O157が全国的に発生しているが、この菌が牛の常在菌であることはどれだけ知られているであろうか。牛糞便で志賀毒素(ベロ毒素1)陽性率が31%というデータもある(http://jlta.lin.go.jp/chikusan/houkoku/h14_138.html)。食材等からの検出も牛関連のものが多く(http://www.n-shokuei.jp/tsuchi/981130-110-22.html)、これまでビーフ角切りステーキ、牛タタキ、ローストビーフでの集団感染事件もあった(http://www.mhlw.go.jp/topics/0105/tp0502-1.html)。生レバーに対する注意喚起の厚生労働省通知(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/taisaku/dl/040525-1.pdf)が出ているが、「新鮮だから生」と誤解されている方が多いように思える。さて最近、管内の保育園で大規模なO157集団感染があった。その際、園児や保護者に対する誹謗・中傷があったようである。地元マスコミは「感染源が特定されない」と連日報道して不安を煽り、議会では感染者の存在をそれぞれの住所地の各市町村に即刻通告すべきとの指摘もあった。O157の予防は通常の食中毒予防を徹底するとともに、牛生肉に注意することが基本であるが、どうも潔癖症が蔓延しているように感じるのである。ところで、結核患者は昨年全国で28,319 人発生している(http://www.jata.or.jp/rit/rj/data_tp.html)が、潔癖症の方はバスや電車、エレベータ-の中では呼吸ができず、カラオケボックスやサウナにも入れず、さらには他人と会話もできず、対人恐怖症になってしまうのではないか、と感じるこの頃である。
平成20年度からの医療保険者による加入者に対する特定健診・保健指導について、はっきりしないのは保健指導の必要経費である。国では、特定健診・保健指導の必要経費は平成20年度は受診率60%・3400万人受診で1600億円、平成27年度は受診率80%・4600万人受診で2100億円(事業主負担、補助金、受診者一部負担含む)としているが、これには果たして保健指導の必要経費は含まれているのであろうか。1人あたり4700円程度で計算されているが、これで健診に加えて、保健指導がカバーできるのであろうか。標準的な健診・保健指導プログラム暫定版によれば、動機づけ支援レベルでは30分~1日の指導が行われ、積極的支援レベルでは、3~6ヵ月ごとの指導が行われる。国の保健指導実施率の目標は、平成20年度20%~平成27年度60%であり、そのためにはかなりの人手と労力を要する。さて、平成18年度の国保ヘルスアップ事業に345保険者・24億8600万円内定されたとのことである。ハイリスク者に個別健康支援プログラムが提供されるが、介入群の数に応じて5年間助成されるという(100人未満800万円、100~500人未満1500万円など)。「国保ヘルスアップ事業 個別健康支援プログラム実施マニュアル」ver.2(http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/07/tp0703-1.html)を実施するためには、莫大な経費がかかるのである。では、政府推奨の保健指導のアウトソーシングのためには国保以外の被用者保険者にはどれだけの経費が必要になるのであろうか。
先月、療養病床の再編成を踏まえた地域ケア体制の整備に関するブロック別意見交換会が開催(http://www.wam.go.jp/wamappl/bb05Kaig.nsf/vAdmPBigcategory20/E3D019BBD764E1C9492571CE0026FBBA?OpenDocument)され、来月「療養病床アンケート」が実施される(http://www.pref.kagawa.jp/imu/soumuiji/sub2.htm)。療養病床の概況と療養病床の転換意向を問う施設票だけではなく、10月1日現在の入院患者に関する「患者票」もある。集計結果は2月に都道府県あて送付されるが、ぜひHP上でも公表してもらいたいものである。特に自宅での介護者の有無や所得状況について知りたいところで、在宅医療を進めるとしても、自宅には介護者がいる必要があり、また、有料老人ホームやケアハウス等には低所得者は入居しにくいと思われるからである。さて、10月から、医療療養病床に入院している70歳以上について食費・居住費が負担増となる(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/tdfk02-03-01.pdf)が、最近になってようやく入院患者・家族に説明が開始されているところが少なくない。円滑に進めるためには、もっと時間的な余裕が必要であろう。とにかく慌しいのである。そして、最近、療養病床を有する医療機関の格差が拡大しているように感じる。既に将来構想を描いて職員や施設の転換に手を打っているところとそうでないところの格差である。心配なのは、医療機関側に療養病床の転換意向を聴取するが、十分わかって回答されるかどうかである。というのは、今年春に障害者自立支援法を踏まえて障害者施設に対して移行希望アンケート調査(http://www.wam.go.jp/wamappl/bb15GS60.nsf/0/028568e2710cbeff492571250004bf69/$FILE/3-2.pdf)を行ったところ、十分理解されていなかった施設が少なくなかったからである。現在、各自治体で障害福祉計画が策定されているが、苦労しているようである。果たして、来年夏~秋頃までに策定される都道府県の地域ケア整備構想(療養病床の再編含む)はどうなるであろうか。平成21年度からの第4次介護保険事業計画にも決定的な影響があるはずであるが、第4次計画の策定はまだ当分先である。
