みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0422「幸運の使い」

2018-12-30 19:07:49 | ブログ短編

 私には運命(うんめい)の黒猫(くろねこ)がいる。私が勝手(かって)にそう呼(よ)んでいるだけで、自分ちの飼(か)い猫というわけではない。私の人生(じんせい)の転機(てんき)に、どこからともなく現れる。その猫が笑(わら)っていれば好運(こううん)、そうでなければ悪(わる)いことが起(お)きる。不思議(ふしぎ)に思うかもしれないが、実際(じっさい)そうなのだから仕方(しかた)がない。猫は笑わないっていう人もいるけど、ほんとに笑うんだから…。
 最初(さいしょ)に出会ったのは、私の大学入試(にゅうし)の頃(ころ)。でも、もっと前から知っているような気がした。その時は、笑った顔を見せてくれて、志望校(しぼうこう)に一発で合格(ごうかく)した。
 それから四年。今は就活(しゅうかつ)の真っ最中(さいちゅう)。何社も面接(めんせつ)を受けたが、何度も何度も落ちまくっている。面接の帰り道、あの黒猫に出くわしたが、笑った顔を見せてくれたことはなかった。ひどい時は、私の前に姿(すがた)すら見せてくれない。
 とうとう、私の好運もここまでか…。私は自暴自棄(じぼうじき)になりかけていた。回りのみんなは就職(しゅうしょく)が決まったと浮(う)かれまくり、私のことなんか気にもとめない。あの黒猫もきっとそうよ。私のことなんか忘(わす)れてしまったんだわ。
 私はたいして期待(きたい)もしないで、最後(さいご)の面接に向かった。この会社がダメなら、もうプー娘(こ)確定(かくてい)である。暗い気持ちで家を出る。しばらく歩いて行くと、目の前にあの黒猫が座(すわ)っていた。黒猫は私を見ると、満面(まんめん)の笑顔(えがお)で、「ニャ」と短く鳴(な)いた。
<つぶやき>誰(だれ)しもが幸運(こううん)を求めています。でも、そう簡単(かんたん)に手にすることはできません。
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0421「かげぼうし」

2018-12-29 18:04:53 | ブログ短編

 私のかげぼうしはおしゃべりだ。ことあるごとに私に話しかけてくる。それも、ほとんどが私へのダメ出しで、今日の服(ふく)は全然(ぜんぜん)似合(にあ)ってないとか、化粧(けしょう)が下手(へた)すぎ、などなど…。あげくは、そんなんだから彼氏(かれし)ができないのよ、と私に最後(さいご)のとどめを刺(さ)すのだ。
 最近(さいきん)はだいぶ慣(な)れてきて、聞き流(なが)すようにしている。それでも我慢(がまん)できない時は、日陰(ひかげ)に入る。そうすると、おしゃべりはピタリと止(や)んでしまう。
 かげぼうしの言ってることは正しいって、私もちゃんと自覚(じかく)してるし。私だって、それなりに勉強(べんきょう)して努力(どりょく)はしてるの。それなのに、真っ黒黒の影(かげ)にそんなこと言われたくない。
 今日は、知り合ったばかりの彼と初めてのデート。服装もバッチリだし、髪型(かみがた)やメイクも完璧(かんぺき)よ。これなら、私のかげぼうしもダメ出しなんかしてこないはず。
 待ち合わせの場所(ばしょ)で彼を待っている間、私のかげぼうしはひと言も話しかけてこなかった。私は何だが勝(か)ち誇(ほこ)った気分(きぶん)になる。彼が来ると、私たちは歩きだした。何だが二人ともぎこちなくて、手を握(にぎ)ることもできなかったけど…。
 私たちと同じように、二人の影(かげ)が目の前を歩いている。でもよく見ると、二人の影は手をつないでいた。そして、見る見るうちに二人の影が近づいてひとつになる。その時だ。私のかげぼうしがこっちを振(ふ)り返り、どうだと言わんばかりにニヤリと笑(わら)った。私は愕然(がくぜん)として、思わず彼の腕(うで)にしがみついてしまった。
<つぶやき>まごまごしていると、かげぼうしに先越(さきこ)されてしまうかも。ご注意(ちゅうい)下さい。
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0420「お見合い写真」

