みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0056「逃亡者」

2017-07-29 20:08:53 | ブログ短編

 耕助(こうすけ)は夜中の二時に玄関(げんかん)のチャイムの音で目を覚(さ)ました。「誰(だれ)だよ、こんな時間に…」
「俺(おれ)だよ、一平(いっぺい)」外から声がして、「開けてくれよ」一平とは大学からの親友(しんゆう)だった。
 耕助が扉(とびら)を開けると、「頼(たの)む。かくまってくれ」一平は急いで扉を閉めて鍵(かぎ)をかけた。
「どうしたんだよ。何かあったのか?」
「それが…、ばれたんだ。あいつに見つかっちゃて…」
「えっ? 何の話しだよ」
「愛子(あいこ)だよ。愛子にへそくりが見つかって、それで逃(に)げてきたんだ」
「おい、マジかよ。何でそんなバカなことしたんだよ」
「俺だって、遊(あそ)ぶ金くらい…。それに、買いたい物もあったんだ」
「それ、まずいよ。悪いが、出てってくれないか」
「おい、親友を見捨(みす)てるのか? 頼むよ、お前のとこしか…」
「だからだよ。愛子さん、絶対(ぜったい)ここに来るから。俺まで、巻(ま)き込むなよ」
 その時、電話が鳴(な)り出した。二人は背筋(せすじ)に冷(つめ)たいものが走り、ぶるっと震(ふる)えた。
「きっと、愛子だ。いないって言ってくれ。俺は、来てないって…」
「そんなこと言って、後でばれたら…」
 今度は、玄関のチャイムが何度も押されて、扉がドンドンと叩(たた)かれた。そして、
「こんばんは。遅(おそ)くにすいません。うちの人、来てませんか?」
<つぶやき>隠(かく)しごと、してませんか? もしかすると、もうばれてるかもしれませんよ。
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0055「後ろ姿に恋した男」

2017-07-26 19:39:42 | ブログ短編

 小間物屋(こまものや)の若旦那(わかだんな)が寝込(ねこ)んでしまった。医者(いしゃ)を呼んで診(み)てもらっても、どこも悪いところはないと言われるばかり。――そこで若旦那によくよく話を聞いてみると、恋(こい)わずらいだと判明(はんめい)した。神社(じんじゃ)の祭礼(さいれい)で見かけた娘(むすめ)のことが忘(わす)れられず、苦(くる)しくて食事も喉(のど)を通らない始末(しまつ)。そこで、八方(はっぽう)手を尽(つ)くしてその娘を捜(さが)そうとしたのだが、顔(かお)が分からない。若旦那は後ろ姿(すがた)しか見ていなかったのだ。考えあぐねた主人(しゅじん)は、町内の火消(ひけ)しの棟梁(とうりよう)に相談(そうだん)した。
 棟梁は、それならばと、町内の娘を集めて、後ろ姿のお見合いをさせることになった。それを聞きつけた町内の娘たちは、我(われ)も我もと集まってきて、店の中はてんてこ舞(ま)いになってしまった。でも、あらかた見合いが終わっても、目当(めあ)ての娘は見つからなかった。
 そこへ小間使(こまづか)いの娘がお茶(ちゃ)を持って入って来た。若旦那はその娘の後ろ姿を見たとたん、
「あーっ、これだ!」
 その声に驚(おどろ)いたのは小間使いの娘。奉公(ほうこう)にあがったばかりだったので、何かそそうをしたのかと小さくなってしまった。主人は娘を呼び寄せて、
「おさと、お前、神社の祭礼に行ったのかい?」
「はい、お嬢(じょう)さんのお供(とも)で…。すいません、あたし、お嬢さんのお着物(きもの)を着て…」
「いいんだよ。おさと、これから毎朝、後ろ姿をこいつに見せてやってくれないか」
<つぶやき>この若旦那は、うぶなんです。でも、こんなこと言われても困りますよね。
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0054「妖怪樹」

2017-07-23 19:25:14 | ブログ短編

 森(もり)に囲(かこ)まれた小さな庵(いおり)。ここには風変(ふうが)わりな占(うらな)い師(し)が住んでいた。仕事(しごと)に行き詰(づ)まった男が、この場所(ばしょ)に引きつけられるようにやって来た。
「ほんとうに、こんなことで仕事がうまくいくんですか?」
「これはヤルキの種(たね)です。これを身体(からだ)に付(つ)ければ勢力(せいりょく)がみなぎり、仕事で成功(せいこう)すること間違(まちが)いなし。ただし、使用期間(しようきかん)は半年間です。半年後には、必(かなら)ずはずしに来て下さい」
 占い師は男の腕(うで)に種を押(お)しつけた。すると、種はホクロのように腕に張(は)り付き取れなくなった。男はこの日を境(さかい)に、精力的(せいりょくてき)に仕事をこなすようになった。成果(せいか)はみるみる上がり、平社員(ひらしゃいん)から部長へと異例(いれい)の昇進(しょうしん)をとげてしまった。
 半年たったある日、男のもとに一通(いっつう)のはがきが舞(ま)い込んだ。それはあの占い師からの警告(けいこく)の手紙(てがみ)で、種をはずしに来るようにと書かれていた。男は気にもとめずに、ゴミ箱に投(な)げ捨(す)てた。男は金(かね)も地位(ちい)も手に入れて、有頂天(うちょうてん)になっていたのだ。
 数日後、男は身体に異変(いへん)を感じた。頭(あたま)の上に小さなこぶが突(つ)き出て、それが日に日に大きくなっているようなのだ。男は慌(あわ)てて、あの占い師の庵を訪(おとず)れた。
「警告したはずですよ」占い師はそう言うと、「まあ、多少不便(たしょうふべん)なことはあるかもしれませんが、寿命(じゅみょう)も数百年は延(の)びましたし、この森にはお仲間(なかま)も大勢(おおぜい)いますから安心して下さい」
 男は頭がむずがゆくなってきたので手をやると、そこには小さな芽(め)が出始めていた。
<つぶやき>あまり欲張(よくば)りすぎるのはやめましょう。ほどほどが、ちょうどいいかも…。
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0053「わがままな天使」

