彼は数(かぞ)え切(き)れないほど生(う)まれ変(か)わっていた。大変(たいへん)なこともたくさんあったが、いろんな人たちと出会(であ)い人生(じんせい)を楽(たの)しんでいた。
あるとき、彼は面白(おもしろ)そうな本(ほん)を手に入れた。その本にはタイムマシンのことが事細(ことこま)かに書かれてあった。彼は何度(なんど)も何度も読み返(かえ)した。
それ以来(いらい)、彼は生まれ変わるたびにタイムマシンを造(つく)ることに熱中(ねっちゅう)した。今まで出会ってきた人たちとまた会いたい。そして、彼が最初(さいしょ)に生まれた時(とき)へ戻(もど)りたくなったのだ。
しかし、何度も生まれ変わって研究(けんきゅう)を続(つづ)けてみたが、タイムマシンを完成(かんせい)させることはできなかった。それでも彼はあきらめなかった。彼には時間(じかん)はたっぷりある。いつか必(かなら)ず完成(かんせい)させることができるはずだ。彼は確信(かくしん)していた。
――彼は不思議(ふしぎ)な夢(ゆめ)を見るようになった。今まで彼が出会ってきた人たちが現(あらわ)れる夢。しかも、最後(さいご)を迎(むか)えるときの…。いろんな別(わか)れがあった。病気(びょうき)で亡(な)くなったり、殺(ころ)された仲間(なかま)もいた。そして愛(あい)した人の死(し)もあった。深(ふか)い悲(かな)しみが、夢の中で彼を苦(くる)しめた。
人と別れることには慣(な)れていたはずだった。彼の決意(けつい)は揺(ゆ)らぎはじめた。また会ってどうするんだ? 人はいつかは死ぬんだ。それを変えることはできない。そうだけど…。
彼は何日も、何か月も考(かんが)え続けた。そして、続けようと決(き)めた。それでも、彼らと再会(さいかい)したいのだ。まだ話したいことがいっぱいある。後悔(こうかい)をなくしたいのだ。
<つぶやき>悔(く)いのない人生。もしそんな生き方ができたら、それが一番の幸(しあわ)せかもね。
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ブログ短編0679「お仕事」を再公開しました。
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「おまつりの夜」1
もうすぐ夏祭り。七夕まつりが始まる。私は初めてだから、わくわくしている。いつもは静かなこの町も、この三日間は騒がしくなるんだって。
商店街には大きな笹飾りが取り付けられて、屋台がいっぱい並ぶの。いろんなイベントもあるんだって。のど自慢とか、ヒーローショー、それに仮装行列。青年団や商店街の人たちが企画したゲームコーナー。聞いているだけで楽しくなってくる。最後の夜には花火が上がるんだって。海の花火! 私は一度も見たことがない。きっと奇麗なんだろうなぁ。
「ねえ、さくらはお祭り見に行く?」ゆかりが聞いてくる。私は、
「どうしようかな…」曖昧に答える。
実は、一緒に行ってくれる人がいないんだ。パパもママも町内会の手伝いで、私の相手をしている暇はない。一人で行くのは…。
私、方向音痴なんだ。この町には私の知らない場所がいっぱいある。知らない所に一人で行くのが怖いの。前に住んでいた所で迷子になったことがある。一人で泣きながら歩いていた。道を一本間違えただけだったのに…。
親切なおばさんが私を交番まで連れて行ってくれた。私が泣いてばかりで、何も話さなかったから…。
お巡りさんは私にお菓子をくれた。私は、それでやっと落ち着いた。お巡りさんに住所を聞かれたんだけど、まだ引っ越したばかりだったから覚えてなくて。でも、近所にあるお店を覚えていたから、そこまで連れて行ってもらって…。
なんとか家にたどり着いて、ほっとした。ママの顔を見たらまた泣いちゃった。それ以来、知らない場所に一人で行けなくなってしまったんだ。恥ずかしいけど…。
「私も行きたいんだけどなぁ」
「ゆかりは行かないの?」
「家の手伝いしないといけないから。親戚の人とか、お客さんがいっぱい来るの。ご馳走作るの手伝ったり、いろいろあるのよ。兄ちゃん達はどうせ遊びに行っちゃうし。弟は、あてにならないから」
…大変なんだ。と思いつつ、ゆかりが料理するところを想像できなかった。
「料理、出来るの?」思わず聞いちゃった。
「失礼しちゃうなぁ。私だって出来るわよ、それくらい」…そうなんだ。
「私も手伝ってあげようか? どうせ一人だから、暇なんだ」
実は、ゆかりが料理するのを見てみたかった。ちょっとした好奇心。ゆかりには内緒だけど…。
<つぶやき>人それぞれ、得手不得手があるものです。得意なことを極めましょう。
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朝(あさ)、目覚(めざ)めると、まったく知(し)らない場所(ばしょ)にいた。ここは…、どこなんだ?
