R3.3.9NHK「PCR検査でコロナ拡大防げる?」(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210309/k10012899611000.html)。<以下引用>
<「PCR検査で感染経路を遮断し徹底的に感染を抑え込む」 「コスパが悪い」 広島県が打ち出した無症状の住民など73万人を対象とした大規模なPCR検査の計画。賛否両論が出され、結局、規模を100分の1に縮小しての試験的な実施となった。どうすれば効率的かつ効果的に検査ができるのか。模索を続ける自治体を追った。前代未聞の“全員検査” 広島県では、去年12月から広島市で感染が急拡大。一時は「緊急事態宣言の対象地域に準じた措置をとる地域」に指定されるどうかの瀬戸際まで追い込まれた。そんなさなかの1月14日。知事の湯崎英彦が突然、予想外の発表をした。「感染源の遮断を図るため、(広島市の)中区・東区・南区・西区のすべての住民と就業者を対象として、集中的にPCR検査を実施する」 市中心部の住民と働く人たち73万人を対象に、国内では前代未聞の規模でPCR検査を実施するというのだ。県庁内部に異論 掛け声先行か? ただ、これだけの計画を発表したにもかかわらず、検査の具体的な方法や日程は「検討中」だとしていた。取材を進めると、県庁内部でも意見が分かれていたことが見えてきた。関係者によると、知事の湯崎は以前からこの計画をあたためていたという。実際、1回目の緊急事態宣言が出されていた去年5月、次のように述べていた。「最終的には、気になる人がすぐに検査を受けられるところまで広げていけば、かなり感染拡大が防げるのではないか。県でも、1日何千とか万の単位で検査できる体制を作っていきたい」 しかし県の幹部の中からは、感染者の状況や検査の有効性などの観点から実施に反対する意見が出ていた。最終的には、湯崎が押し切る形で計画をぶち上げたのだという。これは、知事の「掛け声先行」だったのではないか。なぜ大規模な検査を行うことにこだわったのか、湯崎はこう説明した。「外出の削減や病院の検査をやってきたし、積極的疫学調査も幅広くやってきたが、それでも非常に急速に感染が拡大していった。そこで追加でできる対策として、大規模な検査が唯一の残る方法だった」 「アメリカや韓国、その他の世界中で行われていることで、中国でも行われている。韓国や中国では、特に効果を発揮して感染を抑え込んでいる実績もある」 感染改善で検査は? 5日後の1月19日。湯崎がようやく大規模な検査の実施時期について考えを明らかにした。「まだ検討しているが、時期としてはできるだけ早い段階、2月の早いタイミングには始めたい。実施期間は1か月くらいはかかる。場合によっては、2か月くらいかもしれないが、そういう想定だ」 一方、県内の感染状況は改善の方向に進んでいた。この日、県内で感染が明らかになったのは24人で、ピークのころと比べると、およそ6分の1にまで減少していた。記者団から「県内の感染者数が減少している中で、検査する必要があるのか」と質問されると、湯崎はことばを濁した。「感染が収束したと言えるような状況になったら、別途、判断する必要があるが、現時点では予定どおり進めている」 それでもこの時点ではまだ、計画が紆余曲折(うよきょくせつ)していくとは予想できなかった。感染経路を遮断する 検査の時期が示されたことを受けて、県は実施に向けた作業を進めると同時に、検査を行うために必要な費用を盛り込んだ10億円の補正予算を編成することになった。県庁内の慌ただしさは増し、関係者の1人は「土日返上で準備している」と話していた。そして表明から15日後の1月29日。湯崎は大規模な検査の基本計画案を公表した。市内の4つの区の住民とこの地域で働く人たち73万人が対象で、実施期間は2月中旬から数週間、唾液を採取するPCR検査で、検査料は無料というのが主な内容だった。さらに、この検査の効果の試算も合わせて発表した。試算では73万人のうちの4割にあたる28万人が検査を受けると見込み、最大で3900人の感染者を発見でき、検査をしなかった場合と比べ、死亡する患者が最大50人減るとした。また、営業の自粛などによる経済的なダメージを最小限に抑えることができ、県民所得が2億円から4億円減少することを回避できると見込んだ。湯崎みずから、モニターに映し出した数十枚の資料をもとに2時間にわたって説明。そして意義をこう強調した。「感染状況が改善しない場合、医療や経済に影響がある。無症状者や軽症者からの感染経路を遮断し、徹底的に感染を抑え込んでいきたい」 “コスパ悪い” 専門家からは異論が上がった。「ひと言で言うと、コストパフォーマンスが悪い」 こう話すのは、県の新型コロナ対策について知事に助言する「専門員会議」で委員を務める広島大学教授の坂口剛正だ。