2017-07-20 19:52:33 | ブログ短編

「ねえ、エンジェルのケーキが食べたい。買ってきて」
「今から? 無理(むり)だよ。だって、もう店は閉まってるし」
「どうしても食べたいの。私の言うこと何でもきくって言ったじゃない」
「そりゃ言ったけど…」
「買ってきてくれたら、私、手術(しゅじゅつ)してもいいんだけどなぁ」
「分かったよ。じゃあ、俺(おれ)が作ってやる。たしかケーキの本あったし…」
 くるみは武志(たけし)が本を探し始めると、悪戯(いたずら)っぽい目をして、胸(むね)を押(お)さえて苦(くる)しみだした。それを見た武志は駆(か)け寄ってきて、「くるみ! しっかりしろ。いま、救急車(きゅうきゅうしゃ)よんで…」
くるみは電話をしに行こうとする武志の腕(うで)をつかんで、「その前に、ケーキ買ってきて」
「くるみ…」武志はくるみの肩(かた)をつかんで、「ばか! 心配(しんぱい)させるなよ」
 くるみは武志の真剣(しんけん)な顔(かお)に驚(おどろ)いた。でも素直(すなお)に謝(あやま)れなくて、つい憎(にく)まれ口をたたいて、
「そんな顔しないでよ。どうせ、すぐ死ぬんだから」
「そんなこと言うなよ。先生だって、手術をすれば助(たす)かる可能性(かのうせい)だって…」
「ほんの少しだけね。今まで生きてこれたのは奇跡(きせき)なの。奇跡なんて、そう続(つづ)かないわ」
「くるみ、あきらめるなよ」
「もう、いい。私のことなんか、ほっといてよ」くるみはそう言うと、自分の部屋に駆け込んだ。武志はやるせない思いを押し殺(ころ)して、「今、ケーキ作ってやるから、待ってろよ」
<つぶやき>どうしようもない苦しみと悲しみを、どう乗り越えたらいいのでしょうか。
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0052「スキャンダル」

2017-07-17 19:29:10 | ブログ短編

 大企業(だいきぎょう)の給湯室(きゅうとうしつ)で女子社員たちが噂話(うわさばなし)で盛(も)り上がっていた。
「ねえ、部長(ぶちょう)が秘書課(ひしょか)の相沢芳恵(あいざわよしえ)と不倫(ふりん)してるんだって」
「ウソ…、それって確(たし)かな情報(じょうほう)なの?」
「間違(まちが)いないわよ。総務部(そうむぶ)の飯島(いいじま)さんの話だから」
「それは間違いないわ。飯島さんの情報網(じょうほうもう)は確かだもん」
 みんなの話を黙(だま)って聞いていた明美(あけみ)はため息をついた。それに気づいた女子社員の一人が、
「ねえ、どうしたの明美。さっきから、元気ないじゃない」
「別に…。仕事に戻(もど)りましょう。こんなとこでサボってると、また部長に怒(おこ)られるわよ」
「そうね。でも、部長って以外(いがい)よね。あんな顔でどうして女ができるんだろう」
「ほんとよね。これは、この会社の七不思議(ななふしぎ)のひとつだわ」
 明美は部屋に戻るとやりかけていた書類(しょるい)をまとめ、メモを付けて部長のデスクへ持っていった。部長は書類を受け取ると、明美の顔を見てにこりと笑って、
「ご苦労(くろう)さん。えっと…、例(れい)の件(けん)だけど、都合(つごう)はどうかね?」
「それが…」明美は微笑(ほほえ)み返すと、「メモに書いておきましたので」と一礼(いちれい)して、さっさと自分のデスクへ戻ってしまった。部長は怪訝(けげん)な顔をしてメモを見た。
<相沢さんと楽しんだんですか? もし、私と別れるつもりなら覚悟(かくご)しなさい。奥さんに言いつけるわよ。どうなっても知らないから!>
<つぶやき>これは恐怖です。でも、会社の七不思議って、他にはどんなのがあるのかな?
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