現地18日に開催されたAMASX(スーパークロス)第2戦、優勝はYAMAHAワークのEli Tomac選手、2位はHONDA・HRCのJett Lawrence 選手、3位にYAMAHAワークスのCooper Webb選手となった。特に、レース後半、Eli Tomacと2位のJett Lawrence の戦いはパソコンのタイム表示だけの観戦でも非常に面白いものがあった。今季を象徴する、Lawrence兄弟を筆頭とするモトクロス界期待の若手陣が上位に食い込み、ハラハラするレース展開だった。一方、開幕戦につづきHEATではトップタイム の圧倒的早さを見せたKTMワークスのChase Sexton 選手は1周目転倒で出遅れるも猛チャージを掛けて6位でゴール。久し振りに、遠い昔、かってのスーパークロスレースの覇者を競いあったYAMAHAワークスとHONDAワークスの攻防が見られ満足した。

「WELCOME BACK ELI TOMAC :Supercross」
SX第2戦の開催地はメキシコに近いSan Diego。今回のレース会場はMLBパドレスの球場”PETCO Park”ではなく、フットボール場。San Diego は 映画「トップガン」の舞台になったように基地の街として有名で、アメリカ太平洋艦隊の本拠地がある最大の軍港。この地には3度ほど訪れたことがあるが、一度はPETCO ParkでのSXレース観戦、あとは現地の販売店を回って歩いたので、懐かしい。
もう遠い昔の話で恐縮ではあるが、ほぼほぼ35年以上の遠い昔、ホンダワークスHRC全盛時、力ずくで勝ちに拘ったホンダ戦略に打倒ホンダを目指しヤマハもカワサキもスズキも一流選手を揃え闘ったので大いに盛り上がった時代があった。それが、いつの間にか「勝てないホンダ」というのが代名詞となって長い期間が過ぎ、数年前に、かっての強いホンダを彷彿させるHRCが再びアメリカ戦線に登場したので大いに期待されるも、それはかっての最強ホンダとは程遠い戦績にがっかりで、今や、世界やアメリカのモトクロスシーンは欧州企業KTMが名実ともトップに君臨しているのが現実の姿で、次はTriumph (今回の第2戦も好レースで決勝2位)が、そしてDucati が、勝ちに拘って登場するだろう。一方、AMASXの動画を見ながら、観客席は例年と同じ満席状態を見て、アメリカの二輪モータースポーツは今年も健全に推移していることにホッとした。アメリカの需要層もそのマインドも何ら変わらずに、そのマーケットが支える企業が変わってしまったようで、そんなことを考えながら、昨年もそうだったが、フッと昔を思い出した。
話しが更に遡るが、これもほぼほぼ同じ頃の大昔、NHKBS(BS放送開始当初頃)が毎日曜日の午後、AMAのスーパークロスレースを放送していた。当時は、まだBS放送が普及していない時期だったので、近くの大型電気店でかじりついて見ていた。テレビの周りは同じく足を止めて観戦している人も多く、沸き立っていた。あるとき、当時の技術部長がUS出張された際、10万人満席の「ロサンゼルス・メモリアル・コロシアム(LAコロシアム)」で開催されたスーパークロスレースを観戦された。帰国後、トップ走行のカワサキのワークスライダーが聖火台への登り口右コーナーでホンダ車に抜かれ、その負けた原因の討議が忘れられない。その場面はリピートで何度も繰り返し放送されたので良く覚えていたが、敗因を「立ち上がりパワーの不足」のマシンが悪いのか、それとも「ライダーのコーナーライン取りのまずさ」かで、数分議論となった。うまく言葉を選んでのらりくらり説明したら良かったのかもしれぬが、若気の至りもあって技術部長と相譲らずの議論をしてしまい、後から考えると破廉恥な言動だったと反省したものだった。当時の技術部長は、技術的論議には上下も無いと言うのが信念だったから良かったものの、自分の意見に固守する上司だったら、一歩間違ったら即飛ばされるところだった。同じような事例を、競合企業の担当者から直接聞いたことがある。NHKBSを見た、その会社の上司が、いちいちUS現地の担当者に即刻電話してきて、「あのサスの動きが良くない。即修正しろ」と指示されて困った困ったと言うのを直接聞いたことがある。日本でLIVE放送されるのも善し悪しだなと笑ってごまかした記憶もある。今はどうかは知らないが、当時は、技術のトップにもよるが、こんな事など日常茶飯事だった。 何処のチームも、またその上位も、勝ちたかったし、勝ちに拘っていたのだ。湊川神社のお守りを車に付けて勝ったら、即刻数十個まとめて郵送してくれと米国KMCからFAXが来た時はさすがに仰天したが、そんな大昔の時期もあったなーと、面白い時代を思いだした。
ところで、レースは企業の技術開発に貢献するかの疑問に対し、トヨタは全く勝てなかったF1から撤退し市販車ベースのWRCレースに技術的価値を求めて参戦しているが、その参戦理由を「TOYOTA GAZOO Racing」のFBに、「耐久性や性能試験のため、オートレースにおいて、その自動車の性能のありったけを発揮してみて、その優劣を争う所に改良進歩が行われ、モーターファンの興味を沸かすのである・・・。単なる興味本位のレースではなく、日本の乗用車製造事業の発達に、必要欠くべからざるものである」として、 レースから得られる技術は修羅場の現場からしか得られない本物の貴重な技術であると説明している。他方、二輪・四輪の主市場であるアジア・アフリカ等新興国では、環境・安全技術の難しい説明より、『国際レースでの速さ』の方が「ブランド力に直結する」とも言われている。モータースポーツに参戦することによる、ブランド強化や技術力誇示は二輪や四輪生産企業にとって金食い虫と言われようと避けては通れない道で、我々もビジネスに直結したレース活動(企業利益に貢献できるレース活動)に軸足を移し企業収益向上の一端を担うことで実績を挙げてきた。
先進国での二輪販売は底を打ったまま、当面はこのままで推移していくだろう。日本のホンダ、ヤマハ社は既に新興国に販売の軸足を移し多大な収益を確保して久しい。製品のみを前面に出した生産中心の戦略はとうの昔に行き詰り、しかも圧倒的戦闘力をもった商品が出現する可能性が極めて薄い環境の中では、欧州二輪企業に見られるような自社ブランドやブランドイメージを含む末端サービスを消費者に常に訴え続けない限り、顧客は必然的に離れていく。自社の企業ブランドを最大限訴求するには、メディアを最大限に利用し、強いブランドを顧客に常にアピールし続けるのが得策だろう。成熟した市場では、強い「ブランドへの信頼性」が購入動機に繋がる確率が高く、ハードウエアのみの販売戦略から顧客サービス等のソフトウエアを中心においた戦略の方が顧客の脳裏深く刷りこまれる。テレビを主とする販売プロモーションは相当の費用がかかり過ぎるて敬遠されるが、一方、例えばAMAのSX(スーパークロス)は毎週土曜日の夜、テレビからそしてパソコン上に企業名が連呼される。たまに聞くレースは性に合わないと低次元の議論以前の話はさておき、スポーツ大国米国での二輪や四輪のモータースポーツは大きなビジネスになっている現実を見るに、技術開発にせよ、プロモーション活動にせよ、これ程、利用価値が多岐にわたる安価な活動は無いかもしれぬと、今年のAMASXをYOUTUBEで動画観戦しながら再びそう思った。