みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0046「笑顔が一番」

2017-06-29 19:35:18 | ブログ短編

 光恵(みつえ)は彼と暮(く)らし始めて二年目を迎(むか)えた。彼女は彼のことを愛している。彼のためなら何でもしたいし、どんな苦労(くろう)もいとわなかった。結婚はしていなかったが、二人の愛は永遠(えいえん)に続くと、彼女は信(しん)じていた。でも彼の方は…。彼の心はいつの間にか離(はな)れていたようだ。
 光恵がそのことに気づいたのは、仕事から帰って来たときだった。テーブルの上にメモが置かれていた。広告(こうこく)の裏(うら)に書かれた、走り書きのメモ。
<俺(おれ)は出て行く。好きな女ができたんだ。バイバイ>
 光恵は我(わ)が目を疑(うたが)った。出て行くなんて…。お金なんか持ってないのに。光恵はハッとして、タンスの引き出しを開けてみた。そこに入れておいたはずの通帳(つうちょう)と印鑑(いんかん)、父の形見(かたみ)の金(きん)の懐中時計(かいちゅうとけい)が消えていた。時計が入っていた箱(はこ)には、一緒(いっしょ)に入れておいた父の写真(しゃしん)だけが残されていた。光恵は力が抜(ぬ)けてしまい、写真を手にしてしゃがみ込んでしまった。
 涙(なみだ)が頬(ほお)をつたっていく。彼女はそれをぬぐいもせずに、ひとしきり泣いた。その後、手にした写真に目をやり、「お父さん…」とつぶやいた。写真の中の父親は笑っていた。
 次の朝。タンスの上には父の写真が置かれていた。光恵は父の写真に手を合わせた。光恵の耳(みみ)には父の口癖(くちぐせ)が聞こえていた。
<笑顔(えがお)が一番だぞ。笑顔でいれば幸せになれるんだ>
 光恵は吹(ふ)っ切るように笑顔を作り、仕事へと出かけていった。
<つぶやき>簡単(かんたん)なことじゃないですよね。でも、笑顔を忘れないで。きっといつか…。
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0045「コピーロボット」

2017-06-26 19:27:07 | ブログ短編

 美子(よしこ)は<どうしても>と、おばさんに頼(たの)まれて、お見合(みあ)いをすることになった。写真(しゃしん)で見た限(かぎ)りでは、ごく平凡(へいぼん)な中小企業(ちゅうしょうきぎょう)のサラリーマンだ。美子は気が進まなかった。そこで、最近(さいきん)手に入れたコピーロボットを身代(みが)わりにすることにした。見合いの席(せき)で失敗(しっぱい)させて、嫌(きら)われるようにしむけるのだ。
「ねえ、どうだった?」見合いから帰って来たロボットに美子は訊(き)いた。
「それが、おかしいの。何だか気に入られちゃったみたいで」
「どうしてよ。ちゃんと私の言った通りにしたんでしょ」
「もちろんよ。お茶をこぼしてみたり、口を開(あ)けて食事(しょくじ)をしたり。それと、言葉(ことば)づかいもたどたどしくしたのよ。絶対(ぜったい)に普通(ふつう)の人だったら好きにはならないわ」
「ああ、どうしよう。このまま話が進んじゃったら…。そんなの困(こま)るわ」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。二人っきりになったとき話したんだけど、とっても真面目(まじめ)そうな良い人だったわよ。何でもできる人よりも、少し抜(ぬ)けてる人の方がいいって言ってたわ」
「なにそれ。それじゃ私が、まるでバカ娘(むすめ)ってことじゃない。冗談(じょうだん)じゃないわよ!」
「そんなに怒(おこ)らないで。あなたが気に入らなかったら、私が付き合ってもいいのよ」
「これは、私の見合いよ。いいわ。私から会いに行って、ガツンと言ってやるわよ」
<つぶやき>出会いは一期一会(いちごいちえ)です。ひょんなことから恋が生まれるのかもしれません。
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0044「リセット」

2017-06-20 19:30:38 | ブログ短編

 ベッドの上で若い女性が死を迎(むか)えようとしていた。彼女の手を優しく握(にぎ)りしめている若い男。男は彼女のそばから離れようとせず、励(はげ)まし続けていた。
「あなた…」女は苦しい息(いき)をついて、「私は…、あなたに出会えて、幸せでした」
「僕もだよ。きっと元気になるから…」
 男は胸(むね)が詰(つ)まり、それ以上なにも言えなくなった。
「ありがとう」女は最後(さいご)にそう言い残(のこ)すと、目を閉(と)じ動かなくなった。男は彼女にすがりつき、泣(な)き明(あ)かした。
 朝になると、どこからか声が聞こえてきた。「リセットしますか?」
 男はそれに答えて、「そうだな、今度はもう少し寿命(じゅみょう)を延(の)ばしてくれないか?」
「その要望(ようぼう)にはお答えできません。病気などの発病(はつびょう)は、無作為(むさくい)に決められています」
「分かったよ。なら、容姿(ようし)と年齢(ねんれい)は今のままでリセットしてくれ」
 女の腕(うで)につながれていたケーブルが自動的にはずされて、彼女は目を覚ました。
「あなた、おはよう。今日は、早いのね」女は起き上がり、「朝食は何がいい?」
「そうだな。今日は、和食(わしょく)がいいなぁ」男はそう言うと、女にキスをした。
 食事ができる間に男は新聞(しんぶん)を読み、いつもと変わらぬ一日が始まった。部屋の丸窓(まるまど)から外を見ると、真っ暗な世界が広がり、眼下(がんか)には茶色く濁(にご)った地球が浮(う)かんでいた。
「僕も手伝うよ」男は席(せき)を立って腕まくりをした。その腕にはプラグが付いていた。
<つぶやき>人の人生は一度きりしかありません。悔(く)いのないように過ごしたいものです。
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0043「音信不通」

