みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0835「しずく82~抱擁」

2020-03-16 18:08:18 | ブログ連載~しずく

 男は思い出し笑(わら)いをすると、「そうだな、君(きみ)と初めて出会(であ)った時も…。あやうく死(し)にかけるところだった。あの事件(じけん)…、俺(おれ)の中ではまだ終(お)わってないんだ」
 柊(ひいらぎ)あずみはきっぱりと言った。「いけないわ。もう忘(わす)れて。あの事件のことは…」
「分かってるよ。上から一方的(いっぽうてき)に捜査(そうさ)を打(う)ち切られたんだ。もう俺には何もできない。それに、君も行方不明(ゆくえふめい)になっちまったからなぁ。俺は…、君もやられたんじゃないかと――」
「ありがとう。私は大丈夫(だいじょうぶ)よ。そう簡単(かんたん)には消(け)されないから」
「知ってるさ、君が俺よりも強(つよ)いってことは。俺の命(いのち)の恩人(おんじん)だからな」
「それは違(ちが)うわ。あれは、私があなたを巻(ま)き込んでしまったから…」
「また会えてよかったよ。これで、あの時の借(か)りを返すことができる。――早速(さっそく)だけど君が言ってた件(けん)、本庁(ほんちょう)では高校生が容疑者(ようぎしゃ)になってるやつはなかった。もう少し時間をくれないか? 所轄(しょかつ)でそういう事件があるか調(しら)べてみる」
「ありがとう、助(たす)かるわ。また、迷惑(めいわく)かけちゃうわね」
「よせよ。俺は、君のために何かしたいだけだ。俺にできることならいつでも言ってくれ」
 二人はしばらく見つめ合い、どちらからともなく唇(くちびる)をかさねた。
 男はあずみの耳元(みみもと)にささやいた。「いなくならないでくれ。もう、君と離(はな)れたくないんだ。頼(たの)むよ。俺の願(ねが)いをかなえてくれ…」
 二人は会えなかった時間を取り戻そうとするように、静(しず)かに抱(だ)き合った。
<つぶやき>あずみの過去(かこ)に何があったのでしょ。こんなロマンスがうまれていたとは…。
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0834「嗅ぎ分ける」

2020-03-15 18:15:26 | ブログ短編

 縛(しば)られた娘(むすめ)の前に、マントをひるがえし正義(せいぎ)の味方(みかた)が現れた。周(まわ)りにいた悪人(あくにん)どもをばったばったと、あっという間になぎ倒(たお)してしまった。正義の味方は娘に言った。
「もう大丈夫(だいじょうぶ)です。あなたを助(たす)けに来ました。怪我(けが)とか、してませんか?」
 娘は不機嫌(ふきげん)そうに答えた。「あのさ。あなた、本当(ほんとう)に正義の味方なの? だったら、何でもっと早く来てくれないのよ。あたしが、こんなことになる前に」
「そ、それは、ちょっと難(むずか)しいですね。事件(じけん)が起(お)きてからでないと…」
「なに言ってるのよ。あなたの能力(のうりょく)で、悪事(あくじ)を嗅(か)ぎ分けなさいよ。事件を未然(みぜん)に防(ふせ)ぐのが、本当(ほんとう)の正義の味方じゃないの?」
「うん…、それは…、確(たし)かにそうなんだけどね…。僕(ぼく)は…、犬(いぬ)じゃないんで、事件を嗅ぎ分けることは…、ちょっと無理(むり)かなぁ…」
「あ~ぁ、使えねぇ。ほんと、使えないわね。そんなんで、正義の味方だって、よく胸張(むねは)って言えるわね」
「いや、別に…、僕は胸張ってるつもりはないんだけど…」
 娘は足(あし)をばたつかせて、「早く、この縄(なわ)をほどきなさいよ。もう、痛(いた)くて死(し)にそうよ」
「ああ、そうでした。つい長話(ながばなし)をしてしまって…」
「ほんと、使えないわね。ぐずぐずしないでよ。――痛いってば、もっと優(やさ)しくほどきなさいよ。ほんとに、あなたって無器用(ぶきよう)すぎるわ。もう、最低(さいてい)よ」
<つぶやき>せっかく助けてもらったんですから、そんなに噛(か)みついちゃいけませんよ。
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0833「壮大な計画」

