みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0824「自称天才」

2020-03-04 18:22:44 | ブログ短編

「やっと負(ま)けを認(みと)めたか。それでいい、俺(おれ)は天才(てんさい)だからな」
 男は笑(わら)いながら言った。
 負けを認めた探偵(たんてい)は、卑屈(ひくつ)になるでもなく穏(おだ)やかに話しかけた。
「君(きみ)は、最高(さいこう)の好敵手(こうてきしゅ)だ。お別れに、ハグさせてもらってもいいかな?」
「構(かま)わんよ。これでお終(しま)いだ。ここに人がやって来ることはないからな。静(しず)かに死(し)ねるぞ」
 男は出て行った。扉(とびら)の鍵(かぎ)をかける音が最後(さいご)に響(ひび)いた。――男が街(まち)へ戻(もど)ると、すぐに警官(けいかん)に取り囲(かこ)まれ連行(れんこう)された。だが、男は取り調べをする刑事(けいじ)に平然(へいぜん)と答えた。
「君たち凡人(ぼんじん)には、私の考えなど理解(りかい)できまい。どんなにあがいても、私が犯罪(はんざい)を犯(おか)した証拠(しょうこ)を見つけるなんて無理(むり)な話だ。私を釈放(しゃくほう)したまえ」
 刑事はにやりと笑うと、男の肩(かた)に手をかけて耳元(みみもと)にささやいた。「証拠ならあるさ。お前が持って来てくれたからな。わるいが、上着(うわぎ)を脱(ぬ)いでくれないか」
 刑事は上着をはぎとると、男の目の前に置いた。上着の背中(せなか)には一枚の紙(かみ)が貼(は)りつけてあった。そこには簡単(かんたん)な地図(ちず)と、この男は犯罪者(はんざいしゃ)だから警察(けいさつ)に連絡(れんらく)するようにと書かれてあった。男は憤慨(ふんがい)して声を荒(あら)げて叫(さけ)んだ。
「あの野郎(やろう)! 何てことをしてくれたんだ。俺の上着に――」
 刑事は男を座らせると勝ち誇(ほこ)ったように言った。「これで拉致監禁(らちかんきん)の罪(つみ)は免(まぬが)れないぞ。さあ、洗(あら)いざらい話してもらおうか。お前は天才なんだから、忘(わす)れたなんて通(とお)らないぞ」
<つぶやき>詰(つ)めの甘(あま)い天才は凡人と等しいのです。ところで、探偵は救出されたのか…。
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