みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0111「裏の顔」

2017-11-30 18:39:47 | ブログ短編

「ねえ、さっきから何やってるの?」
「メールよ」愛華(あいか)は指(ゆび)を動かしながら答(こた)えた。
「あいつ、ぜんぜん返信(へんしん)してこないんだもん」
「あいつって?」典子(のりこ)は美味(おい)しそうにケーキをほおばりながら言った。
「泰造(たいぞう)よ。まったく、何やってるんだか…。もう、イライラする」
「仕事(しごと)で忙(いそが)しいんじゃないの」
「こんな時間に、仕事のわけないでしょ。きっとあれよ、女よ。女がいるんだわ」
「えっ、あの人が…」典子は泰造の顔(かお)を思い浮(う)かべて、「ないない。絶対(ぜったい)ないわよ」
「何でそんなこと言えるのよ。あの人ね、あれで結構(けっこう)、女性受(じょせいう)けがいいんだから」
「そうなんだ。でも…、あたしはないなぁ。だって、あの顔よ」
「何よそれ。それじゃ、まるで私が…」
「ごめん、ごめん。そういうことじゃなくて」典子はなだめるように愛華の前にケーキをおいて、「これ、食べてみて。とっても美味しいわよ」
 愛華はケーキをちらっと見たが、「うーん、ダメ。今はそんな気になれないわ」
「でもね…」典子はにっこり微笑(ほほえ)み、「甘(あま)いもの食べると。落ち着くわよ」
「分かったわよ。じゃあ、あと一回だけメールしてから…」
「もうやめなよ。あの人ね、あなたのこと、めんどくさいって言ってたわよ」
<つぶやき>見えないところで、いろんなバトルが繰(く)り広げられているのかもしれません。
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0110「宇宙家族」

2017-11-28 18:38:36 | ブログ短編

 山田(やまだ)家の面々(めんめん)は、緊張(きんちょう)した面持(おもも)ちで管制室(かんせいしつ)からの指示(しじ)を待っていた。操縦席(そうじゅうせき)にはパパが、その横には計器(けいき)を見つめるママ。後ろには二人の子供たちが、こわばった顔(かお)で座(すわ)っていた。窓(まど)の外には火星(かせい)が迫(せま)り、いよいよ火星着陸(ちゃくりく)という最大(さいだい)のミッションを迎(むか)えようとしていた。
 管制室からの指示はGO。パパの操作(そうさ)で宇宙船(うちゅうせん)は着陸態勢(たいせい)に入った。もうこれで、中止(ちゅうし)することは出来ない。あとは、成功(せいこう)を祈(いの)るだけだ。もし成功すれば、人類(じんるい)が始めて火星に足を踏(ふ)み入れることになる。
 宇宙船はゆっくりと降下(こうか)していった。地面(じめん)がどんどん近づいて来る。そして、ついにその時がやってきた。十カ月もの長い時間、待ち続けた瞬間(しゅんかん)だ。計器で着地(ちゃくち)したことを確認(かくにん)すると、ママはパパの手を優(やさ)しくつかんだ。子供たちも手をのばす。家族(かぞく)は、この快挙(かいきょ)を静(しず)かにかみしめた。
 管制室に着陸の成功を知らせると、宇宙船に故障(こしょう)がないかチェックをすませた。次にすることは、船外(せんがい)での作業(さぎょう)になる。みんなは宇宙服(うちゅうふく)を着てハッチの前に立った。パパがゆっくりとハッチを開ける。そして、目の前には写真(しゃしん)で見た火星の風景(ふうけい)が…あるはずだった。
「やあ、おめでとう」赤ら顔の男がパパに近づき握手(あくしゅ)を求(もと)めて言った。「これで、火星旅行(りょこう)のシミュレーションは終了(しゅうりょう)です。貴重(きちょう)なデータをとることが出来ました。ありがとう」
「えっ! そんなこと聞いてないよ。ここは火星じゃないのか?」
<つぶやき>残念(ざんねん)でしたね。でも、火星旅行の夢(ゆめ)がかなうのは、もうすぐかもしれません。
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0109「私の恋文」

