みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0880「しずく91~不意打ち」

2020-04-30 18:11:24 | ブログ連載~しずく

 辺(あた)りは暗くなりかけていた。ほとんどの生徒(せいと)が下校(げこう)して、校内(こうない)は静まり返っている。校舎(こうしゃ)の屋上(おくじょう)に人影(ひとかげ)があった。教師(きょうし)の柊(ひいらぎ)あずみだ。彼女は誰(だれ)かと電話(でんわ)をしていた。そんな彼女の背後(はいご)に近づくものがいた。ゆっくりと気配(けはい)を消(け)して迫(せま)って行く。
 あずみがスマホを下ろすと同時(どうじ)に、細長(ほそなが)いものが彼女に向かって打ち下ろされた。あずみは近づくものの気配を感じ取っていたのだろう、難無(なんな)くかわすと攻撃者(こうげきしゃ)の襟元(えりもと)をつかんで投(な)げとばした。すると、「いてぇーっ」と攻撃者が声を上げた。
 その聞き覚えのある声にあずみは、「あなた…、何してるのよ!」
「くそっ、隙(すき)がるとあると思ったのに…」そう言って立ち上がったのは水木涼(みずきりょう)だ。
 あずみは呆(あき)れて言った。「怪我(けが)でもしたらどうするのよ。問題(もんだい)になっちゃうでしょ」
「私なら大丈夫(だいじょうぶ)よ。何の問題もないわ。それより、誰と話してたんですか? 先生の、彼氏(かれし)とか…? 何か、良い雰囲気(ふんいき)だったみたいだけど…」
「バカなこと言わないで。私の協力者(きょうりょくしゃ)よ。つくねを捜(さが)してもらってるの」
「で、見つかったんですか? つくねは無事(ぶじ)なんですよね」
「それがね、警察(けいさつ)じゃなかったみたい。あいつら…。別の手を考えるわ。打って付けの能力者(のうりょくしゃ)がいるの。最近(さいきん)、連絡(れんらく)が取れないんだけどね」
「もう、そんなんで大丈夫なんですか? 先生って意外(いがい)と抜(ぬ)けてる気がするんだけど…」
「あのね…。あなたは、もう帰りなさい。家の人に心配(しんぱい)かけちゃダメでしょ」
<つぶやき>リベンジってやつですよね。でも、不意打(ふいう)ちはちょっといただけませんよ。
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0879「記憶の彼方」

2020-04-29 18:09:22 | ブログ短編

 こんなことはないだろうか? 実際(じっさい)には有(あ)りもしないことが、本当(ほんとう)に有ったことのように感じてしまうことが――。
 彼はふとしたことから、ある記憶(きおく)が頭の中に湧(わ)き上がってきた。それは、道(みち)――。どこの道なのか分からない。でも、いつだったか通ったことのある道。それも何度も歩いたはずなのだ。それは田舎(いなか)にある道なのか、舗装(ほそう)もされていない細(ほそ)い道…。周(まわ)りには草(くさ)が生(お)い茂(しげ)りどこまでも続いていた。
 彼は思い出そうと試(こころ)みた。しかし、どうしてもそれ以上(いじょう)のことが思い出せない。この道はどこにあるのか、この道はどこへつながっていて自分(じぶん)はどこへ行ったのか…? どれだけ考えても、その答(こた)えは見つからなかった。
 あれは夢(ゆめ)だったのか――。きっとそうなのだろう。彼はそれで納得(なっとく)しようとした。でも、何かがひっかかるのだ。どうして、そんな夢を見たのだろう? それも何度も…。
 もし、彼が前世(ぜんせ)があると信じていたら、こう思うはずだ。これは前世の記憶(きおく)がよみがえってきたのだと。しかし、彼はとても現実的(げんじつてき)な人間(にんげん)だ。彼は、それ以上(いじょう)考えるのをやめてしまった。彼には他にやらなくてはいけないことが山ほどある。
 人間の記憶というのは不思議(ふしぎ)なものだ。それを突(つ)き詰(つ)めていくと、数限(かずかぎ)りない物語(ものがたり)が存在(そんざい)しているかもしれない。それをすべて作り話にしてしまっていいのだろうか?
<つぶやき>もし自分の記憶を書き加えることができるとしたら、どんな記憶にしますか?
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0878「おまもり」

2020-04-28 18:10:47 | ブログ短編

 私には二人の娘(むすめ)がいる。今年、次女(じじょ)の高校受験(こうこうじゅけん)を控(ひか)えていた。どこの家でもそうなのだろうが、我(わ)が家でもいろいろと気を使わなければならなくなっている。
 思い出すのは、長女(ちょうじょ)の大学(だいがく)受験の時のこと…。長女はおっとりしているというか、何があっても動(どう)じない性格(せいかく)のようで、家族(かぞく)の心配(しんぱい)をよそに無事(ぶじ)に合格(ごうかく)を勝(か)ち取った。それは良かったのだが――。次女の方が、これほど心配性(しんぱいしょう)だとは思わなかった。
 次女はどこで聞いてきたのか、〈落ちる〉とか〈すべる〉という言葉(ことば)に異常(いじょう)に反応(はんのう)していた。私たち夫婦(ふうふ)が長女の前でその言葉を口にしそうになると、大声をはり上げて制止(せいし)した。そして沢山(たくさん)のお守(まも)りを長女に手渡(てわた)して、二人で使っていた部屋も明(あ)け渡(わた)した。
 こんな彼女の初めての受験である。想像(そうぞう)できると思うが、姉(あね)のとき以上にピリピリとしているようだ。私が話しかけようとすると、すぐに口をとがらせてこう言うのだ。
「話しかけないで。勉強(べんきょう)に集中(しゅうちゅう)させてよ。あたしには時間がないの」
 こんな調子(ちょうし)で、最近(さいきん)はまともに話すこともできない。これは反抗期(はんこうき)ってやつなのか? 私はもう、どうしたらいいのか分からなくなっている。それでも、女同士(どうし)ではおしゃべりしているようで、妻(つま)や長女から話しを聞いてほっと胸(むね)をなで下ろしたりもしている。
 私は次女が寝静(ねしず)まるのを待って、彼女の勉強机(づくえ)にそっと受験のお守りを置いた。
<つぶやき>受験って大変(たいへん)ですよね。でも、受験に合格するのがゴールではありませんよ。
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0877「寒がり」

