みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1134「付き添い」

2021-09-29 17:46:13 | ブログ短編

 今日は、彼女と始めてのデート。今までは友だちのひとりだったが、思い切って彼女に告白(こくはく)して、今日という日を向(む)かえた。彼は、そわそわしながら彼女を待った。
 ちょっと遅(おく)れて彼女がやって来た。彼女は、彼を見つけると小さく手を振(ふ)る。そして、彼もそれに答(こた)えて手を上げた。そこで彼は、おやっと思った。彼女の後ろに強面(こわもて)の男がついて来ていた。どう見ても、普通(ふつう)の人には見えない。
 彼は急(いそ)いで彼女の手をとると、その場を離(はな)れた。だが、どういう訳(わけ)か男がついて来る。
 彼は歩きながら小声で彼女に言った。「変(へん)な男が後ろからついて来てる」
 すると、彼女は突然(とつぜん)立ち止まり振(ふ)り返った。そして、男を睨(にら)みつけて言った。
「パパ! 何でついて来(く)んのよ。もう、いい加減(かげん)にして!」
 彼は唖然(あぜん)とした。この人が、彼女のお父さん? これは一体(いったい)どういうことだ。
 父親は彼女に、「心配(しんぱい)なんだ。お前は世間知(せけんし)らずだから、何かあったら…」
「あたしは、もう子供(こども)じゃないし、世間のことだってちゃんと知ってる。デートに親(おや)がついてくるなんてあり得(え)ないから」
「やっぱりデートなんだな。あの男か? お前をたぶらかした相手(あいて)は…」
 父親は、彼に向かって突進(とっしん)してきた。彼は、思わず両手(りょうて)を上げて、
「ちょ、ちょっと、待ってください。ぼ、僕(ぼく)は…。まだ…何もしてません…」
 父親は、彼の胸倉(むなぐら)をしめ上げて、「そうか…、何かするつもりだったんだな!」
<つぶやき>彼女と付き合うのも命(いのち)がけです。それでも、彼女のこと好きでいられます?
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1133「最後の言葉」

2021-09-27 17:34:28 | ブログ短編

「ねぇ、あなた。何をしてるんですか?」妻(つま)は昼食(ちゅうしょく)の片(かた)づけをしながら言った。
 夫(おっと)は難(むずか)しい顔をして、「いや…もしもの時のために、最後(さいご)の言葉(ことば)を考えてるんだよ」
「何ですか、それ?」妻は、夫が書きかけているのを覗(のぞ)き込むように言った。
 夫は手で隠(かく)しながら、「ダメだよ、見ちゃ。これは、僕(ぼく)が今際(いまわ)の際(きわ)に言うやつだから…」
「今際の際って…。よしてください、そんな縁起(えんぎ)でもないこと」
「だから、もしもの時のためだよ。死(し)ぬ前に、何も思いつかないかもしれないだろ」
「あなた、まだまだ元気(げんき)じゃないですか。それに、そんなに長文(ちょうぶん)じゃ覚(おぼ)えられないでしょ」
「ああ…。こ、これは、まだ推敲(すいこう)してるんだ。これから、短(みじか)くしていくさ」
 夫は何かを思いついたように、「そうだ。もし、君(きみ)が、僕の臨終(りんじゅう)に間(ま)に合わなかった時のことも考えないとな。やっぱり、ちゃんと書き残(のこ)しておくか…」
 妻は不機嫌(ふきげん)になって、「もう、そんなの必要(ひつよう)ないですから。言いたいことがあるんなら、あたしの顔を見るまで死なないでください」
「もちろんそうするよ。でも、どうなるか分かんないだろ」
「そんなことより、もっと他(ほか)にやることないんですか?」
「そうだなぁ。仕事(しごと)もリタイアしたし、時間(じかん)はたっぷりある。今から、子供(こども)たちのところへ行くか? 君が淋(さび)しくならないように、子供たちに頼(たの)んでおかないと…」
<つぶやき>準備万端(じゅんびばんたん)はいいのですが、奥(おく)さんを誘(さそ)って旅行(りょこう)でもしてきた方がいいのでは?
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1132「歴史の人」

2021-09-25 17:36:45 | ブログ短編

 久(ひさ)しぶりに会った友だち。何だか眠(ねむ)そうな顔をしていたので、彼女にどうしたのか訊(き)いてみた。すると、彼女はため息(いき)をついて答(こた)えた。
「あのね…。毎晩(まいばん)毎晩、変(へん)な人たちが出てきて、眠らせてくれないの…」
 よくよく訊いてみると、歴史(れきし)上の人物(じんぶつ)が彼女の前に現(あらわ)れるようになったみたい。
「昨夜(ゆうべ)はね、何かすごい着物(きもの)を着た人がやって来て…。その人、何か宮中(きゅうちゅう)から来たんだって。そんで、和歌(わか)を作れって、あたしに言うのよ」
「それは、すごいね。それって清少納言(せいしょうなごん)とか和泉式部(いずみしきぶ)かもしれないね」
「誰(だれ)よ、それ…。今(いま)、あたしの頭の中は、七五調(しちごちょう)の言葉(ことば)が飛(と)び交(か)ってるわ」
「じゃあ、和歌を作ってみてよ。きっとすごい歌(うた)ができるかもしれないよ」
「いやよ。あたし、そんなの興味(きょうみ)ないから…。その前の日はさ、変なおじさんが来ちゃって。あたし、着替(きが)えの途中(とちゅう)だったから、思わず叫(さけ)んじゃったわよ」
「へぇ、それは大変(たいへん)だったね。で、その人は…誰だったの? 教えてよ」
「そんなの、知らないわよ。何か、どっかの学長(がくちょう)をやってるって言ってたけど…」
「そうなんだ。もしかしたら、福沢諭吉(ふくざわゆきち)とか井上円了(いのうええんりょう)だったかもね。すごいわ」
「もう、ぜんぜん分かんないよ。朝までよ。勉強(べんきょう)しろとか…、お前は何か目指(めざ)すものはあるのかとか…。何で、夜中(よなか)に知らないおじさんに説教(せっきょう)されなきゃいけないのよ」
「ねぇえ…。わたし、泊(と)まりに行っていいかなぁ? わたし、歴史が大好(だいす)きなのよ」
<つぶやき>歴女(れきじょ)には最高(さいこう)のひと時かもしれませんね。でも、興味がない人には地獄(じごく)かも。
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1131「こそ泥」