「ロックダウン(都市封鎖)をできない日本では1度きりの大規模検査を実施しても、効果は限られる。巨額の予算を投入して検査を実施しても陽性者はあまり見つからない。今、ちょうど感染者も減りつつある時期に、あまり効果が得られないのではないか。リスクがない人に一斉にやるものではない」 県議会の賛成取り付けるも さらに補正予算案を審議する県議会でも反対意見が相次いだ。「実施方法や効果、費用など、しっかりした検討を行わず、見切り発車で決定しており、多額の予算と人員を投入するのに見合った効果があるのか、納得のいく説明がない。また(感染者の)受け入れ態勢が万全であるのか甚だ疑問だ」(佐藤一直県議) 異論は湯崎の「与党」でもある県議会最大会派からも出された。「大規模に実施することで、無用な混乱を招くのではないか。一時期の感染対策だけではなく、中長期的視野に立った対策に予算を投じるべきではないか」(森川家忠県議) 会派内では「多数決で賛否を決めたらどうか」という声も上がり、予算案が否決される可能性もささやかれるほど、意見は割れていたのだ。しかし、県議会議長で最大会派の重鎮、中本隆志が「これだけの検査は全国初で、効果は実際にやってみないとわからない。うまくいけば、広島モデルになるかもしれない」と、容認する立場を取ったことで一変。最終的に、最大会派は「賛成」でまとまり補正予算は可決・成立された。感染者減で検査は? 予算が成立した2月4日。県内で感染が明らかになったのは7人と、およそ2か月ぶりに10人を下回った。感染状況が落ち着いている中、本当に大規模な検査が必要なのか。そんな声も強まっていた。「検査の日程に変更はないのか」と問われた湯崎は「今、準備をしているところだ」と述べるにとどめた。検査を始めるとした2月中旬が目前に迫る中、予定どおりに実施するのか、湯崎は判断を迫られることになった。一転 大規模検査は“保留” 予算成立から4日後の2月8日。事態が大きく動く。湯崎は議長の中本と会談。熟慮した結果として、大規模な検査をいったん「保留」する考えを伝えた。10日には記者会見して、73万人を対象とした検査を「保留」することを正式に表明。その代わり、大規模検査に備え、広島市中区の一部地域の無症状の住民など8000人を対象に試験的な検査を実施すると発表した。予算成立直後の計画変更に、県議会議員の1人は「感染状況を踏まえ臨機応変に対応するべきだ」として理解を示した。一方で、別の議員は「議会で議決をしたのだから、そのままやるのが筋だ。ころころ変えるのは政治家とは言えない」と批判した。検査希望者が集まらない 2月19日。計画の変更はあったものの検査が始まった。まずは中区の13地区の住民を対象に3日間かけて行われた。午前10時すぎから検査会場の外で検査を受けた人を取材していると、突然、スマートフォンが震えた。県からの発表文がメールで届いていた。なんと、検査の対象を変更するという内容だった。住民向けの検査は事前予約制となっていたが、予約数が検査初日の午前9時の時点で、上限6000人のうち1493人にとどまっていたため、急きょ、対象を区の全域に広げたのだ。この変更について、湯崎はこう説明した。「市中感染の減少により、検査を受けたいと思っている人が減っていると思う。現在の予約状況を踏まえて、検査能力や対応能力に余力があるため、対象者を拡大する」 検査は、この後、中区内の事業所で働く人向けも行われた。こちらは想定の2000人を超える3335人が検査を受けたが、住民向けは対象の拡大にもかかわらず3238人にとどまり、全体では6573人と、当初計画していた対象8000人には達しなかった。感染が確認されたのは住民4人、働く人はゼロで、陽性率は0.06%だった。コロナ対策にあたる担当大臣、西村康稔は、効果的な検査の在り方を検討する必要性を指摘した。「(住民を対象とした検査での感染確認は)3200人で4人ということであり、効率的には非常に悪い。広島県のような取り組みも含めて、今後、無症状の人をどういう形で特定をして、感染再拡大を防いでいくのか、検査の在り方は専門家の方々にもご議論いただきたい」 介護施設などに絞ったら どうすれば効果的に検査を行えるのか。いち早く去年10月から、大規模なPCR検査に乗り出していたのが東京・世田谷区だ。対象は、介護施設や障害者施設などの症状のない職員らの希望者とした。当時、効果には懐疑的な意見もあった。しかし感染が広がるリスクの高い介護施設などで、クラスターの発生や患者の重症化を未然に防ぐ必要があると考え、検査に踏み切ったと区長の保坂展人は語る。「昨年春、ヨーロッパで病院に患者があふれ、介護施設に医療スタッフが治療に来ることができずに多くの方が施設内で亡くなったというニュースを見て衝撃を受けた。区内にも1000を超える施設がある。ここを予防していこうと考えた」 検査は、希望する介護施設などを順番に検査していく「定期検査」と、感染者が出るなどした施設を集中的、優先的に検査する「随時検査」の2つで始まった。