みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0840「しずく83~家族の真実」

2020-03-21 18:13:46 | ブログ連載~しずく

 どこだか分からない場所(ばしょ)に神崎(かんざき)つくねはいた。その部屋(へや)には窓(まど)もなく鉄(てつ)の扉(とびら)が一つあるだけ。つくねは部屋の中央(ちゅうおう)に置かれた椅子(いす)に縛(しば)りつけられ、男たちが周(まわ)りを囲(かこ)んでいた。
 しばらくすると鉄の扉が音を立てて開き、サングラスをかけた別の男が入って来た。その男は、そこにいた男たちに出て行くようにと合図(あいず)をした。男たちが出て行くと、それを待っていたようにつくねが呟(つぶや)いた。
「どうして? あの時、死んだんじゃなかったの? パパ…」
 彼女に背(せ)を向けていた男は、サングラスを外すと振り向いて笑(え)みを浮(う)かべて答えた。
「よかった。まだパパと呼んでくれるなんて…。私に会えると分かっていたんだね」
「ええ…。ねえ、ママは? ママも…無事(ぶじ)なの?」
「ママは、死んだよ」
 男はつくねの頬(ほお)を撫(な)でて、「ママに似(に)てきたな…まるで生き返ったようだ」
 つくねは、悲しみを抑(おさ)えようと唇(くちびる)を噛(か)みしめた。男はつくねから離(はな)れると言った。
「すべてはママがいけないんだ。パパの言う通りにしてくれなかったから…。だから命(いのち)を縮(ちぢ)めてしまった。とても残念(ざんねん)だよ」
「えっ? どういうこと…、何を言ってるの?」
「もうひとつ残念だったのは、ママが君を逃(に)がしたことだ。まさか、気づかれているとは思わなかった。でも、君(きみ)はこうして戻(もど)って来てくれた。この私のところにね」
<つぶやき>まさかこんな再会(さいかい)になるとは、つくねも思っていなかったのかもしれません。
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0839「いらないもの」

2020-03-20 18:14:46 | ブログ短編

 若(わか)い男女がショールームに来ていた。係(かかり)の者(もの)が熱心(ねっしん)に商品(しょうひん)の説明(せつめい)をしている。
「これが、我(わ)が社一押(いちお)しのリサイクルボックスです。画期的(かっきてき)な発明(はつめい)でして、どんなものでも分子(ぶんし)レベルまで分解(ぶんかい)して再利用(さいりよう)に回(まわ)します」
「すごいわねぇ。何でも入れちゃっていいの? 大きなものでも大丈夫(だいじょうぶ)かしら?」
「ええ、もちろんです。お試(ため)しになりますか? そこにあるものを入れてみて下さい」
 係の者が指(さ)した場所(ばしょ)には、使えなくなった家電(かでん)や廃材(はいざい)などが置(お)かれていた。
「ここで、使ってみることができるんですか? わぁ、すごい…」
 女は男に、「やってみてよ」とお願(ねが)いした。男はボックスの蓋(ふた)を開けて、廃材を中に投(な)げ込んだ。廃材は、真っ暗な穴(あな)の中へ落ちて行った。
 係の者は二人が満足(まんぞく)そうにしているのを見て、他(ほか)の客(きゃく)の方へ行ってしまった。女はここぞとばかり、誰(だれ)も見ていないのを確認(かくにん)して、ボックスの前に立っていた男の背中(せなか)を押(お)した。男は、ボックスの中へ――消(き)えてしまった。女はボックスを覗(のぞ)き込んで呟(つぶや)いた。
「ごめんなさい。あたし、あきちゃったの。別の人に生まれ変わってね」
 ――消えた男が目を覚(さ)ますと、そこは巨大(きょだい)なゴミ捨(す)て場だった。彼の足下(あしもと)には、汚(よご)れた布団(ふとん)や衣類(いるい)が山のように積(つ)み重(かさ)なっていた。空を見上げると、捨(す)てられたものたちがまるで雨のように降(ふ)りつづいている。
<つぶやき>分解されるんじゃないんだ。でも、彼をリサイクルしちゃうのはやめましょ。
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0838「悪寒」

