みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1209「転生す」

2022-02-28 17:43:20 | ブログ短編

「今度(こんど)は蛙(かえる)か…」彼は呟(つぶや)いた。「確(たし)か、その前は…蜘蛛(くも)だったかなぁ。まぁ、何に生まれ変わってもいいんだけど…。ゆるーく生きてくだけさぁ」
 彼には向上心(こうじょうしん)というものはないようだ。彼は、田植(たう)えが終(お)わったばかりの田んぼの水面(すいめん)に浮(う)かんでいた。鳴(な)くこともせず、身体(からだ)を動かすこともおっくうのようだ。
「どうせ何かに喰(く)われちまうんだ。じたばたしたって仕方(しかた)がない」
 田んぼの水がわずかに動き、彼の身体がふわっと上下した。何かが彼に近づいていた。
「やっときたか…。サギかなぁ、それとも蛇(へび)かもしれないなぁ。まぁ、何でもいいさぁ。これで蛙の人生(じんせい)も終わりだな。次(つぎ)は、もっと気楽(きらく)に生きていけるのがいいなぁ」
 彼は、何かに身体を掴(つか)まれた。彼が目を開けると、そこには人間(にんげん)の顔があった。どうやら子供(こども)のようだ。彼はあせった。でも、手足を動かそうにも身動(みうご)きができない。
 彼は小さな水槽(すいそう)の中に放(はな)された。彼は思った。
「なんてこった。俺(おれ)は、これからどうなるんだ? 人間に飼(か)われるなんてまっぴらだ」
 そうは言っても、ここから逃(に)げ出すことはできそうにない。子供たちが集(あつ)まってきて、水槽の中の彼を見つめた。子供の一人が言った。
「何だ。こんなちっちゃいカエルなんていらないよ。もっと珍(めずら)しいのじゃなきゃ」
 彼の身体は空(そら)を飛(と)んだ。そして、田んぼの中にぽちゃっと落(お)ちた。
<つぶやき>どんな生き物も、そこで生きてる理由(わけ)があるんです。諦(あきら)めちゃいけません。
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1208「妻の秘密」

2022-02-26 18:01:24 | ブログ短編

 私は妻(つま)と知り合ってすぐに電撃的(でんげきてき)な結婚(けっこん)をした。友達(ともだち)からはいろいろ言われたが、私はこれは運命(うんめい)だと思っていた。それほど、私にとっては素敵(すてき)な女性だったのだ。
 二人で暮(く)らすようになって、しばらく過(す)ぎた頃(ころ)…。私は妻に言った。
「新婚旅行(しんこんりょこう)をかねて、君(きみ)の実家(じっか)へ行かないか? 君も、もう何年も帰(かえ)ってないって――」
 妻の両親(りょうしん)とは、結婚式の当日(とうじつ)に会っただけだった。それに、妻がどんなところで育(そだ)ったのか見てみたかったこともある。でも、妻は私の提案(ていあん)に乗(の)り気じゃないようだ。妻からは、曖昧(あいまい)な返事(へんじ)しか返ってこなかった。
 それでも私は、半(なか)ば強引(ごういん)に旅行の計画(けいかく)を進(すす)めた。いよいよ、出かける日になって――。
 妻は、朝早くベッドを抜(ぬ)け出した。私は朝食の支度(したく)をしてるとばかり思っていた。私がリビングに顔を出すと、そこには妻の姿(すがた)はなかった。朝食はテーブルに並(なら)んでいる。どこかへ出かけたのか…。そこで私は、妻のスーツケースがなくなっていることに気がついた。
 私は、妻に電話(でんわ)をかけてみた。だが、何度かけても出てくれなかった。私が旅行を強引に決(き)めたので、妻は機嫌(きげん)を損(そこ)ねてしまったのか…。私はどうしたものかと考えた。
 とりあえず、妻の実家へ行くことにした。住所(じゅうしょ)は聞いていたので、きっと妻は先(さき)に行ってしまったに違(ちが)いない。私は何度(なんど)も道を尋(たず)ねながら、その住所に何とかたどり着(つ)いた。そこで私は、自分の目を疑(うたが)った。そこは、何もない空(あ)き地(ち)だったのだ。
<つぶやき>奥(おく)さんはどこへ行ってしまったのでしょ。彼女にどんな過去(かこ)があったのか?
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1207「かみさん」