区では当初、2万3000件の検査を行うことを想定し、実際の検査は民間に委託。費用は国の全額負担を見込んで、4億円余りを計上した。結果はすぐに出始めた。検査を始めた去年10月、2つの施設で合わせて2人の職員の陽性が判明したのに続き、11月には、特別養護老人ホームの職員と利用者合わせて15人の陽性も見つかった。15人はいずれも無症状で、施設の責任者は「信じられない。感染対策に力をいれていたのに」と驚きを隠せない様子だった。世田谷区は2月28日までに、のべ731施設で合わせて1万3239人に検査を行い、99人の感染者を発見した。新たな検査方法を導入 1月からは、検査数を増やすため、複数の検体を1つに混ぜて検査する「プール方式」という新たな検査方法も導入した。例えば4人の検体を1つに混ぜて検査し、結果が陰性ならば4人とも陰性とする。逆に陽性が出れば4人の検体を1つずつ検査して感染者を特定するという方法だ。感染が広がっていなければ従来の検査よりも検査時間を短縮できるほか、使用する試薬の量も減るのでコストを下げることができる。政府も「プール方式」を正式に認める通知を出した。「プール方式」の導入で、保坂はさらに検査の効果があがると期待する。「検査の対象は一生懸命やっていてもまだ1万人を超えたぐらい。ただ、有効な検査はできていると思う。プール方式を組み合わせることで介護施設に定期的に検査を続けられる体制をつくることが目標」 感染再拡大の兆しつかめるか 感染の再拡大の端緒を早期に見つけるため、無症状の住民を対象にした検査が始まった自治体がある。年末年始にかけて感染者が急増した栃木県だ。一時、緊急事態宣言が出されたが状況が落ち着き、2月8日に解除された。感染者が減った栃木県であえて無症状者の検査を行うのは、潜在しているウイルスを見つけ、早期の対策につなげるねらいがある。国の方針に基づく対応だ。街頭で検査キットを配布 2月22日。検査は始まった。検査対象は600人。半数は若い世代の調査のため、宇都宮市内の3つの学校で100人ずつ行われた。残る300人は、無作為に幅広く検査するため、街頭で検査キットを配布する方法がとられた。配布場所は非公表。昼下がりの宇都宮市の一角に、突如、のぼり旗が立てられ、通りがかった人たちにスタッフが声をかける。「費用がかからず、PCR検査を受けることができます!」 全国でも初めての試みに、果たしてどのくらいの人が協力してくれるのか。しばらく様子を見ていると、会社員や看護師など、さまざまな年代の人たちが足を止め、10分ほど座って説明を受けた後、次々と白い箱が入った紙袋を受け取っていった。箱の中身は青いスポイトのような容器や郵便の送り状などで、受け取った人は自宅に帰ってだ液を採取し、郵送で検体を送る。結果は1日から2日後に、インストールしたアプリに通知される仕組みだ。陽性の疑いがあると連絡が来た場合はコールセンターに連絡し、医療機関を受診することになる。国や県も手探りだったが、3日間の期間中、毎日昼ごろに配布を始め、夕方には用意したすべての検査キットを配り終えることができたという。受け取った高校生は「不特定の人が検査を受けられるので、すごくいいことだと思う。もっとこうした検査を充実させてほしい」と話した。この検査を受けた人の個人情報は、国や県に提供されることはなく、検査はあくまで「どの地域にどの程度の感染者がいるか」という事実を把握するために行われる。国と県は、3月以降も定期的に栃木県内で無症状の人へのPCR検査を行うことで、感染状況の推移を継続して確認していく方針だ。今後は、緊急事態宣言が解除されたほかの都府県でも同様の検査が行われる。リスク高いところで定期的に 各地で実施される無症状者を対象としたPCR検査について、政府の分科会の会長・尾身茂は、こう指摘する。「理想的には、地域の全員を1回じゃなくて頻回、検査することがいちばんだが、キャパシティーや効率性の点から、これから試すのであれば、ターゲットを絞って、しかもなるべく頻回にやることだ」 「高齢者施設など、リスクの高いところを1回だけじゃなくて、何回か、定期的に検査することが非常に有効だ。頻回やることで感染のレベルの推移がわかるし予兆がわかる」 大規模計画の行方は 6500人規模の試験的な検査を行った広島県。感染の再拡大に備えて、次の手を打った。感染状況を継続的に監視していくため、広島市内の感染リスクの高い繁華街に設置されたPCRセンターで、新たに1日500人の市民を対象に無料の検査を始めたのだ。いったん棚上げした73万人規模の検査について、知事の湯崎は、感染が再び拡大した際に行うとしている。感染の収束が見通せない中、再び大規模検査に動くのか。それともさらに別の手を打つのか。湯崎の判断が問われることになる。>
