みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1397「妻の日記」

2023-06-30 17:31:31 | ブログ短編

 僕(ぼく)の目の前に妻(つま)の日記(にっき)がある。一周忌(いっしゅうき)も終わり、妻の遺品整理(いひんせいり)を始めたとき見つけてしまったのだ。何で死(し)ぬ前に処分(しょぶん)しといてくれなかったのか…。まぁ、そんなことを言われても、妻だってまだ死ぬつもりなんかなかっただろう。――事故(じこ)だったのだ。
 僕は困(こま)った。この日記、どうすればいいんだよ。この中には、僕の知らない妻がいるのかもしれない。そう考えると、僕は開(ひら)く気になれなかった。そもそも、僕は妻のことをどれだけ知っていたんだろう? 僕と知り合う前のことはまったく話してくれなかったし、付き合っていたときもときどき行方不明(ゆくえふめい)になっていた。まったく連絡(れんらく)がとれないのだ。
 どうしてたのって後で訊(き)くと、スマホの電源(でんげん)が切れたとか、ちょっと散歩(さんぽ)してたとか、いろいろ理由(りゆう)をつけてはぐらかす。結婚(けっこん)してからも…そんなことが続(つづ)いていた。僕の知らないところで何をしてたんだろう? そんなことを考えてると、だんだん腹(はら)が立ってきた。
 僕は妻の日記を開くことにした。この中には、きっと妻の秘密(ひみつ)が詰(つ)まっているはずだ。僕にはそれを知る権利(けんり)がある。僕は日記の表紙(ひょうし)に指(ゆび)を当(あ)てる。そして――。
 ダメだ! やっぱり僕にはできない。もし、僕に知られたくないことが書かれていたら…。僕の他(ほか)に好(す)きな男がいたのかもしれない。そもそも、何で僕なんかと結婚したんだ!
 僕は妻の笑(わら)っている写真(しゃしん)を見た。ほんとに楽(たの)しそうな顔をしている。僕がこんなに苦(くる)しんでいるのに…。僕は…もうしばらく、妻の日記はこのままにしておくことにした。
<つぶやき>それは考えすぎかもしれませんよ。落ち着いたら、読んであげていいんじゃ。
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1396「どこでも窓」

2023-06-26 17:30:29 | ブログ短編

 とある社屋(しゃおく)の三階(かい)にその窓(まど)はあった。彼女がそれに気づいたのは偶然(ぐうぜん)のこと…。
 その日、残業(ざんぎょう)をしていた彼女は、会議室(かいぎしつ)に忘(わす)れ物を取りに行った。その会議室は西側(にしがわ)に面(めん)していたので、いつもなら窓にブラインドが降(お)りているはずだった。なのに、今日は一つだけ降ろされていない。彼女が照明(しょうめい)をつけると、室内(しつない)が鏡(かがみ)のように映(うつ)り込んだ。
 彼女は、残業続(つづ)きで疲(つか)れ果(は)てていた。今の時期(じき)は仕事(しごと)が忙(いそが)しくなるので仕方(しかた)のないことなのだが…。ブラインドを降ろしに窓のところへ向かうとき、たまたま友だちとハイキングしたことを思い浮(う)かべていた。窓の前に立ったとき、どういう訳(わけ)か、窓にハイキングのときのあの綺麗(きれい)な景色(けしき)が映し出された。彼女は思わず声を上げそうになった。彼女はこわごわ窓に触(ふ)れてみた。でも、それはごく普通(ふつう)の窓だった。
 その日以来(いらい)、彼女は残業のたびにその窓の前に来るようになった。不思議(ふしぎ)なことに、彼女が行ったことのない場所(ばしょ)でも映し出されるようだ。彼女にとってこの場所は癒(いや)やしの場(ば)になってしまった。
 今夜も彼女は来ていた。今日は何を見ようか…。彼女は彼のことを思った。最近(さいきん)、忙しくてゆっくり会うことができなかったから。すると、窓に彼の顔(かお)が映し出された。どうやら彼の自宅(じたく)のようだ。少しずつ引(ひ)きの映像(えいぞう)になっていく。彼は部屋着(へやぎ)を脱(ぬ)いでいく。そして向かった先(さき)は彼のベッド…。そこには若(わか)い女性が下着姿(したぎすがた)で――。
 彼女は窓に背(せ)を向けた。そして、「今のは何なのよ。あの人、浮気(うわき)してるの?!」
<つぶやき>こんな窓を見つけたら、誰(だれ)にも教えちゃいけません。秘密(ひみつ)にしときましょ。
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1395「しずく194~救出」

