みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0275「喫煙喫茶」

2018-07-31 19:01:40 | ブログ短編

 その店は人目(ひとめ)につきにくい場所(ばしょ)にあった。店構(みせがま)えは喫茶店(きっさてん)だが、<未成年者(みせいねんしゃ)と禁煙者(きんえんしゃ)はお断(ことわ)り>の張(は)り紙(がみ)が入口(いりぐち)に貼(は)ってあった。店の名前が「喫煙喫茶(きつえんきっさ)」となっているので、まあ納得(なっとく)はできる。
 店内(てんない)はさぞかし煙(けむり)が充満(じゅうまん)しているのかと思ったが、まったく普通(ふつう)の喫茶店と変わるところはなかった。ただ、テーブルごとに透明(とうめい)の仕切(しき)りで囲(かこ)まれ、焼き肉店のように煙出しの設備(せつび)がそれぞれについている。
 メニューを見てみると、国内はもとより、海外(かいがい)の主立(おもだ)った煙草(たばこ)の銘柄(めいがら)がずらりと並んでいた。それぞれが、1本単位(たんい)で注文(ちゅうもん)できるようだ。メニューの最後(さいご)には、コーヒーなどの飲み物が申し訳程度(ていど)に載(の)っている。
 店内には静かなBGMが流れ、座り心地(ごこち)の良いソファーに座って煙草(たばこ)を楽しむ。ここはそんな愛煙家(あいえんか)のお店のようだ。常連客(じょうれんきゃく)の中にはいろんな煙草の違(ちが)いを楽しむ人もいるそうで、煙草の香(かお)りや味(あじ)、煙のたちかたで銘柄(めいがら)を当ててしまう煙草マイスターも存在(そんざい)する。
 普通に煙草を買うよりは割高(わりだか)かもしれないが、この場所の雰囲気(ふんいき)、居心地(いごこち)のよさを考えれば納得(なっとく)できる値段(ねだん)なのかもしれない。分煙(ぶんえん)が叫(さけ)ばれている昨今(さっこん)、ここが愛煙家の最後の砦(とりで)になることは間違(まちが)いないだろう。まだまだ愛煙家には厳(きび)しい時代(じだい)が続くようだ。
<つぶやき>煙草は、マナーを守って楽しみましょう。吸い過ぎには注意(ちゅうい)してください。
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0274「人生を考える」

2018-07-30 18:54:22 | ブログ短編

 小学生の娘(むすめ)が両親(りょうしん)を前にして質問(しつもん)した。「ねえ、パパと、ママと、どっちが偉(えら)いの?」
 両親は一瞬(いっしゅん)ビクッとしたが、すかさずパパが先手(せんて)をとった。
「そりゃ、パパの方(ほう)なんだぞ。なんたって、この家の総理大臣(そうりだいじん)なんだから」
「あら、そうとは限(かぎ)らないのよ」ママは抜(ぬ)け目なく、「この家の大蔵大臣(おおくらだいじん)がいなきゃね」
 娘は二人の顔を見較(みくら)べて、何か考えているようだ。パパは父親の威厳(いげん)を見せようと、
「パパには、家族(かぞく)を守(まも)るという大切(たいせつ)なお仕事(しごと)があるんだ。そのためにパパは、毎日遅(おそ)くまで働(はたら)いているんだぞ」
 ママはせせら笑(わら)って言った。「守るって。――パパのお仕事だけじゃやっていけないのよ。だから、ママもパートで頑張(がんば)ってるの」
「なに言ってんだよ。どうせ、暇(ひま)つぶしでやってるだけじゃないか」
「あなたこそ、無駄遣(むだづか)いばっかして。そんなんだから、いつまでたっても…」
 娘は大きくため息(いき)をついて、もういいからと自分(じぶん)の部屋へ行ってしまった。
「あなたがいけないのよ。毎晩(まいばん)飲み歩いてるくせに、偉(えら)そうなこと言って」
「何だよ。お前だって、子供ほっといて好き勝手(かって)してるじゃないか」
 その時、娘が部屋から顔を出して言った。「静(しず)かにして、勉強(べんきょう)してるんだから。私、偉くなることに決(き)めたの。普通(ふつう)の人生(じんせい)がいかにつまらないかって、よーく分かったから」
<つぶやき>人生を考えるのに、早過(はやす)ぎるってことはないのかも。大きな夢(ゆめ)を持ちましょ。
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0273「疑惑の花束」

