みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0169「誘拐犯の事情」

2018-02-28 18:57:18 | ブログ短編

「上手(うま)くいったか?」古びた倉庫(そうこ)の中で黒ずくめの男が言った。
「ああ、この中に入ってるよ」
 外から戻(もど)ってきた、これも黒ずくめの小柄(こがら)な男が答えた。その男が持っている麻袋(あさぶくろ)がわずかに震(ふる)えた。それを見て、待っていた男は不思議(ふしぎ)そうに訊(き)いた。
「おい、やけに小さいじゃないか」
「いや、そんなことないよ。まだ、子供(こども)だからな」
 その時、麻袋の中から変な声がした。待っていた男の顔色(かおいろ)が変わり、
「お前、ヘマしてないよな。ちゃんと、あの屋敷(やしき)へ行ったのか?」
「ああ、行ったさ。この間、二人で下見(したみ)した…」
「そこの、アリサっていう孫娘(まごむすめ)を連(つ)れて来たんだろうな?」
「もちろん、そうさ。アリサって呼(よ)ばれてた奴(やつ)を連れて来たよ」
「じゃ、何なんだ今のは…」
「きっと、お腹(なか)が減(へ)ってるんだよ。餌(えさ)あげないとな」
 小柄な男が麻袋を開けると、小さな子犬(こいぬ)が顔を出した。男は子犬の頭を優(やさ)しくなでながら言った。「今頃(いまごろ)、あの屋敷の奴ら捜(さが)してるだろうな」
 待っていた男は椅子(いす)に飛び乗ると、「俺(おれ)は犬は嫌(きら)いなんだ! 何で犬なんか誘拐(ゆうかい)したんだ」
「誘拐じゃないよ。勝手(かって)について来たんだ。ここで飼(か)っちゃダメかな?」
<つぶやき>お互いの意思(いし)が通じてないと、とんだことになっちゃうかもしれませんね。
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0168「氷の女」

2018-02-26 19:02:51 | ブログ短編

 氷川冷子(ひかわれいこ)。我(わ)が社(しゃ)にとって、もっとも優秀(ゆうしゅう)で有能(ゆうのう)な社員(しゃいん)のひとりだ。だが、それ以上(いじょう)に彼女の美しすぎる顔立(かおだ)ちと姿(すがた)は、何人もの男性社員をとりこにした。彼女を射止(いと)めようと、無謀(むぼう)にも挑戦(ちょうせん)し散(ち)っていった熱(あつ)い男たちは数知(かずし)れず。
 彼女の氷(こおり)のような眼差(まなざ)しは、胸(むね)に突(つ)き刺(さ)さるほどの激痛(げきつう)をあたえ。また、彼女の手に触(ふ)れるだけで、身体中に悪寒(おかん)が走り入院する騒(さわ)ぎにもなった。我が社では憂慮(ゆうりよ)し、特別対策(とくべつたいさく)チームを結成(けっせい)した。彼女に近づこうとする熱い男を排除(はいじよ)し、減少(げんしょう)しつつある男性社員を保護(ほご)しようというのだ。そのチームのリーダーには、女性にまったく興味(きょうみ)を示(しめ)さない温水(ぬくみず)があたることになった。温水は、我が社にとって何の利益(りえき)も生み出さない男だった。だが、その温厚(おんこう)な人柄(ひとがら)で不思議(ふしぎ)と窓際(まどぎわ)で踏(ふ)みとどまっていた。
 数日後、冷子に近づこうとする男性社員は激減(げきげん)した。これで、彼女も仕事に専念(せんねん)することができて、我が社の業績(ぎょうせき)も向上(こうじょう)するはずだった。だが、ここにきて異変(いへん)が起こった。彼女の仕事に対する熱意(ねつい)が、別の方向(ほうこう)へと向いてしまったのだ。
 彼女の眼差しには氷のような冷たさはなくなり、頬(ほお)はわずかに紅潮(こうちよう)して表情(ひょうじょう)も穏(おだ)やかになった。そして、彼女の見つめる先には、いつも温水がいた。彼女がなぜこの男を選(えら)んだのか、それは未(いま)だに謎(なぞ)である。今後、この男の評価(ひょうか)を再検討(さいけんとう)する必要(ひつよう)にせまられている。
<つぶやき>いつもクールな彼女にとって、彼は特別(とくべつ)な人に見えたのかもしれませんね。
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0167「でれでれ」