2021-09-23 17:36:29 | ブログ短編

「何だよ、どうしてついて来るんだ? もう、どっかへ行ってくれよ」
 女の子は息(いき)を弾(はず)ませて、「だって、縛(しば)られてたあたしを助(たす)けてくれたじゃない」
「俺(おれ)は、別に助けたわけじゃ…。たまたま、入った倉庫(そうこ)にお前がいただけで…」
「でも、あそこの扉(とびら)には鍵(かぎ)がかかってたはずよ。よく入れたわね。あなた、泥棒(どろぼう)さん?」
「俺は……。もう…、そうだよ。俺は、ただのこそ泥(どろ)だ。もう、あっち行けよ」
 女の子はにっこり微笑(ほほえ)んで、「何を狙(ねら)ってたの? 倉庫の中は空(から)っぽだったのに…」
 男は苛(いら)つきながら、「だから、たまたま入ったって言っただろ。いい加減(かげん)に…」
「あの部屋(へや)にあった金庫(きんこ)でしょ? それ以外(いがい)に金目(かねめ)のものってないもの。ねぇ、あたしに協力(きょうりょく)してくれない? 金庫を開けて欲(ほ)しいの。あの中には犯罪(はんざい)の証拠(しょうこ)があるはずよ」
「ちょっと待ってくれよ。俺は、ただのこそ泥だ。警察(けいさつ)みたいな真似(まね)ができるかよ」
 ――男は、女の子とともに倉庫に戻(もど)っていた。こそ泥とはいっても、気のいい男のようだ。金庫のまえにつくと、手際(てぎわ)よくダイヤルを回して簡単(かんたん)に開けてしまった。
 女の子は思わず、「わぁ、すごい。あなたって、凄腕(すごうで)のこそ泥なのね」
 その時、大勢(おおぜい)の足音(あしおと)が聞こえてきて、部屋の中になだれ込んできた。
 先頭(せんとう)の男が言った。「警察だ。そこを動くな!」
 女の子は手を合わせて、「ごめんなさい。あたし、これでも刑事(けいじ)なんだ」
<つぶやき>この男、たまたま入ったわけじゃないかもね。同じ目的(もくてき)だったとしたら…。
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1130「しずく141~たくらみ」

2021-09-21 17:39:51 | ブログ連載~しずく

 首相官邸(しゅしょうかんてい)で、総理(そうり)を前にして側近(そっきん)の男が何かの報告(ほうこく)をしていた。総理は難(むずか)しい顔で、
「確(たし)か、能力者対策室(のうりょくしゃたいさくしつ)は前任(ぜんにん)の総理が解散(かいさん)させたと聞いているが…」
「それは…表向(おもてむ)きの話しでして、実(じつ)のところ活動(かつどう)は続けているようです」
「そうか…。で、そこの黒岩(くろいわ)という奴(やつ)が何かを企(たくら)んでいると言うのかね」
「まだ調査中(ちょうさちゅう)ですが、ほぼ間違(まちが)いないかと…」
「何をしようというんだ? まさか、この国を乗(の)っ取ろうとしているわけじゃ…」
 側近はうなずいて、「おそらく、最終的(さいしゅうてき)にはそういうことに…」
「なら、その黒岩を逮捕(たいほ)したまえ。罪状(ざいじょう)は後で何とでもなるだろ」
「しかし、黒岩の周(まわ)りには能力者(のうりょくしゃ)がいます。下手(へた)に手を出すと、まずいことになるかと」
「警察(けいさつ)がダメなら、特殊部隊(とくしゅぶたい)を動員(どういん)したまえ。相手(あいて)はこの国の敵(てき)なんだぞ」
「総理。能力者には能力者で対応(たいおう)した方がよろしいかと。超能力研究所(ちょうのうりょくけんきゅうしょ)の神崎(かんざき)というのが適任(てきにん)かと思います。彼なら、黒岩を押(お)さえ込むことができるはずです」
「その神崎というのは信用(しんよう)できるのかね? 黒岩とつながっているんじゃないのか」
「神崎は国を裏切(うらぎ)ることはないでしょう。研究資金(しきん)を出すといえば協力(きょうりょく)するはずです。ここは要人(ようじん)の警備(けいび)を万全(ばんぜん)にして、しばらく静観(せいかん)した方が得策(とくさく)かと…」
「分かった。すぐに手配(てはい)したまえ。まったく、能力者など消(け)してしまいたいよ」
<つぶやき>過激(かげき)な発言(はつげん)ですよ。能力者だって人間なんですから。そんなこと言っちゃ…。
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