みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1089「最後の事件」

2021-06-30 17:48:50 | ブログ短編

「先生(せんせい)、お元気(げんき)でしたか? 他(ほか)のみなさんに、迷惑(めいわく)とかかけてないでしょうね」
「ああ、小林君(こばやしくん)か…。いいところへ来た。さあ、出かけるぞ。依頼人(いらいにん)が待っている。これが、わしの最後(さいご)の事件(じけん)になるかもしれん。さぁ…行くぞ」
 小林と呼(よ)ばれた彼女は探偵(たんてい)の腕(うで)をつかんで押(お)し止(とど)めて、
「ちょっと待ってください。先生は、隠退(いんたい)したんですよ」
 探偵はゆっくりと振(ふ)り返ると、「……わしが、隠退? 何を…言ってるんだ。わしは…」
 彼女は探偵を座(すわ)らせると、「ここは老人(ろうじん)ホームなんですよ。依頼人が来るわけないじゃないですか。それに、あたしは〈小林〉じゃないです。あたしは、松本(まつもと)ゆかり…。先生の最後(さいご)の助手(じょしゅ)をしてました。覚(おぼ)えてないんですか?」
「松本…ゆかり…。ああ、そうだったなぁ。小林君はどうしたんだ? どこにいる?」
「小林君って、先生の最初(さいしょ)の助手をしてた方ですよね。あたしは、会ったことないですけど…。もう亡(な)くなってるって…、先生から聞かされてますけど…」
「わしが…。そうか…、そうだったなぁ。……で、最後の事件はどうなった? わしは、ちゃんと解決(かいけつ)できたんだろうなぁ? どうも…、頭(あたま)がぼんやりしてしまって…」
「先生、大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。最後の事件は、ちゃんと先生が解決しました。もう、すっごく格好(かっこ)良かったですよ。あの鬼頭刑事(きとうけいじ)が涙(なみだ)を流(なが)して口惜(くや)しがってましたから…」
「そうか…、それは良かった。……では、依頼をお聞かせください。お嬢(じょう)さん…」
<つぶやき>名探偵の最後の事件…。きっと歴史(れきし)に残(のこ)る事件だったのかもしれませんね。
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1088「生きる意味」

2021-06-28 17:42:22 | ブログ短編

 彼は何をやってもそつなくこなし、営業成績(えいぎょうせいせき)もトップクラス。他(ほか)の社員(しゃいん)からは羨望(せんぼう)の的(まと)に――。だが、彼はずっと物足(ものた)りなさを感じていた。何かが足りない。それが何なのか、彼には分からなかった。
 そんな時、入社(にゅうしゃ)してきた彼女と出会った。彼女はとっても無器用(ぶきよう)で、何をしても失敗(しっぱい)ばかり。みんなからはからかわれ、何の期待(きたい)もされていなかった。
 最初は、彼も他のみんなと同調(どうちょう)していた。でも、ひょんなことから彼は彼女のサポートをするようになった。彼女の仕事(しごと)を手伝(てつだ)い、仕事の段取(だんど)りを教(おし)えるようになったのだ。そんな二人を見て、他の社員も彼女のことを受け入れるようになっていった。
 彼は、ふと思った。何だか楽(たの)しい…。彼女と一緒(いっしょ)に仕事をしていると、今まで味(あじ)わったことのない満足感(まんぞくかん)があった。これは、何なんだろう? 彼は思いついた。
「そうか、僕(ぼく)はこの娘(こ)を待(ま)っていたのかも…。僕がここにいるのは彼女のためだったんだ」
 いつしか、この二人は付き合っているんじゃないかと噂(うわさ)が流(なが)れた。普通(ふつう)なら、そういう流れになるのだろうが、今回ばかりは様子(ようす)が違(ちが)うようだ。同僚(どうりょう)に訊(き)かれた彼女は、
「いやいや、それはないわよ。あの先輩(せんぱい)には、仕事のことを教えてもらってるだけで、それ以上(いじょう)のことは…。それに、先輩は、あたしの好(この)みじゃないし…。あたしね、ほんとうは、他に気になってる人がいるんだ。だから――」
<つぶやき>彼は、勘違(かんちが)い男ってことですね。ひょんなことって、何があったんでしょ?
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1087「人類絶滅」

2021-06-26 17:43:04 | ブログ短編

「では、次(つぎ)の課題(かだい)はこれにしましょう」
 先生(せんせい)らしき人物(じんぶつ)が言った。「私たちと同じ銀河(ぎんが)に属(ぞく)している恒星(こうせい)〈K052948〉の第三惑星(わくせい)についてです。以前(いぜん)、この惑星に知的生命体(ちてきせいめいたい)の存在(そんざい)を確認(かくにん)しました。しかし、最近(さいきん)の観測(かんそく)では生命体の存在を確認できなくなっています」
 生徒(せいと)らしき人物が発言(はつげん)した。「私たちの観測では、強いエネルギー反応(はんのう)を短時間に複数回とらえることができました。放射性物質(ほうしゃせいぶっしつ)も確認済(かくにんずみ)です。これは、生命体同士(どうし)で戦争(せんそう)が行われたのだと断定(だんてい)します。すでに絶滅(ぜつめつ)したことは間違(まちが)いないかと…」
 また別の生徒が、「あたしたちは、それ以前に、この星の環境(かんきょう)が急速(きゅうそく)に変化(へんか)していることを確認しています。それは、二酸化炭素(にさんかたんそ)の増加(ぞうか)による気温(きおん)の上昇(じょうしょう)です」
 うなずきながら話を聞いていた先生が言った。「なるほど…、興味深(きょうみぶか)いですね。では、これらのことを踏(ふ)まえて、何が起きたのかを推測(すいそく)してみましょう」
 いち早く手をあげた生徒が答えた。「これは文明(ぶんめい)の発達(はったつ)によって環境破壊(はかい)をまねき――」
 別の生徒が口を挟(はさ)んだ。「要(よう)するに、文明が未熟(みじゅく)で、自(みずか)ら滅(ほろ)んだってことだろ」
 また別の生徒が、「先生、この星に新しい知的生命体が生まれることってありますか?」
 先生が答えた。「それはないでしょう。もうすぐこの恒星は死を迎(むか)えます。第三惑星も恒星に呑(の)み込まれて消滅(しょうめつ)してしまいますから…」
<つぶやき>これは地球(ちきゅう)のことなのでしょうか? どこか遠くから観測されてるかもね。
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1086「皿がない」