R2.8.21「新型コロナウイルス感染症に係る行政検査に関するQ&Aについて(その3)」(https://www.mhlw.go.jp/content/000661726.pdf)p7「検査前確率が高い(感染者が多数発生している、またはクラスターが発生している)と考えられる地域(保健所管内)において、医療施設、高齢者施設等に勤務する方や当該施設に既に入院・入所されている方及び新規に入院・入所される方について、施設内における新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、幅広く行政検査を実施していただくことは可能ですので、適切に実施いただくようお願いいたします。」、R2.9.15「新型コロナウイルス感染症に関する検査体制の拡充に向けた指針」(https://www.mhlw.go.jp/content/000672623.pdf)p2「特に医療機関、高齢者施設等の入所者は重症化リスクが高いことから、施設内感染対策の強化が重要である。こうした観点から、感染者が多数発生している地域やクラスターが発生している地域においては、その期間、医療機関、高齢者施設等に勤務する者、入院・入所者全員を対象に、いわば一斉・定期的な検査の実施を行うようお願いしたい。」、R2.11.16「医療機関、高齢者施設等の検査について(再周知)」(https://www.mhlw.go.jp/content/000695267.pdf)で「感染者が多数発生している地域やクラスターが発生している地域においては、その期間、医療機関、高齢者施設等に勤務する者、入院・入所者全員を対象に、いわば一斉・定期的な検査の実施を行うようお願いいたします。」のような医療・介護施設における「地域の感染状況を踏まえた無症状者対象の検査」は特別なものではないであろう。日本感染症学会(http://www.kansensho.or.jp/)と日本環境感染学会(http://www.kankyokansen.org/)の連名発出のR2.4.2「新型コロナウイルス感染症に対する臨床対応の考え方―医療現場の混乱を回避し、重症例を救命するためにー」(http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_rinsho_200402.pdf)(http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/covid19_rinshotaio.pdf)p1「PCR検査の原則適応は、「入院治療の必要な肺炎患者で、ウイルス性肺炎を強く疑う症例」とする。軽症例には基本的にPCR 検査を推奨しない。時間の経過とともに重症化傾向がみられた場合にはPCR法の実施も考慮する。」からみれば、まともな対応といえるかもしれない。なお、日本感染症学会(https://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=31)のR3.2.18「花粉症患者の中に紛れ込む新型コロナウイルス感染症のリスク― “あやしい” と感じたときには積極的な検査を ―」(https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_kafunsho_210218.pdf)と全く変わっていることは認識したい。R2.4.30Business Journal「加藤厚労相「4日間自宅待機は誤解」」(https://biz-journal.jp/2020/04/post_154931.html)は今から思えば、酷かったであろう。R2.5.8共同「味覚や嗅覚の異常は「軽い症状」に該当」(https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/239077)で「厚生労働省の担当者は、味覚や嗅覚の異常については専門家との検討により記載は見送った」とあり、厚労省「相談・受診の目安」(https://www.mhlw.go.jp/content/000628619.pdf)(https://www.mhlw.go.jp/content/000628620.pdf)には、いまだに「味覚や嗅覚の異常」が記されていない。「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2021年1月8日暫定版)」(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html)p2「新型コロナウイルス感染症を疑う症状」は「発熱、咳、呼吸困難、全身倦怠感、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、頭痛、関節・筋肉痛、下痢、嘔気・嘔吐など」とされ、ここでも「味覚や嗅覚の異常」が記されていない。何とかならないのであろうか。
