みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0946「異世界」

2020-08-30 17:57:24 | ブログ短編

 男の目の前に女が倒(たお)れていた。なぜ、こんなことに……。男にはまったく分からない。直前(ちょくぜん)の記憶(きおく)がないのだ。でも、自分(じぶん)の手には首(くび)をしめたような感覚(かんかく)が残(のこ)っていた。
 男は我(われ)に返ると、女のそばにひざまづきその身体(からだ)にそっと触(ふ)れてみた。すると、まだぬくもりがあった。男は慌(あわ)てて女の身体(からだ)をゆすり、声をかけ続(つづ)けた。――何の反応(はんのう)もない。男は女の顔を覗(のぞ)き込んだが、まったく見覚(みおぼ)えのない顔だった。
 突然(とつぜん)、女の瞼(まぶた)が開いた。それを見た男は、恐怖(きょうふ)で後ろへ飛(と)びのいた。女の瞼の下に…、あるべきはずの眼球(がんきゅう)がないのだ。そこには何もない暗闇(くらやみ)が…、底知(そこし)れぬ闇(やみ)が二つの穴(あな)の奥(おく)にあった。女は起き上がると、眼球のない目で男を見つめて言った。
「あたしのこと、思い出したでしょ。……いとしい人……」
 男は一瞬(いっしゅん)、意識(いしき)を失(うしな)った。再(ふたた)び起き上がった男の目には、あるべきはずの眼球がなくなっていた。女と同様(どうよう)に、二つの暗闇が、そこにはあった。男は答(こた)えた。
「ああ、君(きみ)か…。迎(むか)えに来てくれたんだね。ずっと待っていたよ」
 女は嬉(うれ)しそうに微笑(ほほえ)んで、男の身体をきつく抱(だ)きしめる。二人はしばらく抱擁(ほうよう)して、手を取り合って部屋を出ていった。
 外(そと)は薄暗(うすぐら)く、とても寒々(さむざむ)としていた。空(そら)には太陽(たいよう)も、月も、星も、雲(くも)すら見えなかった。灯(あか)りのない街(まち)を大勢(おおぜい)の人々(ひとびと)が歩いている。どの人の目にも、暗闇の穴があるだけだった。
<つぶやき>この男、別の世界へ迷(まよ)い込んでしまったのか…。それとも、これが現実(げんじつ)の…。
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0945「しずく104~監獄」

2020-08-28 18:16:52 | ブログ連載~しずく

 ここはじめじめとした洞窟(どうくつ)のような場所(ばしょ)。薄暗(うすぐら)く天井(てんじょう)の小さな穴(あな)からわずかに明かりが差し込んでいる。奥へ行くと鉄格子(てつごうし)の部屋(へや)がいくつもあり、どうやら監獄(かんごく)のようだ。
 看守(かんしゅ)らしき男が大きなライトを手に、警棒(けいぼう)で鉄格子をカンカン鳴(な)らしながらやって来た。そして、鉄格子の中をライトで照らして中の様子(ようす)を確認(かくにん)していく。部屋の中には子連(こづ)れの夫婦(ふうふ)、男、女、男女で、など、数十人の人間(にんげん)が分けられて入れられていた。その中のひとつの前で看守は足を止めた。看守はライトで中を照らして言った。
「あれだけ大口(おおぐち)を叩(たた)いたくせに、舞(ま)い戻(もど)ってくるとはな。どんなヘマをやらかしたんだ?」
 ライトで浮かび上がったのは、薄汚(うすよご)れた制服(せいふく)を着た娘(むすめ)。川相初音(かわいはつね)だ。彼女は、
「うるさい。あっちへ行って…。行かないと、あんたの首(くび)をしめてやるから」
「おいおい、そんなこと言うなよ」看守はにやつきながら、「ここじゃ能力(ちから)は使えないんだぞ。お前はただのガキだ。また仲良(なかよ)くやろうぜ」
 看守は鍵(かぎ)をガチャガチャ鳴らして扉(とびら)を開けると、またにやつきながら言った。
「俺(おれ)がなぐさめてやるよ。さぁ、こっちへおいで…」
 初音は声を震(ふる)わせて、「こないで…。イヤよ…。あなたの言いなりにはならない…」
「俺は待ってたんだぞ。お前がいないとつまらなくてなぁ。これで楽しみができた」
<つぶやき>初音の過去には何があったんでしょうか? これからどうなってしまうの。
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0944「看板の娘」