2021-06-24 17:37:28 | ブログ短編

 妻(つま)は、家中(いえじゅう)を探(さが)し回っていた。義母(はは)から預(あず)かっていた皿(さら)が、一枚なくなっているのだ。
 それは十枚組の皿で、桐(きり)の箱(はこ)に収(おさ)まっていた。義母からは、親戚(しんせき)の集まりで、その皿に料理(りょうり)を盛(も)るのが恒例(こうれい)になっていると聞かされていた。その集まりが、明日、初めて我(わ)が家で開かれることになっている。
 仕事(しごと)から帰ってきた夫(おっと)に相談(そうだん)すると、夫はあっけらかんと答(こた)えた。
「ああ、あの皿ね。気にすることないよ。昔(むかし)からあるやつだけど、家宝(かほう)ってわけでも…」
「あなた、なに言ってるの? お義母(かあ)さまから預かったものよ。見つけなきゃダメでしょ」
 夫は、まったく気にすることなく風呂(ふろ)に行ってしまった。夫が風呂から出てくると、リビングの方からかすかに声が聞こえてきた。夫がリビングの前まで来ると、灯(あか)りが消(き)えている。目をこらすと、薄暗(うすぐら)いなかで妻が皿を数えていた。「四枚…、五枚…、六枚…」
 夫はリビングの灯りをつけると言った。「おい、何してるんだ?」
 妻は、夫を見るでもなく数え続ける。夫は妻に駆(か)け寄り、彼女の身体(からだ)をつかんだ。妻は、虚(うつ)ろな目をしている。そこへ、娘(むすめ)が帰ってきた。二人を見て、
「何してるの? あ、そうだ。この皿ね…」娘は鞄(かばん)から皿を出すと、「先生に見てもらったんだけど、江戸時代(えどじだい)ぐらいの皿じゃないかって言ってたわよ」
 妻は、皿を奪(うば)い取るようにつかむと、「十枚……。ああ…、やっとそろったわ」
<つぶやき>何かに取り憑(つ)かれたのでしょうか? もしそろわなかったら、どうなって…。
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1085「しずく132~写真」

2021-06-22 17:40:39 | ブログ連載~しずく

 学校(がっこう)を休んだ神崎(かんざき)つくねは、自分(じぶん)の部屋(へや)で転(うた)た寝(ね)をしていた。
 彼女は、また夢(ゆめ)を見た。そこは、監獄(かんごく)のような小さな部屋がいくつも並(なら)んでいた。その中のひとつの部屋の扉(とびら)が開(あ)いていて、中を覗(のぞ)くとどこかで見覚(みおぼ)えのある感(かん)じ……。つくねは何の迷(まよ)いもなくその部屋に入ると、ベッドに座(すわ)って壁(かべ)との隙間(すきま)に手を入れた。何でそんなことをしたのか彼女にも分からない。そして、一枚の写真(しゃしん)を取り出した。
 その写真に写(うつ)っていたのは、夢の中に出てきた女性だ。その横には幼(おさな)い頃(ころ)の自分の姿(すがた)が…。つくねは息(いき)を呑(の)んだ。彼女は混乱(こんらん)し、身体(からだ)が小刻(こきざ)みに震(ふる)えだした。押(お)さえがたいものが身体の奥底(おくそこ)から湧(わ)き出してきて、彼女は叫(さけ)び声をあげた。
 ――つくねは目を覚(さ)ました。そこは、夢で見たのと同じ場所(ばしょ)…。無意識(むいしき)に飛(と)んでしまったようだ。彼女は、わけが分からず回りを見回(みまわ)した。すると、扉の開いている部屋があった。彼女は何かに導(みちび)かれるように、その部屋に入り、同じベッドに座った。そして、夢でしたのと同じことを――。
 つくねは一枚の写真を握(にぎ)りしめていた。彼女は泣(な)いていた。なぜ涙(なみだ)が出てくるのか分からない。でも、ここに写っている女性(ひと)は自分にとって大切(たいせつ)な人だということは理解(りかい)した。
 ――別の部屋で、つくねの行動(こうどう)を監視(かんし)している者(もの)がいた。その人物(じんぶつ)は透視能力(とうしのうりょく)があるようだ。しばらくして、その人物は消(き)えてしまった。
<つぶやき>誰が見ていたのか? つくねが記憶を取り戻すのも近いのではないのかな?
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