Variety」は、ビンゴ・ピンボールの歴史において初めてカード上のスポットの並びを変えられるフィーチャーを備えた、エポックメイキングな機種です。
偉い人が現場で自ら肉体労働をして見せるなど、なんらかの意図あっての宣伝以外のナニモノでもないと思いますが、行政機関の長や政治家がギャンブル機(と認定したゲーム機)を破壊するこの種の光景は、スロットマシンが蔓延して以降の1910年ころから数多く記録されています。偏見かもしれませんが、いかにもアメリカっぽいなあと感じます。
というわけで、格別珍しいわけではないこの画像を今回取り上げたのは、破壊されているビンゴ機に付いている表示が気になったからです。この機械のバックボックスの上部には「FOR AMUSEMENT ONLY」と掲示されているように見えます。
バックボックスの表示部分の拡大。赤枠内に「FOR AMUSEMENT ONLY」と読める表示がある。オリジナルを拡大しているので、少しわかりにくい。
この掲示の下の方にも何か文字と思しきものが見えますが、解像度が低くてしかとは読めません。ただ、他の類似の表示を参考にすると、どうも「No Prizes or Gambling Permitted(金品の提供や賭博は不許可)」と書かれているようにも思えます。
ピンボールマシンのバックボックスに取り付けることを想定した掲示の別の例。ソースは「THE PINBALL, ANTIQUE SLOT MACHINE AND CONSOLE PAGE」というウェブサイトのトップページ。よろしければご参照ください。
ワタシは過去記事「サンブルーノ・アメリカン・アンティーク・ミュージアムの記憶(1/3):プロローグ」で、この種の掲示は「当局による賭博機の取り締まりを回避する呪文として多くのコイン式ゲーム機に掲げられました。しかし、それが単なる建前に過ぎない場合も多かったことは、この展示を見れば明らか」と述べていますが、実際はこの写真に見られるように、没収され破壊されており、その霊験はアテになるようなものではなかったようです。
日本でも似たようなケースは存在します。明らかにアンダーグラウンド市場での稼働を想定したGマシン(関連記事:ワタクシ的ビデオポーカーの変遷(4) 80年代の日本におけるビデオポーカーの暗黒時代)であるにもかかわらず、「アミューズメントオンリー」である旨の注意書きを載せている例はたくさんあります。ただ、米国の例と違うのは、その注意がオペレーターからプレイヤーに対してではなく、メーカー、もしくはディストリビューターがオペレーターに対して行っている点です。
Gマシンのつもりでも、順法営業を訴える例。「この機械は、金品の提供・交換等、賭博行為に使用すれば、処罰されます。メダルゲーム場は運営基準を厳守してください。」と訴えている。アミューズメント産業1974年7月号より。
この画像に見られる「カウンタートップ」と呼ばれる筐体はGマシンの典型的な形態です。機械の傍らにはウィスキーの瓶を置いて主に使用される場所を暗示しており、「メダルゲーム場」など眼中にないくせに、それでも米国での「No Prizes or Gambling Permitted」と同じ趣旨の注意とともに、「メダルゲーム場は運営基準を厳守せよ」と書き添えています。おそらく、健全娯楽を謳う業界に対してこういうアリバイを作っておくことも必要だったということなのでしょう。
それにしても、過去においてはゲーム機による賭博が蔓延したであろうことはわかりますが、警察白書でコインマシンによる賭博事犯の例に言及されなくなってから久しいです。もういいかげん、コインマシンを風俗営業から外すという英断が行われてもいいと思うのですがいかがでしょう、警察庁さま。
「For Amusement Only」と「Only for Amusement」の違いはワタシも中学生のころ同じ疑問を持ちました。文法的にはどちらも通じると思います。おそらく、機械の方はAMにもGにも使えますが、メダルはそれだけではAMでもGでもないというあたりのニュアンスの違いかなあと思い込むことにしています。
ところで、今回の記事をアップした後で、ボッシュ署長のハンマーの持ち方が左右の手の位置が逆ではないかと気づきました。ひょっとして、バエる画像を作るためのポーズだったりするのでしょうか。
ballyコインは[ONLY FOR MUSEMENT]とあり英文的にはドチラが最適なのでしょうか。
あと日本の場合、メーカーは"賭博幇助"でイカれないように「K察様除けの呪文」を入れているかもですね。