最近、現場では、療養病床の話題になることが多い。経営のために、医療区分の高い患者を集めたいが、なかなか容易でないという。日本療養病床協会の医療区分・ADL区分評価表(http://www.ryouyo.jp/iryouadl.xls)をみてもわかるように、医療区分の高い患者は従来の総合病院で入院していたような患者である。また、医療区分1といってもADLには幅があるが、その受け皿はあるのだろうか。第4次介護保険事業計画における参酌標準設定が注目されるところであるが、国の試算では、平成24年度時点で、医療保険の給付費が年間4000億円減り、介護保険の給付費が1000億円増える(http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20060827AT3S2502D26082006.html)としていることから、受け皿としての老人保健施設はあまり期待できないかもしれない。さて、先日の中医協慢性期入院医療包括評価調査分科会において、平成16年度調査のうち療養病棟の各区分ごとの費用が開示されたが、中医協にも未開示のデータで、診療報酬点数との大幅な乖離が明らかになったという。つまり、診療報酬点数は政策的判断であり、実態を反映したものではないということである。平成18年度慢性期入院医療の包括評価の検証調査では「医療区分の妥当性」「ADL区分の妥当性」「医療療養病床の役割」などの観点から検証されるというが、今度は実態が反映されるのであろうか。法附帯決議十項(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/hoken83c.pdf)では「療養病床の患者の医療区分については、速やかな調査・検証を行い、その結果に基づき必要に応じて適切な見直しを行うこと」とされていることから、早い段階から実態との乖離が認識されていたのであろう。ともかく、療養病床の今後の展開に目が離せないところである。
先日、年金積立金管理運用独立行政法人が今年度4~6月の公的年金積立金の運用損益を2兆32億円損失と発表した(http://www.gpif.go.jp/kanri/pdf/kanri03_h18_p01.pdf)。これまで兆円単位で損益がでており、あまり驚くことはないのかもしれないが、不思議なのはあまりマスコミで運用状況について報道されないことである。さて、介護保険制度が始まって以降、高齢者の年金に対する意識は高くなっている。今年度からの介護保険料引き上げに際して、「年金から○○円天引きされた」と日常会話の中ででているのである。しかし、平成20年度からの後期高齢者医療制度において、新たな保険料の天引きがされることはどれだけ知られているであろうか。この医療制度は、高齢者の医療の確保に関する法律(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/hoken83b.pdf)による。後期高齢者一人ひとりに対して、保険料が賦課・徴収され、介護保険と同様に、年額18万円以上の年金受給者を対象に、年金からの保険料の天引き(特別徴収)が行われる(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/tdfk02-02-04.pdf)。介護保険料に加えて、後期高齢者医療保険料の年金天引きで、これからますます年金に対する認識が高まることであろう。もっと運用益があがるよう、年金積立金管理運用独立行政法人にはがんばってもらいたいものであるが、負担増で悲鳴をあげる高齢者が多くなるかもしれない。先日も地方版で気になるニュースが掲載されていたところである(http://www.iwate-np.co.jp/news/y2006/m08/d23/NippoNews_8.html)。
病院の人間ドック担当医と話す機会があった。いろいろな企業の健診を受けているという。がん検診等も組み入れられているところも多いが、ごく一部を除いて、正規の従業員対象とのことである。平成20年度からの医療保険者による加入者に対する特定健診・保健指導によって、人間ドックはどうなるであろうか。まずは、保健指導である。人間ドックでは解説付きの結果通知はされているものの、「標準的な健診・保健指導プログラム(暫定版)」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/index.html)に示す「動機づけ支援」「積極的支援」のような継続的な保健指導がされているわけではない。これを病院で実施するためには、保健指導専任の保健師や管理栄養士を確保する必要があるという。次に、健診対象者である。特定健診・保健指導の対象者は従業員だけではなく、被扶養者も含めた保険加入者である。従業員と同様に被扶養者が人間ドックを受けるかどうかであるが、企業には新たな費用負担が伴うことになる。