みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0007「いつか、あの場所で…」

2024-05-31 17:59:48 | 連載物語

 「大空に舞え、鯉のぼり」4
「ねえ、さくらが鯉のぼり見たいって。そっちに行っていい?」
<そんなこと言ってないよ。>何でそんなこと言うの?
「別にいいけど…」なんか、怒ってる?
「もっとさ、愛想よくしなさいよ。さくらが怖がってるでしょう」
<いいよ、そんな…。>
「あのな、お前の方が怖いよ」そんなことないよ。優しいよ。
「まったく素直じゃないんだから」
「素直だったらお前とは付き合えないよ。もういいからさぁ、来たかったら早く来いよ」
「ほんとは嬉しいくせに…。高太郎も下りて来いよ」
「残念でした。いま勉強してるから…」
<そんな、会ってくれないの?>
「何の勉強だか。どうせまたプラモデル作ってるだけだろ」そんな趣味があるんだ。
「いま手が離せないんだよ。ぜったい邪魔するなよ」
「幼なじみだろう。来なかったらぶっ飛ばす」駄目だよ、暴力は…。
「そんなこと関係ないだろ。下に隆がいるから、じゃれてろ。ただし、泣かすなよ」
「隆、居るんだ! さくら、行くよ。早く、はやく!」
<なに? どうしたの?>
 私はゆかりに急き立てられて、訳も分からず連れて行かれた。初めて入る高太郎君の家。外からは気づかなかったけど、広い庭があって…。ゆかりは庭で遊んでいる子を見つけると、「たかしーぃ!」って叫んで抱きついた。まだ小さな男の子。高太郎君の従兄弟なんだって。たまにお母さんに連れられて実家のここに遊びに来る。隆君はゆかりのことが大好きで、「おねえちゃん、おねえちゃん」っていつも呼んでいるんだって。
<ゆかり、楽しそうだなぁ。>
 あっ…、高太郎君。…来てくれたんだ。私はどうしたらいいのか分からなくて、俯いてしまった。どうしてだろう。…なんか不思議な気持ち。
「また遅刻かよ。もっと早く来いよな」ゆかりは隆君を抱き上げて睨み付ける。
「ちょっと隆のことが心配だったから来ただけさ。お前の馬鹿力で、怪我でもさせられたら大変だからな」
「そんなことあるわけないだろ。隆は、おねえちゃんのこと好きだよなーぁ」
「おねえちゃん、すき」
 隆君は笑顔で答える。とっても可愛い子。私にもこんな弟がいたらなぁ。
「隆、こんな奴と付き合うと苦労するだけだぞ」真顔で言ってる。
「なに訳の分かんないこと言ってんの。もういいから、向こう行けよ」
「何だよ。ここは俺んちだぞ」
「邪魔なんだよ。お前はさくらの相手でもしてろ」
<えっ? 私は…。>どうしよう。二人だけは駄目だよ。ゆかり…。
<つぶやき>誰でも小さな時ってあるんです。あの頃は、素直で可愛くて。でも今は…。
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1459「侵される」

2024-05-27 18:05:12 | ブログ短編

 彼にはルーティンがあった。朝(あさ)起きたときとか、出かけるときとか、自分(じぶん)で決(き)めた手順(てじゅん)を繰(く)り返す。そういうの誰(だれ)にでも多少(たしょう)はあると思う。でも、彼の場合は、そういうこだわりが他(ほか)の人より強(つよ)いようだ。几帳面(きちょうめん)すぎるのかもしれない。
 そんな彼の前に、見知(みし)らぬ女性が現れた。その彼女は、どういうわけか彼のことが好きになってしまったようだ。一目惚(ひとめぼ)れってヤツなのだろうか、彼女は彼にぐいぐいと迫(せま)っていった。そして彼の返事(へんじ)も聞かずに、彼女は彼と付き合うことになったと公言(こうげん)した。
 どうも彼女は押(お)しの強い女性のようだ。それに、かなり大らかな性格(せいかく)なのか…。彼は控(ひか)え目なところがあるので、どんどん彼女に押し切られていく。そして、彼は自分のルーティンを完全(かんぜん)に崩(くず)されてしまった。
 そして、とうとう彼女が彼の部屋(へや)へ――。これは、彼が誘(さそ)ったわけではない。彼女が無理(むり)やり約束(やくそく)させたのだ。ここへきて、彼の我慢(がまん)は限界(げんかい)を迎(むか)えた。自分の生活(せいかつ)の場(ば)まで侵(おか)されてはたまらない。彼は、今日こそはっきりさせようと決意(けつい)した。
 約束の日。待(ま)ち合わせの場所(ばしょ)で彼は彼女を待っていた。でも、約束の時間になっても彼女は現れなかった。彼は電話(でんわ)をかけてみた。電話に出た彼女はか細(ぼそ)い声で、
「ごめんなさい。ちょっと、風邪(かぜ)をひいたみたいで……」
 声(こえ)が途切(とぎ)れる。彼は思わず言ってしまった。
「住所(じゅうしょ)を教(おし)えてください。今から、そっちへ行くから…。僕(ぼく)が…助(たす)けます」
<つぶやき>これは、ほっておけませんよね。苦手(にがて)な人でも助けてあげないといけません。
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0006「人生の選択」

