平成29年7月8日、熊本県八代市のやつしろハーモニーホールで学術講演会「小惑星探査機「はやぶさ2」を科学する」が開催されました。
講師は工学博士の村田健司先生。
小惑星探査機はやぶさ2に搭載された、小惑星表面に弾丸を撃ち込んで人工的にクレーターを作るSCI(衝突装置・インパクター)を担当された、爆破のスペシャリストです。
爆破と宇宙開発、一見するとつながりがよく分からないテーマですが、実はこの2つには密接な関係が…
そして村田先生は、実はロケットと宇宙科学が大好きで開発畑に飛び込んだ筋金入りのロケット・ボーイだったのです!
こういう人の話が、面白くない筈がない!という訳で、情熱に溢れた熱い講演会の内容をレポートします!
村田健司先生は1988年に秋田大学大学院鉱山学研究科燃料化学科を修了後、日本油脂株式会社(現・日油株式会社)に入社して同社武豊工場に勤務。
ここで宇宙ファン・ロケットファンならすぐにピンとくると思いますが、日本油脂の武豊工場といえばペンシルロケットからイプシロンまで日本の固体燃料ロケットの燃料製造を手掛けた工場。
そう、村田先生は「アポロ11号に感動して、ロケットをやりたくてここに入った」と豪語する生粋のロケット・ボーイ!
その後、2006年には日本油脂から日本工機株式会社に出向。
同時に熊本大学をはじめ全国の大学で客員研究員として、爆破のスペシャリストとして働くことに。
「私の専門は爆破=ぶっ壊すことです!」
しかし、ただぶっ壊すだけではありません。うまく調整してやると、分厚い鉄板でも何でもきれいに簡単に切れる、それが爆破。
古い鉄橋やビルの解体でも、周囲の残したい部位にはダメージを与えずに対象物だけ切り離してきれいに破壊することが出来ます。東日本大震災で傾いてしまった港の岸壁を、損傷していない部位だけ残して破壊撤去する仕事などもこなされたそう。
即ち、爆破の技術とは切り離す方法に他ならず、そして宇宙ロケットの特徴は飛翔しながら不要な部位を次々に切り離すこと!
ここで見事に爆破と宇宙技術がリンクしました。
また、ロケットだけではなく他の分野でも科学に多大なる貢献をしているのが爆破の技術。
村田先生はスーパーカミオカンデの掘削工事での爆破も担当され、地下の巨大空間を爆破で掘り抜きました。
ちなみに…ダークマターやダークエネルギー等、ダークと名のつくものは科学の世界では「まだよく分からないものは何でもかんでもダークと呼ぶ習慣があって、今夜の夕飯のおかずもダークだったりする」…さすが村田先生、オヤジギャクも半端ないぜ(笑)
Photo:H-IIAロケット26号機の飛翔(筆者撮影)
続いて日本のロケット開発の歴史の紹介。
はやぶさ2を搭載したH-IIAロケット26号機の打上げ動画を見ながら固体燃料ロケットと液体燃料ロケットの違いを説明。
「補助ロケットブースターは固体燃料ロケット。切り離されたらロケットの噴射煙の色が変わります。」
固体燃料ロケットモータの煙は燃料のアルミニウム粉由来の酸化アルミニウムなので真っ白、でも液体燃料ロケットエンジンは水蒸気を放出するので無色透明。
またロケットにはエンジン以外にも多数の火工品が使用されており、燃焼を終えた1段目、2段目や補助ロケットブースター、衛星を覆っているフェアリング等を結合している部位を火薬で爆破して切り落とす。
次に、実際の固体燃料ロケットの燃料の作り方。
材料は基本的に燃料(アルミニウム)と酸化剤とバインダ(まとめて練り上げるためのゴム。これ自体が燃料にもなる)の3種類。これらを混ぜ合わせて作るが、凄まじい精度が要求される世界。アルミニウムもただ粉末にするだけではなく特殊な方法で微細に加工している。
このため、ロケットの固体燃料は理論値の限界に近い性能を叩き出すことが出来る。
精度的には、燃料(アルミ)に対して僅か10%のバインダ(ゴム)でドロドロの状態に練り上げることが出来る。もしホットケーキミックスやお好み焼き粉を、水を10%しか入れずに練り上げる事が出来ると思いますか?