2018-07-29 18:55:43 | ブログ短編

 ある日のこと、夫(おっと)は花束(はなたば)をかかえて帰って来た。そして私に言ったの。おめでとうって。
 今日は私の誕生日(たんじょうび)でもなければ、結婚記念日(けっこんきねんび)でもない。私には思い当たることが全くないの。それに、夫はそんなことで花束を買ってくるような、そんな気遣(きづか)いができるような人じゃ。夫は、私の反応(はんのう)が鈍(にぶ)いのを見て何かを感(かん)じたらしく口をつぐんだ。私は訊(き)いたわ。
「ねえ、これって…。どうしたの?」
「いや、違(ちが)うんだ。これは…、ほら、いつもいろいろしてもらってるから、感謝(かんしゃ)のしるし?」
「へえ、そうなんだ。でも、さっき、おめでとうって言ったよね?」
 私の質問(しつもん)に、夫は聞こえない振(ふ)りをして、そそくさと寝室(しんしつ)へ引っ込んだ。絶対(ぜったい)あやしい。何かを隠(かく)してるのは確(たし)かだわ。そう言えば、誰(だれ)かが言ってた。夫が妙(みょう)に優(やさ)しくなる時は、何かやましいことがある時だって。私の夫も…、ついに来たんだ。
 いいわ。ここは、じっくりと問(と)いただして…。夫婦(ふうふ)の間で隠しごとはしないって、ちゃんと約束(やくそく)してあるんだし。夫は寝室から出て来ると、さっきのことには全くふれずに、
「ああ、お腹空(なかす)いちゃったよ。今日の晩飯(ばんめし)は何かな?」
「さあ、何でしょう? あなたの答(こた)え方ひとつで、変わってくると思うわよ」
 夫は一瞬(いっしゅん)ひるんだようだ。すかさず私は言ってやったわ。
「私は、あなたの妻(つま)よ。ちゃんと説明(せつめい)して下さい。この花、何なのかしら?」
<つぶやき>隠しごとはやめましょう。だって、すぐ傍(そば)にいるんだから。秘密(ひみつ)はなしです。
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0272「もうひとつの世界10」

2018-07-28 18:58:43 | ブログ短編

「さて、これでいい。では、神野典子(かんののりこ)さん、ここに座(すわ)ってくれるかな?」
 老人(ろうじん)は作業(さぎょう)を終(お)えると、彼女にあの椅子(いす)に座るように促(うなが)した。でも典子は、
「いやよ。どういうことかちゃんと説明(せつめい)して下さい。あなたたちは誰(だれ)なの?」
「わしらは、あんたも含(ふく)めてだが、時間を見守(みまも)る役目(やくめ)をもっているんだ。今、時間の流(なが)れに、ちょっとしたズレが生(しょう)じていてね。それを修正(しゅうせい)するために、わしらが集(あつ)められたんじゃ」
「そんなこと、私は知らないわ。訳(わけ)の分からないことを言わないで」
「君には時間を修正する能力(のうりょく)があるんじゃ。この装置(そうち)で、その能力を増幅(ぞうふく)してだな…」
 典子は信じられないという顔をしていた。それを見て青年(せいねん)は、
「この世界(せかい)では、動物(どうぶつ)と人間(にんげん)が戦争(せんそう)を始めている。これを止めないと時間のバランスが崩(くず)れて、他の世界にどんな影響(えいきょう)を与(あた)えるか分からないんだ。だから…」
 この時、入口の方から何かがぶつかる大きな音が響(ひび)いた。そして、引っかくような音も。
「ここへ来た時、記憶(きおく)の一部が消えてしまったんだよ。でも、ちゃんと元(もと)に戻(もど)るから。それは、僕(ぼく)が保証(ほしょう)する。ごめんね、おばあちゃん。こんなことしたくないんだけど――」
 典子は自転車(じてんしゃ)に乗って坂道(さかみち)を下(くだ)っていた。右カーブを曲(ま)がり終え、彼女は腕時計(うでどけい)を見た。
「もうこんな時間? 急がないと、遅(おく)れちゃうわ」典子はペダルを力一杯(ちからいっぱい)踏(ふ)み込んだ。
<つぶやき>時間のすき間で、記憶に残ることのない出来事(できごと)が起きているかもしれません。
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0271「もうひとつの世界9」

2018-07-27 18:59:02 | ブログ短編

 典子(のりこ)は聞き覚(おぼ)えのある声を聞いた。何度(なんど)も何度も自分の名前(なまえ)を呼んでいる。
 典子は大きく息(いき)をつくと、目を覚(さ)ました。彼女の目の前にいたのは、
「神谷(かみや)君…。神谷君なの? どうしてここに…」
 典子が驚(おどろ)くのも無理(むり)はない。そこにいたのは、彼女の恋人(こいびと)だったのだ。その青年(せいねん)は、
「もう大丈夫(だいじょうぶ)。あいつらは逃(に)げて行きましたから。しばらくは戻って来ないでしょう」
 典子は涙(なみだ)があふれてきて、思わず彼に抱(だ)きついた。その時だ。どこからか声が聞こえた。
「お取り込み中、申(もう)し訳(わけ)ないんだが…。お邪魔(じゃま)してもいいかな?」
 突然(とつぜん)、装置(そうち)のパネルが外(はず)れて、中から白髪(はくはつ)の老人(ろうじん)が顔を出した。老人は装置の中から這(は)い出すと大きく伸(の)びをして、「やれやれ、やっとそろったな。これで、仕事(しごと)に取りかかることができる」
「あなた、誰(だれ)なの?」典子は恐(おそ)る恐る訊(き)いた。
「わしか? わしは、神崎(かんざき)じゃ。あいつらにはヒロシと呼ばれていた。まあ、時の番人(ばんにん)ってとこかな。ちなみに、その青年はあんたの恋人じゃないぞ。あんたの孫(まご)だ」
 典子は青年の顔を見た。青年はにっこり微笑(ほほえ)む。彼には分かっていたようだ。
「さあ、始めるぞ。あいつらが戻って来る前に修正(しゅうせい)するんだ」
 老人と青年は装置の前に立って、ボタンを押(お)したりダイヤルを回したり、忙(いそが)しく動き回る。それにつれてランプの点滅(てんめつ)が変化(へんか)していく。典子はあっけにとられるばかりだった。
<つぶやき>何がどうなっているの? でも、やっと信用(しんよう)できる人たちが現れて、一安心(ひとあんしん)?
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