「標準的な健診・保健指導プログラム(暫定版)」では、基本的な健診として血液検査10項目(HDL、LDL、TG、AST、ALT、γーGTP、Cr、BS、HbA1c、UA)が必須で、さらに医師選択で心電図、眼底検査、検尿、貧血検査が加わるため、おそらく、老人保健法の基本健診以上の健診料金になるに違いない。さらに、保健指導(情報提供、動機づけ支援、積極的支援)の費用も新たに加わるが、これらの莫大な費用を企業が負担できるかである。企業においては、労働安全衛生法の事業主健診(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/04/s0404-4e.html)と医療保険者による特定健診・保健指導の両面について、費用負担の観点から、どう調整され、実施されるのであろうか。これまで人間ドックでは、労働安全衛生法にはない「がん検診」等も積極的に行われてきたが、平成20年度以降、それらがどうなるかである。企業には新たに、手厚い保健指導や被扶養者に対する健診・保健指導に義務的な負担がかかるため、がん検診等の需要は縮小に向かわないとも限らない。従来どおり行われるためには医療保険料の相当な引き上げが避けられないであろう。近々、日本人間ドック学会で説明会(http://www.ningen-dock.jp/concerned/kenshukai-info/h20_tokutei.pdf)が開催されるが、人間ドックの実施機関にとっては、プログラムそのものよりも、平成20年度以降の人間ドックの受診者数の見込み、保健指導にかかる料金の見込み、保健指導の専門職員の確保の見込み、がん検診等のオプション健診の需要見込みなどが聞きたいところであろう。
先般の厚生労働省「市町村保健活動の再構築に関する検討会」において、市町村の役割として①施策化と評価、②関係機関の調整、③専門性の高い事例への対応、④健康危機管理、⑤個人情報の保護、⑥アウトソーシング先の質の担保と専門的助言・評価が示されたという。これは市町村というより、保健所の役割ではないかと感じる方が少なくないであろう。しかし、保健所設置市と考えれば理解しやすいかもしれない。想えば、保健所法が地域保健法(http://www.ron.gr.jp/law/law/hokenjo.htm)に改正されてから10年以上経った。この間、地域保健対策の推進に関する基本的な指針(http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/02/tp0212-3.html)も度々改正されてきた。最近も障害者自立支援法制定、介護保険法改正、医療制度改革関連法等によって、地域保健は従来以上に大きく変化しているのであるが、どうも肝心の指針改正が追いついていないように感じる。障害者・高齢者福祉における保健所や市町村保健センターの位置づけ、健康増進における医療保険者や民間機関との関わり、法制定を受けて食育や自殺対策等も明記されるべきであろう。また、医療制度改革を受けて、保健所の事業として地域保健法第6条七に規定する「公共医療事業の向上及び増進に関する事項」について指針でもっと具体的に示されるべきであろう。
いったいどうなっているのか。
いったいどうなっているのか。
平成20年度からの医療保険者による40歳以上の加入者に対する特定健診・保健指導において、市町村は国保加入者を対象に行うのであるが、忘れてはならない対象がある。それは市町村職員である。地方公務員共済組合(http://www.chikyoren.go.jp/)が被扶養者を含めて実施することになるのであるが、果たしてどうなるであろうか。「標準的な健診・保健指導プログラム(暫定版)」(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/index.html)に基づいた、階層化した保健指導が提供されるであろうか。国の政策目標は、40歳以上の「健診受診率」が平成20年度60%から平成27年度80%、「保健指導の実施率」が平成20年度20%から平成27年度60%になり、平成20年度~27年度に「生活習慣病有病者・予備群」が25%減少するというものであるが、その数値に異論を唱える方が少なくない。ここは、まず公務員共済組合が手本をみせて、国の政策目標が十分達成可能であることを示す必要があるのではないか。早急に公務員共済組合が被扶養者も含めてモデル事業を行ってはどうであろう。
平成20年度からの医療保険者による40歳以上の加入者に対する特定健診・保健指導において、やはり最大の課題は「被用者保険(http://www.vho-net.org/contents/jp/forum/yougo0105.html)の被扶養者」であろう。これは先般の「保険者による健診・保健指導の円滑な実施方策に関する検討会」(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/08/s0830-2.html)でも認識されているようである。実際、現場のベテラン保健師は、30年前の国保をイメージされる方が少なくない。つまり、市町村による特定健診・保健指導は国保加入者だけで手一杯であり、健診データとレセプトデータの突合分析の観点からも国保以外は責任が持てないし、後期高齢者支援金負担額で加算措置が講じられないよう、とにかく国保加入者の実績を上げる必要があるのかもしれない。