2023-06-22 17:25:51 | ブログ連載~しずく

 あずみたちが飛(と)び出た場所(ばしょ)は、あの巨大(きょだい)な装置(そうち)がある研究室(けんきゅうしつ)だった。月島(つきしま)しずくはすぐにみんなに指示(しじ)を出した。先(ま)ず、アキと貴志(たかし)、水木涼(みずきりょう)には日野(ひの)あまりの救出(きゅうしゅつ)を。そして、柊(ひいらぎ)あずみと神崎(かんざき)つくねには敵(てき)の攻撃(こうげき)を防(ふせ)ぐことを頼(たの)んだ。しずくは、
「ここへの入口(いりぐち)は二ヵ所よ。私がふさいでおいたわ。でも、能力者(のうりょくしゃ)はどこから来るか分からないから、充分(じゅうぶん)に気をつけてね。私はこれから初音(はつね)たちを連れ戻(もど)してくる。きっと助(たす)けになるはずよ。それまで持(も)ちこたえてね」
 あずみは、「分かったわ。ここは任(まか)せて。あなたも気をつけてよ」
 しずくは姿(すがた)を消(け)した。あずみはアキに、「あまりを助けてあげて。私たちはこの研究室の中を確認(かくにん)しましょう。まだ誰(だれ)かいるかもしれない」
 アキたちは装置に取り付けられている階段(かいだん)を上がり、装置の中央部分(ちゅうおうぶぶん)にたどり着いた。そして、あまりを見つけて愕然(がくぜん)とした。涼が思わず呟(つぶや)いた。
「何だよ、これ…。どうやって助ければいいんだよ」
 貴志が装置を確認しながら、「大丈夫(だいじょうぶ)…。何とかなるかもしれない」
 アキは声を震(ふる)わせて言った。「ムリよ。あたしには…。どうすればいいのよ…」
 貴志が強(つよ)い口調(くちょう)で言った。「しっかりしろよ! 僕(ぼく)が手伝(てつだ)うから。これでも機械(きかい)は得意(とくい)なんだ。父さんの手伝(てつだ)いもしてたから、きっと上手(うま)くいく」
<つぶやき>無事(ぶじ)に助け出すことができるの? この先(さき)、壮絶(そうぜつ)な戦(たたか)いが待っているかも。
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1394「みおの事件簿/失踪」