<「PCR検査で感染経路を遮断し徹底的に感染を抑え込む」 「コスパが悪い」 広島県が打ち出した無症状の住民など73万人を対象とした大規模なPCR検査の計画。賛否両論が出され、結局、規模を100分の1に縮小しての試験的な実施となった。どうすれば効率的かつ効果的に検査ができるのか。模索を続ける自治体を追った。前代未聞の“全員検査” 広島県では、去年12月から広島市で感染が急拡大。一時は「緊急事態宣言の対象地域に準じた措置をとる地域」に指定されるどうかの瀬戸際まで追い込まれた。そんなさなかの1月14日。知事の湯崎英彦が突然、予想外の発表をした。「感染源の遮断を図るため、(広島市の)中区・東区・南区・西区のすべての住民と就業者を対象として、集中的にPCR検査を実施する」 市中心部の住民と働く人たち73万人を対象に、国内では前代未聞の規模でPCR検査を実施するというのだ。県庁内部に異論 掛け声先行か? ただ、これだけの計画を発表したにもかかわらず、検査の具体的な方法や日程は「検討中」だとしていた。取材を進めると、県庁内部でも意見が分かれていたことが見えてきた。関係者によると、知事の湯崎は以前からこの計画をあたためていたという。実際、1回目の緊急事態宣言が出されていた去年5月、次のように述べていた。「最終的には、気になる人がすぐに検査を受けられるところまで広げていけば、かなり感染拡大が防げるのではないか。県でも、1日何千とか万の単位で検査できる体制を作っていきたい」 しかし県の幹部の中からは、感染者の状況や検査の有効性などの観点から実施に反対する意見が出ていた。最終的には、湯崎が押し切る形で計画をぶち上げたのだという。これは、知事の「掛け声先行」だったのではないか。なぜ大規模な検査を行うことにこだわったのか、湯崎はこう説明した。「外出の削減や病院の検査をやってきたし、積極的疫学調査も幅広くやってきたが、それでも非常に急速に感染が拡大していった。そこで追加でできる対策として、大規模な検査が唯一の残る方法だった」 「アメリカや韓国、その他の世界中で行われていることで、中国でも行われている。韓国や中国では、特に効果を発揮して感染を抑え込んでいる実績もある」 感染改善で検査は? 5日後の1月19日。湯崎がようやく大規模な検査の実施時期について考えを明らかにした。「まだ検討しているが、時期としてはできるだけ早い段階、2月の早いタイミングには始めたい。実施期間は1か月くらいはかかる。場合によっては、2か月くらいかもしれないが、そういう想定だ」 一方、県内の感染状況は改善の方向に進んでいた。この日、県内で感染が明らかになったのは24人で、ピークのころと比べると、およそ6分の1にまで減少していた。記者団から「県内の感染者数が減少している中で、検査する必要があるのか」と質問されると、湯崎はことばを濁した。「感染が収束したと言えるような状況になったら、別途、判断する必要があるが、現時点では予定どおり進めている」 それでもこの時点ではまだ、計画が紆余曲折(うよきょくせつ)していくとは予想できなかった。感染経路を遮断する 検査の時期が示されたことを受けて、県は実施に向けた作業を進めると同時に、検査を行うために必要な費用を盛り込んだ10億円の補正予算を編成することになった。県庁内の慌ただしさは増し、関係者の1人は「土日返上で準備している」と話していた。そして表明から15日後の1月29日。湯崎は大規模な検査の基本計画案を公表した。市内の4つの区の住民とこの地域で働く人たち73万人が対象で、実施期間は2月中旬から数週間、唾液を採取するPCR検査で、検査料は無料というのが主な内容だった。さらに、この検査の効果の試算も合わせて発表した。試算では73万人のうちの4割にあたる28万人が検査を受けると見込み、最大で3900人の感染者を発見でき、検査をしなかった場合と比べ、死亡する患者が最大50人減るとした。また、営業の自粛などによる経済的なダメージを最小限に抑えることができ、県民所得が2億円から4億円減少することを回避できると見込んだ。湯崎みずから、モニターに映し出した数十枚の資料をもとに2時間にわたって説明。そして意義をこう強調した。「感染状況が改善しない場合、医療や経済に影響がある。無症状者や軽症者からの感染経路を遮断し、徹底的に感染を抑え込んでいきたい」 “コスパ悪い” 専門家からは異論が上がった。「ひと言で言うと、コストパフォーマンスが悪い」 こう話すのは、県の新型コロナ対策について知事に助言する「専門員会議」で委員を務める広島大学教授の坂口剛正だ。「ロックダウン(都市封鎖)をできない日本では1度きりの大規模検査を実施しても、効果は限られる。巨額の予算を投入して検査を実施しても陽性者はあまり見つからない。