しかし、「被用者保険の被扶養者」は、被用者保険から国保に委託して実施せざるを得ないであろう。住所地が広範囲であり、被用者保険が直接サービスを提供できない場合が想定されるからである。そこで登場するのが「地域・職域連携」である。先般、「地域・職域連携推進事業ガイドライン改訂版」(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/06/s0630-6.html)も送付されてきたところである。しかし、現場で連携が進んでいるかといえば、そうではないようである。本年5月24日現在で地域・職域連携推進協議会は二次医療圏のみの設置を含めて20道府県、都道府県協議会に限ると9道県の設置に留まるとされる。管内では昨年、協議会を設置したが、「被用者保険の被扶養者」はあまり認識されていないのである。「被用者保険の被扶養者」に対する特定健診・保健指導を推進するためには、委託を受ける市町村国保にインセンティブを考慮してもよいのではないか、と感じるこの頃である。
どうも医療制度改革については全くといってよいほど国民に周知徹底されていない。短期的な医療保険給付の削減(http://ww2.ctt.ne.jp/~hopo/futan.html)もそうであるが、療養病床の削減、医療機能情報の収集・提供、医療保険者による特定健診・保健指導について、住民にどれだけ知られているのであろうか。「何かの間違いでは?」「いつの間に決まったの?」、現場で最近よく聞かれる言葉である。もしかすると普及徹底されないのは政府戦略に自信がないのかもしれない。いや、ショック療法が期待されているのかもしれない。
医療制度改革の中で先行しているのが、療養病床の削減(厚生労働省では「再編成」)である(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/index.html#ryouyou)。医療療養病床25万床・介護療養病床13万床を平成24年3月までに医療療養病床15万床にするといるもので、すでに本年7月からの診療報酬改定により、削減の動きが始まっている。療養病床を有する病院からは、毎月数百万円単位の減収の声があがっており、否が応でも進めざるを得ないのである。国資料ではいくつかのパターンが示されている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/ryouyou01h.pdf)。医療療養病床として維持するのならば、医療区分の高い患者を集めるしかないが、そのためには看護・介護職員を手厚くする必要がある。また、経過措置(介護保険移行準備病棟、経過型介護療養型医療施設)に移行しても、これは平成23年度末までであり、現時点では第4期以降の介護保険事業計画がどうなるかわからない。国の試算では、平成24年度時点で、医療保険の給付費が年間4000億円減り、介護保険の給付費が1000億円増える(http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20060827AT3S2502D26082006.html)としていることから、削減される療養病床のかなりの割合が介護保険適用となる老人保健施設等に移行できないことになる。結局、療養病床の削減分は、介護保険適用にならない、ケアハウス、有料老人ホーム、高齢者向け優良賃貸住宅等も想定しなければならない。しかし、移行を考えた場合、職員(看護師、介護士、医師)の配置換えや転勤の問題も大きいが、医療区分1の患者の受け皿が最大の課題であるのは間違いない。在宅療養に移行できるに越したことはないが、核家族化が進んでいる中では困難であろう(ここは厚生労働省の幹部職員には率先して家族を在宅療養にしてほしいものである)。また、ケアハウス、有料老人ホーム、高齢者向け優良賃貸住宅において、在宅サービスを受けながら、医療区分1の患者(要介護度が高い場合も少なくない)を円滑に受け入れることができるのであろうか。そもそも低所得の高齢者がそのような施設に入れるのか疑問が残る。さて、本年10月から、70歳以上の医療療養病床の食費・居住費が見直し(負担増;平成20年度からは65歳以上)され、施設側、患者側の双方から、医療区分1の患者は退院に向かうことになるおそれがある。あるいは、医療区分1の患者が医療区分2・3になる割合が増えるかもしれないし、病状が改善して医療区分1にならないように、家族から期待されるかもしれない。しかし、不思議でならないのは、療養病床の削減や患者負担増に関して、あまりマスコミで報道されていないことである。全国の都道府県では患者・住民・医療機関からの相談・照会に応じる相談窓口が設置されている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/ryouyou-saihen01.pdf)のであるが、果たしてどれだけの方々に知られているのであろうか。国通知によって相談実績や報道状況は都道府県から国に報告されることになっている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/ryouyou-saihen01.pdf)割には、PRが徹底されていないように感じるのである。「社会的入院の解消」という方向は正しいが、まさにその戦略が問われているのかもしれない。