2017-11-27 18:42:27 | ブログ短編

 私は考古学(こうこがく)が大好(だいす)きな女の子。今日も、城跡(しろあと)の発掘(はっくつ)を手伝っていた。――休憩(きゅうけい)時間に、私は大きな木の根元(ねもと)でお昼(ひる)を食べることにした。たぶん、この木はお城が建っていた当時(とうじ)も、ここで葉(は)を繁(しげ)らせていたんだろうなぁ。私は、昔(むかし)の様子(ようす)を想像(そうぞう)していた。
 ふと、私は足下(あしもと)に何か引っかかるものがあるのに気がついた。よく見ると、地面(じめん)から何かが突(つ)き出ている。持っていたシャベルで掘(ほ)ってみると、朽(く)ちかけている文箱(ふばこ)が出てきた。そっと箱を開けると、中には油紙(あぶらがみ)に包(つつ)まれた手紙(てがみ)…?
 私は胸(むね)が高鳴(たかな)るのを覚(おぼ)えた。だって、こんな発見(はっけん)をしたのは初めてなんだもん。私は、震(ふる)える手で油紙をはずして――。中に入っていたのは、やっぱり手紙。私は、そっと開いてみた。書かれている文字(もじ)を見ると、女性が書いた手紙だわ。それくらい私にだって分かる。宛名(あてな)は真之介(しんのすけ)。私に分かる文字を拾(ひろ)い読みすると…。これは、私の想像よ。きっとこれは、ラブレターだと思う。昔の人が書いた、恋文(こいぶみ)ってやつ。
 私は、最後(さいご)に書かれてある名前(なまえ)を見て驚(おどろ)いた。〈あや〉って書いてある。私は身体(からだ)が震えたわ。だって、私の名前、亜矢(あや)だもん。それに、いま付き合ってる彼の名前、真之介。
 これって、偶然(ぐうぜん)? えっ、こんな偶然あるはずないよ。だって…。だとすると、私と真之介、前世(ぜんせ)でつながっていたってこと。これって、私が書いたラブレターなのかな?
<つぶやき>出会いには、いろんな運命が隠(かく)れているのかもしれません。あなたにも…。
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0108「まさかのほこり」

2017-11-25 18:37:32 | ブログ短編

 三日間、あたしは旅行(りょこう)に出かけた。気さくな友達(ともだち)と一緒(いっしょ)に、とても楽しい時間を過ごした。すっかり身も心もリフレッシュしたし、明日から仕事(しごと)をがんばろう。
 だが、そう思ったのもつかの間だった。あたしは部屋(へや)の中に異変(いへん)を感じた。あれが…、あれを見つけてしまったのだ。旅行に出かける前には、絶対(ぜったい)になかったはずなのに。どうして、あんなところにたまっているの?
 あたしの頭(あたま)をよぎったのは、「いつ、掃除(そうじ)をしたっけ?」
 あたしは掃除が嫌(きら)いなわけじゃないのよ。ただ、ちょっと仕事が忙(いそが)しかったりすると、まあいいかって思っちゃって…。それじゃいけないことは分かってるわ。分かってるけど、どうしても後回(あとまわ)しにしてしまう。あたしだって、ちゃんと掃除しようって思ってるのよ。
 部屋の隅(すみ)でふわふわの固(かた)まりになって、あたしのことをあざ笑っているようだ。
「よし、こうなったら今から掃除しよう」
 その気になった時にやらないと、またずるずるになってしまう。あたしは、掃除機(そうじき)を手にした。そして、〈覚悟(かくご)しなさい〉とばかり、ふわふわの固まりに照準(しょうじゅん)を合わせた。固まりが掃除機に吸(す)い込まれていくのは、何だか気分(きぶん)がいい。ふっとその時、ソファに目がいった。ソファの下の暗闇(くらやみ)。きっと、そこにも…。あたしは、身震(みぶる)いした。
<つぶやき>気をつけましょう。知らない間に、あれはあなたのそばに忍(しの)び寄っています。
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0107「紙もの収集家」

2017-11-24 18:47:49 | ブログ短編

 男がドアを開けると、そこには女が立っていた。手には地図(ちず)を握(にぎ)りしめている。
「来ちゃった」女はちょっと恥(は)ずかしそうにうつむいて言った。
「えっ? あっ…、言ってくれれば迎(むか)えに行ったのに…」
 男は、女の突然(とつぜん)の訪問(ほうもん)に動揺(どうよう)を隠(かく)せなかった。男は散(ち)らかった部屋を手早(てばや)く片付(かたづ)けると、女を迎え入れた。テーブルをはさんで向かい合う二人。しばしの沈黙(ちんもく)の後、
「あの、お願いがあるんだけど…」女が口火(くちび)を切った。「これを、書いてほしいの」
 女がバッグから出したのは、婚姻届(こんいんとどけ)だった。男は一瞬(いっしゅん)かたまった。
「えっ? あの……。僕(ぼく)たち、付き合い始めて、まだ三カ月だよ」
「もう三カ月よ。そろそろ、いいんじゃないかな」女は平然(へいぜん)と言う。
「だって、だって…。僕、まだ、君のこと両親(りょうしん)に話してないし。君の家族(かぞく)にだって…」
「別に、いいわよ。そんなの後でも」
「それに、僕たちまだ…。何もしてないっていうか……」
「あたし、紙(かみ)を集めてるの。卒業証書(そつぎょうしょうしょ)や、いろんな賞状(しょうじょう)。あと、資格(しかく)の認定書(にんていしょ)とかね。だから、婚姻届もコレクションに加(くわ)えたくて」
「だからって……。でも、婚姻届は役所(やくしょ)に出すから、手元(てもと)には残(のこ)らないんじゃ」
「そっか。でも、コピーをとってもいいし…。もう一枚(まい)書いておくっていうのはどう?」
<つぶやき>彼女が次に欲しがるもの。それは、離婚届(りこんとどけ)かもしれません。気をつけて…。
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