今、ちょうど感染者も減りつつある時期に、あまり効果が得られないのではないか。リスクがない人に一斉にやるものではない」 県議会の賛成取り付けるも さらに補正予算案を審議する県議会でも反対意見が相次いだ。「実施方法や効果、費用など、しっかりした検討を行わず、見切り発車で決定しており、多額の予算と人員を投入するのに見合った効果があるのか、納得のいく説明がない。また(感染者の)受け入れ態勢が万全であるのか甚だ疑問だ」(佐藤一直県議) 異論は湯崎の「与党」でもある県議会最大会派からも出された。「大規模に実施することで、無用な混乱を招くのではないか。一時期の感染対策だけではなく、中長期的視野に立った対策に予算を投じるべきではないか」(森川家忠県議) 会派内では「多数決で賛否を決めたらどうか」という声も上がり、予算案が否決される可能性もささやかれるほど、意見は割れていたのだ。しかし、県議会議長で最大会派の重鎮、中本隆志が「これだけの検査は全国初で、効果は実際にやってみないとわからない。うまくいけば、広島モデルになるかもしれない」と、容認する立場を取ったことで一変。最終的に、最大会派は「賛成」でまとまり補正予算は可決・成立された。感染者減で検査は? 予算が成立した2月4日。県内で感染が明らかになったのは7人と、およそ2か月ぶりに10人を下回った。感染状況が落ち着いている中、本当に大規模な検査が必要なのか。そんな声も強まっていた。「検査の日程に変更はないのか」と問われた湯崎は「今、準備をしているところだ」と述べるにとどめた。検査を始めるとした2月中旬が目前に迫る中、予定どおりに実施するのか、湯崎は判断を迫られることになった。一転 大規模検査は“保留” 予算成立から4日後の2月8日。事態が大きく動く。湯崎は議長の中本と会談。熟慮した結果として、大規模な検査をいったん「保留」する考えを伝えた。10日には記者会見して、73万人を対象とした検査を「保留」することを正式に表明。その代わり、大規模検査に備え、広島市中区の一部地域の無症状の住民など8000人を対象に試験的な検査を実施すると発表した。予算成立直後の計画変更に、県議会議員の1人は「感染状況を踏まえ臨機応変に対応するべきだ」として理解を示した。一方で、別の議員は「議会で議決をしたのだから、そのままやるのが筋だ。ころころ変えるのは政治家とは言えない」と批判した。検査希望者が集まらない 2月19日。計画の変更はあったものの検査が始まった。まずは中区の13地区の住民を対象に3日間かけて行われた。午前10時すぎから検査会場の外で検査を受けた人を取材していると、突然、スマートフォンが震えた。県からの発表文がメールで届いていた。なんと、検査の対象を変更するという内容だった。住民向けの検査は事前予約制となっていたが、予約数が検査初日の午前9時の時点で、上限6000人のうち1493人にとどまっていたため、急きょ、対象を区の全域に広げたのだ。この変更について、湯崎はこう説明した。「市中感染の減少により、検査を受けたいと思っている人が減っていると思う。現在の予約状況を踏まえて、検査能力や対応能力に余力があるため、対象者を拡大する」 検査は、この後、中区内の事業所で働く人向けも行われた。こちらは想定の2000人を超える3335人が検査を受けたが、住民向けは対象の拡大にもかかわらず3238人にとどまり、全体では6573人と、当初計画していた対象8000人には達しなかった。感染が確認されたのは住民4人、働く人はゼロで、陽性率は0.06%だった。コロナ対策にあたる担当大臣、西村康稔は、効果的な検査の在り方を検討する必要性を指摘した。「(住民を対象とした検査での感染確認は)3200人で4人ということであり、効率的には非常に悪い。広島県のような取り組みも含めて、今後、無症状の人をどういう形で特定をして、感染再拡大を防いでいくのか、検査の在り方は専門家の方々にもご議論いただきたい」 介護施設などに絞ったら どうすれば効果的に検査を行えるのか。いち早く去年10月から、大規模なPCR検査に乗り出していたのが東京・世田谷区だ。対象は、介護施設や障害者施設などの症状のない職員らの希望者とした。当時、効果には懐疑的な意見もあった。しかし感染が広がるリスクの高い介護施設などで、クラスターの発生や患者の重症化を未然に防ぐ必要があると考え、検査に踏み切ったと区長の保坂展人は語る。「昨年春、ヨーロッパで病院に患者があふれ、介護施設に医療スタッフが治療に来ることができずに多くの方が施設内で亡くなったというニュースを見て衝撃を受けた。区内にも1000を超える施設がある。ここを予防していこうと考えた」 検査は、希望する介護施設などを順番に検査していく「定期検査」と、感染者が出るなどした施設を集中的、優先的に検査する「随時検査」の2つで始まった。区では当初、2万3000件の検査を行うことを想定し、実際の検査は民間に委託。