みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0008「いつか、あの場所で…」

2024-06-26 18:00:39 | 連載物語

 「大空に舞え、鯉のぼり」5
「さくら、ごめんな。あとよろしく」
<よろしくって。> そんな…。
「まったく…」高太郎君はまだ何か言いたげだったけど、私の方へ来て一言。
「こっち」
「えっ?」私が何のことか分からなくて戸惑っていると…。
「鯉のぼり」私と目を合わせないでまた一言。そのまま行ってしまう。
<ちょっと待って…。>
 私は彼の後を追って家の裏手へ。こんなところにも庭があるんだ。彼は上を見て、
「ほら」っと指さす。私はその指先を見上げる。
「わーっ、大きいーィ」思わずつぶやいちゃった。
 大きな鯉が風に揺れている。まるで生きているみたい。私は団地サイズの鯉のぼりしか見たことがなかった。こんな大きな鯉を間近で見られるなんて…。
「あのさ、こんなの普通だって」
<…そうなんだ。>
「ここ、けっこう眺めいいだろ。海だって見えるんだぜ」
「…ほんとだ」
 私は遠くに目をやる。ここは蛇行している坂道の上にあって周りがよく見渡せるの。私の家からだと、木とかあってあんまりよく見えないけど。ここからだとすごい。低い垣根の向こうに家が並んでいて、その向こうに海が輝いている。
「わーっ、きれいーィ」
「お前ってさ、何でも感動する奴だな」
「えっ、だって…」
「こんなの普通だって」
 また、普通って言われちゃった。でも、私にとっては初めて見るんだから仕方ないじゃない。
「ごめんな…」高太郎君が私の横でぽつりと言う。
<えっ?> ……。
「この間、言い過ぎた。ごめん」
 ぶっきらぼうに彼が言う。…何か言わなきゃ。でも、出て来た言葉は…、
「私もごめんなさい」それしか言えなかった。
<つぶやき>素直な気持ちになれれば良いんですが…。なかなか難しいですよね。
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0007「いつか、あの場所で…」

2024-05-31 17:59:48 | 連載物語

 「大空に舞え、鯉のぼり」4
「ねえ、さくらが鯉のぼり見たいって。そっちに行っていい?」
<そんなこと言ってないよ。>何でそんなこと言うの?
「別にいいけど…」なんか、怒ってる?
「もっとさ、愛想よくしなさいよ。さくらが怖がってるでしょう」
<いいよ、そんな…。>
「あのな、お前の方が怖いよ」そんなことないよ。優しいよ。
「まったく素直じゃないんだから」
「素直だったらお前とは付き合えないよ。もういいからさぁ、来たかったら早く来いよ」
「ほんとは嬉しいくせに…。高太郎も下りて来いよ」
「残念でした。いま勉強してるから…」
<そんな、会ってくれないの?>
「何の勉強だか。どうせまたプラモデル作ってるだけだろ」そんな趣味があるんだ。
「いま手が離せないんだよ。ぜったい邪魔するなよ」
「幼なじみだろう。来なかったらぶっ飛ばす」駄目だよ、暴力は…。
「そんなこと関係ないだろ。下に隆がいるから、じゃれてろ。ただし、泣かすなよ」
「隆、居るんだ! さくら、行くよ。早く、はやく!」
<なに? どうしたの?>
 私はゆかりに急き立てられて、訳も分からず連れて行かれた。初めて入る高太郎君の家。外からは気づかなかったけど、広い庭があって…。ゆかりは庭で遊んでいる子を見つけると、「たかしーぃ!」って叫んで抱きついた。まだ小さな男の子。高太郎君の従兄弟なんだって。たまにお母さんに連れられて実家のここに遊びに来る。隆君はゆかりのことが大好きで、「おねえちゃん、おねえちゃん」っていつも呼んでいるんだって。
<ゆかり、楽しそうだなぁ。>
 あっ…、高太郎君。…来てくれたんだ。私はどうしたらいいのか分からなくて、俯いてしまった。どうしてだろう。…なんか不思議な気持ち。
「また遅刻かよ。もっと早く来いよな」ゆかりは隆君を抱き上げて睨み付ける。
「ちょっと隆のことが心配だったから来ただけさ。お前の馬鹿力で、怪我でもさせられたら大変だからな」
「そんなことあるわけないだろ。隆は、おねえちゃんのこと好きだよなーぁ」
「おねえちゃん、すき」
 隆君は笑顔で答える。とっても可愛い子。私にもこんな弟がいたらなぁ。
「隆、こんな奴と付き合うと苦労するだけだぞ」真顔で言ってる。
「なに訳の分かんないこと言ってんの。もういいから、向こう行けよ」
「何だよ。ここは俺んちだぞ」
「邪魔なんだよ。お前はさくらの相手でもしてろ」
<えっ? 私は…。>どうしよう。二人だけは駄目だよ。ゆかり…。
<つぶやき>誰でも小さな時ってあるんです。あの頃は、素直で可愛くて。でも今は…。
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0006「いつか、あの場所で…」

