みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0617「婚姻部」

2019-07-31 19:06:51 | ブログ短編

 20××年。結婚(けっこん)できない人工(じんこう)が増(ふ)え続けるのを抑(おさ)えようと、政府(せいふ)は財界(ざいかい)を巻(ま)き込んで思い切った政策(せいさく)を打ち出した。それは、会社婚(かいしゃこん)である。全国の様々(さまざま)な企業(きぎょう)に新たに婚姻部(こんいんぶ)を設(もう)けて、いろいろな企業同士(どうし)でお見合(みあ)いを薦(すす)めるのだ。とある企業でも…。
「部長(ぶちょう)、わたしに結婚しろとおっしゃるんですか?」
 婚姻部長を前にして中堅(ちゅうけん)の女子社員(しゃいん)が言った。部長はにこやかな顔で、
「わしもね、君(きみ)みたいな優秀(ゆうしゅう)な社員を失(うしな)うのは辛(つら)いところなんだ。でもね、君もそろそろ大台(おおだい)だろ? どうかね、ここらで、考えてみないかね」
 彼女は、ちょっと困(こま)ったような顔をした。すかさず部長は先を続ける。
「もし、君に好きな人がいるんなら、この話はなかったことにしてもいいんだ。でもね、そうじゃなかったら…。どうだろ、君にとっても、けして悪(わる)い話じゃないと思うんだ」
 彼女はまだ迷(まよ)っているようだ。今から別の会社へ行くなんて…。部長は、
「転職(てんしょく)するのは、不安(ふあん)もあるだろう。しかしね、向こうの会社へ行けば、君のスキルをもっと磨(みが)くことができるはずだ。――ああ、わしとしたことが…」
 部長は突然(とつぜん)声を上げて立ち上がると、デスクの上の見合(みあ)い写真(しゃしん)を持って来て、彼女にそれを見せ、「なかなかの人物(じんぶつ)と思うんだが…。今は課長(かちょう)をしててね。仕事一筋(ひとすじ)で、女性とは全く縁(えん)が無(な)かったみたいだ。もちろん夫婦(めおと)社員として、君には課長待遇(たいぐう)で――」
<つぶやき>夫婦社員とは、お互(たが)いに補(おぎな)い合って仕事(しごと)と家庭(かてい)を両立(りょうりつ)させる特別制度(とくべつせいど)です。
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0616「立ち直り」

2019-07-30 18:28:56 | ブログ短編

 閉店(へいてん)まぎわの居酒屋(いざかや)。客もまばらになった店内(てんない)で、女がジョッキのビールをガブ飲(の)みしていた。隣(となり)では、男が心配(しんぱい)そうに見つめている。女はビールを飲み干(ほ)すと男に言った。
「ねえ、あいつ、私のこと何て言ったと思う? 重(おも)たいって…。君(きみ)といると、僕(ぼく)は押(お)しつぶされそうだって…。何なのよ。私、ちっとも重たくなんかないでしょ」
 男は黙(だま)って女の話を聞いていた。女はまるで独(ひと)り言のように、早口(はやくち)で呟(つぶや)いた。
「私、知ってるのよ。あいつが、経理(けいり)の何とかって女と付き合ってるの。でも、私は…。私のこと、ちゃんと考えてくれてるって…。だって、結婚(けっこん)しようねって言ってくれたから」
 男は黙っていられなくなって、「沙代(さよ)ちゃんは、何も…。悪(わる)いのは、高木(たかぎ)だ! 沙代ちゃんがこんなに好きなのに…。もう、あんな奴(やつ)のことなんか忘(わす)れろよ! 俺(おれ)が…、俺が…」
 女は、男の顔をじっと見つめる。女の顔がゆがんでいき、大粒(おおつぶ)の涙(なみだ)が溢(あふ)れてきた。
「何で…、寛治(かんじ)のこと悪く言うのよ。バカ…、バカ、バカ!」
 女は、男の身体(からだ)を何度も叩(たた)いた。男にはちっとも痛(いた)くはなかった。でも男の心には、女の哀(かな)しみが刺(とげ)のように突き刺(さ)さった。男は、彼女を抱(だ)きしめようと手を伸(の)ばしかけた…。だが、女は急に立ち上がると涙を拭(ふ)き、男に笑(え)みをみせて言った。
「私、帰るね。今日は、ありがとう。おかげて、すっきりしたわ」
<つぶやき>こんな時、男は無力(むりょく)なのです。ひとこと好きだって、言っちゃえばいいのに。
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0615「しずく38~クグツ師」