起(お)き上がって周(まわ)りを見回(みまわ)す。まるで、子供部屋(こどもべや)だ。いや、子供部屋そのものだ。身体(からだ)に違和感(いわかん)を感(かん)じて手を見ると、小さくなっている。身体が全部(ぜんぶ)縮(ちぢ)んでしまったようだ。いや、違(ちが)う! 俺(おれ)は…子供になってるんだ。しかも女の子…?
俺はベッドから出ると部屋の中を歩(ある)き回った。そして、考(かんが)えた。どうしてこんなことになってしまったのか。でも、何も思いつかない。だって、昨夜(ゆうべ)はちゃんといつも通(どお)りに、自分(じぶん)の部屋でベッドに入って眠(ねむ)りについたはずだ。それなのに…。
こうなったら自力(じりき)で、自分の家(いえ)に帰(かえ)らなくては。でもどうやって…。そうだ、金(かね)だ。お金がなくては話(はなし)にならない。部屋の中を探(さが)し回ったが、見つかったのはブタの貯金箱(ちょきんばこ)だけだった。しかも、小銭(こぜに)しか入ってない。そりゃそうだ。小学生(しょうがくせい)が札束(さつたば)を貯(た)め込(こ)んでいるわけがない。ここは…、しばらくこの家にいるしかない。そう思い至(いた)った。
幸(さいわ)いなことに、この家の大人(おとな)は子供を大事(だいじ)に扱(あつか)っているようだ。それは、この部屋の様子(ようす)を見れば分かる。きっと多少(たしょう)のわがままも聞(き)いてくれるんじゃないのか?
ここで、俺はハッとした。そうだ、今日は大切(たいせつ)な商談(しょうだん)があるんだ。どうするんだよ!
子供の姿(すがた)じゃ行けないし…。もし、元(もと)に戻(もど)らなかったら? 小学生からやり直(なお)しかよ。
<つぶやき>ここはポジティブに考えて。別(べつ)の人生(じんせい)を歩(あゆ)んでいくのもありかもしれません。
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どこだかわからない何もない空間。ひとりの男が歩いてくる。
中年男「ここは、どこだ? 俺は何でこんなところに…」
暗闇から、老人がぬっと現れる。
老人「あなたは死んだんですよ。交通事故でした。あっけなかったですね」
中年男「死んだ…。俺は、死んだのか?」
老人「そうですよ。これからあなたは、長い旅に出ることになります。出発の前に、ひとつだけ願いをかなえることができますが、何かありますか?」
中年男「願い? じゃあ、生き返らせてくれ。俺は、あんたよりも若い。まだ、やりたいことがいっぱいあるんだ!」
老人「それは、無理です。では、他になければ…」
中年男「だったら、妻に会わせてくれ! せめて、女房には別れを言っておきたい」
老人はにっこり笑ってうなずくと、あたりはまばゆい光に包まれた。光が消えると、男の目の前に中年の女が立っていた。
中年女「あなた、何で死んじゃったのよ。まだ、家のローン、残ってるのよ」
中年男(女の顔を覗き込み)「誰だ、あんたは?」
中年女「あら、いやだ。私の顔、忘れちゃったの? もう、なんて人なの」
中年男「芳恵なのか? お前、そんな顔、してたんだ。そう言えば、お前の顔、じっくり見たことなかった気がするな…。(間)今まで、ありがとう。これで、さよならだ」
中年女「(明るく)後は心配しないで。あなたの保険金で、何とかやりくりするから」
女はまばゆい光にかき消される。光が消えると、男の子が現れる。
男の子「おじちゃん、出発の時間だよ」
中年男「ちょっと、待ってくれ。もう一人だけ、会いたい人がいるんだ」
男の子「どうしようかな? 願い事はひとつしか…」
中年男「いいじゃないか。ちょっと、面倒みてる子がいてね。俺が急にいなくなると…」
男の子「おじちゃんの恋人だよね。でも、会わないほうがいいと思うけど…」
中年男「さよならを言うだけなんだ。すぐ、すむから…」
また、光に包まれる。今度は、若い女が姿を現す。
若い女「おじさん! お金、持ってきてくれた?」
中年男(女の顔を覗き込んで)「お前、誰だ?」
若い女「なんだ、違うの? 今日は、会う日じゃないでしょ。私、忙しいんだから…」
中年男「嘘だ。俺の知ってる子は、もっと、奇麗で、スタイルもよくて…。こんな、そばかす顔のジャージ女じゃない。胸だって、もっとこう…」
若い女「ばっかじゃないの。私が、おやじと本気で付き合うわけないでしょ」
あたりは光に包まれ、女は光とともに消える。暗闇から老人が現れる。
老人「もう、心残りはありませんね。さあ、これがあなたの歩く道ですよ」
老人が指差すと、どこまでも続く道が現れる。男は先のない道をとぼとぼと歩き出す。
<つぶやき>私は心残りが一杯ありすぎて、願い事はひとつでは足りません。きっと…。
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