2024-05-06 17:55:23 | 連載物語

 「大空に舞え、鯉のぼり」3
「こらっ!」突然、ゆかりが叫んだ。「高太郎、何してんの」窓から高太郎君が顔を出す。「さっきから、こそこそこそこそ」
「いいだろ別に何してても…。そっちこそ何してんだよ」
 窓越しに言葉が飛び交う。
「私たちはいま大事な話をしてるの。邪魔しないでね」
「どうだか…。迷惑かけてるんじゃないの」
「そっちこそ、覗いてたくせに」
「…誰が覗くか。お前さ、その性格なおした方がいいよ。ちょっとはその子見習って…」
「その子って? 誰のことかなぁ?」
「誰って…。ほら、その、隣にいる…」
「あんたさ、さくらのこと好きなんでしょう」
<えっ? そんな!>私は慌てて…、「私は違うから、そんなこと…」なに言ってるんだろう、私…。
「さくら、ほんとにこんなんでいいの? こいつ性格悪いよ」
<もう、ゆかりったら…。>
「お前に言われたくないよ。だいたいな、昔っからそうなんだよなぁ。いつも人に責任押しつけて。作じいの柿、盗んだときだって…」作じい? どっかのおじいさん?
「えっ、何のこと? 忘れちゃった」ゆかり、何したんだろう?
「なんにも知らない俺に、これあげるって言って柿、渡しただろ。俺が盗んだって思われて、作じいにむちゃくちゃ怒られたんだからな」
「あんたが鈍くさいからよ」
<それ違うよ、盗んじゃだめ。>
「ねえ、さくら。いいこと教えてあげる」
<えっ?> 私、ついていけない。
「高太郎ね、木から下りられなくなってビーィビーィ泣いたことあるの。可笑しいでしょう」
<えっ、そうなんだ。>
「なに言ってるんだよ。あれは、お前が下りられなくなったから、助けに行ってやったんだろう。忘れたのかよ」優しいとこもあるんだ。
「あれ、そうだったっけ? でも、情けないよなぁ。下見て足がすくんじゃって…」
「お前が、あんなとこまで登るからだろ」そんなに高かったのかな?
「まったく、都合の悪いことはいつも忘れるんだよなぁ」
 この二人、仲が良いのかな? 悪いのかな? いつも喧嘩ばかりしている。でも、二人とも楽しそうだ。相手のことが分かっているから、何でも言い合えるのかな? 私もこんな風になれるといいなぁ。二人の話には割り込めない。私はただ笑って見ているだけ。
<つぶやき>幼なじみっていいですよね。何でも言えるし。でも、近すぎるとかえって…。
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0005「いつか、あの場所で…」