2023-06-18 17:49:01 | ブログ短編

「で、次の事件(じけん)なんだけど…。頼(たの)めるよなぁ」と、鬼瓦刑事(おにがわらけいじ)が詰(つ)め寄(よ)った。
 樋口(ひぐち)みおは困(こま)った顔で目黒所長(めぐろしょちょう)を見た。目黒は鬼瓦をつかまえて、
「おい。どういうつもりだ。この娘(こ)は、僕(ぼく)の助手(じょしゅ)なんだ。勝手(かって)なこと――」
 鬼瓦は目黒を振(ふ)り払(はら)うと懇願(こんがん)するように、「なぁ、頼むよ。今度のはなぁ、まだ事件かどうかも分からないんで、お前らに頼むしかないんだ。実(じつ)はなぁ、うちの管轄(かんかつ)で行方不明者(ゆくえふめいしゃ)が四人も出てるんだ。どれも若(わか)くて髪(かみ)の長い女性だ。で、みんな、誰(だれ)かと会うと言って出かけている。俺(おれ)の調(しら)べたところでは、この四人の接点(せってん)は<夜汽車(よぎしゃ)>というバーだけなんだ」
 目黒はため息(いき)をついて、「だったら、そのバーに貼(は)りついて、その誰かを見つけろよ」
「そうしたいところだけど…、警察(けいさつ)も暇(ひま)じゃないんだよ。お前だって、元(もと)刑事なんだから分かるだろ? もし、この四人が事件に巻(ま)き込まれてたら、今ごろどうなってるか…」
 みおが口を挟(はさ)んだ。「あたし、やります。やりたいです。所長、お願いします」
 目黒は眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せて、「お前、分かってるのか? これが同一犯(どういつはん)の犯行(はんこう)だとしたら…。犯人(はんにん)はシリアルキラーかもしれないんだ。迷(まよ)い猫(ねこ)を捜(さが)すのと訳(わけ)が違(ちが)うんだぞ」
「そんなの、分かってます。あたしだって、警察にいたんですから…」
「それになぁ」目黒は鬼瓦を睨(にら)みつけて、「若くて髪の長い女性だって…。まさか、この娘(こ)をおとりに使おうなんて思ってないよなぁ。もし、そうだとしたら…」
<つぶやき>今度のは危(あぶ)ないヤツかもしれませんよ。鬼瓦は、何でこんなこと頼むのか?
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1393「人格浮遊症候群」

2023-06-14 17:36:17 | ブログ短編

 朝、目覚(めざ)めて起(お)き上がると頭(あたま)がズキズキと痛(いた)んだ。昨夜(ゆうべ)は会社(かいしゃ)の同僚達(どうりょうたち)と飲(の)み会で、先輩(せんぱい)に三次会(さんじかい)まで付(つ)き合わされた。その後(あと)、どうやって帰ったんだ? 僕(ぼく)は、ふと違和感(いわかん)を感じた。そして、周(まわ)りを見回して思わず呟(つぶや)いた。「ここは…どこだ? 何で……」
 そこは、ぜんぜん知らない部屋(へや)だった。僕は昨夜のことを思い出そうとしたが、頭がぼーっとしていて何も浮(う)かんでこない。ベッドを出て扉(とびら)を開けると、そこはリビングだった。キッチンの方から音がした。女性が朝食(ちょうしょく)の支度(したく)をしているようだ。僕に気づいて声をかけた。
「昨夜、遅(おそ)かったじゃない。早(はや)くしないと、バイトがあるんでしょ」
「えっ、バイト…?」僕は思わず答(こた)えた。何を言ってるんだ。僕は正社員(せいしゃいん)だ。
 その女性は、「もう、顔を洗(あら)ってきなさいよ。私も、今日は早く出ないといけないの」
 僕は言われるままに洗面所(せんめんじょ)へ…。何なんだ。何で見ず知らずの女からそんなことを…。僕は頭をかきむしりながら洗面台(せんめんだい)の前に立った。そして、バシャバシャと顔を洗った。タオルで顔を拭(ふ)く。少しは目が覚(さ)めた。僕は鏡(かがみ)に映(うつ)っている顔を見つめた。そこに映っているのは、若(わか)い女性の顔……? 僕は、叫(さけ)びそうになるのをぐっとこらえた。
 僕は鏡に近づき、手を頬(ほお)に当(あ)てた。鏡の中の女性も同じように手を当てる。そして、頭(あたま)に…鼻(はな)に…くちびる…。確(たし)かにこれは自分(じぶん)の顔だ! 僕はあらためて自分の身体(からだ)を確(たし)かめた。胸(むね)に手を当てると、膨(ふく)らみがある。僕は、女性になってしまったのか?!
<つぶやき>お医者(いしゃ)さんの話では、時間が立てば元(もと)に戻(もど)るそうです。原因(げんいん)は何だったのか?
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