平成20年度からの医療保険者による特定健診・保健指導によって、国の政策目標では平成20年度~27年度に「生活習慣病有病者・予備群」が25%減少し、それにより平成27年(2025年)で「医療費の伸び」を2兆円抑制するとされている。生活習慣病有病者・予備群の減少は怪しいかもしれないが、医療費の伸びの抑制は可能かもしれない。というのは、特定健診・保健指導にあたって、医療保険者がレセプトと健診・保健指導データの突合分析を行うことになるからである。先般の都道府県医師会健診・保健指導担当理事連絡協議会においては、健診・保健指導データとレセプト突合分析にかなり危惧する意見が表明されている。レセプトは診療明細書のようなものであるが、個人ごとに健診等のデータとレセプト分析が行われ、かつ保険者間で比較分析された場合、果たしてどのような動きが起こってくるであろうか。医療機関における診療状況の違いがクローズアップされ、診療報酬の標準化・包括化の動きに拍車がかかるかもしれない。あるいは、診療費の一部を保険対象外にする「保険免責制」(http://www.doiren.jp/key_hokenmensekisei.html)の導入につながっていくのであろうか。医療制度改革関連法の成立に際して、附帯決議原案に入っていた「保険免責制を導入しない」の文言が削除されていたが、先般、財務大臣会見で「保険免責制」の導入に前向きな姿勢が示されたところである。
先般、「地域医療に関する関係省庁連絡会議」において「新医師確保総合対策」が取りまとめられた(http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/08/tp0831-1.html)。この中では、大学、公的医療機関、地域医療機関等が参画する協議会を通じて医局に代わって都道府県が中心となった医師派遣体制を構築することや、小児科・産科をはじめ急性期の医療についての集約化・重点化を都道府県中心に推進することなどが示されている。医療機関の集約化・重点化については平成18年内目標に集約化計画をたて医療計画に反映させるという。まさに都道府県が医療制度改革推進の前面にたつのであるが、どうなるであろうか。現場では、療養病床削減にも大変懸念する意見が多い。集約化・重点化についても、集約化される拠点病院は良いが、医師を引き上げれる病院やその地域住民からは非難の声があがっている。こうした調整を都道府県が引き受けなければならないのである。今後、国は都道府県の実績比較を通じて改革を推進するのであるが、これで地方分権が進むのであろうか。
本年10月から精神保健福祉手帳に写真貼付される。この手帳ができてからここまでくるのに10年以上かかった。現在も手帳に基づいて、各地で様々なサービスが受けられる(http://www.pref.fukushima.jp/seisinsenta/welfare/handbook.html)のであるが、写真貼付により期待されるのは、公共交通機関を利用した場合の割引である。また、これをきっかけに偏見がない社会にしなければならない。ところで、最も普遍的な手帳として、「母子健康手帳」(http://www.city.yamagata.yamagata.jp/hoken/info_kenko/106.html)がある。この手帳は母子の健康管理に活用されているが、福祉サービスの活用にもっと利用できないものであろうか。少子化対策としても機能するのでは、と考えるのは安易かもしれないが。
8月30日に「保険者による健診・保健指導の円滑な実施方策に関する検討会」がようやくスタートした(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/08/s0830-2.html)。検討スケジュール(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/08/dl/s0830-2f.pdf)が示されたが何とも慌しい。このブログで再三述べてきたように被扶養者への健診・保健指導の提供体制や保険者間における決済及びデータ送受信をどうするか、特定健診と健診項目が一致していない労働安全衛生法による事業主健診との関係をどうするか等、大きな課題がある。ワーキンググループを設置して今年度中に結論を得るとされるが、現場ではそれを受けて準備に取り掛からなければならない。平成20年度からの円滑な実施は、本当に大丈夫なのであろうか。ところで、保健指導の委託先として、①健診機関タイプ(健診機関が保健師、管理栄養士等を雇用)、②病院・診療所タイプ(医療機関が保健指導部門を設ける)、③民間企業タイプ(株式会社等が保健指導)、④保健師・管理栄養士起業タイプ(NPO法人等)、⑤市町村タイプ(国保または保健部門)の5類型が示されている。医療保険者が保健師や管理栄養士を雇用して自ら実施しないとなれば、これらのいずれかに委託するしかないのは当然で、列挙するまでもない。委託基準など、質の確保をどうするかの議論が盛んであるが、実際にどこに委託されるかは、委託コストがどうなるかが最も大きいであろう。一応、国保加入者については、従来の老人保健事業と同様に国・都道府県・市町村が3分の1ずつ負担されるが、被用者保険の場合、特に被扶養者の場合はどうなるか、はっきりしない(被扶養者部分に関しては健診費用の3分の1を国庫補助する方向)。スケジュールでは平成20年1~2月に必要費用が算出されるという。まさに今流行の「走りながら考える」であるが、「見切り発車」の方が適切かもしれない。