2024-04-12 18:17:19 | 連載物語

 「大空に舞え、鯉のぼり」2
「違うの。高太郎君は悪くないの。…悪かったのは私の方なんだから」
 私はすべてを打ち明けた。どうしてゆかりと友達になったのか。そして、高太郎君が言ったことは間違っていないって…。これ以上、嘘をつきたくなかった。本当の自分を取り戻したかった。これで友達をなくすかもしれないけど…、それでもいいって思った。
 でも、ゆかりの反応はまるで違っていた。ゆかりは私の言ったことを笑い飛ばして…、
「なんだ、そんなことで悩んでたの? 気にしない、気にしない。私だって似たようなことしてるから。実はね、自分の部屋が欲しくて、いま根回ししてるとこなんだ」
 ゆかりは四人兄弟の三番目。彼女以外はみんな男ばかり。私は一人っ子だから羨ましいんだけど、ゆかりに言わせると生存競争が激しいんだって。自分の欲しいものは主張しないと手に入らない。自分だけの部屋なんて夢のよう、なんだって。
「一番上の兄ちゃんが一人部屋で、もう一つの部屋は三人で使ってて。不公平だと思わない? それでね、その兄ちゃんが大学へ行くために家を出て行く予定だから、その部屋を狙ってるんだ。でも、問題なのがちゅうにい」
「チュウニイ?」
「あっ、二番目の兄貴。こいつも狙っててね。ちょっと強敵なんだ。母ちゃんは味方してくれるけど、親父がね。男同士の絆ってけっこう強いでしょう。それを崩すために作戦を練ってるんだ。ま、見ててよ。親父なんて娘には弱いんだから。中学に入るまでには手に入れるから」
 私は感心してしまった。彼女の行動力というか…、すごい。私だったらとても生きていけない。そんな気がした。
「さくらはいいよなぁ。一人で使える部屋があって。ねえ、泊まりに来てもいい?」
「えっ? …うん、いいよ」つい言ってしまった。
「やった! 私んち男ばかりでしょう。話し合わなくてさぁ」
 けっこう強引なんだ。この後、たびたび泊まりに来るようになった。最初のうちは私も戸惑っていたけど、だんだんゆかりのことがほんとに好きになってしまった。なんだか私にも姉妹が出来たみたいで…。私の両親も良い友達が出来てよかったねって。友達とこんな付き合い方をしたのは初めてだった。なんかとっても新鮮な感じ。
 ここは都会とは違って隣近所の付き合いが親密みたい。縁続きの人とか、親同士が学校で同級生だったとか。ゆかりと高太郎君のところも同級生だったんだって。それで小さいときから一緒にいたんだ。ちょっぴり羨ましいなぁ。
<つぶやき>田舎っていうのは、人付き合いが大切なんです。助け合っていかないと…。
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0004「いつか、あの場所で…」

2024-03-19 17:57:41 | 連載物語

 「大空に舞え、鯉のぼり」1
 いつも引っ越してばかりで、私には故郷(ふるさと)と呼べるような場所はないんだ。転校したのだってこれで三回目。そのたびに友達を作り直さないといけない。これが結構大変なんだ。
 ママみたいにはなれない。ママはどこへ行ってもすぐに馴染んでしまう。これは才能の一つだわ。いつも感心しちゃう。私は不器用。それに…、みんなが思っているような良い子じゃない。可愛くもないし…。私は自分の顔が嫌いなんだ。この顔のせいでいつも苦労するの。もっとブスになりたい。本当の私は違うんだから。どこへ行ってもそうなんだ。いつも自分を装(よそお)って、みんなが思っているようになろうとしている。自分を誤魔化して…。
 今度だってそうなの。誰と友達になれば上手くやっていけるか。まず考えるのはこのことなの。これが今の私の唯一の才能なのかもしれない。ゆかりに近づいたのだって、彼女と友達になれば自分を守れると思ったから。…私はずるい子なのかもしれない。
 高太郎君の言ったことが、まだ私の中に突き刺さっている。自分の心の中を見抜かれてしまったような、そんな気がした。だから私も…。いつもならあんなことしないのに…。あれ以来、高太郎君とは気まずいままになってしまった。
 高太郎君は他の子とは違っていた。私を特別な目で見ないし、馴れ馴れしく話し掛けてくることもなかった。こんな子は初めてかもしれない。私もゆかりみたいになれたらいいのに。そしたらこんなカーテンなんか開けちゃって、彼に話し掛けることだって出来るのに…。もう一度やり直せたらどんなに良いか。…でも、私のこと嫌いだったら? もしそうだったらどうしよう。
 日曜日、ゆかりが突然やって来た。いつも元気だなぁ。悩み事なんかないみたい。
「よっ、さくら。何してるの? せっかくの休みなのに」
「別に…」
「何だよ、カーテン閉め切っちゃって。外、良い天気だぜ」
 ゆかりはカーテンを開けて、窓を全開にする。気持ちの良い風が吹き込んでくる。私の心のもやもやを晴らしてくれるように。
「あれ、あいつの部屋だ。こんなに近いんだ。ねっ、あいつと話したりしてる?」
「ううん…」
「いいなぁ、ここだったら夜遅くまで喋ってても怒られないよね」
 私はどう答えたらいいか分からなかった。ただ頷くだけ…。
「高太郎って良い奴だよ。ときどきバカやるけど。…あいつのこと嫌いになっちゃった?」
「そんなこと…」
「だったら、これから隣に行かない? 鯉のぼり、見に行こう」
 楽しそうにそう言って、私を強引に連れ出そうとする。私は突然のことに動転して…、
「行けないよ。私、嫌われてるもん」
「そんなことないって。いいわ、私が仲直りさせてあげる。もし高太郎がなんか言ったら、私がぶっ飛ばしてやるから」
<つぶやき>こんな頼もしい友達がいたら、頼ってしまうかもしれません。私は…。
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