2020-03-19 18:19:29 | ブログ短編

 空(あ)き家(や)を前にして女が言った。「さっさと片(かた)づけましょ」
 隣(となり)にいた男が呟(つぶや)いた。「これって、役所(やくしょ)がやる仕事(しごと)なんですか?」
 女は男のことなどお構(かま)いなしに敷地(しきち)に入って行った。玄関(げんかん)まで来るとノブに手をかけて回してみる。すると、扉(とびら)が開いてしまった。
「開いてますね。中も調(しら)べちゃいましょ」女は家の中へ。
「ちょっとダメですよ。勝手(かって)に入っちゃ」男の方は何だか尻込(しりご)みしているようだ。
「大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。どうせ誰(だれ)も住んでなんかいないんですから」
 二人は家の中へ入って行った。家の中は埃(ほこり)まみれで、もう長いこと人が住んでいないようだ。でも家具(かぐ)とかはそのままになっていて、引っ越ししたようには見えなかった。台所へ行ってみると、食卓(しょくたく)には食器(しょっき)とかが並(なら)べられたままになっている。普通(ふつう)に考えれば、人が急にいなくなった感じ――。
 女の後ろにくっついていた男がささやいた。「平気(へいき)なんですか? 普通の女性なら…」
「あたしは平気です。これで、白骨死体(はっこつしたい)とかあれば最高(さいこう)なんですけど」
「なに言ってるんですか。やめて下さいよ、そういうの…僕(ぼく)は、ダメなんで…」
「あなた、男でしょ。そんなにびくつかなくても…。あたしの腕(うで)から手を離(はな)して下さい」
「あの、何か寒気(さむけ)がするんですけど…。ぜったい、何かいますって…」
<つぶやき>彼は翌日(よくじつ)、風邪(かぜ)で欠勤(けっきん)したそうです。何もなくて、ちょっと残念(ざんねん)かなって…。
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0837「本物の愛」

2020-03-18 18:16:54 | ブログ短編

「では、あなたがお付(つ)き合いしている男性(だんせい)が、ちゃんとあなたのことを愛(あい)しているのか…。彼の愛は本物(ほんもの)なのか…。それを知りたいというわけですね」
「はい。でも、ほんとうにそんなこと分かるんですか?」
「もちろんです。これは企業秘密(きぎょうひみつ)ですので詳(くわ)しいことはお話しできませんが、我々(われわれ)には人の心を覗(のぞ)き見(み)すことができるんです。そうですね…、一週間ほどお時間を下さい」
 ――客(きゃく)の女性は帰って行った。対応(たいおう)していた男は別室(べっしつ)に待機(たいき)していた女を呼(よ)んだ。この女、稀(まれ)に見る美女(びじょ)である。女は気の乗(の)らない素振(そぶ)りで言った。
「またですか? あたし、ただの事務員(じむいん)なんですけど…」
「これも仕事(しごと)のうちだ。いいか、今度の相手(あいて)はこいつだ」男は写真(しゃしん)を女に見せて言った。「どうだ? 真面目(まじめ)そうな男じゃないか。君の美貌(びぼう)なら簡単(かんたん)に落(お)ちそうだ」
「ほんとにいいんですか? そんなことしちゃって」
「かまわんさ。ここに来る連中(れんちゅう)は、心の中では別(わか)れたいと思っているやつらばかりだ。誰(だれ)かに背中(せなか)を押(お)されたいんだよ。我々が背中を押してやれば、彼女たちが後ろめたい気分(きぶん)を味(あじ)わうこともなくなるはずだ。これも人助(ひとだす)けだよ」
「なんか…、あたしの方が後ろめたくなっちゃうんですけど」
「これは仕事だよ。気にする必要(ひつよう)はない。それに、君に惹(ひ)かれるということは、その男の愛は本物じゃなかったということだ。我々は別に、でっち上げをしているわけじゃない」
<つぶやき>もし、こんな商売(しょうばい)が流行(はや)るようになったら…。本物の愛って、何なんでしょ。
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0836「向いてる?」

2020-03-17 18:13:52 | ブログ短編

 男が櫓(やぐら)の上に縛(しば)りつけられていた。その櫓の下にいた女が叫(さけ)んだ。
「後は任(まか)せて。ちゃんと仕留(しと)めてみせるから」
「ちょっと待てよ。どうして俺(おれ)が餌(えさ)にならなきゃいけないんだ?」
「なに言ってるのよ。あなたほど向(む)いてる人いないでしょ。その、体型(たいけい)とか…。とっても美味(おい)しそうに見える、気がするわ」
「そりゃ、ガリガリよりはいいかもしれないけど…。でもな、何で縛る必要(ひつよう)がある?」
「だって、あなた臆病(おくびょう)じゃない。もしあたしが攻撃(こうげき)するより前に逃(に)げ出されたら、ドラゴンやっつけられないでしょ」
「何だと…、俺は、逃げないよ。俺は臆病なんかじゃない! 今の言葉(ことば)、撤回(てっかい)しろ。これでも俺は勇者(ゆうしゃ)なんだ。今までどれほどのドラゴンを退治(たいじ)してきたと思ってるんだ」
「あら、そうなの? あたし、あなたのことよく知らないから…。でも、大丈夫(だいじょうぶ)よ。あたし、失敗(しっぱい)しないから。この最新(さいしん)の武器(ぶき)があれば、ドラゴンなんて木っ端微塵(こっぱみじん)に――」
「ちょ、ちょっと待てよ。木っ端微塵って…。そんなことしたら、俺も…」
「そうね…。でも、ちゃんと王様(おうさま)には言っといてあげるわ。あなたは勇敢(ゆうかん)に戦(たたか)ったって。そしたら、きっとあなたの銅像(どうぞう)とか建(た)ててもらえるかもよ」
「そんなのいらないよ。俺にもやらせてくれ。俺だってまだ戦えるんだ!」
<つぶやき>勇者は、最後の力をふりしぼって…。餌ではなくて、戦ったと信じたいです。
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