2020-08-26 18:00:50 | ブログ短編

 僕(ぼく)は不思議(ふしぎ)なことに気がついた。いつも通学(つうがく)のときに乗(の)る電車(でんしゃ)。その車窓(しゃそう)から見える看板(かんばん)が…、何だか少しずつ動いているような…。看板はお菓子(かし)メーカーのもので、可愛(かわい)い女の子がお菓子を持って微笑(ほほえ)んでいる。その表情(ひょうじょう)が、まるで僕を見つめているようで――。
 それからというもの、僕はその看板から目が離(はな)せなくなった。
 ある日のこと、僕は驚愕(きょうがく)してのけぞった。看板の女の子がウインクをしているのだ。隣(となり)にいた友だちが、話しかけてきた。
「あっ、お前も気づいちゃった。あの看板の娘(こ)、可愛いよなぁ」
 僕は動揺(どうよう)を隠(かく)すように答(こた)えた。「えっ、ああ…。そ、そうだな。うん…」
 看板の女の子は、はるか後方(こうほう)へ消(き)えてしまった。友だちは僕のことはお構(かま)いなしに、
「あの娘(こ)、春奈(はるな)っていうんだ。まだ新人(しんじん)のモデルなんだけど、いま注目(ちゅうもく)されてて…。俺(おれ)、一度でいいから生(なま)で見てみたいよ。お前、信じられるか? あんな可愛い娘(こ)が、この日本のどっかにいるんだぞ。あっ、でも…。生で見ちゃったら、うちのクラスの女子なんかみんなブスにしか見えなくなるかもなぁ。こりゃ、まいったなぁ――」
 次の日は休日(きゅうじつ)だった。僕は、昨日(きのう)のことが気になって電車に乗った。本当(ほんとう)にウインクをしていたのか、確(たし)かめなくては――。でも、看板の女の子は両眼(りょうめ)を開けて微笑んでいた。僕は何だか気が抜(ぬ)けて車内(しゃない)へ目をうつした。その時、目の前にいた女の子が、僕を見てウインクしてきた。その女の子は、あの看板の娘(こ)とそっくりだった。これは、いったい…!
<つぶやき>まさか、生(なま)春奈なんですか? こんなことって、奇蹟(きせき)としか言えないでしょ。
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0943「半歩前へ」

2020-08-24 18:01:12 | ブログ短編

「私のこと…、どう思ってるのかなぁ?」
 彼女は、うつむきながら彼に訊(き)いた。彼は聞こえなかったのか、
「それでさ、今夜(こんや)、行ってもいいかな? 明日から出張(しゅっちょう)なんだよ。お前のところからだと、朝、ゆっくりできるし。いいだろ?」
 いつもそうだ。彼は肝心(かんじん)なことは何も言ってくれない。いつもはぐらかされて、うやむやにしてしまう。私も、はっきりさせるのが恐(こわ)くて、
「うん、いいけど…。じゃあ、夕飯(ゆうはん)、何がいい?」
 こんなんじゃいけないことは分かってる。分かってるけど…。
「何でもいいよ。お前の料理(りょうり)、まあまあ美味(うま)いから。あっ、朝食は軽(かる)いヤツでいいよ」
 彼の言葉(ことば)の端々(はしばし)から、私への愛情(あいじょう)なんてないことは気づいていた。彼にとって、私は都合(つごう)のいい女にすぎない。それでも、今の私は、彼を必要(ひつよう)としていた。
「じゃあ、これから友だちと約束(やくそく)があるからさぁ。先(さき)に帰ってていいよ」
 友だち…。それは、たぶん女性だ。それも、本命(ほんめい)の――。私は、それが誰(だれ)なのか知らない。彼は気づいてないのかもしれないけど、今夜も香水(こうすい)の香(かお)りをつけて――。
 私たちの関係(かんけい)は、そんなに長くは続かないだろう。終わりが来るまでに、一人で生きていけるようにしないと…。今度こそ、半歩(はんぽ)でもいいから前へ進みたい。
<つぶやき>人との関係はイーブンでなくてはいけません。そうでないと壊(こわ)れてしまうよ。
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0942「予言」

2020-08-22 17:59:47 | ブログ短編

「警察(けいさつ)の方がどうして?」白衣(はくい)の男は戸惑(とまど)いながら訊(き)いた。
「先日(せんじつ)の飛行機事故(じこ)のことはご存(ぞん)じですよね」刑事(けいじ)はさり気なく質問(しつもん)した。
「ええ。私もあの飛行機(ひこうき)に乗(の)るはずでした。直前(ちょくぜん)にキャンセルして…」
「搭乗(とうじょう)したのに、どうして引き返したんですか? ずいぶん慌(あわ)ててましたよね」
「それは…。急にアイデアが浮(う)かんで…。いまやってる研究(けんきゅう)の…」
「この研究所(けんきゅうしょ)では劇薬(げきやく)も扱(あつか)ってるんですか? ちなみにどちらへ行く予定(よてい)だったんです」
「それは、観光(かんこう)です。やっと休暇(きゅうか)が取れたので…。劇薬は、私は使うことはありません」
「なるほど…。あなた、過去(かこ)にも今回と同じようなことがありましたよね? 少し、調(しら)べさせてもらいました。五年前の遊覧船沈没(ゆうらんせんちんぼつ)事故、それと三年前の列車脱線(れっしゃだっせん)事故――」
「ちょっと待って下さい。確(たし)かに事故にはあいましたが…。それは偶然(ぐうぜん)のことで…」
「今回もそうなんですがね…。どれも事故原因(げんいん)がはっきりしてないんですよ」
「どうしてそんなことを…。事故で助(たす)かったのは…、私だけじゃないはずだ」
「でも、全部(ぜんぶ)の事故に関(かか)わっているのは、あなただけです。ずいぶん幸運(こううん)なんですねぇ」
「そ、それは…。私は、何もしてない。私は…、未来(みらい)が見えただけなんだ。だから…」
「未来ねぇ…。それを、信じろとおっしゃるんですか?」
「刑事さん…。帰りは、車には乗らない方がいいですよ。私のいうこと、信(しん)じて下さい」
<つぶやき>刑事さんは彼の言うことを信じたのでしょうか。あなたなら、どうします?
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