常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

鹿狼山

2020年02月08日 | 登山
鹿狼山(430m)の頂上から東に目を向けると、縹緲とした太平洋がひらける。山の麓の集落の向こうには、人々の未知の世界が広がっている。人々はここに大山津見神を祭り、その神の使いが鹿と狼であった。この神は手も足も長く、長い手を伸ばして海の中から貝を漁って食べた。麓の集落にある貝塚は、この山の手長足長神の食べた貝殻だという伝説がある。宮城県の丸森、福島県の新地。県境のこの地区は、この10年の間に大きな二つの災害に見舞われた。忘れもしない2011年の東日本大震災、そして昨年の台風19号による阿武隈川氾濫による水害である。山の付近の水田を、今もなお水害の土砂が覆っている。さしもの大山津見の神の力をも越えた、大自然の巨大な力を見せつけている。地域の人々の苦しみのをよそに、自分たちの楽しみのための山登りが許さるのかと思いながら、登りはじめたが、好天のもと多くの人々が登ってくるのに出会った。

会う人ごとに、実にフレンドリーに話しかけてくれる。毎日のようにこの山に来るという女性は、来るときにスミレが咲いていたが見たかと聞いてきた。我々は鹿狼の湯の登山口から、時計の反対周りで山を一周するつもりであったが、「右に行くケヤキコースがいいですよ。途中に陽だまりの展望台があっていい気持ちです」と、そっちのコースを行くことを勧めてくれる。多くの人と行きかい、挨拶をかわしているうちに出発前の懸念も吹き飛んでしまった。9時から登り始めて、1時間ほどで頂上に立つ。杉の大木が、強めの春の風に吹かれている。風の音とは、こういうものかと改めて知らされる。右手には太平洋の海原が広がっている。海の色は、遠くにいくつれ碧いグラデーションを重ね、深い感動を覚える。北の方には牡鹿半島や金華山が光って見えている。日ごろ、海の見えない山登りをしている者にとって、この海の眺望は得難い機会である。頂上から、勧められたケヤキコースをとり、陽だまりの休憩所まで足を延ばす。ここで、この山の清掃隊の隊長さんから話を聞いた。「80名ほどの隊員がいるんですよ。多くのこの山に来る人が楽しんでもらうために道の掃除をしています。」登るのが気持ちいいほどに道はきれいに整備されていた。日ごろの努力にただ感謝するのみである。

山形から一般道を通り、釜房湖の懐かしい景色を見ながら2時間。福島県新地にある登山口に着く。ここで、準備体操をして登り始める。気温はひくいが、空は雲ひとつない群青色である。懸念された風もない。ふとみあげれば、冬の枯れた木々の向こうに杉の固まった林が見える。ここが430m、鹿狼山の頂上である。登り始めは、コンクリートで階段が切ってある。ほどよくジグザグに配置されて、疲労を軽減してくれる。本日の参加者8名(内男性3名)
所々にナンバーを書いた看板が設置されている。緊急避難の場所を知らせる番号である。ここで緊急事態が起きたときに、救急隊が駆けつけるための番号であるらしい。ケヤキコースを引き返して、神社の下の枯草の上で弁当開き。食べものを分け合って、ほぼひと月ぶりの山登りで話が弾む。昨日までの雪の山形をよそにして、表日本の冬の景色を堪能する。頂上の看板脇は、記念撮影する人たちがひきをきらない。山形の千歳山と同じように、ここはこの山を愛する人たちのたまり場である。

下りは南コース広い道。足元に多少の霜が消え残っているものの、安心して下ることのできる道だ。沢の向こうに頂上の杉林が見えている。足元の草むらにスミレを探してみたが、残念ながら見つけることができない。車で少し下って鹿狼の湯。入湯料660円と高目だが、貸し切り状態で、気持ちのいい温泉だ。露店風呂もあったが、ここは一人で入るくらいの狭い浴槽であったので敬遠した。
コメント
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