2024-05-22 17:57:11 | 超短編戯曲

   お洒落なバーで、若い男女が人生の大切な場面をむかえていた。
真理「ねえ、いつもの居酒屋でよかったのに。ここ、高いんじゃないの?」
貢 「あのさ、今日は…。静かなところがいいかなと思って」
真理「えっ? どうしたのよ。なんか、いつものみつぐじゃなぁい」
貢 「俺たち、もう付き合い始めて二年だろ。そろそろ…」
真理「もうそんなに。早いよね。私も、もうお肌の曲がり角かな。なんて」
貢 「だから、その…。ここらへんで、けじめというか…」
真理「なに? もしかして、他に好きな人できちゃったの?」
貢 「そうじゃなくて…。ぼ、僕と…。け、けっ…、結婚しよう!」
真理(結婚と聞いて、すぐに即答する)「無理」
貢 「えっ? なんで…」
真理「私たち、このままでいいじゃない。結婚なんて…」
貢 「だって、俺たち好きあってるんじゃ…」
真理「そうよ。私、みつぐのこと大好きよ。でも、結婚は無理なの」
貢 「わけ分かんないよ。大好きだったら、結婚ってことになるでしょう」
真理「オダマリ!」
貢 「えっ…」
真理「私、結婚したら尾田真理になるのよ。そんなの、ありえないでしょう」
貢 「はぁ? なに言ってるの。いい名前じゃない、尾田真理って」
真理「じゃあ、もし子供ができて、病院の待合室で<オダマリ!>を連呼されても平気でいられるの? 私は、無理。恥ずかしくて耐えられない」
貢 「そんなこと、こだわることじゃないでしょう。俺たちの愛にくらべたら…」
真理「だったら、みつぐが婿養子に来てよ。どうせ次男なんだから、いいでしょう」
貢 「それは…。その、養子は…」
真理「こっちはお姉ちゃんと二人だから、どっちかが継がないといけないんだから」
貢 「そんなこと言っても、俺も、無理だよ」
真理「なんでよ。私のこと愛してるんでしょう。だったら、それくらい…」
貢 「<タダのみつぐ>だよ。なんか、嫌なんだよなぁ」
真理「なによ。只野のどこが悪いのよ。只野家をバカにしてるの?」
貢 「だって、いままでさんざん君に貢いでるのに、それが名前になるんだよ」
真理「オダマリ! 私より名前にこだわるわけね。もういい、別れましょう」
貢 「えっ! なに言ってるんだよ。最初にこだわったのは君じゃないか」
   二人とも黙り込んでしまう。なんともいやな間。
二人で 「あの…」(ばつの悪い間)
真理「私…。やっぱり、別れたくない。みつぐのこと大好きだから…」
貢 「僕も、真理のとこ大好きだよ。もう一度、養子のこと考えてみるから…」
   二人、手を取り見つめ合う。この二人の未来は明るいのか?
<つぶやき>こんなことはそうあることでは…。でも、名字が変わるって変な感じかも。
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1458「不死身」

2024-05-18 18:07:43 | ブログ短編

 この男、不死身(ふじみ)の身体(からだ)を持っていた。見た目は若造(わかぞう)だが、もう千年以上(いじょう)生きている。彼は転々(てんてん)としながら暮(く)らしていた。歳(とし)を取らないので同じ場所(ばしょ)に落ち着いてしまうと、まずいことになるからだ。ここ数年は都会(とかい)にいて占(うらな)いの仕事(しごと)をしていた。人間(にんげん)の悩(なや)みは何百年たっても同じみたいだ。
 そんな彼の前に一人の若(わか)い女が現れた。彼女は人を捜(さが)していると…。彼は、人捜しなら他(ほか)をあたった方がいいと断(ことわ)った。しかし彼女はどうしても引き下がらない。彼女は、
「これは、あたしの感(かん)なんです。あなたなら見つけられるはずです」
 彼は困(こま)った顔で女を見つめた。ふと、この顔…どこかで見たような…。彼女は続(つづ)けた。
「名前(なまえ)は真之助(しんのすけ)といいます。歳は、あなたぐらいかなぁ。それと…顔は分からないんです」
 彼は驚(おどろ)いた。真之助は昔(むかし)の自分(じぶん)の名(な)だ。この女は…何者(なにもの)なんだ? 彼は探(さぐ)るように、
「そんなざっくりでは捜しようがないですね。だから占いで…ということですか?」
「まぁ…。その人は京都(きょうと)に住(す)んでいたんです。もうずいぶん前に…。これは先祖(せんぞ)から託(たく)されたことなんです。祖母(そぼ)も母(はは)もずっと捜していました。今度は、私の番(ばん)なんです」
 彼ははっきりと思い出した。平安(へいあん)の頃(ころ)、京の都(みやこ)で恋(こい)に落(お)ちた女に似(に)ている。
 彼女は続けた。「私、その人と添(そ)いとげて…赤ちゃんを授(さず)からないといけないんです」
「バカなことを…。そいつはとっくに死(し)んでる。そんなことは止(や)めるべきだ」
「いやです。私の身体がそれを求(もと)めているんです。これは我(わ)が一族(いちぞく)の使命(しめい)なんです」
<つぶやき>もし先祖からこんなことを託されたら…。どうしたらいいんだ? 困るよね。
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0003「怪事件ファイル」