2022-02-24 17:47:28 | ブログ短編

 長屋(ながや)に住(す)む与八(よはち)が家から出て来ると、隣(となり)の熊五郎(くまごろう)と鉢合(はちあ)わせした。熊五郎は、
「おめえ、ゆんべうなされてたみてぇだが、変(へん)な夢(ゆめ)でも見たのか?」
 与八はへらへらしながら、「あのさぁ、実(じつ)は…。かみさんをもらったんだ」
「何だと。そんなでぇじなこと、何で俺(おれ)に知らせねぇんだ。俺とおめえの仲(なか)じゃねえか」
「知らないのは当(あ)たり前だよ。おいらも、ゆんべまで知らなかった」
「そうか、夢だなそれは…。おめえんとこに来るような女、いるわけねぇ」
「いるよ。まだ寝(ね)てるんだけどねぇ。ゆんべは、いろいろと……」
 熊五郎は、与八の家を覗(のぞ)いてみた。確(たし)かに、煎餅布団(せんべいぶとん)が膨(ふく)らんでいる。
 熊五郎は与八を長屋の隅(すみ)まで引っ張(ぱ)って行くと、
「おめえ、どこで知り合ったんだ? いってぇどんな女なんだよ」
「よく分かんないよ。ゆんべ遅(おそ)くにやって来て、おいらと一緒(いっしょ)になりてぇって…」
「そんなのおかしいだろ? きっと何か魂胆(こんたん)があるんだ。よし、俺が話しをつけて――」
「ダメだよ、そんなの。まだ寝てるんだよ。起(お)こしちゃかわいそうだ」
「おめえは、人がよすぎるんだよ。そんなんじゃ、身(み)ぐるみはがされちまうぞ」
「心配(しんぱい)いらねぇよ。おいらは、これっきりしか持ってねぇし。それに、かみさんは昼間(ひるま)は表(おもて)に出られねぇって言ってたから――」
<つぶやき>これって、幽霊的(ゆうれいてき)なヤツじゃないのかなぁ。何でやって来ちゃったんでしょ。
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1206「迷宮世界」

2022-02-22 17:41:42 | ブログ短編

 彼女は家のリビングにいた。どうしてここにいるのか、彼女には分からない。家族(かぞく)はちょうど朝食(ちょうしょく)を取っていた。彼女は話しかけるが、誰(だれ)も返事(へんじ)をしないし、こっちを見てもくれなかった。彼女がいくら叫(さけ)んでも無駄(むだ)だった。母親(ははおや)が言った。
「奈央(なお)ちゃん、お姉(ねえ)ちゃんを起こしてきて。遅刻(ちこく)しちゃうわ」
 食べ終わった彼女の妹(いもうと)が、いやいや姉(あね)の部屋(へや)へ向かった。彼女は、妹と一緒(いっしょ)にリビングを出ようとした。しかしどういう訳(わけ)か、彼女だけリビングに戻(もど)ってしまう。彼女は、
「どういうことよ。どうして出られないの? もう、どうなってるのよ」
 彼女がどんなに騒(さわ)いでも、家族は誰も気づかないようだ。彼女のことが見えないのかもしれない。彼女は思った。きっと、これは夢(ゆめ)よ。あたし、まだ寝(ね)てるんだわ。
 妹が戻ってくると、「お姉ちゃんいないよ。鞄(かばん)もないし、もう出かけたんじゃない」
 母親は、「あら、そう? 気づかなかったわね。いつの間(ま)に…」
 父親は、「昨夜(ゆうべ)、遅(おそ)かったよなぁ。仕事(しごと)、忙(いそが)しいのかな?」
「あの娘(こ)、何も話してくれないのよ。どうしちゃったのかしら? 心配(しんぱい)だわ」
 彼女は必死(ひっし)に考えた。あたし、どこへ行ったのよ。えっと、仕事なんて忙しくないし…。朝早く出かけるなんてあり得(え)ないわ。捜(さが)さなきゃ。あたしの身体(からだ)…見つけないと。
 そんな時、電話(でんわ)がけたたましく鳴(な)った。その音は、目覚(めざ)まし時計(どけい)の音に――。
<つぶやき>やっぱり夢だったのでしょうか? それとも別の世界(せかい)の扉(とびら)が開いたのかも。
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1205「しずく156~おかえり」

2022-02-20 17:41:55 | ブログ連載~しずく

 神崎(かんざき)つくねは目を覚(さ)ました。まだ朦朧(もうろう)としている。だんだん頭がはっきりしてくると、目の前に顔が並(なら)んでいたので思わず叫(さけ)び声を上げて飛び起きた。つくねは見回して、
「な、何なの? どうして――」
 いきなり月島(つきしま)しずくが抱(だ)きついて、「おかえり。ずっと待ってたんだからね」
 それがしずくだと分かると、つくねはしずくを引き離(はな)し、「もう、何するのよ。しずく、やっと目を覚ましたのね。あたし、あなたに言いたいことがいっぱいあるんだから…」
「目を覚ましたのはあなたの方よ。戻(もど)って来てくれて、ありがとう」
「戻って…? あたし……。そうだわ。あたし、あいつのところへ行って…」
「あなた、覚(おぼ)えてないの?」柊(ひいらぎ)あずみが訊(き)いた。
「何を…。あたし、どうしてここに…」ベッドの横に座(すわ)っているアキを見て、「あなた、どこかで……。ああっ、あなた、ハルちゃんね」
 アキはクスクス笑(わら)って、「残念(ざんねん)でした。あたしはアキよ」
「あっ、ごめん。でも、ずいぶん大人(おとな)びたわね。ハルちゃんは、一緒(いっしょ)じゃないの?」
 アキは自分(じぶん)の胸(むね)に手を当(あ)てて、「いるよ、ここに。わたしの中にちゃんと生きてるよ」
 つくねには何のことか分からないようだ。しずくが、そんな彼女を見て言った。
「おいおい話してあげるわよ。今は、ゆっくり身体(からだ)を休(やす)めて――」
<つぶやき>やっと戻って来ました。さて、これからの展開(てんかい)は…。どうすればいいんだ?
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