みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0188「マイペース」

2018-03-31 19:13:51 | ブログ短編

「ねえ、どれが良いと思う?」涼子(りようこ)はショーケースの中を指(ゆび)さして訊(き)いた。
「あのさ、それだけなの? 緊急(きんきゅう)の非常事態(ひじょうじたい)って…」秋穂(あきほ)は力が抜(ぬ)ける思いだった。
「そうよ」涼子はさらりと言って、「ほんとに迷(まよ)ってるのよ。どっちがいいかなぁ?」
 涼子はケースの中を食い入るように見つめた。秋穂はイラつきながら、
「何なのよ。あたし、彼の誘(さそ)いを断(ことわ)ってまで来てるのよ。それが、こんなことって…」
「えっ、彼氏(かれし)いたの? 全然(ぜんぜん)知らなかった」
「いや…、彼氏というか…。まだ、そこまではいってないけど。でも、初めてなのよ」
「ああーっ、どうしようかなぁ」涼子はまた品定(しなさだ)めに戻(もど)った。そして、しばらく彼女は唸(うな)っていたが、「やっぱ、やめるわ。もうちょっと、よく考えてみる。今日はありがとね」
 彼女はそのまま店(みせ)を出て行った。秋穂は彼女を追(お)いかけて、
「待ってよ。あたしはどうすればいいのよ」
 しかし、涼子はそのまま行ってしまった。残(のこ)された秋穂は急いでスマホを取りだして、彼に電話をかけた。今なら、まだ間に合うかもしれない。でも、電話の向こうからはアナウンスの声が…。〈電源(でんげん)が切れているか、電波(でんぱ)の届(とど)かない所に……〉
「何でよ。――もう絶対(ぜったい)、涼子には付き合ってあげないんだから」
<つぶやき>彼女はいったい何を買おうとしていたんでしょ。ちょっと、気になります。
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0187「確認事項」

2018-03-29 19:11:44 | ブログ短編

「何よ、話って」恵里香(えりか)はソファーに寝転(ねころ)びながら言った。
「だからね…」賢治(けんじ)は控(ひか)え目な感じで、「君が、どういうつもりなのかなって…」
 恵里香はテレビ番組(ばんぐみ)に夢中(むちゅう)で、賢治の話など聞いているのかどうか――。賢治はたまらず、リモコンに手をのばしテレビの電源(でんげん)を切った。恵里香はやっと起(お)き上がり、
「何すんのよ。あたし、見てるんだから…」
「だからね、これは大事(だいじ)な話なんだから。ちゃんと聞いてよ。――君がここに来て、もう一週間だよね。今の、この僕(ぼく)たちの状況(じょうきょう)というか、関係(かんけい)って…」
「ねえ、ケンちゃん。何が言いたいのよ。あたし、分かんない」
「だからね、僕のことどう思ってるのかなって…。つまり、僕と結婚(けっこん)しようとか…」
「そうねえ」恵里香は賢治の顔をしばらく見つめて、「それも、ありかな」
「えっ、何だよそれ…。ほんとに真剣(しんけん)に考えてるのかよ」賢治は不安(ふあん)な顔で言った。
「考えてるわよ。だって、ケンちゃんといると、とっても楽(らく)っていうか…」
「じゃあさ。家事(かじ)とか、ちょっと手伝(てつだ)ってくれてもいいんじゃ…」
「えーっ、あたしが?」恵里香はリモコンに手をのばしながら言った。「ケンちゃん、得意(とくい)じゃん。あたしケンちゃんの料理(りょうり)、大好きだよ」
「いや、僕が言いたいのはね。えっと、そういうことじゃなくて…」
 恵里香はテレビの電源を入れると、画面(がめん)に釘付(くぎづ)けになりケラケラと笑った。
<つぶやき>愛って何なんでしょう。結婚って…。二人で、将来(しょうらい)のこと話してみませんか。
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0186「隣の不可思議」