2020-03-14 18:27:58 | ブログ短編

 一戸建(いっこだ)てを手に入れたのを機(き)に、僕(ぼく)は壮大(そうだい)な計画(けいかく)を実行(じっこう)することにした。新しい家には小さいながらも庭(にわ)というものがある。そこに、一大(いちだい)ジオラマパークを造(つく)るのだ。今までは邪魔者扱(じゃまものあつか)いされて、小さなジオラマで我慢(がまん)するしかなかったが、今度こそ――。
 だが、この計画には大きな難問(なんもん)が控(ひか)えていた。それは、妻(つま)の存在(そんざい)だ。彼女は、まったく僕(ぼく)の趣味(しゅみ)を理解(りかい)しようともしなかった。だから、庭には花壇(かだん)を作るつもりでいるようだ。
 それを阻止(そし)するために、僕は子供(こども)たちを抱(だ)き込むことにした。上の男の子はまっ先(さき)に食(く)いついた。さすが、我(わ)が息子(むすこ)よ。しかし、下の娘(むすめ)は決(き)めかねているようだ。
 こうなったら、先手必勝(せんてひっしょう)――。既成事実(きせいじじつ)をつくってしまえば、後はなし崩(くず)しに…。僕は資材(しざい)を買い込んで庭に運び込むことにした。
 決行(けっこう)の日の朝。僕は、庭に出てみて驚(おどろ)いた。更地(さらち)だったはずなのに、小さな棒(ぼう)が杭(くい)のように何本も突(つ)き立ててあって、紐(ひも)で囲(かこ)いが作られていた。それは、庭の大部分を占(し)めている。いつの間にこんなものを…。これは妻の仕業(しわざ)に違(ちが)いない。
 しかし…、近寄(ちかよ)ってみて、僕は感心(かんしん)してしまった。実(じつ)に、まったく良(よ)くできている。まるで、本物(ほんもの)のようだ。囲いの前には小さな小さな看板(かんばん)が立ててあり、そこには〈私有地(しゆうち)につき立入禁止(たちいりきんし)〉と書かれてあった。
<つぶやき>ここは話し合った方が良いかもね。きっと解決策(かいけつさく)が見つかるかもしれません。
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0832「単純で複雑」

2020-03-13 18:14:35 | ブログ短編

 僕(ぼく)の彼女(かのじょ)はとても分かりやすい。思っていることがすぐに顔(かお)に出てしまうのだ。おかげで、いろんな局面(きょくめん)でとても助(たす)かっている。
 でも、今日の彼女は…、かなり機嫌(きげん)が悪(わる)そうだ。何かあったのか? まさか、僕のせいじゃないよな…。僕は、昨日(きのう)の出来事(できごと)を思い出してみた。しかし、彼女の機嫌をそこねるようなことは、何も思い当たらなかった。
 じゃあ、家で何かあったのか…。僕が知る限(かぎ)り、彼女の家族(かぞく)はとても仲(なか)が良い。僕は、彼女の家族が喧嘩(けんか)をする姿(すがた)を想像(そうぞう)できない。
 ――彼女は、さっきからずっと僕の方を睨(にら)みつけている。頬(ほお)を少し膨(ふく)らませて…。これはこれで、チャーミングだし、僕は嫌(きら)いじゃない。でも、僕がいちばん好きなのは彼女の笑っている顔だ。これに勝(まさ)るものは――。いけない、今はそんなこと言ってる場合(ばあい)じゃ…。
 僕は、彼女に訊(き)いてみた。すると彼女は、明らかに不機嫌(ふきげん)な調子(ちょうし)で答えた。「べつに…」
 間違(まちが)いない、彼女はすっごく怒(おこ)っている。こんな彼女は初めてだ。僕は恐(おそ)る恐る、
「何かあったの? 僕でよかったら、話し聞くけど…」
「あなたのせいよ。あなたがいけないんだから…」
 えっ、そんなこと言われても…。僕には、何のことかさっぱり分からない。すると彼女は、冷(つめ)たい目を僕に向(む)けて続けた。
「あたしの知らないところで、あんなことしてるなんて――」
<つぶやき>あんなことって…。何をやらかしちゃったんですか? 気になっちゃいます。
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0831「無人島」

2020-03-12 18:24:22 | ブログ短編

 この島(しま)にたどり着いて、一年が過(す)ぎようとしていた。幸(さいわ)いなことに、ここには水と食料(しょくりょう)になるものがふんだんにあったので、今まで生き延(の)びることができた。住む場所(ばしょ)も、こつこつと小さな小屋(こや)を建(た)てた。今では、快適(かいてき)に暮(く)らせるようになっている。
 私は、何ものにも縛(しば)られないこの生活(せいかつ)が気に入っていた。これほどの自由(じゆう)を感じたことはない。私だけの時間が、ここにはあった。
 そんな時だ。文明人(ぶんめいじん)たちが船(ふね)でやって来たのは――。彼らは探検(たんけん)と称(しょう)し、私の島を我(わ)が物顔(ものがお)に歩き回った。そして、私の小屋を見つけた時は大騒(おおさわ)ぎだった。彼らは言った。
「こんなところに人が住んでいるなんて…。遭難(そうなん)でもしたんですか? 私たちと一緒(いっしょ)に帰りましょう。私たちは、あなたを歓迎(かんげい)します」
 冗談(じょうだん)じゃない。私は、今の暮らしに満足(まんぞく)している。いまさら戻(もど)りたくもない。私の家族(かぞく)だって、もう死んだと思っているはずだ。きっと、清々(せいせい)しているに決まっている。私も、口うるさい妻(つま)の喚(わめ)き声を聞きたくもない。私はきっぱりと断(ことわ)った。
 彼らが帰るとき、私は彼らの船にあった予備(よび)の通信機材(つうしんきざい)を譲(ゆず)り受(う)けた。これさえあれば、ネットで必要(ひつよう)なものが注文(ちゅうもん)できるはずだ。ここでの生活がますます快適になるだろう。
 彼らが去(さ)った後、私は気がついた。私には、お金(かね)というものがないことを――。
<つぶやき>彼は何で無人島に来たんでしょうか? でも、ちょっとだけ憧(あこが)れちゃいます。
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