費用は国の全額負担を見込んで、4億円余りを計上した。結果はすぐに出始めた。検査を始めた去年10月、2つの施設で合わせて2人の職員の陽性が判明したのに続き、11月には、特別養護老人ホームの職員と利用者合わせて15人の陽性も見つかった。15人はいずれも無症状で、施設の責任者は「信じられない。感染対策に力をいれていたのに」と驚きを隠せない様子だった。世田谷区は2月28日までに、のべ731施設で合わせて1万3239人に検査を行い、99人の感染者を発見した。新たな検査方法を導入 1月からは、検査数を増やすため、複数の検体を1つに混ぜて検査する「プール方式」という新たな検査方法も導入した。例えば4人の検体を1つに混ぜて検査し、結果が陰性ならば4人とも陰性とする。逆に陽性が出れば4人の検体を1つずつ検査して感染者を特定するという方法だ。感染が広がっていなければ従来の検査よりも検査時間を短縮できるほか、使用する試薬の量も減るのでコストを下げることができる。政府も「プール方式」を正式に認める通知を出した。「プール方式」の導入で、保坂はさらに検査の効果があがると期待する。「検査の対象は一生懸命やっていてもまだ1万人を超えたぐらい。ただ、有効な検査はできていると思う。プール方式を組み合わせることで介護施設に定期的に検査を続けられる体制をつくることが目標」 感染再拡大の兆しつかめるか 感染の再拡大の端緒を早期に見つけるため、無症状の住民を対象にした検査が始まった自治体がある。年末年始にかけて感染者が急増した栃木県だ。一時、緊急事態宣言が出されたが状況が落ち着き、2月8日に解除された。感染者が減った栃木県であえて無症状者の検査を行うのは、潜在しているウイルスを見つけ、早期の対策につなげるねらいがある。国の方針に基づく対応だ。街頭で検査キットを配布 2月22日。検査は始まった。検査対象は600人。半数は若い世代の調査のため、宇都宮市内の3つの学校で100人ずつ行われた。残る300人は、無作為に幅広く検査するため、街頭で検査キットを配布する方法がとられた。配布場所は非公表。昼下がりの宇都宮市の一角に、突如、のぼり旗が立てられ、通りがかった人たちにスタッフが声をかける。「費用がかからず、PCR検査を受けることができます!」 全国でも初めての試みに、果たしてどのくらいの人が協力してくれるのか。しばらく様子を見ていると、会社員や看護師など、さまざまな年代の人たちが足を止め、10分ほど座って説明を受けた後、次々と白い箱が入った紙袋を受け取っていった。箱の中身は青いスポイトのような容器や郵便の送り状などで、受け取った人は自宅に帰ってだ液を採取し、郵送で検体を送る。結果は1日から2日後に、インストールしたアプリに通知される仕組みだ。陽性の疑いがあると連絡が来た場合はコールセンターに連絡し、医療機関を受診することになる。国や県も手探りだったが、3日間の期間中、毎日昼ごろに配布を始め、夕方には用意したすべての検査キットを配り終えることができたという。受け取った高校生は「不特定の人が検査を受けられるので、すごくいいことだと思う。もっとこうした検査を充実させてほしい」と話した。この検査を受けた人の個人情報は、国や県に提供されることはなく、検査はあくまで「どの地域にどの程度の感染者がいるか」という事実を把握するために行われる。国と県は、3月以降も定期的に栃木県内で無症状の人へのPCR検査を行うことで、感染状況の推移を継続して確認していく方針だ。今後は、緊急事態宣言が解除されたほかの都府県でも同様の検査が行われる。リスク高いところで定期的に 各地で実施される無症状者を対象としたPCR検査について、政府の分科会の会長・尾身茂は、こう指摘する。「理想的には、地域の全員を1回じゃなくて頻回、検査することがいちばんだが、キャパシティーや効率性の点から、これから試すのであれば、ターゲットを絞って、しかもなるべく頻回にやることだ」 「高齢者施設など、リスクの高いところを1回だけじゃなくて、何回か、定期的に検査することが非常に有効だ。頻回やることで感染のレベルの推移がわかるし予兆がわかる」 大規模計画の行方は 6500人規模の試験的な検査を行った広島県。感染の再拡大に備えて、次の手を打った。感染状況を継続的に監視していくため、広島市内の感染リスクの高い繁華街に設置されたPCRセンターで、新たに1日500人の市民を対象に無料の検査を始めたのだ。いったん棚上げした73万人規模の検査について、知事の湯崎は、感染が再び拡大した際に行うとしている。感染の収束が見通せない中、再び大規模検査に動くのか。それともさらに別の手を打つのか。湯崎の判断が問われることになる。>