2018-03-28 19:04:46 | ブログ短編

 ここ半年くらい、隣(となり)の部屋は空(あ)き部屋になっていた。でも、どうやら最近(さいきん)になって人が入ったみたい。時々、カリカリとかバチバチとか変な音が聞こえてくる。何の音なのかと聞き耳を立てると、音は消(き)えてしまうの。
 それから、この間(あいだ)のことよ。洗濯物(せんたくもの)を干(ほ)そうとベランダに出ると、今まで嗅(か)いだことのないような変な臭(にお)いがしたの。どうやら、それは隣から流れてきてるみたい。そっと隣を覗(のぞ)いてみると、黒い影(かげ)がホワーッと…。私、びっくりして声を上げそうになっちゃった。
 友達(ともだち)にこのこと話してみたけど、誰(だれ)も本気(ほんき)に聞いてくれなくて。でもね、一人だけ真剣(しんけん)に聞いてくれる娘(こ)がいて。その娘、会ってみたいって言い出したの。私、やめた方がいいって言ったんだけど…。
 今、その娘は隣の部屋に行ってるわ。私、一緒(いっしょ)に行こうかって言ったけど、一人で大丈夫(だいじょうぶ)よって。ほんとに大丈夫かなぁ。もう一時間ぐらいたってるのに、まだ戻(もど)って来ないの。
 私、もうじっとしてられないわ。これから、隣へ行こうと思う。やっぱり、心配(しんぱい)だもの。もし、何かあったら大変だし…。
 ――彼女が隣の部屋の前に来たとき、扉(とびら)がスーッと音もなく開いた。そして、彼女は吸(す)い込まれるように部屋の中へ。それ以来(いらい)、彼女の姿(すがた)を見かけることはなくなった。
<つぶやき>二人はどうなったんでしょう。異次元(いじげん)の世界に迷(まよ)い込んでしまったのかも。
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0185「さよなら」

2018-03-27 18:54:29 | ブログ短編

 智子(ともこ)は身支度(みじたく)をおえると、最後(さいご)に部屋(へや)の中を見渡(みわた)した。彼と過(す)ごした三年は、辛(つら)かったこともあったけど、今は楽しかったことしか思い出せない。
 彼とはなぜか気が合って、彼の前だとそのままの自分でいられた。彼のそばにいるだけで、何だか幸(しあわ)せな気分(きぶん)になれたのだ。だから、一緒(いっしょ)に暮(く)らし始めた。その頃(ころ)は、毎日が楽しくて、幸せすぎるくらいだった。こんな日が、ずっと続くと思っていた。
 それが、いつからか、ちょっとずつ、二人の歯車(はぐるま)が狂(くる)いはじめた。気持(きも)ちがすれ違(ちが)い、ささいなことで喧嘩(けんか)をするようになった。智子は彼の気持ちを引き止めようと必死(ひっし)になった。でも、彼との溝(みぞ)を埋(う)めることはできなかった。
 何でこうなったのか、智子にもわからない。別に嫌(きら)いになったわけじゃないのに…。今はもう、あの頃の幸せな気持ちには戻(もど)れない。このまま一緒にいると、二人とも駄目(だめ)になってしまうかも…。もう、別れるしか――。何か別の方法(ほうほう)があったのかもしれない。彼との関係(かんけい)を修復(しゅうふく)する方法(ほうほう)が。でも、今の智子には何も思いつかなかった。
 最後に、彼女は彼が好きだった手料理(てりょうり)を用意(ようい)して、思い出の花をテーブルに添(そ)えた。そして、〈今までありがとう〉と書き置きした。
 彼女は部屋を出ると、部屋の鍵(かぎ)をカチリとかけた。そして、新聞受けに鍵をすべらせた。無人(むじん)の部屋に、鍵が落ちる音だけが響(ひび)いた。
<つぶやき>努力(どりょく)しても、それが報(むく)われるとは限(かぎ)らない。でも、しないではいられない。
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0184「トマト娘」

2018-03-25 18:51:53 | ブログ短編

「ほんとに嫌(きら)いなの?」愛実(まなみ)は悲しそうな顔で言った。
「ああ、あんなののどこが美味(うま)いんだ」剛(たける)はしかめっ面(つら)をしてみせた。
「じゃあ、あたしに任(まか)せて。絶対(ぜったい)に好きにしちゃうから」
 次の日。愛実はいろんなトマト料理(りょうり)を作って剛の前に並(なら)べ、楽しそうに言った。
「ちょっと頑張(がんば)っちゃった。食べてみて。どれも美味(おい)しいのよ」
「嫌味(いやみ)かよ。俺(おれ)はトマトは嫌いだって言っただろ」
「だって…。ほんとに美味しいのよ。一口でいいから、食べてみて」
「誰(だれ)が食べるか!」剛はかたくなに拒否(きょひ)した。
 愛実はうつむいて身体を震(ふる)わせる。剛が横目(よこめ)で見ると、彼女は泣(な)いていた。
「泣くようなことじゃないだろ。もう、いい加減(かげん)にしてくれよ」
「だって…。だって、トマトが嫌いな人がいるなんて…」
「わかったよ。食べりゃいいんだろ。食べりゃ…」
 剛はやけくそになって、料理を口いっぱいにほおばる。その様子(ようす)を見つめる愛実。
「どう? 美味しい?」
「まあ…。不味(まず)くはないよ」剛はぶっきらぼうに言った。
「わぁ、よかったぁ」愛実の顔にお日様(ひさま)のような笑顔が戻(もど)った。
<つぶやき>男の無器用(ぶきよう)な優(やさ)しさなのかも。素直(すなお)に言葉で表(あらわ)すことが苦手(にがて)なんでしょうね。
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