「幸せの答え合わせ」イギリス/2019 ドラマ映画(日本公開2021
監督:脚本 ウィリアム・ニコルソン
出演 アネット・ベニング(グレース) ビル・ナイ(夫:エドワード) ジョシュ・オコナー(息子:ジェイミー)
1999年に初演されたニコルソンの戯曲「The retreaafrom moscow」が原作。
一言で言えば、熟年夫婦の危機とその息子を描いた作品。
妻グレースの日常の在り方が威圧的でなんとも不愉快。自分の思考行動が中心でなければ気がすまないタイプ。
夫との会話は、彼の会話パターンが煮え切らない?と常にイライラしまるで修正を迫るような勢い。
息子(20代後半かな?)もその母のパターンに嫌気がさしている。
この情景は一時の私に似ていたかもな・・・と、奥底を抉られるような感覚があった。
グレースの言い分は私には分かるが、いくらなんでも攻め過ぎだ(ここまでくると性格破綻者)
エドワードはよく耐えている、息子しかり。
だけどね、グレースは言いたい放題でも相当この状況は苦々しかったはず。
ある日、夫は家を出ていくと告げる(とうとう)愛してる人がいると・・。
「出ていく」だけならさほど傷は深くないが「他に愛してる人の元へ」はきついな。
「え!?」と自分の来し方を高速で振り返ってみるかもしれない。だが、「そちらへ行く」と既に告げられているのだから「はい、どーぞ」とあっさり返してしまうのが私。相当なショックを押し隠して。
そこからのグレースは思いの他、痛々しかった。怒りも哀しみも愛情もぶつける。
息子がしっかり寄り添ってその危機を和らげていくさまに染み入る。優しい言葉かけだけではない。
難敵ママはしっかりしたストレートな気持ちを含んだ言葉でなければ納得しないのだから。
傷心のグレースはある決意をして海岸の険しい丘の上に立つ。息子はその母の決意を見て留めた際に吐露する
心情が胸を打つ。
賢い前進的な母にはいつも前を歩いていてほしい。そうすれば僕は安心して歩いていけると・・。
この当たりの母と息子の会話は何度もリピートして噛みしめた場面だ。
この息子役のジョシュ・オコナーがこれ以上ないくらい適役だろう。その表情の優しさときたら・・・。
グレースは誰にも真似できない(突然、スっと彼らの家に入っていく。訪ねるではない)やり方で女に会う。
一見冷静に。女は言う「3人ともに不幸だったが、今はひとりだけ不幸」だと。
ひとりだけ・・・にわたしは大いに戸惑う(グレースはこの言葉を聞き、一言も発せず帰る)
どのように解釈したらいいのだろう。「ひとりだけ不幸」って。女の立場から発したこの言葉。
女の身勝手極まる言い分ととるか・・冷静な正しい判断ととるか(しかし、元妻に言うかね)
でも、結果的にこれで良かったことに気が付く。グレースは人生の終盤に彼女にとって良き道を期せずして
歩むことになったと感じる。泣いて泣いて怒って怒って辿りついた穏やかな道。
母と息子はよく理解しあい、夫もあちらで穏やかに過ごし、元3人家族の帰結はいいところに治まったと思うのです。
ラストの場面は、母が編んだ「詩選集」を息子がウェブサイトで公開するというくだりで
詩選集のタイトルは「かつて ここにいた」。なんていいタイトルなのだろう。
悩みを抱えている人、厳しい生活状況の人、病魔と闘っている人などなど、ここにきてこの詩に触れてみて
というコンセプトで編まれたサイトです。