2024-05-14 17:56:46 | 短編物語

 「蜘蛛の糸」3
 どれほど時間がたったのか、太陽が西の山に隠れようとしていた。二人は茂みや藪の中を探し回り、へとへとに疲れ果てていた。
「日が沈む前に見つけないと」山田は西の空を見てつぶやいた。
「ねえ! 本当にあるんですか?」東側の斜面を探していたいちごが叫んだ。
「ええ、どこかにあるはずなんですが」山田は自信なげに答えるしかなかった。
「まったく、何で私がこんなことしなきゃいけないのよ」いちごは汚れた服を気にしながらつぶやいた。いちごの髪にはクモの巣がはりつき、顔や手は泥だらけになっていた。
 その時、穴の前でおとなしく座っていたアリスが異様な声で鳴き始めた。その鳴き声に混じって、がさごそと何かが這い出してくるような無気味な音が聞こえはじめた。
「まずい!」山田はそう叫ぶと祠に駆け寄った。そして、祠を元の位置に戻して穴を塞いだ。アリスは山田のそばで、鋭い唸り声を繰り返した。
「どうしたんですか!」そのただならぬ様子を見ていちごが叫んだ。
「そこにいて下さい!」山田はそう言うとリュックから御札を取り出して、何やら呪文を唱え始めた。そして、その御札を祠に貼り付けた。すると無気味な音が消え、アリスもおとなしくなった。山田はいちごに向かって、「急いで見つけて下さい。お願いします」
「そんなこと言われても…」いちごはそう言いながらも、あたりを手当たり次第に探し回ってみた。でも、どんなにあせってみてもなかなか見つからなかった。なかばあきらめかけていたとき、ドンという音とともに地面が揺れるのを感じた。驚いたいちごが顔をあげると、山田が押さえていた祠が大きく揺れていた。何かが穴の中から突き上げているようだ。山田は必死になって祠を押さえ、アリスもさっきよりも大きな声で唸りだした。
「山田さん!」いちごはそう叫ぶと、足場の悪い斜面を降りて行った。
「来るな!」山田はいちごに叫んだ。「もう間に合いません。早く逃げて下さい!」
「そんなことできるわけないでしょう」そう言った途端に、いちごは足を滑らせて転んでしまった。ちょうど日が沈む時の最後の明かりが、あたりを一瞬、明るく照らし出した。
 その明かりを反射したのか、いちごは下草の中に光るものを見つけた。手を伸ばして草をかき分けてみると、そこには探していた封印石が光り輝いていた。
「あった!」いちごは嬉しさのあまりそう叫ぶと、斜面を転がるように駈け降りていった。
 廃屋の中で疲れ切った顔の二人が、囲炉裏の灯(ひ)を囲んで簡単な食事をとっていた。
「あれは、何だったんですか?」いちごは食事の手を止めて訊いた。
「さあ、何だったんでしょう」山田はあいまいに答えた。「この村の伝説では、昔、この辺りに大蜘蛛がいたそうです。たびたび作物が荒らされたり、村人が襲われたりして困っていた。そんな時、村に偉い修験者がやって来て、あの塚に大蜘蛛を封じ込めたそうです」
「その伝説とあの被害者と、どういう関係があるの?」
「たぶん、被害者が封印石を動かしたんでしょう。それで狙われたんだと思います」
「そんなバカな。でも、係長にどう報告するのよ。こんなこと、信じてもらえないわ」
 山田は微笑んで、横で寝ているアリスの頭をなでた。雲里村は暗闇に包まれていた。
<つぶやき>事件解決。でも、二人には次の怪事件が待っていた。それは、次の機会に…。
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