2017-06-17 20:10:16 | ブログ短編

 人通りの多い繁華街(はんかがい)を歩いていた淳史(あつし)は、一人の女に目をとめて凍(こお)りついた。彼の手は震(ふる)え、呼吸(こきゅう)は荒(あら)くなり、たまらずその場から逃(に)げだした。繁華街の通りを離(はな)れ、人気(ひとけ)のない脇道(わきみち)に足を踏(ふ)み入れた淳史は、
「まさか、そんな…」荒い息(いき)でつぶやいた。
 彼は後ろを振り返ると、息を呑(の)んだ。そこには、さっきの女が立っていたのだ。その女はかすかに微笑(ほほえ)んで、淳史の方へ近づきながら、「やっと、見つけたわ」
「一恵(かずえ)…一恵…」淳史は口の中でそう繰(く)り返すと、また駆(か)け出した。どこをどう走ったのか、いつの間にか墓場(はかば)の中に入り込んでいた。淳史は驚(おどろ)き、へたり込んでしまった。
 淳史はふと、目の前の墓石(はかいし)に目をやった。そこには<磯崎(いそざき)>と刻(きざ)まれていた。
「ねえ、返して」突然(とつぜん)、女の声が耳に飛び込んで来た。淳史は驚き振り返った。そこにはあの女が、淳史を見下ろしていた。女は、「早く返してよ!」と叫(さけ)んだ。
「ごめん、ごめんなさい」淳史は震える声で、「あれは、もう…」
「まさか、捨(す)てたとか…」女は淳史の胸倉(むなぐら)をつかみ、「言うんじゃないでしょうね」
「いや、捨てたわけじゃ…ないけど…」淳史は苦(くる)し紛(まぎ)れにへらへらと笑った。
「あの女か…」女は淳史に顔を近づけて、「やっぱり、あの女に渡(わた)したのね!」
 女は淳史の腕(うで)を抱(かか)え込み、彼を引きずるようにいずこともなく去(さ)って行った。
<つぶやき>彼が何をしでかして、この後どうなったのか…。ご想像(そうぞう)におまかせします。
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0042「美味しいもの倶楽部」

2017-06-14 19:28:39 | ブログ短編

「ここのケーキ、美味(おい)しいねぇ」
 陽子(ようこ)はケーキをひとくち食べて幸(しあわ)せな気分(きぶん)になった。
 政夫(まさお)は陽子の笑顔を見るのが好きだった。だから、美味しいお店を見つけると、それを口実(こうじつ)に陽子を連れ出していた。彼女とは学生のときからの付き合いで、初めて会ったときから恋(こい)に落ちてしまった。陽子の方は、そんなことまったく気づいてはいなかったが…。
 陽子はケーキを食べ終わると、「ねえ、何か話があるって言ってたけど。なに?」
「それがね。あの…」政夫は今日こそ、告白(こくはく)しようと決心(けっしん)していたが…。
「私もね、田中(たなか)君に言わなきゃいけないことがあるんだ」陽子は改(あらた)まって切り出した。
「私ね、来月(らいげつ)からパリに行くの。向こうで、本格的(ほんかくてき)にパティシエの修業(しゅぎょう)をしようと思って。今のお店の店長ね、若いころパリで修業してて。知り合いのパティシエを紹介(しょうかい)してもらったの。その人のお店で働(はたら)けることになっちゃったんだ」
「えっ、そうなの…」政夫は、頭の中がまっ白になった。
「最低(さいてい)でも四、五年は頑張(がんば)ろうと思って。だから、美味しいもの倶楽部(くらぶ)はお休みさせて下さい。また日本に戻ってきたら復帰(ふっき)するから、お願い」陽子は手を合わせた。
「そうか…。陽子の夢だったもんな…。よかったじゃないか、頑張ってこいよ!」
「うん、ありがとうね。あっ、私が戻ってくるまでに、ちゃんと部員増(ふ)やしといてよね」
<つぶやき>彼女の夢を叶(かな)えるため、男はじっと我慢(がまん)するのです。つらいっす、ほんとに。
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