本日のテーマである小惑星探査機はやぶさ2とはやぶさの話。
簡単にはやぶさのミッション内容の説明に続いて、はやぶさの地球帰還時には「設計寿命を大幅に超えてるから、帰還カプセルの分離やパラシュートの展開に使う最後の3つの火工品がきちんと作動するかどうかとにかくヒヤヒヤした!」との事。
なるほど、火工品が作動しなかったらせっかく地球に帰ってきたはやぶさはカプセルもろとも大気圏再突入して分解消滅してしまう訳ですからね。
ちなみに…村田先生は以前からはやぶさ帰還の地であるオーストラリアのウーメラにある実験場に勤務されていたので、ウーメラは馴染み深い場所とのこと。
「ウーメラ砂漠を大型四駆で時速150キロでぶっ飛ばして片道3時間、毎日毎日通勤してました(笑)」
はやぶさもはやぶさ2もウーメラへの帰還は現地の真夏の時期ですが、これは「夏はとにかく暑くて誰もいなくなるから安全だからでは。冬場はウーメラにも羊飼いの人がいたりします」だそうです。
そしてはやぶさ2、SCI(衝突装置・インパクター)の開発。
川口淳一郎先生から「小惑星に直径5m、深さ1.5mのでっかい人口クレーターを作れ!」と命令された。
こういう場合、技術者の答えは2つしか無い。「YES」か、「はい」だ!言われたらやるしか無いので考えた。
かくして始まった前代未聞の衝突装置開発。小惑星に超高速の弾丸を発射せよ!
条件は弾丸質量2kgで速度は2000m/s、マッハ5!
2年以内での開発で、
◎2kgの銅板を僅か数十マイクロ秒で2000m/s、マッハ5に加速
◎まっすぐ300m飛ばして小惑星の表面にぶち当て、クレーターを掘る
◎全てのシステムを20kg以内に詰め込む
◎サイズはミカン箱程度で
…同じように弾丸を発射する10式戦車だと重量44トン、120mm砲だけでも4トン、全長6m。そんなものが軽自動車程度の大きさしかないはやぶさ2に載せられる筈もない。
これは…高性能爆薬の爆発エネルギーを飛翔体に注ぎ込むしかない!!
そして完成したのが自己鍛造弾!銅板が爆破による爆轟波によって変形し、瞬時に丸い弾丸状になって飛び出すのである。
最後に国立天文台の4次元デジタル宇宙プロジェクトMitakaを用いてのはやぶさ2の軌道説明や宇宙の大規模構造を見てから、質疑応答。
僕も質問させて頂きました。
Q:SCI(衝突装置・インパクター)の今後の展開・応用は考えていますか?
具体的には、日本で計画中の新しい科学探査ミッションである月探査機や火星探査機、また世界各国で計画中の探査機等への搭載の予定はありますか?
A:SCI(衝突装置・インパクター)のみが探査用の装置ではない。他に私が手掛けたもので月探査用ペネトレータもある。
SCIは小惑星や彗星探査に特化したもの。だから、今後はやぶさ3やはやぶさ4が飛ぶならやりたい。どんどん作って載せたいと思っています!
以上、宇宙とロケットへの熱い情熱と、好きなことを思う存分頑張っている人の輝きに満ちた「科学少年の夢」を感じる素晴らしい講演会でした。
村田健司先生、ありがとうございました!いつか日油の武豊工場でまたお会いして、宇宙仲間と一緒にゆっくりお話の続きを聞かせて頂きたいです。
講演会終了後、村田先生(右側)と筆者。※写真掲載の許可を頂いています
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