2020-04-27 18:11:51 | ブログ短編

 私は探偵(たんてい)。いつもクールにきめて事件(じけん)を解決(かいけつ)する。この業界(ぎょうかい)ではちょっと名の知れた有名人(ゆうめいじん)だ。依頼(いらい)の電話はしょっちゅうかかってきて、私の有能(ゆうのう)な助手(じょしゅ)たちは忙(いそが)しくても不平(ふへい)を言わず働(はたら)いてくれる。だから私はこうして――。
「所長(しょちょう)、何してるんですか? 依頼人(いらいにん)が待ってるんですから行きますよ」
「いや…、私は、今日は忙しいんだ。悪(わる)いが、君(きみ)だけで行ってきてくれ」
「はぁ? 忙しいって…、ずっとストーブの前にいるだけじゃないですか? いい加減(かげん)にして下さい。さあ、行きますよ。約束(やくそく)に遅(おく)れちゃいます」
「今日はダメなんだ。ほら、寒波(かんぱ)が来るって、天気予報(てんきよほう)で言ってたし…。それに、昼から雪(ゆき)になるかもしれないじゃないか。君だって知ってるだろ? 私が、寒(さむ)いの苦手(にがて)だって…」
「もう、いい加減にして下さい。これは、仕事(しごと)なんですよ。他のみんなは寒くても頑張(がんば)ってるんです。所長がそんなこと言ってていいんですか?」
「私だって頑張ってるよ。寒くないときは、もう、寝(ね)る間(ま)も惜(お)しんで働いてるじゃないか。だから、今日は君が依頼を聞いてきてくれ。そしたら私はここで推理(すいり)をして――」
「あの、ちょっと言わせてもらってもいいですか? 所長がここに籠(こ)もっていることで、どれだけみんなが迷惑(めいわく)してるか知ってますか? 所長がいれば簡単(かんたん)にすむことなのに、あれを確認(かくにん)しろとか、これはどうなってる、そこに痕跡(こんせき)はないか…。いちいち確認して、連絡(れんらく)して…。もう、時間の無駄(むだ)だと思うんですけど!」
<つぶやき>確(たし)かに、ごもっともです。でも、許(ゆる)してあげて下さい。寒がりなんですから。
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0876「卒業宣言」

2020-04-26 18:06:41 | ブログ短編

 元日(がんじつ)の朝。子供(こども)たちが眠(ねむ)そうな目をして食卓(しょくたく)についた。テーブルにはおせち料理(りょうり)が並(なら)び、お雑煮(ぞうに)の準備(じゅんび)もできている。父親はすでに祝(いわ)い酒(ざけ)をちびちびとやっていた。
 母親は子供たちが席(せき)につくと新年(しんねん)の挨拶(あいさつ)を交(か)わし、おもむろにこう宣言(せんげん)した。
「私たち、あなたたちの親(おや)から卒業(そつぎょう)します。あとは、自分(じぶん)たちでやっていきなさい」
 突然(とつぜん)のことに、子供たちは言葉(ことば)を失(うしな)った。長男(ちょうなん)は茶化(ちゃか)すように言った。
「…何だよ。もう、正月から変な冗談(じょうだん)言わないでよ」
 母親はにこやかに答(こた)えた。「冗談じゃないわよ。あなたも就職(しゅうしょく)して給料(きゅうりょう)もらってるんだから、家に食費(しょくひ)を入れるか、一人暮(ぐ)らしをするか決(き)めなさい」
 妹が控(ひか)え目に訊(き)いた。「あたしは…、まだ未成年(みせいねん)だからいいよね」
 母親は娘を見つめて言った。「あなたも、春には社会人(しゃかいじん)でしょ」
「そ、そうだけど…。あたし、まだここにいたいの…」
「あなたには、家事(かじ)のことは一通(ひととお)り教えてあるはずよ。いつ家庭(かてい)を持っても大丈夫(だいじょうぶ)」
「でも、でも、あたし、まだ結婚(けっこん)する相手(あいて)なんかいないわよ」
「じゃあ、相手が見つかるまで、明日からこの家の家事を任(まか)せるわね」
「そんなぁ、あたしにはムリよ。お母さんのようにはできないわ」
 母親は嬉(うれ)しそうに言った。「お父さん、私たちの第二の人生(じんせい)、楽(たの)しみましょうね」
<つぶやき>これは…、子供たちに投資(とうし)した分を取り戻(もど)そうってことかもしれませんね。
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