R2.8.21「新型コロナウイルス感染症に係る行政検査に関するQ&Aについて(その3)」(https://www.mhlw.go.jp/content/000661726.pdf)p7「検査前確率が高い(感染者が多数発生している、またはクラスターが発生している)と考えられる地域(保健所管内)において、医療施設、高齢者施設等に勤務する方や当該施設に既に入院・入所されている方及び新規に入院・入所される方について、施設内における新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、幅広く行政検査を実施していただくことは可能ですので、適切に実施いただくようお願いいたします。」、R2.9.15「新型コロナウイルス感染症に関する検査体制の拡充に向けた指針」(https://www.mhlw.go.jp/content/000672623.pdf)p2「特に医療機関、高齢者施設等の入所者は重症化リスクが高いことから、施設内感染対策の強化が重要である。こうした観点から、感染者が多数発生している地域やクラスターが発生している地域においては、その期間、医療機関、高齢者施設等に勤務する者、入院・入所者全員を対象に、いわば一斉・定期的な検査の実施を行うようお願いしたい。」、R2.11.16「医療機関、高齢者施設等の検査について(再周知)」(https://www.mhlw.go.jp/content/000695267.pdf)で「感染者が多数発生している地域やクラスターが発生している地域においては、その期間、医療機関、高齢者施設等に勤務する者、入院・入所者全員を対象に、いわば一斉・定期的な検査の実施を行うようお願いいたします。」のような医療・介護施設における「地域の感染状況を踏まえた無症状者対象の検査」は特別なものではないであろう。日本感染症学会(http://www.kansensho.or.jp/)と日本環境感染学会(http://www.kankyokansen.org/)の連名発出のR2.4.2「新型コロナウイルス感染症に対する臨床対応の考え方―医療現場の混乱を回避し、重症例を救命するためにー」(http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_rinsho_200402.pdf)(http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/covid19_rinshotaio.pdf)p1「PCR検査の原則適応は、「入院治療の必要な肺炎患者で、ウイルス性肺炎を強く疑う症例」とする。軽症例には基本的にPCR 検査を推奨しない。時間の経過とともに重症化傾向がみられた場合にはPCR法の実施も考慮する。」からみれば、まともな対応といえるかもしれない。なお、日本感染症学会(https://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=31)のR3.2.18「花粉症患者の中に紛れ込む新型コロナウイルス感染症のリスク― “あやしい” と感じたときには積極的な検査を ―」(https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_kafunsho_210218.pdf)と全く変わっていることは認識したい。R2.4.30Business Journal「加藤厚労相「4日間自宅待機は誤解」」(https://biz-journal.jp/2020/04/post_154931.html)は今から思えば、酷かったであろう。R2.5.8共同「味覚や嗅覚の異常は「軽い症状」に該当」(https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/239077)で「厚生労働省の担当者は、味覚や嗅覚の異常については専門家との検討により記載は見送った」とあり、厚労省「相談・受診の目安」(https://www.mhlw.go.jp/content/000628619.pdf)(https://www.mhlw.go.jp/content/000628620.pdf)には、いまだに「味覚や嗅覚の異常」が記されていない。「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(2021年1月8日暫定版)」(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9357-2019-ncov-02.html)p2「新型コロナウイルス感染症を疑う症状」は「発熱、咳、呼吸困難、全身倦怠感、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、頭痛、関節・筋肉痛、下痢、嘔気・嘔吐など」とされ、ここでも「味覚や嗅覚の異常」が記されていない。何とかならないのであろうか。