2019-07-29 18:47:29 | ブログ連載~しずく

 月島(つきしま)しずくの声で、神崎(かんざき)つくねの狙(ねら)いがそれた。――パチンコ玉は水木涼(みずきりょう)の頬(ほお)をかすめて、後ろの木の小枝(こえだ)を打ち落とした。涼は力が抜(ぬ)けたように、その場に倒(たお)れ込んだ。
 つくねは叫(さけ)んだ。「何で止(と)めたの! こいつは、あなたを殺(ころ)そうとしたのよ」
「よかった。これで…」しずくはホッとしたように呟(つぶや)いて、意識(いしき)を失(うしな)った。
 つくねは慌(あわ)てて駆(か)け寄って、心配(しんぱい)そうにしずくを見つめる。そばにいた柊(ひいらぎ)あずみが、
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。気を失(うしな)っただけだから。さあ、ここから離(はな)れましょう」
 つくねは涼を睨(にら)みつけて、「こいつはどうするの?」
「この娘(こ)は、普通(ふつう)の人間みたいね。パワーを全(まった)く感じないわ。あなたはどう?」
「ええ、今はそうだけど…。でも、こいつはしずくを――」
「私ね、前に聞いたことがあるの。人を操(あやつ)る能力者(のうりょくしゃ)が存在(そんざい)するって。もし今回の相手(あいて)がそうだとすると、これは厄介(やっかい)なことになるわよ。本当(ほんとう)の敵(てき)を見分(みわ)けるのが、とっても難(むずか)しくなる」
 学校の保健室(ほけんしつ)のベッドに二人は寝(ね)かされていた。しずくのそばには、つくねが不機嫌(ふきげん)な顔で座(すわ)っていた。しずくが意識(いしき)を取り戻(もど)すと、つくねは顔を近づけて言った。
「バカ! 何やってるのよ。どれだけ心配したと思ってるの」
 しずくはきょとんとして、「な、何なの? そんなに怒(おこ)らなくても…」
 しずくは、横にあるベッドに涼が寝かさせているのを見て、かすかに微笑(ほほえ)んだ。
<つぶやき>彼女たちの敵って、誰(だれ)なんでしょう。これは、その戦(たたか)いの序章(じょしょう)にすぎない。
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0614「問題あり」

2019-07-28 18:29:08 | ブログ短編

 私の職場(しょくば)には、口癖(くちぐせ)のように「問題(もんだい)ないですよ」を繰(く)り返す後輩(こうはい)がいる。でも、それで問題が無(な)かったことは一度もない。いつしか、その後始末(あとしまつ)をするのが私の仕事(しごと)になっていた。上司(じょうし)から押(お)しつけられた感じはあったけど、他(ほか)にやれる人がいないのは確(たし)かである。
 私は、彼に仕事を覚(おぼ)えてもらおうと、何度(なんど)も何度も教(おし)えているのに…。私がいくら頑張(がんば)っても、何度注意(ちゅうい)しても、彼のやることはどこか抜(ぬ)けていて、やる気があるんだか無いんだか、まったく分からない。そして、今日もまた、彼は「問題ないですよ」を連発(れんぱつ)する。
 日頃(ひごろ)から温厚(おんこう)な私も、さすがに堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒(お)が切れかかっていた。そんな時だ。取引先(とりひきさき)から電話(でんわ)がかかってきた。納品(のうひん)した数量(すうりょう)が違(ちが)っていると――。注文書(ちゅうもんしょ)を確認(かくにん)すると、注文を受(う)けたのは、あの後輩だった。私は、彼を呼(よ)びつけて言った。
「あのね、この注文、数(かず)が一ケタ違(ちが)うじゃない。私、言ったよね。注文を受けたら、ちゃんと確認(かくにん)しなさいって。何で、こういう間違(まちが)いがおこるわけ」
 彼は、私の顔を見ようともしないで、「ああ、これですか…。問題ないですよ。先輩(せんぱい)がいるじゃないですか。あと、お願(ねが)いします。俺(おれ)、他に仕事があるんで」
 私の中で何かが切(き)れた。私は声を荒(あら)げて叫(さけ)んでいた。
「あんたね、私を何だと思ってるの! 私は、あんたのママじゃないんだから! これも、あんたの仕事でしょ。自分のケツぐらい、自分でふきなさいよ!」
<つぶやき>この気持(きも)ち、わかる。でも言い方には注意(ちゅうい)しましょう。落ち着いて対応(たいおう)を…。
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0613「甘え上手」

2019-07-27 18:20:47 | ブログ短編

 あいつは女子(じょし)に取り入るのが上手(うま)かった。いつの間にか仲良(なかよ)くなって、女子の輪(わ)の中に入って行く。俺(おれ)は、別に羨(うらや)ましいなんて思ってないけど…。でも、あいつがときどき俺の方を見て、どや顔(がお)をするのが気に食(く)わない。
 最近(さいきん)は保健室(ほけんしつ)に入り浸(びた)っているようだ。女子だけじゃなく、保健の先生(せんせい)にちょっかいだすなんて、絶対許(ゆる)せねえ。あの先生は、俺たちの憧(あこが)れの――。
 この間、保健室を覗(のぞ)いたとき、あいつがいて…。よりによって、あいつが先生に頭を撫(な)でられているとこを目撃(もくげき)してしまった。俺は、俺は、別に羨ましいなんて…。
 俺は心を決(き)めた。俺も、あいつのように――。どうすれば良いのかちゃんと分かってる。今まで、あいつのしていたことは全部(ぜんぶ)頭の中に入ってるんだ。後(あと)は行動(こうどう)に移(うつ)すだけだ。
 放課後(ほうかご)、俺は保健室を覗いてみた。生徒(せいと)は誰(だれ)もいなくて、先生だけが机(つくえ)に向かって仕事(しごと)をしていた。俺は保健室に入ると、あいつのしてたように声をかけた。多少、声がうわずってしまったが、これでつかみはOKだ。――そのはずだった。
 でも、先生は大笑(おおわら)いして、「何やってるの? あなたには似合(にあ)わないわよ、そんなこと。ねえぇ、人には向(む)き不向(ふむ)きがあるのよ。人の真似(まね)なんてしてないで、あなたらしいアプローチをしなさい。そうじゃないと、恋人(こいびと)なんてできないぞ」
<つぶやき>これが一番むずかしい。たくさん失敗(しっぱい)して、自分らしさを見つけましょう。
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