彼は、彼女に言った。「お願(ねが)いだ。一度、試(ため)してみたいんだ。いいだろ?」
彼女は突然(とつぜん)のことに動転(どうてん)したが、きっぱりと断(ことわ)った。彼は諦(あきら)めきれないようで、
「どうしてだい? そんなに難(むずか)しいことじゃないだろ。一度でいいんだ、頼(たの)むよ」
「何で、あたしにそんなこと頼むのよ。あたし、そんな、軽(かる)い女じゃないわ」
「いや、僕(ぼく)は、君が軽い女だなんて思ってないよ。ただ、どんな味(あじ)がするのか確(たし)かめてみたいんだ。僕が調(しら)べた限(かぎ)りでは、今はイチゴ味らしいんだよね」
「そ、そんなこと知らないわよ。それに、あたしたち、付き合ってるわけじゃないでしょ」
「別に付き合ってなくても…。ほら、外国では挨拶(あいさつ)みたいなもんだろ?」
「はぁ? なに言ってるのよ。ここは日本です」
「ほんとにダメなの? そうか…、なら、誰(だれ)か他の人に…」
「それはダメでしょ。――ならいいわよ。あたしのこと、好きって言ってくれたら…」
「えぇ…、どうしても言わなきゃダメ?…分かった。僕は、君が…好きだ。大好きだ!」
彼女は速攻(そっこう)で、彼にキスをした。彼は、一瞬(いっしゅん)、我(われ)を忘(わす)れたようだ。彼女は彼に訊(き)いた。
「どう? あたしの、キスの味は…。イチゴ味だった?」
彼はしばらく考えていたが、「これは…、イチゴというよりも、餃子(ギョーザ)…かな?」
彼女は顔を赤くして、「なに言ってんのよ。もう、二度としてあげないから!」
<つぶやき>彼女の昼食は中華(ちゅうか)だったのかも。でも、この二人、好意(こうい)を持ってますよね。
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