2018-02-24 19:16:56 | ブログ短編

「いいか、みんな気をつけてくれよ。くれぐれも機嫌(きげん)をそこねるようなことはするな」
 社長(しゃちょう)の家の前で、係長(かかりちょう)が部下(ぶか)たちに注意(ちゅうい)した。部下たちも社長の厳(きび)しさを知っているので、顔をこわばらせた。ここを乗り越(こ)えなければ、今度のプロジェクトの成功(せいこう)はおぼつかない。下手(へた)をすると、中止(ちゅうし)にされてしまうかもしれない。
 社長の待つ部屋に入ると、みんなを睨(にら)みつけるように社長が座(すわ)っていた。
「座りたまえ」社長の低音(ていおん)の声が響(ひび)く。「すまんな。こんなところまで」
「いえ、とんでもありません」係長はうわずった声で言った。「そ、それでですね。今回のプロジェクトの詳細(しょうさい)について、ご説明(せつめい)させて――」
 その時、部屋の襖(ふすま)が開き小さな子供が飛び込んで来た。そして、みんなの間を通り抜(ぬ)け、社長の膝(ひざ)へ飛び乗った。社長はみるみる顔をほころばせ、その子の頭をなでながら言った。
「どうちたのぉ? いま、大事(だいじ)なおはなちをしてるからねぇ。向こうで、待ってなちゃい」
 それを見た部下のひとりがつぶやいた。「いやだーぁ、赤ちゃん言葉使ってるぅ」
 まだ新人(しんじん)の女子社員が言ってしまったのだ。みんなに動揺(どうよう)が走った。でも、もう遅(おそ)い。間違いなく社長にも聞こえたはず。子供が出て行くと、社長はおもむろに言った。
「娘(むすめ)がね、どっかへ出かけると言って、孫(まご)を預(あず)けに来てね。まったく、困(こま)ったもんだ」
 社長の顔は、いつものいかめしい顔に戻っていた。
<つぶやき>この場合、見ない、聞かないふりをしておいた方がいいのかもしれません。
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0166「妻の隠しごと」

2018-02-23 19:09:57 | ブログ短編

 僕(ぼく)が家に帰ると、妻(つま)は上機嫌(じょうきげん)で僕を迎(むか)え入れた。いつもなら、そっけないくらいなのに、今夜はどうも様子(ようす)がおかしい。何かあったのか…。僕は訊(き)いてみた。
「何もないわよ」妻はあっさりそう言うと、「早く着替(きが)えてきて。夕食(ゆうしょく)、できてるから」
 明らかにいつもと違(ちが)う。妻はウキウキと鼻歌(はなうた)まで飛び出していた。今日は、何かの記念日(きねんび)か――。いや、そんなはずはない。僕は、手帳(てちょう)を取り出して確認(かくにん)してみた。
 食卓に着くと、テーブルには奇麗(きれい)な花が飾(かざ)られていた。それに、夕食はいつもより豪華(ごうか)で――。これは、一体(いったい)どういうことだ? 僕はあれこれと考えてみた。宝(たから)くじを当てたのか? でも、彼女が宝くじを買ってるなんてことあるのかな? それとも、まさか、子供(こども)――。それは、あり得(え)るな。もしそうだとしたら……。僕は、どうしても確(たし)かめたかった。
「だから、何もないってば」妻はニコニコしながら答(こた)えた。
「まさか…、子供ができたとか?」こういうことは、男には自覚(じかく)がもてない。
「いないわよ」妻はお腹(なか)をさすりながら言った。「子供、欲(ほ)しくなったの?」
「いや、そう言うわけじゃ…。でも、何かあったんだろ? だって…」
「どう? 今夜の料理(りょうり)は上手(うま)くできたと思うんだけど…」妻は嬉(うれ)しそうに言った。
 確かに今日の夕食は美味(おい)しいよ。でも、僕が訊きたいのはそういうことじゃなくて…。
<つぶやき>何か良いことでもあったんでしょうか。知りたくなる気持ちも分かります。
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0165「100人目の…」

2018-02-22 18:56:27 | ブログ短編

「なあ、何がいけないと思う?」耕助(こうすけ)は智子(ともこ)に訊(き)いた。
「あのさ、逆(ぎゃく)に訊きたいんだけど、何で無理(むり)な女ばっか選(えら)ぶのよ?」
「いや、それは…」耕助はしばらく考えて、「ハードルが高いほど燃(も)えるっていうか…」
「どうしようもないバカね。そんなんだから、いつまでも彼女ができないのよ」
「そうなんだよなぁ。小一(しよういち)の初恋(はつこい)から数えて、この間の娘(こ)が99人目か…」
「あんた、数えてんの?」智子はあきれ果(は)てていた。
「だって、今まで俺(おれ)が好きになった娘(こ)たちだぜ。忘(わす)れるわけないだろ」
 智子は、ほっぺたを膨(ふく)らませて不機嫌(ふきげん)な顔をした。耕助とは幼(おさな)なじみで、彼の考えそうなことは何でも分かっている。でも、こと恋愛(れんあい)に関しては理解(りかい)できなかった。
「そう言えば、お前って、彼氏(かれし)いるのか?」
 唐突(とうとつ)に質問(しつもん)された智子は、明らかに動揺(どうよう)していた。それを誤魔化(ごまか)すように、
「あたしのことは、関係(かんけい)ないでしょ。変なこと訊かないでよ」
「だって、そういう話、聞かないし…。あ、あれだろ? お前、気が強いから…」
「うるさい、うるさい、うるさい!」智子は耕助に顔を近づけて連呼(れんこ)した。
 耕助は彼女の顔を間近(まぢか)に見てつぶやいた。「お前って、けっこう可愛(かわい)いよなぁ」
 智子はみるみる顔を赤くしたかと思うと、耕助の頬(ほお)をぶん殴(なぐ)った。
<つぶやき>近すぎて気づかないことってあるかも。彼女の恋は成就(じょうじゅ)するのでしょうか。
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