2018-12-28 18:39:55 | ブログ短編

 姉(あね)のお見合(みあ)い写真(しゃしん)を見せられた妹(いもうと)は、少し驚(おどろ)いた顔をして言った。
「これって、成人式(せいじんしき)の写真でしょ。何年前よ。こんなの使ったら詐欺(さぎ)でしょ」
 姉は面倒(めんど)くさそうに、「いいわよ。どうせ、誰(だれ)も目に止めないから」
「お姉ちゃん、そんなんだからね…。いいわ、私、知り合いのカメラマンに頼(たの)んであげる。その人ね、モデルの写真も撮(と)ってるから、きっと良い人見つかるわよ」
「いいわよ。あたしは、普通(ふつう)の写真で…」
「もう、お姉ちゃんが早く結婚(けっこん)してこの家継(つ)いでくれないと、私が継ぐことになっちゃうでしょ。長女(ちょうじょ)なんだから、もっとしっかりしてよ」
「何よそれ。あんたのほうが、あたしより家の仕事手伝(てつだ)ってるじゃない」
「そりゃするわよ。だって、これからいろいろ援助(えんじょ)してもらいたいし。そのためにやってるんでしょ。後を継ぐとか、そういうのとは関係(かんけい)ないから」
「あんたって要領(ようりょう)だけはいいんだから。あんたが継いだほうが父さん喜ぶんじゃないの?」
「イヤよ。私は、継ぐつもりなんて全くないわ。さっさと結婚して、この家、出て行くんだから。そのためにも、お姉ちゃんにはちゃんと結婚して、この家を継ぐって決心(けっしん)を示(しめ)してもらいたいの。そうじゃなきゃ、私、彼を紹介(しょうかい)できないでしょ」
<つぶやき>デキの良い妹を持つと色々と…。でも、この話、親が聞いたら泣(な)いちゃうね。
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0419「めんどくさい」

2018-12-27 18:44:39 | ブログ短編

 会社(かいしゃ)の給湯室(きゅうとうしつ)でお茶(ちゃ)の用意(ようい)をしていた和枝(かずえ)。急に上衣(うわぎ)を引っ張られてビクッとして振(ふ)り返ると、そこには後輩(こうはい)の海月(みつき)が立っていた。海月は困(こま)った顔をして和枝を見つめた。
 和枝は、またかと思いながら、「どうした? 何かあったの?」
 海月は和枝の間近(まぢか)まで寄(よ)って来て小さな声で、「どうしたらいいか、分かんないですぅ」
「ちょっと、近いよ」と和枝は海月から離(はな)れると、「仕事(しごと)のことだったら後で…」
「違(ちが)います。彼のことで…。あたし、先輩(せんぱい)が言ったように、昨日(きのう)、告白(こくはく)したんです」
 和枝は告白しちゃえばって、軽(かる)い気持ちで言ったことを思い出した。まさか、本当(ほんと)にするなんて。「ああ…、そうなんだ。それで…、やっぱりダメだった?」
「それが、いいよって。彼も、あたしのこと気になってたみたいで…」
「良かったじゃない」和枝はホッとして、「そうか、両思(りょうおも)いだったんだ」
「良くないです」海月は顔を曇(くも)らせて、「彼、全然(ぜんぜん)連絡(れんらく)とかしてくれないし…。あたし、ちゃんと電話番号やアドレスも教えたんですよ。これって、どういうことだと思います? もし、こっちから連絡とかしちゃったら、がっついてる女って思われたりするのかな。それとも、彼から何か言って来るまで待った方がいいですか? 先輩、教えて下さい!」
「いや、そんなこと言われても。私、あなたの彼のことまったく知らないし…」
「じゃあ、今度、彼に会って下さい。先輩の目で、あたしにふさわしい男かどうか――」
<つぶやき>面倒(めんど)くさい子はどこにでもいるのかもね。温かい目で見守(みまも)ってあげましょう。
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0418「思い出、買い取ります」

2018-12-26 19:05:28 | ブログ短編

 和美(かずみ)は二年も付き合っていた彼から、突然(とつぜん)別れを告(つ)げられた。しばらくは仕事(しごと)も手につかず、落ち込む日々を過(す)ごしていた。でも、いつまでもこんなことしていられない。和美は彼のことを吹(ふ)っ切ろうと、彼との思い出の品(しな)を箱(はこ)の中へ詰(つ)め込んだ。
 夜明け前。海岸(かいがん)の波打(なみう)ち際(ぎわ)に和美は来ていた。ここは、彼との思い出の場所(ばしょ)。楽しかった記憶(きおく)が甦(よみがえ)ってくる。和美は思わず涙(なみだ)ぐんでしまった。彼女は指(ゆび)にはめていた指輪(ゆびわ)をじっと見つめる。それは、彼からプレゼントされたものだった。朝日(あさひ)が顔を出し始めている。
 和美は意(い)を決したように指輪を外(はず)した。それを箱の中へ入れると、ガムテープでぐるぐる巻(ま)きにして…。和美は両手(りょうて)で箱を振(ふ)り上げると、それを海へ向かって――。
「ちょっと、何してるの! ここは、ゴミ捨(す)て場じゃないんだから」
 後(うし)ろから声がしたので、和美はビクッとして振り返る。そこにいたのは、ジャージ姿(すがた)の初老(しょろう)の男性。彼はうんざりしたような顔で言った。
「何があったら知らないけどさ、もったいないじゃないか。そんなことするより、この先に思い出の買い取り屋(や)があるから、そこへ持って行きなよ。まあ、いくらになるか分かんないけど、朝飯(あさめし)ぐらいは食(く)えるだろ。お腹(なか)がふくらめば、元気(げんき)も出るってもんだ。そうだ、美味(おい)しい魚(さかな)を食わしてくれるところがあるんだ。案内(あんない)してやろうか?」
<つぶやき>傷心(しょうしん)を癒(い)やしてくれる、この海岸にはそんなサプライズが用意(ようい)されています。
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